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119話 願い出に至る先

ご覧頂ありがとうございます。


2/20 加筆&口調を修正致しました。

 欲しい符の効果については、案の定入り口で見かけた符も選択に入っていたのだが、昨日聞いた話だと大体の相場が四~五万程度だとして、七~八枚は貰えるんじゃないかと予想を立て、今の所決まっているのは二枚なので、他にこれから必要になりそうな物を色々と話していた。


 気付けば割と時間が経っていたのだが、恭弥さんと黒川が一向に戻ってこないので不思議に思い首を傾げる。

 ……美味しい紅茶って、相当淹れるのに結構時間食うんだな。


「やはり私は身を守る物か、隠す物が欲しいな。奏様はそう言った荒事に対しては無力に等しい。そう言えば瀬里沢の所で見た二枚に関しては、二人とも効果も見たのだろう? 使えそうだったか?」


「ふむ、対霊(オニ)に関しての効果は有ったようだが、対人でも同じ効果を発揮させる事も出来るのであれば使えそうだ。明人はどう思う?」


「う~ん、こればっかりは聞いてみないと分からん。時間も無かったし上っ面しかよく見なかったしな。秋山、お前は何か思い付いたか?」


「そうねぇ……思ったんだけどさ。対人や対霊って安永君は言うけど、私達ってどうやって箱根崎さんが使ったみたいな、あの『黒い炎』や『幽霊』を確認する? 何だかんだ言っても、相手の姿や不意の襲撃が見えないのは脅威よ?」


「むっ、そこは気配を察知すれば、そこそこ出来なくもないぞ」


「いやいや、静雄じゃあるまいし無理だから。普通気配を感じた時にゃ“ずんばらりん”だろ? 金曜の夜の時みたいに不意打ちに気付かなきゃ、初見で真っ二つだって! 秋山、お前が最初に狙われたとして、アレを避けられるか?」


「そんなの無理に決まっているじゃない! 例え相手が見えていたとしてもよ? 突然斬りかかれて私に避けられると思う? あんたもあの時、安永君が居たから無事だった事、もう忘れた訳じゃ無いわよね?」


 ですよね~、俺も不意打ちじゃなきゃ最低限応戦は出来るが、はっきり言って固定砲台くらいにしかならん。

 攻撃を避ける場合だって体が着いて行かないと、躱すと言うよりその軌道から外れるのが精いっぱいで、大抵転んでるしな……。

 でも秋山は良い事言ったな、そもそも見えんと対処できんし逃げるのもままならない筈だ。


「……既に考え方としては戦だな。候補を上げるなら、先ず相手の察知、発見、守る、隠れる、他に逃げる、最終的には戦うか?」


「ふむ、知らせるも在った方がいいな。誰か近くに居れば状況によって次の行動を決め易いだろう」


「あはは、何で私達こんな事まで考えなきゃいけないのかしらね。……はあ、電話があるから連絡は何とかなりそうだけど、安永君の言うように咄嗟の場合はそんな余裕無さそうだし、“備えあれば患いなし”、って昔から言う様に用意しておいた方が無難ね」


 ……確かにその通りなんだが、お前ら本当に俺と同じ高校生か!?

 物の考え方が極端と言うか、宇隆さんと静雄の思考が“そっち寄り”なのは何となく分かるけど、何か秋山まで何時もより数段賢く見える。

 俺みたいな善良な一般人には、少々着いて行けない世界だわ。


 何かここ三日間で随分と殺伐としていて、癒しが欲しい。

 偶には家に帰ったら明恵と遊んで、心の渇きを潤おそう。

 そうと決まれば帰りにプリンでも買って帰るか。

 家に着くころには、冷蔵庫も直っているといいな……。





「……だ……石田? あんた何ぼへっとしてんのよ。だいたいの主に必要と思う考えは出たけど、あんたはどう思う? この中じゃ一番あの符や術とかの知識があるんだから、確りあんたも意見を出してよね」


「えっ? ああ、えっと癒しと冷蔵庫が……って、いやっ! あのそうじゃなくて」


「むっ、流石明人だな。癒し、つまりは体力の回復や怪我などの、傷の治療の事の指摘……冷蔵庫と言う事は、食糧も必要か?」


「中々鋭い意見だ。今の所出た考えは怪我などの万が一の事態を想定してない。相手からの奇襲や遭遇戦への対処法に近い物ばかりだったな。まあ補給に関しては、手近なコンビニで十分だろう」


「ダメね。すっかり巻き込まれるって話のせいで、怪我をした場合や逃げる時の体力の事までなんて、頭からすっぽり抜けていたわ。石田、あんたも割と深く考えていたのね。ありがと」


 何やら静雄も宇隆さんも、顔を見合わせうんうんと頷いている。

 いや、そんな深い考えがって言うか、全く関係ない事ばかり思い浮かべていたなんて、とても言える雰囲気じゃない。……黙っていよう。





 ――あの後、紅茶を淹れて戻って来た恭也さんと黒川を交えて、今まで出た意見を合わせ欲しい符に関して話したところ、恭也さん本人からもそれに関して色々な話を聞いた。


 元々菅原家は嘘か本当か分からないが、平安の時代の有名な人物である『菅原道真公』がルーツらしく、その頃からある陰陽寮から伝わり受け継いだ術式や符の作り方等、一時期その血が断たれそうになった事も在って、術者集団で協力して後継者を育てると共に表舞台には立たず、暗躍しながらその力を増していったらしい。

 それが幕府が倒れ近代になり協調や協力の精神から、時代の流れか家同士の勢力争いに切り替わり、競争や足の引っ張り合いへ拡大とか……。

 傍から見たら縮小なのに気付かないのは、増え過ぎた弊害って奴か?


 話がずれたが、そんな歴史を持っている為に符の作り方と術式に関しての発展は各家々で独自に研究が進められ、改良や改造に新たな術式の構築等は、かなり厳重に保管、管理されているそうで、理由としては下手にそれが漏れ優位性が失われる事を恐れ、滅多な事では符の売買自体許されていないのが現状のようだ。

 本来こういった物は門外不出なのが当然……なので、俺達が挙げた様な効果の符は、仮に在っても“渡せない”と言われてしまった。

 そう言えば、瀬里沢の家にあった符も回収してたっけ。


 どうやら術式や符の作成等を学ぶ際に“制約”を“儀式”に織り込み行う事で、同門以外に不意に喋ってしまう事が無いように、意識に刷り込まれるそうだ。

 その為、誘導尋問や拷問、脅迫等をしたところで他家の技術は奪えないので、態々その“制約”を外してまで教授する事は、基本的に“害でしか無い”との考えが各家の共通姿勢らしい。

 確かに、簡単に真似されたり、代々伝わる長年の研究成果が易々と奪われでもすれば目も当てられないだろう。

 よく考えれば彼等の扱う符や術式なんて、一般人にはただの紙と文字の羅列でしかなく意味が無い。

 何より特許みたいな法での保護は無いので、成果は自分達の手で守るしかないのだ。


 ただどう言う訳か(どうもこうも無いのだが)、仮とは言え弟子になる俺にその作り方を教える事は、兼成さんが直々に“制約”を改変し、“石田明人に教授する”許可を得ているらしく、こうなっては最後“皆の為に頑張って覚えてくれ”と半ば強制と言うか、脅しに近い要請を受けた。

 あのおっさん、昨日からの短い時間で結局はどう足掻こうと、全て俺に押し付けられる用意を整えてから、京都(恭也さんの実家)へ帰って行ったらしい。


 俺の報酬である勾玉に関しては“勿論、我が弟子の迷惑を掛けた石田君には無料で進呈させて貰う”とメモまで恭也さんへ残していた。

 恭也さんが俺を養子や後継者候補に勧めても、あまり無理強いして来なかった事の理由は、予めこの話を聞いていたからなのではないだろうか? それとも俺の邪推のし過ぎか?


 最悪、他の後継者候補に俺の事が知られれば、未だ自覚はないけど力が駄々漏れな俺は、実態がどうあれ相手側にとって容易ならざる牽制にもなる訳だ。

 その考えに至った俺は、あのメモに物申したい。

 何が無料だ! 特大の迷惑を掛けて来たのはあのおっさんだ!!


 叫んでも詮無いので、代わりに皆からは報酬だった五十万がかき集められ、俺の手元に二百万もの大金が転がり込んできた訳だが、嬉しさ半分厄介事半分と素直に喜べなかいのも分かって欲しい――





 そうしてやっと報酬を受け取り、ビルの外へ出ると辺りは夕日の色に染まり気温も下がっていれば、中で過ごした時間も結構経っていた。

 俺達は極度の集中と若干の緊張も加わった話し合いに疲れ、ダラダラと歩きながら恭也さんの事務所を出て帰る最中だ。


「石田、一日でも早く覚え修得してくれ。私も奏様に事の次第を説明し、お前への助力を惜しむつもりは無い」


「すまんな明人。お前ばかりに負担を掛けるが、今はお前に頼るしか手がない。だが、俺の力が必要とあらば何時でも構わん。呼べば俺はお前の期待に応える働きをしよう」


「何だか、狐に頬を抓まれた気分ね。けど、箱根崎さんと恭也さんの怪我って結局何だったのかしら? もしかして全部兼成さんが仕込んだ布石の内の一つでしかない? あ~もう! 考えるの止め! 全然わかんないわ!」


「それでも、恭也さんに怪我させたのが兼成さんなら、私は許せない」


「……まあな、ありゃ酷いで済む怪我じゃなかったし。そう言えば黒川、随分とお茶の用意に時間が掛かっていたみたいだけど、紅茶ってそんなに淹れるのが難しいのか? 良く知らんけど蒸らしとか工程とかさ」


「……恭也さんから色々教わった。それで私の至らなさを痛感した。でも、もう大丈夫。間違えない」


 そう言ってどことなく晴々とした表情な黒川を見て、女性ならではの感覚なのかもしれないが、ほんの少しの間に随分と恭也さんと仲良くなったもんだなと考える。

 俺も偶に自販機の缶で紅茶を飲む事は在ったけど、本格的な紅茶って奴はそんな感想がさらっと出るほど、奥の深い飲み物だったのかと感心しながら、今度また飲む機会があれば、次はもっと味わって飲もうと何気なく思った。


つづく

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