111話 作文で書いた夢の現実の差
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俺の勘違いだったか? あの勾玉についての話ってしてなかったっけ?
ん~、昼間にしていたのは二枚の水と風の符だけだったか……。
喉から手が出るほど欲しかったと言うのは言い過ぎだけど、聞いたつもりになって少し喋り過ぎた。
携帯についてたあの勾玉ストラップについては、瀬里沢との話でしか出てこなかったんだったけか? 色々在り過ぎて細かいところが曖昧だ。
「あれ~? 確かそんな効果があるような事を聞いた覚えが在ったんですけど……、あっ、そうだ瀬里沢、金曜の夜に俺達が襲われた後にお前の無事を確かめた時に電話で聞いたよな?」
「え~っと? ごめん。そっちの話は全然聞いてなくてさ、いや最初に企画と構成を図に出した後で、改めて一度仮撮影の後に微調整とかすれば問題なさそうだって色々案が出て盛り上がっちゃっててさ」
瀬里沢は、自分の趣味の話で皆と意見交換ができたのが余程嬉しかったのか、とても満足そうな顔でそう返事をしてくる。
最初はお前の突拍子もない宣言でこうなったと言うのに、と言っても詮無いか良かったな色男め! 上手く話をしてくれよ。
「もう一度説明するぞ。今金曜の夜に電話でお前と話していた事を兼成さんに説明していたんだが、間違いないよな? 恭也さんから確り持ってる様にも言われてたって、お前からも聞いたし」
「ああ、そう言えばそんな話をしていたね。あの時から僕の事を気にかけていてくれたんだからとても嬉しいよ~君達には本当に感謝しているさ」
そんな無邪気にイケメンスマイルでほほ笑まないでくれ! 俺の良心の呵責が、呵責がぁ~。
あんときゃ半分お前の事は見捨てたも同然だったし、死にゃあしないだろうって棚上げしてたんだ。マジすまん!
「……石田君が何故そんな苦しそうな顔をしているのか分からないが、そうかそれである程度の効果は見抜いていた。と言う解釈で良いのかな?」
「良いも悪いも、俺が知っているのはそれくらいだし、単純に抑えられるならその方が楽だって事は分かる。もっとはっきり言えば余計な事に巻き込まれるのは勘弁して欲しい」
俺と瀬里沢話を聞いて嘘は無いと思ったのか、追求は止まったみたいだが一応個人としての考えも述べておく。
知らない内に襲われる様な事が、明恵にまで及んだりするのは避けたいので絶対に明恵の名前も理由も出さん。
うっかり喋って、これ以上養子とか言われたらたまったもんじゃないし、俺の妹を渡してなるものか!
「最後にこれだけは聞いておきたい。あまり自分では意識してないかもしれないと言うか、あえて考えない様にしているようにも思えるけど、石田君の使役している刀の付喪神や、加減もできる人外以外にも殺傷力の高そうな術、何よりもその溢れる力、普通の人には対処できないその物凄い凶器を持って君は何をする?」
えっ? そんな事が聞きたかっただけ? 何か怒られたり、俺のこの力の事を探られるのかと思って警戒していたけど、別に聞かれても困る内容じゃなくて若干拍子抜けした。
「何をするって? 何となく意味は分かるけど、そんな風に考えた事自体あまりなかったな。強いて言うなら……」
途中で瀬里沢が呼ばれた事で会話の中断された皆も、出会った頃からどこか飄々として掴み処の無かった大人に見えたが、何時になく真剣で厳しい声音でそう訊ねる兼成さんの話を聞いて先程までの騒がしさが、しんと静まった。
妙に緊迫した空気になり、どうも話難く口籠ってしまう。
別に大した事じゃないのにな、けど不思議な力だし普通は興味でるか……。
俺の答えを皆も知りたいようで、誰も何も言うことなく耳を澄ませ、一言も聞き逃しはしないと言うような雰囲気で余計に緊張してくる。
ええい、お前ら! 俺の精神に妙な圧力をかけて来るんじゃない! 皆揃って圧迫面接官か!
心の中でおちゃらけてはいたけど、俺は今単純に困っていた。
今まで目標なんて物は特に無かったし、こんな時って親の仕事とか堅実性を前に公務員を目指しているとでも言えばいいのか?
そりゃ働く親の苦労は、何となくビールを飲んで酔っ払ってる時に聞かされる愚痴を聞いてるせいか、同じ事をしたいと思った事は皆無だし、学校もそれなりに楽しいが、だからと言って“こうなりたい”と感じる物も無かった。
そこでふと心に浮かんだのは、商売とは言え小さな村まで旅をしながら自ら赴き、そこで困っていた人を何とか商人として助けようとした師匠の事だ。
それに俺や明恵の恩人でもあるし、ラーゼスは尊敬できる爺さんに違いない。
これって、俺も師匠の様な商人になりたいって気持ちも、少しはあるって事だよな?
そう考えると、何かがカチッと嵌って足りなかったパズルのピースが揃った様な感覚を覚え、思わずそれを口に出していた。
「俺は、師匠の様な立派な商人になりたい、かな」
声に出して自分で言った言葉に驚くと同時に、耳から入ったそれを頭が理解した途端、顔の頬の毛細血管がぶわっと猛烈に熱く感じる。
うわっ、耳朶まで熱くなった感覚まで分かる……きっと俺は今顔が真っ赤だ。
俺の声が皆には届かなかったのか、更に静まり返った部屋に外の庭で鳴く虫たちの澄んだ音が聞こえる。
そんな空気を最初に壊してくれたのは、俺の一番の親友である静雄だった。
「明人、お前のそんな顔初めてみたが、見事に真っ赤だぞ。だがお前の目指す道は心配せずとも、既に見つけていたようだな」
「ふ~ん、あんた商人になりたいって何の商売をする気? まあ、何か知りたい事があれば少しくらい相談に乗ってあげても良いわよ」
「何かよく分からんが、石田がそう思うなら邁進するが良い。私は応援だけはしよう……あと、困った事があれば聞くだけ聞いてやる」
「あらあら、石田君って将来自分のお店を持ちたいの? それって麓谷で開くのかしら? もしそうなら少なからず、私からも手助けくらいなら出来なくないわね」
「そうか、君も僕と同じように目指す道が決まったんだね。その道は違えど祝福しようじゃないか、今一つの目標に向かって歩み始めようと考え始めた若人を!」
「どんな障害があっても、あなたなら負けない。頑張って」
皆が俺の言った答えを否定せず、口々に自分の意思を表してくれた。
何かこそばゆいと言うか、恥ずかしい様な嬉しい気持ちが溢れ皆に祝福されている感じが心に伝わって来る気がする。
付き合いの長い奴静雄も、短い瀬里沢も含め俺は良い仲間に出会えたと思う。
「お前ら……サンキューな。と言っても俺もまだよく分かんない。だけどやりたい事に変わりはないんだって気付いたら口に出してたよ。兼成さん、ありがとう。何をしたいかって言う答えは、師匠に負けない商人になる事だ」
そう俺の意思を示したと同時に、またあの声が頭に響いた。
《新たな力の目覚めを確認しました。『物質転送』のロックが外れます》
「……はっ? えっと、僕が聞きたいのはそう言う事じゃ無くてだね。何と言うかまあ、君がその力で誰かを傷つける様な事はしないって今ので分かった気がする。君の求めてる技は菅原の家の者が授けるんだ、その者の性根しだいで片を付けるのは最終的に僕らの役目になる訳だから、君自身の口からその為人を確認したかったんだよ」
……兼成さんの言う事は長ったらしいがもっともな事だと思う。
だがそんな事より、今の頭の中に響いた声の新たな力? 物質転送? 折角俺の目標が出来たと思ったら、何だか取扱いがヤバそうな力が目覚めやがった。
俺は師匠の様な商人になろうと思ったのに、物質の転送? 俺に宅配業者にでもなれってのか? どうせなら商売の取引の値に有利になる力とか、値段が安くなる力とかの方が良かったのに、どうしたもんかな。
《アキートは皆の祝福と宣誓により物質転送のロックを解放した!》
《アキートは新たな力、物質転送を習得した!》
《だがアキートはその価値に気が付いてなかった↓》
つづく
2/14 加筆&修正致しました。