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135話 浮かんだ疑問

ご覧頂ありがとうございます。


3/13 加筆&修正致しました。

 黒川と学校まで一緒に歩く。

 あの後俺が信号を無視して渡った事や、会話で呟いた“アレ”も含めて様子おかしいと、いったいどうしたのか教えろと言われた。

 だが、俺も何て言ったらいいのか思い付かず、あの女は単に怪しいだけの変人だったのか、それとも“そっち系”の問題なのか判断がつかない。


 こんな時、恭也さんだと直ぐに判別がついたのかも知れないが、事務所でも言われたように、俺の気配を感知する力は微妙らしく気味が悪いとは思っても、感覚で“そう”だと確信するほど鋭くは無いのだ。

 C組の前で分かれたけど、俺を見る黒川の表情は何処か心配そうだった。


 今までの人生の中で特に幸と不幸が纏めて届いたような事が、俺の周りで起きているよなと、目の前に立つ秋山を見て溜息を吐く。

 教室に入って席に着いて直ぐに、こうして待っていたと言うばかりに捕まり、通学路で起こった出来事に関して、根掘り葉掘り聞かれている事でお察しだろう。

 話すのが億劫で、まさに不幸の真っ最中だ。


 俺はこいつの情報収集能力の凄さが頭から、すっぽりと抜けていた。

 それ以外にもコンテナ倉庫で起きた件から始まり、仲間内の女子の間で情報が回覧板宜しくメールで回されていたそうで、昨日は秋山の機嫌を損ねた儘だったので、さてどう声を掛けようかと構えていたら、そんな段階は既に単なる過去でしかない勢いだ。

 ……まあ、下校時にケーキを奢ったりご機嫌伺いをする必要も無く、丁度良かった訳でもあるが、俺が家に帰ってから全くその辺の事を調べる努力してないので、頼りになると分かってはいたけど、秋山へは頭が下がる思いだった。


「石田、あんたは信号を赤で突っ走って渡ろうとするなんて、自殺でもする気? 不注意にも程があるわよ! そんなんじゃこれからもしかすると、いざ恭也さん達の問題に巻き込まれるって時に、肝心のあんたが死んじゃっていて、対抗できそうな壁が居なかったら、全っ然意味がないのは分かっているの?」


 秋山の久々のマシンガントークとその剣幕に、前の席から俺に「おはよう」と声を掛けその後に続く話を一切出せない静雄が、今ばかりはその強面も全く覇気を感じさせず、どちらかと言うと所在無げに左手に持った週刊コミック雑誌が、妙な哀愁を漂わせていた。


「ちょっ、俺は肉の壁扱いか!? 流石に身代わりは勘弁だ。それに死ぬ気なんてこれっぽっちもねえよ! 赤信号はただの見間違い……だと思う」


「何よそれ? 煮え切らない言い草ね。そう言うの“奥歯に物が挟まる”って言うのよ? あんたの場合“廬山の真面目”とは違うんだから、もっとハッキリと言って見なさいよ!」


「その例え俺には意味が分からん! あの時の事を強いて言うなら――」


 上手くは言えないが、報告書でもあるまいし俺の思った“感想”でも構わないかと、通学路で見たアレを話そうと思ったら静雄の大きな手と掴んだ雑誌が、俺と秋山の前にヌッと前に出され壁となり、会話を途中で遮る。


「割り込んですまん。だが、明人、それは今話して大丈夫な事か? 秋山も周りをもっとよく見ろ」


 秋山と俺の会話が漏れ聞こえたのか、周りから『また始まった』とクラス連中の視線と耳が集中していたらしく、静雄が止めに入った事で各自姿勢を正したり、元のグループでの会話へ戻ったが、この場で話すにはちょっと不味いと気付く。

 俺は目で合図を送り、秋山は溜めていた言葉を吐き出すように一息つくと、「後でね」と言って自分の席へ帰って行ったが、どうも今日の秋山は昨日の事をまだ引き摺っているのか、いつもよりも少々表情が冴えない気がする。

 上手く言えないが、会話している最中にも顔に翳りが在る様に感じて、実はあいつ具合でも悪いんじゃないかと思った。


 その後は、静雄からもう一つの雑誌を奪い取り、昼休みまでは何事も無く授業を消化し、今日は屋上を避けて瀬里沢の所属する写真部の部室を借りて昼食をとる事に決まる。

 あまり他人に聞かれちゃ宜しくない話でもあるしな。





 ――そうしてC組に寄って全員合流し、歩いてきました部室棟。

 案の定集まった際に、今朝の事を突っ込まれたが話は後でと先へ促したのだ。

 この旧校舎の部室棟の鍵は基本職員室に保管だが、瀬里沢はちゃっかり合鍵を作りこっそり持っていた。

 部室の備品の殆どは瀬里沢の私物だし、部費は現像を頼んだ際くらいしか貰ってないそうなので、例の盗撮事件が起きる前まではあまり五月蠅く言われなかったらしいけどな。

 まあ、顧問の先生は居るらしいが他の部と掛け持ちでしかなく、顔を出す事は先ず無いそうだ。

 だからこそ、教師も来ないから倉庫にあんなモノを保管する訳で、仮に学校側にバレれば大問題になるのは間違いない。


 皆で移動中に、階段を上った先で珍しく瀬里沢と挨拶を交わす奇特な女性徒が居て驚いたが、さっきの人は誰なのか聞いてみた。


「ああ、小野田君だね。彼女は通称『オカ研』の部長で、偶に我が部に撮影機材を借りに来るから、顔を会わせれば挨拶くらいはするさ」


「へ~って、お前オカ研を知っているなら、俺達なんかより珠麗さんの事とか先にあっちへ相談するのが普通だろ!? それに」


 こいつは、助けを求める相手が違うだろと思わず言ったのだが、後ろに居た星ノ宮は「学生の部活動程度の者に、そんな身内の事を相談しないわよね?」と宇隆さんに零しているのが聞こえて、言葉に詰まった。


「それは当然したさ、けど本格的な心霊現象なら素人よりもプロに任せた方が良いって言われて、それで事務所で聞いた恭也さんへ頼んだんだ。だいたい君に頼んだ事は幽霊退治じゃなくて、本当は御札のすり替えだったじゃないか」


 星ノ宮の言う事も尤もだったが、既に相談していたらしい。

 ……俺が言うのも何だが、話しちゃって大丈夫か?

 そう言えば、最初から瀬里沢が俺に頼んだ依頼は御札の交換だったっけ。

 楽な依頼で十万ゲットだぜ~と思って喜んでいたのに、いつのまにやら刀を持った幽霊から不意打ちまでされて、お蔭で伊周と対決する流れに成っちまったんだったと思うと、これも随分と変わった奇縁だよな。


 俺と瀬里沢が話をしている最中も「よく見なかったのだけど、さっきの女性の方と瀬里沢さんは割と相談事をする間柄らしいわね。どういうお付き合いをしているのかしら?」「奏様あまりそう言った事は、堂々と言わない方が宜しいかと」とか「私も知らない事があるなんて、コレは怪しいわね」「怪しい」と打てば響くような会話を耳が拾う。

 女性が三人寄れば文殊の知恵じゃなく、姦しいとは良く言うが実体験をすると成程なと、静雄と顔を見合わせ納得した。


 そうして部室へ入り昼食をとりながら、各自と言うかほぼ秋山の独壇場となった場で、今の所集まった情報を纏めて行くと――


 ここ麓谷市での去年の行方不明者は八百三十五人、内八割は見つかっていて残り二割が未だに行方知れず。

 実に毎年百六十人くらいが消えた儘だと考えると、昔から言う“神隠し”って言葉は言いえて妙だと思う。

 見つかって無い行方不明者の年代は、他の地域とは差があり特に小学生以下と、六十代以降に集中しているらしい。


 そのうちお年寄りが消えるパターンは、麓谷市は山に囲まれた市なので、春先や秋口の山菜や茸が豊富らしく、それ目当てに山へ入り車を残して居なくり、帰ってこない事を心配した家族が、警察へ捜索願を出す場合が多く。

 小学生以下の子供に関しては、学校帰りなど一人で行動後に消えてしまうパターンが多いのが、失踪直後に寄せられた状況証言から分かるそうだ。


 更に詳しく調べたと分かる量の紙束が入った封筒を渡され、それを受け取り皆で分けて読んでいくうちに、俺の体験した話に該当しそうなのが見つかった。

 去年の夏に小学一年生の女の子が家の中に居た筈なのに、突然行方不明のまま見つからず、今も捜索願と、ネットでも分かる失踪者名簿に載っていると言う、クリップで留められた子供の写真を見て、倉庫で見たあの女の子だと確信し、隣で書類に目を通していた瀬里沢にも見せると、手を震わして写真を掴み「この子だ!」と声を出す。


 ――件の女の子の名前は『日野倉妃幸(ひのくらひさき)』失踪直後の服装も、俺が見た魔女っ娘がプリントされたTシャツに、紺のスカート姿だ。

 失踪したその日も雨で、大人用の傘も一緒に消えていた事から、母親に黙って父親を迎えに行ったと予想される――


 などと、秋山の持っていたB5サイズの紙に印刷されていたが、妙にその家族構成や顔写真に加え、年齢に職業まで詳しく記載されていて少し違和感を覚えた。

 非常に有難い情報だったけど、今がいくら情報化社会だからと言って、ネットを使い一日にも満たない時間で、こんな所まで細かく調べれば個人情報が分かる物なのだろうか?


 瀬里沢の持つ写真を集まった皆が見る中、俺はこの書類束を睨みながら一人疑問を抱いていた。


つづく

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