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150話 イケメンのターン!ドロー宇隆さんを手札に加え、石田君を墓地へ

ご覧頂ありがとうございます。


4/11 誤字修正致しました。

「うん、これなんて君に似合うんじゃないかな? それともこっちの方が良いか……あ、隣のこの色も着てみない? 僕が同じ物を着て並べば、ほら石田君これから同じ場所、同じ先生を師として色々教わる者同士、服を通して交流をもっと深めようじゃないか!」


 現在俺達は、所々燃えて焦げてしまった制服を新調する為に、瀬里沢お勧めの店に買い物に来ている。

 元は服作りの趣味が高じた事で立ち上げた店らしいが、輸入物や各種の服以外にもボタン一つから色々と物を揃えられ、その手の通も御用達らしい。


 制服は既に購入したのだが、裾上げに少し時間が掛かる為に、その間服でも見てみようと言う話になって男女で一端別れた。

 けどそのせいでモデルの本領発揮とばかりに、瀬里沢がハイテンション気味で、俺にあれこれと迷惑な店員よろしく服を進めて来て、横穴内での出来事と病院での処置も相まって少々ぐったり中。


 どうして医者って奴は、誰もかれも決まって「はい、痛くないよ~大丈夫。先生は全然痛くないからね~」なんて言いながら、楽しそうに注射を打つんだ?

 奴らはきっと皆、医学生から医者になる過程でサディストに代わるに違いない。


 俺は鼠に噛まれた箇所と引っ掻き傷が、手よりも腕に集中していたせいで、恭也さんのように両手に加え腕まで包帯を巻かれ、今日一日は安静にと言われていたのだけど、自分の得意分野で活躍できる! と、このイケメン野郎に振り回されている訳で、体力が限界に近くもう声もでねぇ。


 そろそろ誰か助けてくれと思ったところで、離れていた宇隆さんが現れる。


「瀬里沢、お前は少し浮かれすぎだ。石田をよく見ろ。この全てがどうでも良いみたいな諦めきった表情、先程から騒がしく耳に届き目に余るので注視してみれば、お前の勧める服を着もせずに、こいつはカゴに放り込んでいるぞ」


「え!? うわぁ~石田君、僕の選んだ服を全部買って着てくれるのかい? とても嬉しいよ! じゃあじゃあ、もっと君に似合う服を探さなくちゃ」


 うわぁい。その調子でもっとこの馬鹿に言ってやってくれ。

 選んで貰えるのは有難いし構わないが、今の俺は制服さえ買えればそれで良かったんだ。

 ネズ公は未だポケットの中だけど、どうやら疲れで寝ているらしい。

 先程から反応を示さず、ほんのりとした温かさを俺の太腿に伝えて来る。

 今ここでの心の癒しは、お前の存在だけだわ。

 そっと、その温かな膨らみに手を添え小さな鼓動を感じる。

 ネズ公、俺ももう少しで意識を手放し、楽になるかもしれないよ……。


「まてまて、石田が死んだ魚のような目になっているのが分からんか! そんな事で貴様は本当にモデルとして満足なのか? 学生とは言え人に見られる事を生業として、片足を踏み入れ働いているお前に矜持は無いのか! 今のそれは単なるお仕着せではないと言い切れるのか?」


「はっ! そうか僕はなんて事を……。モデルの立場を弁えず、無理に服を買わせるなんてやってはいけない筈なのに、役に立てると思ったらつい嬉しくて、彼に似合いそうな物を目についた端から見立ててしまったよ」


「あ~うん。……気にすんな」


 さっきまでのテンションが消え、今はどんよりと曇った天気の中さながら、失恋で雨に打たれながら彷徨う男、とでも題目を付けれるくらい落ち込んでいる。

 こんな瀬里沢は見た事が無いので、口も勝手に慰めの言葉が出た。


「本当にすまない石田君、僕はまだ精進が足りないようだ。それにこうして僕の事も考えて叱ってくれたのは、貴女が初めてだよ! 宇隆さん、貴女はなんて素敵な女性なんだ!」


 何だろう今日の宇隆さんは、天が俺に遣わした守護者か? 背中に後光が差して見えて、まるで天使……いや、どちらかと言うと凛々しい戦女神だな。

 兎に角このイケメン暴走野郎を止めてくれたことに、感謝の気持ちが溢れる。

 だがさっきの落ち込みから一転、瀬里沢にとってはどうやら戦の一文字は要らず、きっと今宇隆さんを女神その者に見ている事だろう。

 やっと瀬里沢からのお勧め攻撃も納まって、幾分か回復する。

 

 それよりもさっきまでとは打って変わり、不死鳥の様にすぐさま復活し既に俺の姿が目に入らず、瀬里沢の瞳は宇隆さんに釘付けで、流石にこの立ち直りの速さには呆れを通り越して、俺はある種尊敬を覚え……たくねえええええ!


 瀬里沢の口撃! 宇隆さんは驚き戸惑っている!?


 誰かこいつらを止めてくれ! と俺の気持ちを代弁してくれるかのように、今度は海を割る十戒のモーゼの如く、星ノ宮が田神さんを従え現れた。


「はいはい、あなた方気は済んだかしら? それとも真琴にはおめでとうの方が良い? 石田君、貴方って華奢に見えて意外と肩幅は広いのね」


「ななな、何を言うのですか奏様! 私は別に、石田が困って……と言うか気力が尽きかけていたように見え、瀬里沢の間違いを正そうと!」


「あら、真琴は石田君の事が心配だったの? 彼、体は細いのにそのまま肩に合わせて制服選ぶから、サイズが合ってないのよ? 不便よね。そうだわ、いっそ既製品はやめてオーダーメイドにしてみては如何? あとズボンの方は裾上げが終わっていたから、私が代わりに受け取って来たの。はいこれね、ちゃんと渡したわよ?」


 時間帯的に、個人が経営する店の店内にはお客さんは少ないが、突然男性服売り場で始まったこの寸劇(と言うか喜劇?)の中へ、星ノ宮がその空気を片手で吹き払いながら割って入って来て、俺の精神の安定を保ってくれる。

 田神さんがその後ろに自然と控えているのは、もう様式美だ。


 星ノ宮に冗談でからかわれた宇隆さんは、急に感極まったように瀬里沢に片膝を突かれ、下から熱い視線で見上げるように褒められ(?)困惑していたが、新たな二人の登場で我に返り普段の凛々しい顔に戻っていた。

 だけど、刹那の間少しだけ恋する乙女みたいな、普段見せない柔らかな表情になっていた事は、俺の脳内画像フォルダへと確り記憶しておく。


 有難い事に星ノ宮が手渡してくれた新しい制服を受け取り、今は田神さんから車に常備していた、サイズが少々合わない予備のYシャツを借りていたのだけど、取りあえず後で着替えようと思う。


「はは、さんきゅ。で、お前の方の用事は済んだのか?」


「ええ、やっぱり見た目も大事だけど肌触りとフィット感はもっと大切よね。サイズが少し窮屈に感じ始めていたのだけど、今計ったら新しい物を勧められて、そのまま買う事にしたわ」


 何の事を言っているのか、数瞬の間疲労の為か分からなかったのだが、すっかり場の空気を破壊されて、放置状態だったロミオの耳にも入ったらしく、目敏くその視線の先が星ノ宮の胸部をロックオンし、俺にも何を指して言わんとしていたかをやっと理解できた。


「なん……だと。この僕の目が、まさか彼女のサイズアップを見逃していたなんて!? なんたる不覚! 脅威の胸囲成長期に違いない!」


「阿保か貴様! 他の客が居る前で何をほざくか! 恥を知れこのうつけ者め!」


「……真琴、思春期の男なんてそんなものです。声量を抑えなさい。貴女まで騒ぐ方が余計に注目を集めます。もっと状況を考え冷静に対処しなくては……そうですね、例えば瀬里沢様の後ろに忍び寄ってそっと脳への血流を押さえ、気を失わせる。慣れれば相手を騒がせず、苦しませず楽に処理できますよ」


「ヒッ!? そんな事をされなくても黙ります!」


 田神さんはあの冷血スマイルを出しながら、かなり物騒な事を口にだし宇隆さんを嗜めたが、そのやり方はどうだろう……。

 俺は瀬里沢の焦り様が少しだけ分かり、やれやれと溜息を吐く。


 しかし、星ノ宮のサイズ云々は置いといてやはり女性は、下着一枚にも決して妥協したりはしないんだなと、改めて認識するとともに、確か師匠があちら側でも星ノ宮の下着を誤って送った際、結構な反響が在ったらしい事を思い出す。

 食べ物以外にも、一応子供服とかは何着か選んで通販で明日には届くけど、他にも何か在った方が喜ばれるよな? そこで丁度目の前の星ノ宮に聞いてみた。


「なあ、話は変わるんだけど、肌触りの良い物の素材って言ったら、何が一番なんだと思う? 俺は全然詳しくはないんだけど生糸って分かるか?」


「あら? 肌触りを気にするのだし、意外と貴方も身に着ける物には拘る方だったのかしら? 貴方の言う生糸ってシルクの事でしょ? それならハンカチとか色々在るじゃない」


 あ~生糸ってシルクの事か、師匠が何か凄そうに言うからさぞ珍しい素材だと思っていたけど、それなら割と身近にもあるよな。

 確か家でも、シルクって言えば母さんが持っていた……かな?

 まてよ? と言う事は俺が枠内に入れて持ってきていた、星ノ宮の下着はもう用済みなのか? 今この状況では聞けないし、保留だな。


「ん~生糸、仮にシルクを使って物を作るんだったら、材料はここでも揃えようと思えば買えそうだな。よし、ちょっと店員さんに聞いてみるか」


「えっ? 貴方って、そんな隠れた趣味を持っていたの? よく人は見かけによらないって言うけど本当ね。今度私に何かプレゼントしてくれても良くてよ?」


 何か凄い勘違いをされてしまったが、材料を一杯買って師匠に渡せば何かしら作ってくれるかも知れないし、否定するのも面倒だからまあいいか。

 特にうんとも返事もせず、そのまま店員を捉まえ確認してみた。





 ……店員さんに案内されてやってきたそこには、ちょっとしたコーナーが設けられ、店主の趣味の一つとしてシルク素材で御手製らしい作品が展示されて、店で扱う生糸の種類や色見本などが一緒に並べられ、その数に少々驚く。

 買に来た人に分かり易いように、価格帯を説明したパネルが立てかけてあり、これは便利だなと思うが、どうも直ぐに購入できる商品の種類は限定されており、物によっては注文してからの受取になるらしい。


「瀬里沢さんが勧めてくれたのも、これを見ると納得の店よね。拘り具合が私の知るお店と全く違うわ」


「う~ん、在るだけ買ってみるかな。直ぐに買える種類は少ないみたいだし」


「……貴方は先ず何を作るのか、それを決めてから材料を買う方が、良いかも知れないわよ? 悩むのも作る前の楽しみの一つなんでしょ?」


「へっ? ああ、そうそう何を作るか楽しみだな~……本当何を作れるのやら」


 確か生糸を扱った事は在ると言っていたし、それに話の流れから織物を作る技術もある様な事を言っていたので、たぶん大丈夫だろう。

 俺はちょっと聞いただけの不確かな情報を元に、そんな風に星ノ宮へ軽口を叩いていた。


つづく

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