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130話 文殊の作戦会議後ニアピン

ご覧頂ありがとうございます。


3/8 加筆&表現を変更致しました。

  ニヤリと笑うのだった→頷くのだった


 一端俺に憑りついた(と言うよりは、瞳の在った瞬間に隙だらけになった俺の中に、偶然入っただけらしい)女の子は、物の見事に感情を揺さぶられた結果、符の効果で分離され、今は符の中に封じられ眠っている。

 宇隆さんが窓を開けようとしていたが、あの酷い臭いも数秒すると浄化され、空気の入れ替えをするまでも無く、元の正常な空間に戻った。

 偶然とは言えひょんな事から、恭也さんの実力の一部を皆が垣間見る事になった訳だ――





「霊とは随分と臭うのだな。アレなら嫌でも近くに来れば分かりそうだが、あの場所ではそんな事は無かったのに不思議なものだ」


「うむ。確かにあの臭いは凄まじい物が在ったな。お蔭で鼻がおかしくなった。伊周の時は臭いでは無く気配や音だけで、ある意味良かったのかも知れん」


「もう臭わない筈。なのに、まだ残っている気がする」


「仕方ないよ、あんな姿じゃね。もっとも最期はその肉も無くなって殆ど骨だけだったね」


 あの子は言葉の代わりに臭いを発していた。

 語る部位が朽ちていたからか、それとも別に理由があるのか分からないが、まるで自分はここに居ると、分かって貰いたがっていた様にも思える。

 きっとあの濁流に飲み込まれながら、必死に声を出そうとしていたに違いない筈だ。


「それにしても、まさか石田君が憑りつかれるとはね。会った時から思っていたけど、やっぱり君は感知系……それと操作系は苦手なのかな?」


「憑りつかれって、それよりあの子はどうなるんだ? もしかして符に封じた儘なのか? ……感知系とか操作系って言葉の意味は分かっても、俺はやり方なんて全然分からんわ」


「……何だか君の事が、最初に出会った時よりも余計分からなくなってきたよ。それと君に憑りついていた憑霊(オニ)なら、あのまま符に封じて浄化するつもりだけど、どうせなら君の手でするかい?」


「あのさ、浄化ってどうやるんだ? あの子にお経の一つでも唱えてやって、手を振って見送り空に向かって成仏して貰うのか?」


 皆が興味深そうに、恭也さんとの話に耳を傾けている。

 浄化と聞いてピンと来なかった俺は、両手を合わせ拝むようなジェスチャーで訊ねるが、帰って来た言葉は至極あっさりとした簡単な答えだった。


「まさか、僕らはそんな事はしないよ。経を読むのはお坊さんの役目だし、この憑霊を祓って彼岸へ送るだけさ。石田君はこの憑霊の記憶を覗いたかもしれないけど、それだけでこの世に留まった理由が分かったのかい? 何に執着しているか分からなければ、それを叶え成仏させるのはとても難しい事だよ?」


 イメージとして、霊とかそう言った類のモノは何か聖なる力的な物でバーッと光に包まれて天に昇って行く。そんな風な想像をしていたが、全く違った。

 今生きている人のささやかな願いだって、一つ叶えるだけで大変なのに、物言わぬ死者の魂の願いなんて、そう簡単に叶えられると考える方が烏滸がましい。

 確かにそこで諦めてしまえば終わりだが、生きている俺達の手はそれが出来るほど長くはないのだ。


「……少し休憩しよう。それと君達は明日も学校は在るだろうし、あまり遅くなっても良くない。親御さんも心配するだろうし、浄化は急ぐ必要もないから続きは明日でも構わないだろう。 黒川さん、お茶を淹れるのを手伝ってくれるかな?」


 恭也さんはそう言って立ち上がると、心配そうな顔をした黒川はチラッと俺を一瞥した後、そのまま一緒に部屋を出て行った。


 部屋の中に残された四人は俺の遣る瀬無い気持ちが伝わったのか、どこか気怠い雰囲気が漂う。

 恭也さんはあのまま符ごと浄化させる気でいるようだが、俺はあの子をどうにかしてあげ……いや、したいんだ。

 ただ、どうしたらいいのか良い考えが浮かばない。


「石田君、その……僕らが出来る事を考えよう。何の経験も知識も無い僕らが、あの子を成仏させる。アレを見た僕にも気持ちは分かるつもりだし、言葉にするのは簡単だけどさ、先ずは分かっている事を纏めてみようよ」


「瀬里沢の言う通りだな、私達が分かっている事など高が知れているが、お前は『記憶』を“見た”のだろう? 何でも良いから思い出してみろ。些細な情報でも、それが何かを見つける切っ掛けになるかもしれん。それが終わるまで、その不景気な顔は止めろ。こっちまで気が滅入ってくる」


「瀬里沢、それに宇隆さんも……悪い。お前らに頼る事になるかもしれないが、

俺一人の頭じゃどうやっても限界がある。だから何とか思い出してみるから知恵を貸してくれ」


 瀬里沢が口を開いた事で、腕を組んだまま不機嫌そうな顔をしていた宇隆さんが、そう言って俺を励ましてくれた。

 向かいに座っていた静雄は、あの強面でそんな俺達を眺めニヤリと笑うが、傍から見れば悪の首領が不敵な笑みで、部下たちを前に笑っている様な図式になっている。

 俺や瀬里沢、それに宇隆さんがまるでどこかの悪の組織の幹部にでもなっているような錯覚を覚えた。





 ――こうして悪の幹部(?)会議はそのまま続き、途中で恭也さんと黒川がお茶と茶菓子を持って戻ってきても、話し合いは続き時間も二十二時を過ぎた所で、恭也さんから一端解散を言い渡されて、それぞれ帰る事になる。

 いくつか纏まった事が、あの子が車に撥ねられたと予想する場所、天気と時間帯、顔と服装、側溝に投げ込まれた事から、まだ行方不明になっているのではないか? と言う意見等、冷静になって話す事で見えてきた物もあり、確定ではないけど、それらがこれから調べる要点となった。


 エレベーターで下に降り、出口に来たところで宇隆さんを迎えに来たワゴン車が止まっていて、中からドアが横にスライドして開く。

 昨日も見たが、何故車の中に磐梯(兄)が乗っているのか不思議だった。


「真琴、遅いぞ。あまり時間をかけて星ノ宮様に迷惑を掛けるのは感心しないな。さ、早く乗……あれぇ!? し、静雄さ、いや静雄君も一緒だったんだね。狭っ苦しい所ですが、ささっ是非乗ってください! 御家までお送りさせて頂きます!」


「星龍? そんな声を上げず落ち着け、良く分からんが皆も乗って行くか?」


 この間も静雄の名前が出ると随分と取り乱していたが、二人の関係が良く分からん。一応門下生らしいのは聞いたが、だからと言ってこの平身低頭ぶりを見ると静雄が更に悪役っぽく見えてしまう。


「ふむ。……それではその言葉に甘え邪魔をする。明人、お前も乗れ」


「あの僕も良いのかい? じゃあ、乗せて貰おうかな」


「ありがとう」


 宇隆さんに続き、静雄と俺が乗った事で瀬里沢と黒川も同じようにして車に乗り、扉をスライドさせて閉める。

 シートベルトを締めた所で星龍が、運転席に座る男性に声を掛けた。


「皆乗った行ってくれ。……それで、聞いて良いのか分からないが、君達はこんな時間まで何を? 最近夜は物騒なんだ。知ってるかい? あの噂の真っ二つになった自動販売機は、夜のほんのちょっとの間に行われた犯行らしいんだ。しかもその切断面の滑らかさから、未だ犯行に使われた凶器が分かってない」


「えっと、確か新聞にも載っていたけど、切断面とか凶器が分からないとかそんなに詳しく書かれていなかったと思うけど、確か単に警察で調べている最中だとしか……」


 自信なさげに答える瀬里沢だったが、そう言えばこの磐梯の親は、確か警察の関係者的な事を聞いた覚えがある。

 もしかしなくとも、そんな内部情報を俺達に話して良いのだろうか?


「その通り。まだ調べている最中だが、事件の在った晩に近くで争っているような物音を聞いたと言う話や、学生を見たとかも上がっているけど、こっちは単なる通行人だろうね。どこの学生があんな鉄の塊を斬れる? 無理無理って……面白くなかったかな? 今一番話題に上っていた事件だったし、お蔭であの盗撮の事は校内じゃあっさり風化したからね」


 こうして話を聞くと秋山もかなりの情報通だったが、身内に警察関係者が居るのは、あの事を調べるのにとても役に立つのではと思って顔を上げると、皆も似たような事を考えたのか、顔を見合わせて頷くのだった。


つづく

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