152話
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4/12 実際に同じ名前の某組が在ると聞き、差し替えました。
車の中でも一騒動在った訳だが、火鼠のネズ公が実はメスだったことが新たに判明した。
だが、その時の俺の驚き様にネズ公は若干ご立腹のようで、星ノ宮の手から戻ってこないで、今はその星ノ宮の手ずから、車に備え付けられていた酒のつまみのナッツ類の詰め合わせを貰って、前足で受け取りモキュモキュと旺盛な食欲を見せている……。
単に寝起きで腹が減って、食欲に釣られているようにも思えるが、まあいい。
このまま一端恭也さんの事務所まで行く予定だったが、秋山はお泊りなったらしく、それならと黒川も一緒になって一泊厄介になるそうなので、そのまま俺と瀬里沢は、家まで送って貰う事になった訳だった。
そうして横目でネズ公と楽しんでいる星ノ宮を見ていたら、珍しく静雄からメールが届き読んでいくと、星龍(磐梯兄妹の兄の方)と道場で組手の後に話し込み、色々と情報を得たらしく、その内容を静雄なりに纏めて送って来た訳だ。
「おっ、瀬里沢ちょっとお前も一緒に見ろよ。静雄からメールが届いたんだけど、どうやら星龍との接触は上手くいったらしいぞ」
「えっと? 星龍って誰だったかな? 悪いけど僕は女性の名前は忘れた事は無いが、興味の無い人を一々覚えていたりはしないさ。何ならうちの高校の女生徒の名前を全部上げて行こうか? もちろん小中ともに覚えているよ」
「……貴様は本当に呆れた奴だな。石田、説明は後にしてさっさとこいつに読ませろ。それともう少し字を大きく出来ないか? 小さくてよく見えん」
俺もあまり人の名前を覚えるのは得意ではないので、こいつの事を悪く言えないけど、どうしてこの男はその才能を別方面へと活かさないのだろうか? もしこの記憶力を他の何かに使えれば……ここに居ないか。
どうでもいい瀬里沢の知られざる一面を垣間見たが、今は役に立たん。
兎に角お前も読めと頭を押さえつけ、宇隆さんにも見え易い様にスマホの表示サイズを少し大きくする。
――静雄から送られてきた内容として、装飾を省いて要点を上げていくと、今現在の警察の大きな動きとしては行方不明者捜索よりも、麓谷市に拠点の一つを持つ『坂内組』いわゆるジャパニーズマフィアさまの問題で、人が駆り出されピリピリしているらしい。
何でも結構な人数の構成員が、ここ数日市内へと集まっているそうで、近々他の組との抗争か大きな取引が行われるかもしれない事と、別口から銃の密輸の情報も流れて来て、他部署の者も市内の巡回に動いたりと、何かと慌ただしいとの事だった。
件の坂内組は駅を挟んで商店街と正反対にある、大型ショッピングモールの近くにビルを構える組で、同ビルにあるテナントはほぼ全て傘下に在り、消費者金融と不動産屋に加え、ネットカフェや携帯ショップが混在していたりと、割とそれと知らずに普通の人も利用していて、私服警官を送り込んだりもしているとの情報だ。
……俺、こんな話知りたくなかったな、そこのネカフェの会員証持ってるわ。
「うわ、僕この間ここのネットカフェでモデルの仕事の待ち合わせ前に、少し時間つぶしして利用していたよ。会員証作ったけど大丈夫だよね?」
「あの大きな店は偶に利用するが、その様な身近な場所に組事務所などある物なのだな。……もしや、一般人を人質や弾除けにとも考えてそうだな。立て籠るにも用意周到と言う訳だ。この分だと隠し通路とかもあるのではないか?」
瀬里沢、お前もか! そして宇隆さんは相変わらずの戦脳です。
たったあれだけの話で、人質と立て籠り果ては逃走手段の確保予想まで考えつき、ネズ公とご対面した時に比べとても目がイキイキとしている。
流石我等の戦女神、加護は与えられないけど戦はお任せ……。
「なあに? 安永君から届いたメールって、戦争ごっこでもするご挨拶だったのかしら? 随分と物騒なお話ね。真琴はもう少し柔軟に頭を使いなさい」
「そ、そうだよね。はは、ちょっと僕も驚いたよ。宇隆さんは本気じゃなくて、ただ安永君から届いたメールから連想しただけだし……」
かなり引き気味の表情だった瀬里沢は、星ノ宮の軽い口調の窘めに今のは宇隆さん流の、弩キツイ冗談だと解釈したようで、ネズ公に楽しそうにカシューナッツを持たせ、口に咥える様を眺めて楽しみながら、笑みを湛えた唇が次の言葉を紡ぎ出すまでは、ホッとしていたのだが。
「そうね~聊か安直だけど、たぶん資金集めと個人情報の収取の為でしょ? 独り身でお金があまり無さそうな人と派手に使う人、電話料金の滞納者とかを調べてあげ、上手く言い包めてお金を借りさせれば、あとはずるずると生かさず殺さず。毎月それなりの利子で良い稼ぎよね? 他には人を見る目も養えるかしら?」
「「……もっと恐ろしい上手が居た(な)よ」」
「なるほど、その様な考え方もあるのですね。では私ももっと頭を使い、戦術や戦略に活かせる様に致します。やはりここは当然ですが、此方も相手の情報を集める事でしょうね」
「なあ瀬里沢、俺ら何時から対坂内組の集まりになったんだ?」
「僕に聞かないでくれたまえ、考えて動くのは君の役目じゃないか!」
無駄に格好良いポーズで俺に指差しそう告げる瀬里沢に、イラッとした。
星ノ宮は思い付きを適当に言っていたのか、それとも単なる冗談なのか判別がつかないけど、宇隆さんの話では無いが色々知っておく方が、何か在った際に対策は立てやすいとは思う。
ただ俺達のような学生が、首を突っ込むような話では無いのは確かだ。
宇隆さんの頭のスイッチは切り替わったままらしく、星ノ宮の聞いているのか流しているのか分からない受け答えを聞きながら、二人で会話を続けている。
瀬里沢は話に着いて行けず、仕方なさそうに窓の外に視線を送り始めた。
まあ坂内組の事は置いといて、要は警察の方は今手が足りておらず、普通に相談に行ってもあまり大した力にはなってくれそうもないと言う訳だ。
仮に俺達があの子の手掛りを見つけたとしても、ここ一年以上発見の糸口も掴めなかったのに、ただの学生がそんな物を見つければ、御両親には感謝されるかもしれないが、逆に警察にはこの忙しい時に面倒事をと思われると同時に、変に恨まれる可能性まであると……。
沢山の人が関わっているだけに、非常に面倒な話しだが、ある程度味方になってくれそうな人を、警察の内部方面でも作ってからじゃないと困った事になりそうだ。
実際にはあの『日野倉妃幸』という女の子は、既に亡くなっているから、両親には感謝どころか最終的にはぬか喜びをさせ、今のままだと秋山の言ったように、悲しませるだけになってしまうのは間違いない。
こりゃあ、あの時秋山が悔しそうに泣いて怒っていたのも頷ける。
きっと秋山は、手掛りが見つかって嬉しかった以上に落胆し、しかも親父さんがある程度の情報を持っていても、警察を動かすのは困難だと分かっていたのだろう。
迷子さがしのビラ配りまでして多少は関わっていたのだし、秋山個人でそれなりに話の出来る誰かと知り合いが居れば、また違ったのだろうけどそんな話は聞いた事が無い。
星龍の親は警察関係者とか言っていたが、この場合上手く話をもっていけば手伝って貰えるだろうか? きっと話は出来たとしても、今はメールで見た『坂内組』の件で無理そうだし、取りあえずは保留かな……。
そんな風に考えを纏めていると、まだ宇隆さんと話をしていた星ノ宮の、何気ない一言が俺の頭を貫いた。
「そんなに中の事が知りたいなら、このエリザちゃんに頼んで周りの鼠を使って隅から隅まで調べて貰えばいいのに、困った真琴さんでちゅね~? ああもうこの子本当に可愛いわ。このまま私の家の子にならないかしら!」
なんてこった、星ノ宮の奴ネズ公に頬ずりまでし始めやがったぞ!?
ネズ公自身にも意思はあるし、契約者の俺から勝手に奪わないでくれ! 何よりエリザなんて妙な愛称まで着けるんじゃない! しかし、今の話に出たネズ公に頼んで色々と調べて貰う案てのは、あの横穴の奥でも使えるかもしれない!
何故今まで考え付かなかったのかと、俺よりも星ノ宮の方が断然知恵が回る事を思い知り、まさにコロンブスの卵的状況だった。
つづく