115話 見た目の違い中身の変化
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R.S.R→R.P.R
「う~ん、カットパインは決定しているけど、他に喜ばれそうな物って何だ? 甘い物が貴重らしいから、ここは甘い飲み物でも用意して……それだけじゃ寂しいし、他に最低でももう一二品は欲しい所だよな~」
週初めの月曜って奴は普段なら休み明けって事もあり、どうしても憂鬱な気分になるものだが、今の俺はそんなダウナーな気配は微塵も無く、師匠から頼まれた祭りに出す物について頭を悩ませていた。
「明人、今日は一段と変だな。お前が真面目にノートを開いて勉強か? 商人を目指とは聞いたが、待ち合わせの時間過ぎてるぞ?」
もうそんな時間だったのか!? 少し集中しすぎていたせいか、静雄が前の席から振り向き此方を見ている事に気付いたのは、そう言われてからだ。
それは別に問題ないのだが、口に咥えているジャーキーは何処から出した? って聞くまでも無いか、しかし食べながらよくもまあ器用に喋るな。
で、静雄がこうして話しかけてくると大抵奴が……。
「ねえ、二人とも待ち合わせの時間をほっぽいて何を話し込んでいるの? ケチケチせずにあたしにも聞かせなさいよ。二人でノートを広げて勉強……の訳ないわね。石田、あんたが安永君を巻き込んで、何を企んでるのかキリキリ白状なさい!」
「本当に来やがった。秋山、お前は少しタイミング良すぎやしないか? まるで静雄が俺に話しかけるのを、影で待っていたかのように声を掛けて来るなんて、それにやたらに苛立ってないか? もしかして……いや、何でも無い」
「な、なによ行き成り。別にあんたが疚しい事をしてないなら、そんな事気にする必要なんてないじゃない。それに、もしかして何よ? 言いたい事があるなら濁さないでハッキリ聞けばいいじゃない! そんな所がイライラするのよ!」
「コホン、それなら聞くがもしかしてお前、今日は体調が悪いのか?」
秋山が何時になくギャンギャンと強い口調で噛みついてくるので、最初は躊躇したが、言われた通り思った事を聞いてみた。
俺の質問に、静雄と秋山を含めた三人の空間に一瞬“ピシッ”と亀裂の入った様な音が聞こえた気のせいだと思いたい。
時間は既に授業を終えて、部活の在るものは旧校舎のクラブ棟や体育館、グラウンドへと移動しているし、今こうして教室に残っていたのは数人の生徒と俺、そして今この場に居る静雄と秋山だけだった。
「あんたねぇ、突然何を言いだすかと思えば意味わかんないわ! こうして態々来てあげたのは、今日の放課後に恭也さんの事務所に行って、昨日決まった例の報酬を受け取るって話だったじゃない。あんたと安永君が中々来ないから、こうして迎えに来てあげたんでしょ! 待たせるんじゃないわよ! 少しは感謝しなさいよね!」
「ふむ、もうD組の三人は揃っているのか?」
「えっと、星ノ宮さんだけは都合が合わないから来れないけど、宇隆さんは一緒に行くって、舞ちゃんも待ちくたびれているわ。早く玄関の掲示板前へ行くわよ!」
「あれ? 瀬里沢は? 奴が一番あそこに行けるのを喜んでいたと思ったんだが、まだ来てなかったのか?」
「あ、瀬里沢さんね。あの人急遽仕事が入ったって、肩を落として帰ったわ。他にも会合? がどうとか呟いていたけど、ファンの集いとかの事かしらね?」
イラついていたのは本当に、待たせたせいらしい。
それにしても哀れ瀬里沢、急に仕事が入るなんてついてない奴だ。
たぶん秋山が聞いた会合って、例の表向きは撮影部の事だろう。
あの実態は非公認な奴らの集まりの事だし、そう言えば星ノ宮の下着をシンボルにとか、アホな事言ってたな~って、今更ながら思い出したけど、ヤベェまだ返すの忘れてた!? 変態認定は勘弁して欲しいが、星ノ宮もあれから全然何も言ってこないし、本当に貰っちまう?
……俺はガワなんかより、中身のねーちゃんの方が興味あるし、やっぱり要らんな。
「遅い。石田、お前と安永は割と時間にだらしない所でもあるのか? そんな風な男には見えなかったが、私の勘違いだったか?」
「宇隆さん、すまない。ちょっと考え事をしていて遅くなった。静雄は責めないでくれ、俺に付き合ってくれただけなんだ」
「うむ、すまん。時間が過ぎそうな時点で連絡すべきだった」
玄関の掲示板前に急いで行くと、秋山の言ったように宇隆さんと黒川が待っていた。背の高い宇隆さんと低めの黒川が並んで立つと差が強調され、それ以外にも胸を張る様に腕を組まれると、二人のある特定部位までも見事に差別化し、DNAの不条理さの悲哀を感じる。
……謝ってる最中にこんな感想が浮かんだとばれたら、あの時のトンファーで撲殺されかねんな。
そんな不埒な事を考えながら黒川の様子を見ると、何故か俺達には構わずに掲示板をとても嫌そうな表情で見つめている。
変な勧誘をしている様な部活内容でも張り出されていた? 妙に剣呑な目つきなのが気になり、少しその顔を解してやろうと何気なく思った。
「黒川も待たせて悪かったな謝るよ、だからそんな怖い顔をしないでくれ。可愛い顔が台無しだぞ?」
嫌な雰囲気も壊したくて妹の明恵をからかう様な調子で、冗談めかしてそんな風に軽口をたたく。
……つもりで言ったのに、どうしてそんなに秋山も静雄も夜道で化物にでも出くわした様な、ギョッとした顔で俺を見ながら驚くんだ?
宇隆さんは俺を胡散臭そうな顔で見て離れるし、そんなに変だったか?
「貴様、本当に石田か? ……もしや、あの妖怪変化な刀の変わり身か!?」
「えっ!? コイツって、石田じゃなかったの!?」
「なるほど、今日一日違和感を覚えていたが、まさか俺も騙されていたとは……伊周と言ったな、目的は何だ? 明人はいったい何処にいる?」
宇隆さんの言葉で、慌てて俺から飛び退く二人。
俺、ただちょっと人を褒めただけで化物扱いって酷くね? しかも静雄まであんな風に言うなんて、少し胸が痛むだけで泣いてなんかないんだからね!
「……石田君、待ってた。行こ」
「うぅ。そうだな、さっさと移動しようか」
少し驚いた様子だったが、素直な黒川だけはそう言って俺の傍に来てくれた。
うんうん、お前だけは何があっても信じてくれると思っていたぞ!
涙は拭いて、こんな薄情な奴らは放って置いて行こうじゃないか。
――それから、どうにかして俺の事を伊周ではないと分からせ―仕方なく、一度伊周を呼んだら、急に呼び出されて機嫌が悪く《下らん理由で呼ぶな!》と言われ―た後、秋山には「舞ちゃん、コイツは危険よ!」とか言って黒川に抱き付いて引き離され、静雄には普通に「すまん」と言われ今は俺の横を歩いている。
宇隆さんには「お前が下らん事を言いだすから、更に余計な時間を食ったではないか!」とぶりぶりと文句を言われ、散々だった。
「ここね。このビルの二階と三階が恭也さんの経営しているR.P.R(麓迫サイキックリサーチ)の物で、電話で聞いたら受け付けは二階らしいわ」
「なんか、もっとこう物々しいと言うかツタが生えて苔むした洋館か、瀬里沢の家みたいな日本家屋をイメージしてたけど、どこにでもある普通の建物なんだな」
「ふむ。明人、お前のイメージも分かるが、割と商店街からも駅前通りからも近いし、便利な立地じゃないか?」
「洋館だろうと日本家屋だろうと、場所など何処でも構わんのだろう? どうせやる事など変わりはしないのだ。私が思うに、倒すか倒されるかのどちらかでしかないのだしな」
宇隆さんの言葉に同意なのか、黒川はコクコクと頷いていた。
分かり易いシンプルな答えだが、世の中本当にそんな風に物事が済むなら簡単だし、楽でいいのにな。伊周に怒られた事を思いながらそう考える。
スマホで地図を見ながら、此処までの案内役になっていた秋山が、ビルの入り口に来て辺りを見回した後、怪訝な顔でもう一度ビルを見上げている。
何か気になる事でも在ったのか?
俺はちょっと催してきたから、出来れば早く中へ入ってトイレを借りたい。
「ふむ。……秋山よ、どうかしたのか?」
「うん、えっとね。確か私の記憶違いじゃ無かったら、このビルって何年か前に飛び降り自殺と、他殺死体が見つかって一時期話題になったビルだったような……それに」
「それに? 秋山、お前が他にも何か知っているのなら言ってみろ。私もそんな事を途中で切られては、どうにも気になるぞ」
「このビルの横にあるマンションって、夜中に人の生首が飛ぶのを見たって噂があったのに、いつの間にか聞かなくなった場所だったの」
それを聞いた宇隆さんと顔を見合わせた静雄は、改めて秋山と同じようにしてこのR.P.Rの看板を掲げたビルを見上げるのだった。
つづく