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117話 何事にも限度はあります

ご覧頂ありがとうございます。


※今回のお話には残酷な表現があります。


2/22 加筆&誤字修正致しました。

「うわ~痛そう。皮膚の色も変わっているし、一体何があってそんな怪我をしたんですか?」


「ふむ、まるで熱湯でも被った様な火傷に見える。しかも、一度では無いな」


「……それでは怪我と言うよりも、まるで拷問のようではないか。安永、その判断に間違いないは無いのだな?」


「これと似た症状を以前爺さんから教わった事がある。水ぶくれにならない程度の熱湯を何度かに分けて浴びせながら、少しの治療を混ぜつつ万遍無く相手に痛みを与える方法だ」


「……酷い」


「うむ、黒川の言う通り酷い所業だ。そのせいで皮膚が爛れこのようになり、このまま適切な治療がされないと、その内皮膚が固まり患部を動かすと罅割れが生じ裂傷になる。だが……」


「だが、なんだ? 安永にしては、珍しく歯切れが悪いな」


「うむ、こんな風になるには余程手馴れている事は勿論、適切な処置を続けるのにはかなり時間が掛かる。それこそ数日に渡って行われる行為と言えば、意味は分かるか?」


 静雄の説明を聞いて俺は怖気が走った。

 皆も顔面蒼白になっていたが、黙って静雄の話を聞いていた恭也さんの顔には、痛みや恐れそれ以上に怒りや悲しみを感じている……様子は無く、そのどれでもなければ浮かんでいたのは諦めの表情だった。

 随分とえげつない痛めつけ方だが、よくもまあそんな手の込んだ事をするもんだ。

 ただ、昨日の今日でそんな事をいったい誰にされたと言うんだ?


 静雄の話が本当なら、時間的に考えても普通は無理だろう。

 とあれば、何が在ったかなんて想像がつかない。

 兎に角言えるのは、見ていてとても痛そうだって事だ。


「あの、もしかして箱根崎さんが今居ないのって」


「あっ!? そう言う事か! 恭也さん、いったい昨日から今日の間に何が在ったって言うんだ?」


 恐る恐る訊ねた秋山の話の意味に気が付き、思わず俺は声を上げた。

 恭弥さんが言う『箱根崎の暫くの休み』『今は病院に居る』という答え。

 どれも彼女の手の怪我と、最初に聞いた話に繋がっていると考え付く事だった。


 恭也さんは「少し待ってもらえるかい」と言って、白い無地の容器を持ってくると、その蓋を開けようとするが手に上手く力が入らないらしく、見かねた宇隆さんが「開ければ良いのだな」と言って、軽く捻りカパッと音をさせて開ける。

 礼を言って容器からそれを掬うと、恭也さんは隅々にそれを塗り込み手袋を履き直す。


「あまり空気に触れていると、皮膚が堅く固まってしまうんだ」


 苦笑しながらそう答える恭也さんは、少しだけ悲しそうに見えた。

 見ていてとても痛々しく、少しでも治す手助けをしてあげたいと思う程だ。


「そんな顔をしないで欲しい。ある意味これは自業自得で、箱根崎君はそのとばっちりと言うか、僕が父様の事を言わずにいたのが原因なんだよ」


「……どういう事?」


 恭也さんの話に真っ先に反応したのは黒川だった。

 今の話し方だと箱根崎の病院送りと、恭也さんの怪我の原因は自分にある。

 でも兼成さんがそれに関わっていると言っているようなものだ。

 昨日の様子から、箱根崎が恭也さんに少なからず好意を持っているのは何となく感じたが、だからと言ってその事で父親の兼成さんが二人にこんな仕打ちをした? ……どうもよく分からない。

 皆も困惑した様に顔を見合わせる。


「父様は、普段あまり感じさせることは無いけど、とても厳しい人だ。僕がこうして今ここに居るのは、大学に進学する事を出汁に父様の下から逃げ出したからなんだ」





 ――恭也さんの話はさらに続き、それまで受けた“躾”と言う名の虐待とも言える仕打ちの数々を語ってくれた。

 本人に自覚があるかどうかは疑問だが、どれも全て“自分の至らなさと未熟さ故”だと感じ、それを信じているのが話す様子からも窺える。

 普通ならこうした身内の問題とも言える事に、恥や悪だと感じ思っていればこんな風に出会って一日しか経って無い相手に、こうも容易く話せるような内容では無かった。


 聞いていてその理不尽な仕打ちに怒りが湧くとともに、その異常とも思える執拗な責めに、兼成さんへの得体のしれない狂気を感じた。

 つまり、箱根崎も似た様な“躾”を受けたのだとしたら、普通は耐えられるものじゃない。

 腹の立つ奴に違いは無いが、そんな目に遭う程悪い奴には思えん。

 ……恭也さんは別として、兼成さんと関わり合う事は手紙の件も含めて色々と考えさせられるが、あの人に期待される様な養子だなんてとんでもねぇ!


「本当に、あの菅原さんがそんな事をして来たのね」


「むう、いったい何の苦行だ? よく耐えられたものだ」


「そんな事が罷り通って良い訳があるまい! そんな無慈悲で残忍な男だとは思いもしなかったぞ!」


「私には、とても良いお父さんに思えたのに……」


 口々に声を上げるが黒川の呟きが、更に兼成さんの異様さを感じさせるに十分だった。

 たった二日の内の数時間の出会いで、黒川にそう思わせる人柄を持っているのに、別の面で見ると狂人とも言える悍ましい顔も潜ませていたのだから。

 極めつけなのが「それでも、父様は良い父親なんだよ」と恭也さんに言わせたことだ。


 ……既に洗脳されてると言って過言じゃない。

 皆もその一言で“何を言っても無駄”だと感じたのか黙り込んだ。


「この怪我も、箱根崎君の事も含め菅原の者としての自覚が足りて無いからこうなったのだけど、僕は父様の言う後継者に相応しい人間だと思ってないんだ」


「そう言えば、そんな事も話していたわね。恭也さんって本当の名前は、ちはやさんなんですよね?」


「そう。だから父様が是非養子にしたいと言う程の、石田君みたいな力のある弟子が増えて、その心配も杞憂となって感謝している。本当にありがとう。最終的に僕は菅原の後継者として受け継ぐ筈の名前である恭也では無く、“ちはや”として生きられる筈だよ」


 恭也さんが先程までの悲しそうな笑みでは無く、本当に心底嬉しいと言えるような笑顔で秋山の質問にそう答えた。


「「「「「はっ!?(どういう事だ?・むっ!?)」」」」」


 何だか妙な話になって来た気がする。

 今の話の流れだと俺を養子に仕立て上げ後継者にし、恭也さんが改めてその候補から外れ、元のちはやさんへと戻り本当に親元である兼成さんからエスケープ?

 この人無自覚に、さもそれが良い事だと思ってるのが始末に負えない。

 俺をそんな悪鬼羅刹の下へ人身御供にする気か!?

 妄想全開で語るのも大概にしてくれ!! 兼成さんと言うよりは、菅原と言う看板の妄執に囚われているのは、寧ろ恭也さんの方!?


「いやいやいや、俺そんな気全っ然これっぽっちも無いから!! どうかそのまま恭也さんは、生まれ持った宿命を全うしてください!」


「えっ!? それは困るよ!! 昨日僕は既に父様に君を説得する事を約束してしまったんだ。それに本家の後継者候補になれば役職手当が毎月出るよ?」


 いや、役職手当とか意味わかんないし、確かにお金は欲しいけど命に代えられるか天秤で比べりゃ考えるまでもない。

 あのおっさん、本来の後継者に何を馬鹿な約束させているんだよっ!


「ふむ、その言い草だと後継者候補とやらは他にも居るのではないか?」


「菅原一門は、全国にその根は張っているからね。本家筋の上に立つのは父様だけど、次の後継者を一名指名する事は出来ても、他家の者から選ばれた候補者を排除する事は、当代当主には許されないんだ」


「何ともキナ臭い話だが、当代当主には許されないと言う事は、他の者が候補者を排除する事は許されている、と解釈して良いのだな?」


「えっと宇隆さん、それってつまり恭也さんも含めて、候補者に選ばれた人は……」


「そうなるね。実家を出て一度ならず何度か僕も色々ちょっかいを受けた事があるけど、父様の様に直接的な攻撃系の術は苦手で、今までは何とか凌いでいる所だよ。箱根崎君が前に出て時間を稼いでいる間に、僕が符を使っての対処だけどね」


 単に報酬を受け取りに来ただけなのに、とんでもない事に巻き込まれそうな予感がして、俺と皆は揃って言葉に詰まり顔を引き攣らせていた。


つづく


作中に出てきた表現ですが、実際にそんな拷問擬きを行って出来るかどうかは

完全にフィクションです。絶対に確かめたりしないでね。

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