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139話 揃った荷物

ご覧頂ありがとうございます。

「ええ、連絡ありがとうございます。直ぐに取りに行けそうなら此方からもう一度連絡します。後ですね、少し聞きたいのですが……」


 部屋を出て、エレベーターホールの見える廊下で話していると背中に気配を感じ、振り向けば何を思ったのか星ノ宮がついて来ていた。

 別に聞かれて困る電話では無いし、寧ろ丁度良かったので相手に少し時間を貰い、その間に星ノ宮へ確認をする。


「あのさ、注文していた商品が揃ったって連絡だったんだけど。この後あの冷蔵コンテナ倉庫に物を運ぶ事って、本当に頼んで平気か?」


「貴方が泣かせた秋山さんに対して、どう思ったのか表情を見れば直ぐに分かったけれど、それより電話の着信で怪訝な顔に変わったから、何かあったのか心配になって追ってみれば、別に大した事じゃ無かったのね。残念だわ」


 そう言って軽く溜息を吐いた後、「直ぐ確認するわね」と何でもない事の様にさらりと受け、携帯を取り出すと最近お世話になっている、運転手の田神さんの名前が出て来る。……少しばかり肩身を狭く感じた。

 二十秒くらいのやり取りで耳が拾った内容は、トラック等手続きを済まして此方へ向かうので、四、五十分程度時間を見た後に店へ向かう必要が出来た事だ。


 注文した物の個数も聞かずに、「二トントラックを一台で、十分でしょ?」と星ノ宮に断言されたが、重さで言われても俺は車はさっぱり詳しくないのでピンとこず、二台って言えば直ぐに揃えそうで、恐る恐る「ああ、だ、大丈夫じゃね?」と情けない返事しか言い返せなかった。

 星ノ宮はそのまま電話を終えると、「じゃあ、先に戻るけどあまり思い詰めてはダメよ」と扉の向こうへ行ってしまう。


 それを見送りながら俺の考えが上手く行けば、割と簡単に日野倉妃幸の遺品を見つけられるかもしれないと、拳に力がこもる。

 そう思うと星ノ宮は思い詰めるなと言ったが、泣かせてしまった秋山とこれから悲しませる事になる筈のあの子の親御さんにも、少しは許してもらえるかもと考えた所で、結局自分がそうしたいだけのエゴかと、自分の浅ましさに苦笑が浮かぶ。


 追加の注文の電話を終えて部屋に戻ると、静まった部屋に佇む星ノ宮と目が合った。まだ当然ながら秋山は泣き止んでおらず、俺がぶっ倒れて寝ていた、あの仮眠出来る部屋へと黒川が付き添い連れて行くようだ。

 その様子を痛ましそうな表情の瀬里沢と、何も言わず二人を見送る。

 そんな中一人様子を変えず、先程の話の内容を宇隆さんと話しながら淡々と、事実確認を済ませていた恭也さんは「成程ね」と一言呟くだけだった。

 漏れ聞こえた内容から、秋山の父親は麓谷市内にある『秋月大山探偵事務所』に勤めているらしい。

 因みにどうでも良い話だが、秋山の親父さんと大槻と言う人の二人の名字から取った社名だそうだ。





 ――少しして黒川が隣の部屋から戻って来て「眠った」と呟く。

 急激な感情の高ぶりと、泣いた事で精神的な衝撃の落差が起きたせいで、疲れが出たのと黒川が傍に居た為に力が抜け、直ぐに眠れたのだろうと予測する。

 偶に明恵も家で癇癪を起して怒った挙句、暴れて泣いた後はすぐ寝る子だから、何となくそう感じた。


「それで、この後君達はどうするんだい? 秋山さんの事は心配しなくともこのまま寝かせあげて構わないし、何なら泊まって行ってもボクの方から親御さんへは連絡を入れるから、問題は無いよ」


「まだ外も明るいし、解散にはちょっと早くないかな? 石田君、どうだろう、ここは一つ何か覚えやすい符の作り方を、恭也さんから教わって少しでもこれからの幽霊対策の一環としようじゃないか! フフ、僕の案はとても良い考えだと思わないかね!」


 例の如く妙なポーズを決め、俺に手の平を差出してそう断言する瀬里沢だが、ここに来る途中に見たような精彩さは無く、無理に場を盛り上げようとしているのが分かり痛々しい。

 黒川は変わらぬ表情でちらりと目だけで俺を窺い、星ノ宮は少しだけ顔を背け瀬里沢の何処がツボに入ったのか分からんが、口元を手で隠し肩を震わせている。

 宇隆さんは呆れた様子を露わに片手で顔を押さえ、首を左右に振っているくらいだ。


 気持ちは分かるけど、その妙なポーズさえなければ、本当に良い男なのにと残念に思うが、お蔭で肩と背中に感じていた重石が軽くなった気がして、少しだけ感謝の気持ちを込め、その手の平を叩き返す。


「サンキュ瀬里沢。だけどちょーっと用が出来たんで、もう少しすればここを出なきゃならん。実はさっきの電話は頼んでいた物が揃ったって連絡で、物をコンテナ倉庫へ運ぶ事になったから、俺の受け取りのサインが必要なんだわ」


「ん? それはつまり石田君が、あの子に憑かれた場所だよね? ……ボクも一緒に行ってみても構わないかい? 少し確かめてみたい事を思い付いた」


 俺と瀬里沢のやり取りで、何故か唯一感心したような顔をしていた恭也さんは何を思い付いたのか、俺達に同行したいと言ってきた。

 少し準備したいと部屋を出て、まだお邪魔して無いこのフロアの別の部屋へと姿を消して、五分ほどして着替えを済ませベージュのトレンチコートを羽織って来たのだが、この前も思ったけど、この人は皮膚感覚の温度感が死んでいるんじゃないだろうか?

 真夏にこうも着込むなんて、悪いが今朝見たあの黒づくめの十字路に立つ、女性の幽霊といい勝負だと思う。


 黒川は秋山が心配だから傍に居たいと事務所に残留、他のメンバーでスーパーミラクルへと移動していた。

 外に出ると日は傾いてきてはいたが、まだ暑さがじわりと肌を通して体内へ侵入してくる。何度も言うが、この暑さで汗一つ浮かばず涼しい顔のまま、しなやかに歩く恭也さんは異常だと思う。


 きっとこの人は体の中に熱を廃棄する器官が、汗腺から汗を流す以外に備わっているに違いなく、犬みたいに浅速呼吸では無理があるけど、他に思い付くのは体外に露出している感覚器から、溜まった熱を放射しているとか?

 などと操るのがだいぶ上手くなった呪を唱え、威力を抑えた小さな風を制服に纏わせながら、そんなアホな事を考えつつ歩く。





 事務所から暫くして店に着き、サービスカウンターで待っていた店長に会い、そのまま倉庫へと案内され、頼んでいた物の個数を確認し終わった所で、店長が呼ばれてしまい一端店内へと戻って行った。


 裏の駐車場近くへ箱を移動させるべく、ダンボールを恭也さんを抜かし各自一個持たせた所で、運ぶのに使うと良いと言われた台車を見つめる。

 そこで一つ閃き、もうそれ程力を隠す必要も無いメンバーばかりだから、物理的限界ギリギリまで箱を台車の上へ乗せ、それが済むと空がある『トレード窓』の枠へ、箱を目いっぱい積んだ台車ごと中へ突っ込み、皆が集まった所に近寄ると周りを素早く確認し、一気呵成に中身を取り出し何回かに分けて地面に積み上げた。


 それを見た皆は、手に一箱ダンボールを持ったまま驚いて棒立ちになる。

「そ、そんな事もできたんだ……」と瀬里沢が呟き、星ノ宮には感心するどころか溜息を吐かれる始末。


「何かもう、貴方を見ていると驚く方が馬鹿みたいに思えて来るわね。他にもまだまだ隠している事があったりして?」


「……全くどうやったのか見当もつかないね。石田君、キミはもう無茶苦茶だな。いくらなんでも無理があるよね? 私達だって完全な無から有を作る事は出来ないし、物の重さを軽くすることは出来たとしても、今みたいに一端消した物をまた瞬時に作り出すなんて芸当は、流石に中々出来る芸当じゃないよ?」


「もうこ奴は『そう言う者』だと割り切るしかなかろうな。今更言うべきことではないが、私は構わんが奏様にだけは迷惑を掛けるなよ? それとお前は簡単に死ねると思うな十分に役に立て。私が言いたい事はそれだけだ」


 一番手っ取り早く運ぶのに役だった筈なのに、何故か瀬里沢を抜かした女性陣から酷い言われようで、俺を見る目に呆れた様子が浮かんでいた。

 皆の反応から俺の何が不味かったのか結局分からず、瀬里沢も「あはははー!」渇いた笑いをするだけで答えはない。

 そうして精神的被害は被ったが、肉体的な疲れは微塵も無く、大して時間もかからず全て運び終えた所で、「もう終わったの? ……あんたら運ぶの随分と早いね?」と、裏口へ首を傾げた店長が戻って来て呟く。


「まあ人数五……四人も居りゃ出来て普通か? それじゃ兄ちゃんよ、一応電話で言われた商品は用意したが、支払いは大丈夫か? 問題が無けりゃあれも纏めて受け取りのサイン頼むわ。この二枚な」


「本当急に無理言っちゃって済みません。その、在庫とかは大丈夫だったんですか?」


「そりゃお客さんに心配されるこっちゃねぇな。なぁに、こう言っちゃなんだが他にも種類はあるし、こっちも二日もありゃまた届く。だから俺としちゃあ十分儲かっているから構わんよ。そう言う訳でこれからも是非じゃんじゃん買いに来てくれや。俺兄ちゃんの名前覚えたぜ、石田君よ本当頼むわ」


 この人には色々と教わった事も在ったせいか、何故か軽口を叩けない。

 そうして店長は、商品の支払いを現金で済ますと俺の肩をパシッと叩き、ニッと妙に歯並びの良い笑みを見せ、スキップしながら店内へとまた戻って行った。

 もしまた必要な物が在っても、多少の無理は聞いてくれそうな感じだ。

 ついでに、売っていた三パック入りのプリンを購入し、この後も直ぐには家に帰れそうもなく時間を食いそうなので、約束を忘れずに師匠の下へ『転送』しておく。これで師匠に会えるのは遅くなると伝わったに違いない。


 それから八分くらいで件の二トントラック(?)らしい貨物車と、いつも星ノ宮が乗ってきている乗用車が裏口に止まり、田神さんとその後ろから作業着を着た人が二名付いて来る。どうやら荷台への積み下ろしも任せて良さそうだ。

 迎えに来た田神さんに挨拶し恭也さんは助手席、俺達は後部座席へと乗り込み、冷蔵コンテナ倉庫をレンタルしているあの場所へ、いよいよ向かうのだった。


つづく

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