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131話 ぶーたが歩いた日

ご覧頂ありがとうございます。

 取りあえず、星龍の身内が警察関係者なのは間違いなく、しかも普通は中々知る事の出来ない情報を得る事もできそうだし、その話ぶりから割と気さくな奴で会話を続けるに連れ、直ぐに打ち解ける事も出来た。

 とは言っても、この場に静雄が一緒に居なければ、数日前の初対面の時の事を思い出すに、こんな風に友好的に会話をする事は出来なかったかもしれない。


 それと言うのも本人は無意識でやっているのかも知れないが、星龍が得意そうに事件の話題を口にする時は、必ず視線がチラッと宇隆さんを窺うように向いていて、この面子から考えると俺と瀬里沢は単なる引き立て役か、お邪魔虫でしかないだろうしな。

 開口一番に星ノ宮を立てる様な事を言うが、コイツのお目当てはあのお嬢様ではないと黒川にさえバレバレである。

 肝心の宇隆さんはそれについて特に気にした様子は無いので、星龍は普段からこうなのだろう。

 ……と言うよりも、全然その好意を気が付かれてないのだ。


「――で、まだ一般には流れて無い情報だから、ここだけの話にして欲しい。頼むよ?」


 またチラッと見て得意そうになっているのが、余計に哀れさを誘う。

 相手は相当鈍いぞ超頑張れ! きっといつか宇隆さんだって、気が付いてくれる筈だ……といいな。


「道路標識までも斬るなんて凄い業だと思う。コレが人に向けられ切裂かれたらと思うと、僕はゾッとしないよ」


 そう言って肩を竦めながらも、瀬里沢は横目で意味あり気に俺や静雄の方を見てくるのをよそに、静雄は我関せずとばかりに泰然自若の構えで黙って聞いている。

 確かに標識や自販機をぶった切ったのは伊周(刀の付喪神)だが、だからって俺らをそんな目で見るんじゃない! 俺は静雄なんかより肝は太くないんだ。

 星龍が不振に思ったら件の目撃証言の学生が、俺達だと割れる可能性だってあるんだぞ。

 ここは、話題転換をして意識を変えねば……。

 

「そう言えば切裂くで思い出したけど、新聞部の張り出した奴に土曜に“通り魔”が出たって話が書いてあったけど、警察ではその辺どうなの? もう動いてたりするのか?」


「うん? ああ、あの記事の事か……実は警察には別に届け出はされてない。俺も少し気になって新聞部に話を聞きに行ったら、切られたと言う制服は体当たりをされた後で気づいたらしい。つまり、切れていた制服と言う真実に、多少の創作を部員が書き足したに過ぎないそうだ」


 なるほど、ありそうな話ではある。

 確かにあの内容の続きとして、単に制服が切れただけでは記事にするには面白みがないし、新聞部としては多少推測が混じっていたとしても、読者には書いた物に興味を持って注目して貰いたいに違いない。

 一応気になった事柄については裏も取ったりして、星龍は中々の行動力を持っているようだ。


 この後も最近の校内の話題などで盛り上がっている内に、最初の目的地に着いて瀬里沢が降り、次が俺の番となり家の前で下してもらう際、良ければと星龍にスマホの番号とメアドを聞いて、お互いに交換をしておいた。





 一応俺の家には、静雄が遅くなる旨を連絡しておいてくれたらしく、特にお咎めも無く中に入れた。

 ……何か最近このパターン多くね?


 先ずは汗でべとついた体をさっぱりしようと風呂に向かったが、洗い物が片付かないからと、その前に晩御飯を食べるように母さんに強要され、行儀が悪いと注意されるけど、ご飯に味噌汁をかけてかっ込む。

 台所へ茶碗を片付け、着替えを取りに部屋に戻ろうとした所で、明恵が子豚のぬいぐるみを脇に抱きながら、俺の部屋から満面の笑みで出て来る。

 もう片方の手をぎゅっと握り込む様子から、何かを持っているのが分かった。


 俺の部屋から物を持ち出すにしても、明恵の手の平サイズで思い当たる物はあまりない。精々消しゴムとかそんなもんだが、もしかして“あっち側”と繋いで師匠から何か貰ったとか? 兎に角聞いてみるか。


「明恵、俺の部屋にプリンでも取りに来たのか?」


 俺が階段から上って来た事に、気付くのが遅れたのせいかハッと驚いた顔になり、さっと右手を背中に隠す。

 ……甘いな、そんな風に動いちゃ、益々何か隠し持ってますって言ってるようなもんだぜ! もっとも強引に手を掴み聞き出すようなマネはしない。


「な、何でもない。お兄もおやすみ」


「明恵、その右のおててに隠した物を見せて欲しいな~」


 無理強いは良くないので紳士的にお願いをしつつ、こっそりと『窓』を開いて明恵の持ち物を確認する。

 どれどれ、我が妹よいったい何を背中に隠したのか、お兄ちゃんに見せてごら……えっ?


 『窓』を開いて確認した物は『アヴァラカーキストーン』意味としては第五要素を集い持つ石、別名『魂の石』とも呼ばれる物で、これ自体では意味を成さない物だが、この五つの要素に“識”すなわち他の者から認識される事によって、第六の要素を得て、物に命を吹き込む事が出来る石……らしい。

 その力は大きさに比例するようで、明恵の持っている小石ではあまり効果は無さそうだが、前の所有者は……シャハだって!?


「お兄、なにそれ?」


「あれ? 明恵、もしかしてお前にもこの『窓』見えているのか?」


 明恵の視線が、確実に俺が操作している『窓』の画面をロックしている。

 まさか明恵にも『窓』が見えているなんて思わなくて、いつものように開いて使ったのが運の尽き。

 昨日の“どうして?”攻撃に引き続き、今度は明恵の“なにそれ?”攻撃が始まってしまった。

 結局師匠に教わった技術と話し、詳しい説明は俺にも上手く出来ないので、さらっと濁して誤魔化す。


「う~ズルい! お兄、明恵にも教えて!」


「……無茶言うな、俺だって何故覚えれたのか分からん!」


 今一納得した表情はしてないが、俺が意地悪で態と教えない訳じゃ無いと分かってくれたのか、渋々「……そっか、したかがないね」と言う。

 仕方がないが正しいのだが、明恵は良く言い間違える。


 それにしても、てっきり俺はプリンかジュースを取りに来た明恵が、冷蔵庫を開けた際“あっち側”と繋がって師匠にでも会い、何か貰ったのかと思っていたら、まさか相手があのトカゲ頭のシャハだとは思いもしなかった。

 しかし、物に命を吹き込むだなんて、随分とんでもない物が“あっち側”にはあったもんだ。

 そんな扱いに困るような物を、まだ子供の明恵に渡すなんてシャハはどう言うつもりだろう? 喜んでいるからまだしも、ちょっとこれは扱いに困るな。


「明恵、別に怒ったりしないから、何か貰った時はちゃんと……あ~、冷蔵庫の向こうに居る人に貰った場合は俺だけに、他に隣のおばちゃんとかなら母さんか父さんに伝えると約束だ。この約束を守れないなら、二度と俺の部屋の冷蔵庫は使わせないし、電源も切るからな」


「む~約束わかった。お兄あのね、これ貰ったの。ぶーたが歩くの凄いよ!」


「ほほ~、その五角柱のガラス玉みたいな物でぶーたが歩くのか? そりゃ確かに凄いな」


 唇を尖らせさっきのちょっと拗ねた様な表情から一変し、瞳をキラキラさせて大切な宝物でも見せるような笑みで握った右手を開き、半透明の黄色みがかった石を俺に差出しながら、本当に嬉しそうに言う。


 因みに“ぶーた”って言うのは、明恵が大事にして今も脇で抱えている子豚のぬいぐるみの名前で、安直だとは思うが子供が付けるもんだし、こう言った物は分かり易さが一番に出て来ると思う。

 とは言えこの魔訶可思議な現象も、俺との約束事として誰にも言わないと秘密にしているので、今のところは他と比較する考えはあまり持っていない筈だ。

 だからこそ明恵もさして疑問にも思わず、素直に受け入れているのだろう。


「何か、どこかで似たような物を見た気がするけど、どこでだっけか……?」


「ん?」


 手に乗った魂の石を見せながら、引っ掛かりを覚えた俺の独り言に対し、明恵が不思議そうに小首を傾げる。


「あ、いや、何でもない。きっと気のせいだ。それよりもどうやって動かすんだ? 俺にも見せてくれるか?」


「うん、お兄に見せてあげる。待ってね」


 そうして明恵は右手に持っていた石を、脇に抱えていた子豚に押し付ける。

 普通ならそこで布地にめり込みはしても、素材に阻まれて重力に任せて床に落ちる筈が、石は糊か何かで貼りつけたように子豚にペタリとくっつくと、(あたか)も電流でも流れたように一度ブルッと全体を震わせ、まるでたった今ぬいぐるみである筈のぶーたが、命を宿し目を覚ましたかの様に足を動かし始めた。


 俺はそれを見て驚くと同時に、明恵が得意げにその事が常識であるかのように、当然と“ほにゅほにゅ”と形容し難い音を立てて歩くぶーたを、楽しそうに見ている事に冷汗を流す。


 ……今から心配するのもおかしな話だけど、この事が実は物凄い異常な体験をしていると分かった時、明恵はちゃんと“あっち側”と“こっち側”の常識と言う名のギャップを、果たして埋める事ができるのだろうか?


 俺も最初は寝ぼけた夢だと思って、気にもしてなかったが実際に『窓』何て特殊な物を覚えて直ぐは、正直授業も何もかも忘れ浮かれて使いまくっていた。


 他の誰にも見えて無い事を良い事に、ちょっとした優越感を持って秘密にしていたが、誰にも話せないって事は……案外重い。

 もっとも、そんな感慨に耽る暇もなく次々に色んな事が起きて、それどころじゃ無かったのが現状だけどな。

 改めて考えると、如何に今の自分が“奇跡が連続で繋がる綱”の上で、フラフラと落ちない様に立っているのが分かる。


 この一週間の間だけでも、何度か途中で下手をすれば死ぬ様な目に遭っているのがその代償だとすれば、これからも同じ事が起こらないとは言い切れず。

 寧ろ厄介事のオンパレードが、列を作って並び待ちしている気すらしてくる。

 明恵にもその災難が降りかかる可能性があると思うと、早々に何かしら身を守る術を教えてやりたいが、それを小学生にさせるのは土台無茶な話だ。


「お兄、どうした? 頭痛い?」


「大丈夫。これは頭痛じゃないから……」


 俺ってこんなに物事を深く考える様な奴だったかな~って、思っていただけなんだが、廊下をぽてぽてと規則正しく歩く子豚のぬいぐるみを見つつ、頭を抱える俺の姿は明恵を心配させてしまったらしい。

 本当、これからどうしようか? ……良い案はパッと思い付いたりしないが、先ずは風呂に入って熱いシャワーでも浴びて今日掻いた汗を流し、頭の中を一度空っぽにしようと思い、俺は軽く頭を振って立ち上がると背中を解すのに伸びをした。


つづく

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