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151話

ご覧頂ありがとうございます。


4/12 表現の修正と加筆を行いました。

 取りあえずこちら側のシルクと、あちら側の生糸が同じ産物か分からないので、数種類のみ販売している物を購入してみたのだが、買う前に店員さんに「用途で選ぶ方がよろしいですよ」と言われ、横で聞いていた星ノ宮が“それ見た事か”とばかりに、勝ち誇った顔をされた。


 確かに作る物を決めてと言われはしたけど、見本的な意味で買うつもりだし気にしたら負けだ……でも何か悔しいぞ。

 師匠の話じゃ服に使うとか聞いたような気がするので、「手編みで」と答え、それでしたらと『野蚕糸』と言うのを勧められ、見せて貰った。


 思った感想は、正直初めて見る物なので「よく分からん」としか言いえない。

 ただ、考えていたよりも糸自体の光沢は十分綺麗だけど、若干太く感じ、それを店員さんに聞いてみたところ、今扱っているのは二種類だけでもっと細い物は、手編みには向いてないと教えて貰う。


 じゃあ折角だからそれも見たいと話して、結局手編み糸を二種類ずつ三色に加え、紙管巻と言う糸を確り巻いた物に、(カセ)と呼ばれるふわっと束ねたような状態の物も二点購入。

 だけど店員さんや横に居た星ノ宮も、最初に言った手編みには使わない(専用の道具が必要で使えないらしい)物も買ったので、顔を見合わせクスッと笑っていた。

 ……別にいいじゃないか、何となく欲しくなったんだよ。

 たかが糸、されど種類も多ければ使い方も様々なのだと、ちょっと今まで全く自分の知らない事を学んで、頭が良くなったような気分になる。


 そして、糸と侮っていたら会計の値段を聞いてびっくりした。

 流石遥か昔、このシルクを追い求め遠い旅をして運び、後にシルクロードと呼ばれる道が出来た訳だと感慨深く思う。

 ……何を長ったらしく説明つけたかと言うと、考えていたよりもかなりお値段が高かったのだ! 価格帯説明のパネルは流し読みしただけだったので、纏まった長さを適当に買うと、万を超えたと言えばお分かりだろうか?


 購入時に色々と教えてくれた店員さんが「少し多めに買う方が、失敗しないコツですよ?」との台詞でまんまと乗せられ、ホイホイと頷いて会計に並んだせいでもある。

 この商売上手め! 少しばかり、星ノ宮の前でケチるのも男らしくない、なんて変な事を考えたせいで、「じゃあそれで」とか言ってしまい、手痛い出費になったのだ。

 今まで雑貨にこんな大金支払った事無いわ……トホホ。


 本日我が財布から飛んで行った紙幣は、最初にスーパーで購入した物以外で、新調した制服と瀬里沢が選んでくれた服が二点、他に高い生糸を合わせた合計が六万を超えていた……。おのれ生糸めぇぇぇぇ。

 お会計で合流した宇隆さんと瀬里沢も、レジの表示金額に驚いて「うん? いったいお前は何を買ったんだ?」とか「石田君、まさか君一人抜け駆けして、星ノ宮さんに何かプレゼントでも……」などと言ってきたが、気配を抑えた田神さんが常に星ノ宮の後ろに居たのに、そんな事をする筈がない。


 唯一値段を安く抑えられた制服に関しては、夏仕様のほぼYシャツに近い上着で冬用のブレザーと違い、時期的にセール品扱いだったのが救いだったかもしれん。 ちなみに瀬里沢の選んだ服は、閉めて八千四百円(税込)だった。





 ――買い物も済んで、取りあえず今日の目的の半分は達成したが、心残りなのはやはりあの子の手掛りが一つも掴めなかった事だ。

 田神さんが運転する車の後部座席で揺られながら、横穴での出来事を思い浮かべていた時、ポケットの中で火鼠のネズ公が目を覚ましたらしく、モゾモゾと中で動き出しひょっこり頭を出して、出てきてしまった。


 当然同じ列に座っていた宇隆さんが最初に気付き、声にならない悲鳴を上げ隣でうとうとと、半分寝かかっていた瀬里沢にしがみ付き、俺の膝の上にぴとぴとその手足を動かしながら登って来たのを見て、更に口をパクパクと開閉させる。

 う~ん最初は勇ましく思ったけど、結構こいつ可愛いく感じちゃっているだけに、その怯えようを見ると苦笑いが浮かぶ。

 それと普段凛々しい女性が、こうも怯える姿を見せるのって新鮮でいいよね?

今日は本当に宇隆さんも可愛く見える日だな。

 ……半分寝ていた為状況が掴めず、手加減なしに力一杯締め掴まれて、天国と地獄を同時に味わっているらしい瀬里沢の表情が、苦しそうにニヤケていてかなり不気味だが、あえて言おうこの色男! そのまま爆ぜてしまえ!


 この混沌とした場に不思議そうに、何があったのかと星ノ宮が顔を覗かせ、宇隆さんとそろそろ息がヤバいらしい瀬里沢をスルーし、俺が包帯を巻かれた手の指先で、ネズ公のちっちゃな手と握手している姿を見て、「いったい何事? それとその小さな可愛らしいお客様は、何処から現れたのかしら?」と冷静に俺に告げてくる。


 側溝では鼠に襲撃されたはずの俺がネズ公と、仲良さげにしていれば疑問に思うのも然り、胸を強調するかのように腕を組み、意味あり気に微笑む星ノ宮は大層偉そうに見えた。





「――なるほどね、そんな事が起きたせいであんな風になったのは分かったわ。けど、それならもっと早く言ってくれたら良かったのに、石田君は心配性よね~アレキサンダー?」


「アレキサンダー? ……おいおいこいつはネズ公だぞ、そんな横文字はこの俺が認めん!」


 俺が一人側溝の横穴へと入り、起きた事の説明を病院に行く間に少しは話したのだが、中で襲撃された事もあってまだネズ公の事は伏せていたのだけど、丁度良いからと説明をしたところ、途中星ノ宮へ向かって細長い体型の後ろ足でバランスを取って立ち上がり、挨拶のつもりかネズ公が顔を前足でひと擦りした後、「チュ!」と鳴き体を揺らしたのだが……。


 その姿をいたく気に入った様子で、俺の膝の上からネズ公をひったくり手の平の上に乗せて、前後斜め等色々な角度から眺めた後、星ノ宮は俺の説明の後半を聞き流しながら、嬉しそうに指とちっちゃな前足を触れ合わせ、ネズ公へそんな名前を付けようとしていたのだ。

 ……一瞬病気とか汚れは大丈夫か気になったが、よく考えればこいつは火に化けた時点で、そんな物は熱処理されほぼ無菌状態になり、この世でも類まれなほどのクリーンな鼠だったと思い出し、更に言えば元の白い体色から艶のある赤色へ変わり汚れなどは一切認められず、しかも火鼠と言う物の怪だったと頭を掻いた。


「あら、だってあの場所で暮らしていた、沢山の他の鼠を従えていた王様なんでしょ? 体の色も赤で豪華だしアレキサンダーって名前は王様に相応しいじゃない? ね~」


「か、奏様。あまりその様に鼠に触れるのはどうかと、石田! お前がちゃんと管理しておかないから、奏様があのようになってしまったではないか! 早く奏様を正気に戻せ! それと話しは聞いたがハムスターさえ苦手なんだ。だから私にはあまり近寄せないでくれ!」


「はっはっは、宇隆さん大丈夫僕に任せてくれたまえ! 君には指一本近づけさせやしないさ。この僕が君を守って見せよう」


 そう言って、さっきまで青い顔をしていた瀬里沢は、宇隆さんの席と自分の席を交換し決めポーズを取って俺と対峙する……相手は俺じゃなくて、星ノ宮の手の上に居るネズ公だろうに。

 それに瀬里沢よ、本気でネズ公をどうにかしようと思ったら、お前が一ダースどころか、グロス単位でいても止められないと思うぞ? なんせネズ公は火の化身だし、俺が太陽になれと言ってあの威力の熱を抑え込んだ漢らしい奴だしな。


 しかし、宇隆さんが実は鼠が苦手だとは全く思わなかった。

 どうやら凍って動かなくなった鼠は平気だが、目の前でちょこちょこ動くのはダメらしい。ハムスターも無理と来ればこれは仕方がないだろう。


「確かに、あそこじゃネズ公は王様みたいなもんか……うん? 違う? どういう事だ? 否定している事は何となく伝わって来るけど、伊周ほど意思を読むことは俺にはまだ出来んぞ」


 俺の言葉を聞いてネズ公はもどかしそうに、前足を使って自分の頭を捏ね繰り回し、何とかして耳や足と尻尾までを使い、意思の疎通を測ろうとしているようだが、動きはユニークだけど残念ながらよく分からない。

 そして瀬里沢の方を見た後天啓を得たかのように、器用にそのちっちゃな前足をぺちっと合わせ、自分の尻尾を器用に体に巻き付け片前足を腰にポーズを取る。

 ……余計に何を伝えたいのか分からくなったが、星ノ宮はその姿を見てご満悦のようで、パチパチと小さく拍手しているしもう訳が分からん。

 そんな中、俺の隣に来た瀬里沢がポーズを取るネズ公を見てこう呟く。


「ねえ、もしかしてさ。この子は王様じゃなくて女王様なんじゃないかな? この気取ったポーズと言い、体に尻尾を巻きつけるなんて、まるで衣装を纏っているつもりの様に見えない?」


「何を言うかと思えば……瀬里沢、このネズ公の勇ましい顔を見ろよ。どう見たって立派な王様じゃないか、なあネズ公?」


「あら、貴女は女の子だったの? じゃあ名前はハトシェプスト? それともエリザベス? ヴィクトリアの方が良いかしら?」


 瀬里沢のその指摘を受け、俺と星ノ宮が二人してネズ公に声を掛けると、尻尾を嬉しそうにくねらせ「チュッ、チュッチュチュ!」と契約者の俺では無く、星ノ宮へと向き直り、前足で照れくさそうに顔を押さえていた。

 どうやら契約者の俺は、ネズ公の性別さえ気が付けないでいたようだ。

 だってあんな勇ましい行動と顔つきで、まさかネズ公がオスじゃ無くメスだなんて、誰だって思わないだろーー!


つづく

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