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110話 場合により蹴りが入る

ご覧頂ありがとうございます。

 突然の瀬里沢の告白、もとい宣言の内容に驚き思わず恭也さんと同じく声がでたけど、未だ咳き込み口元を押さえて「ゲホゴホ」と噎せている兼成さんと、噴出したお茶を正面から浴びても怯まず(ただのお茶だけど)“いくらでも来い!”とでも言うように微動だにしない瀬里沢を見て“本気かコイツ?”と頭痛を覚える。


 よくもまあ尋常ならざるモノに昨日襲われたばかりで、そんな考えに至ったなと思うが、瀬里沢の言動と表情から察するに、単純にあの『黒い炎』を見て格好良いとでも思ったに違いない。

 問題は仮に弟子にして貰ったとして、本当にアレを使える様になるのか? と言うか使えたとして、物の怪以外には嫌がらせ程度にしか使い道無いだろうに。

 他の面々の反応を見ると、静雄達も大凡の思惑には気が付いたらしく溜息を吐いて肩を竦めているし、箱根崎は口が塞がったままだが得意満面な顔で偉そうに腕を組みながら、チラっと俺を見てきて目が合った。


 いや、そんな勝ち誇られても別に全然羨ましくないからコッチ見るな。

 目を逸らしたら負けとかも思わないので、唯一家族で残っている珠麗さんがどんな反応をしているかと顔を向ければ、特に気にした風も無く沈黙。

 案外瀬里沢の事を一番分かっているかもしれないので、この態度も当然なのかもしれない。


 須美さんが濡れた瀬里沢にタオルを手渡し、手早くテーブルの上を拭く。

 やっと落ち着いたのか、兼成さんはティッシュで鼻をひとかみして頭を上げ、やや困った顔で俺を見てくると同時に、他の皆も俺に視線を向けて来る。

 ……だから何であんた等は一々俺を見るんだ?


「ん゛ん、済まない。兎に角、瀬里沢君の熱意と気概は分かったんだけど、正直に言いうなら僕は君からは全く素質を感じない。試合の時も『清めの水』を使ったからこそ箱根崎君の力が“視えた”違うかな?」


「そうです! 石田君に啖呵を切った箱根崎さんのポーズこそ普通でしたが、あの黒い炎……一目見て背筋に電流が走りました! あれこそ僕の目指す先。修得したらあの色を纏った僕を写真集に!」


 瀬里沢の発言を聞いた皆は「あ~」とか口々に言って、箱根崎は途中まで聞いて踏ん反り返っていたが、最後は盛大に後ろに転げていた。

 なるほど、瀬里沢はあの技を習得したい理由は自分のモデル業に生かした画像を撮りたいって事か? けど黒い炎くらいCG処理でいくらでも出来そうだし、特殊効果撮影との違いとか差がある様な感じがしない。

 それに、よく考えるとそもそもあの炎って写真に写るのか?

 俺の懸念を感じた訳でも無いだろうけど、瀬里沢は見覚えのあるデジカメを手に持ち操作する。


「これは石田君と箱根崎さんの試合風景を、黒川君が撮影した物です。……見て下さい! この滑らかで怪しげな黒い炎と、それに焼かれる伊周さんを! とても良い映りです!」


《小僧! 貴様どうやって儂の醜態なんぞを描きその小さな箱に収めたのだ!? 他の者に見せるとあらば、例え黄泉に落とされようとも斬るっ!》


「わっ! いやこれはってそう言う事じゃなくて突然出てこないでよ! 驚くじゃないか。これはある瞬間を切り取り芸術に仕上げる物だよ」


 突然湧いて出てきたように現れた伊周の剣幕に驚き、瀬里沢が慌てて飛び退くが血気迫る気配に押され、デジカメを守る様に後退る。

 俺もさっきまで伊周の事を忘れていたので、『窓』を開いた。


「……あ、伊周、お前そんな所に居たのか。封印解いて貰ってたんなら早く言えば良かったのに、とりあえず今はややこしいからお前はこっちに入ってろ」


《まて、まだ儂の話は「はいはい、後でな~」


 俺は有無を言わせず伊周をさっさと仕舞うが、どうやら刀のまま食堂に持ち込まれていたらしい。

 トレード窓の中のアイコンでは刀なのに、外に出ているときは人型ってどう言う原理なのか謎だ。

 ついでに瀬里沢の言うデジカメで撮った試合映りを見ると、言うだけの事はあって変に浮いた感じも無く黒い炎が艶めかしく映えていて、ある種美しいとも言えるかもしれないが、派手に燃えているのが伊周なので芸術性はあまりないと思うのは俺だけだろうか。


「へ~凄いね。これだけ綺麗に映るんならCG処理された映像なんかより自然な映りだし、瀬里沢さんが活用したいって思うのも頷けるかも……だけど、受けが良いかは微妙だわ。映っている内容が普通じゃないし、あの時タイミングよく舞ちゃんも上手く撮れたわね~真に好きこそ物の上手なれって奴ね」


「良く撮れてるだろ? 内容に関してはそうなんだけどさ、上手く修得できたら技はイメージだって試合の時兼成さんが話ていたから、それなら色の変化も自由に出来ないかなって思ってね」


「背景を自由に彩る事が出来るのなら、モデルよりカメラマンの方が向いてる」


「うむ、自分でシャッターを押すのならモデルでも出来そうだな」


「それなら事前に打ち合わせと企画を練っていれば問題……」





 ――何やら学生組で話が盛り上がり始めて、途中から兼成さんと恭也さんは置いてけぼり状態になっていたので、それには混ざらず俺は力の抑え方を聞いてみた。


「うんうん、話からすると最初に習うべき事なのに何故君の師匠が教えて無いのか疑問だけど、石田君は少々アンバランスな育て方をされているようだね。その辺に不満とかを感じた事は無いかな? 実際こうして友人も一緒に危険な目に遭って見てどうだい?」


「どうだいって聞かれても……俺も師匠の弟子になって五日だし、実際に術を習い始めてまだ三日目だから、答えようがないな。強いて言うなら師匠は色々頼りになるけど、襲われるなら返り討ちにしろって言われた事は悩み処かな?」


「はあっ!? ちょっと聞き捨てならない事があるんだが、石田君、正直に言って欲しいんだけど、今の話は本当かい? その……術を習ってたったの、三日?」


「え? 三日と言うか正確に言うならやり方だけ聞いて、後は瀬里沢を助けに行こうとして、二時間くらいしか練習出来なかったから、後はぶっつけ本番で試したんで、実質は三日って言うのも怪しいかな~……なんちゃって」


「「……えっ?」」


 ヤバイ。話している途中から最初楽しそうに聞いていた兼成さんと恭也さんの表情がどんどん消えて行って、三日の内容を説明していたら目だけで殺されそうなくらいの視線が飛んでくる。

 思わず最後の方を濁してお茶らけた風に答えたんだけど、今から言いなおして修正効くとイイナ。


「あはは、やだな~冗談冗談。弟子入りは五年前で術を習ったのは三年前だし、つい最近になって二つの術の同時発動を出来るようになって、隠し技にしていたんだけど、やっぱり常日頃から鍛えてる人は違うわ。正直箱根崎さんには驚いたし、試合じゃまだまだ未熟だって改めて痛感したね」


「「……」」


「……えっと、そうそこで先程の話になるんだけど、師匠とは直接に会う事は滅多に出来ないんで、中々他の術とかを習う都合がつかないから未だに風を使った術しか出来ないし、力を抑える技を教えて貰えるなら凄く助かる。もし無理ならお金より瀬里沢が持っていた、あの勾玉の様な効果の物とかが欲しいかな~なんて思ったりしまして」


 誤魔化せた? 二人とも無言なのが凄く困る。

 俺としては十分な上手い良い訳を出来たつもりだし、盗撮事件の時だってこうして切り抜けてきた訳だし……。


「石田君、その君の師匠って言う人に“菅原の家の者”から技を習う事は認めて貰ったのかい? 先ずそれを聞こうと思っていたし、出来れば直にその人とも話してみたかったのだけど、今電話で連絡とかは出来そうかな?」


「あっ、教えて貰えるなら別に問題は無いって言ってたし大丈夫かな? だけど師匠と直に話すのは無理だわ。今も何処に居るのかは本当に分からんし、多分聞けても会えないと思う」


 通った! どうやら上手く誤魔化せたか。

 もっとも俺の背中は冷汗でべちょべちょだ。

 言いなおした最初の弟子になった期間とかは嘘っぱちだが、他の事に関しては全く嘘じゃないので心配はない筈。

 直接会う事も無理だし地名を聞いたところで意味が無い。

 そこに行く事もどちらも絶対に出来ないから、今だって冷蔵庫と絵を挟んでやっと会話するのが精々だ。


「ふ~む、“菅原の者”から教わっても問題は無いと……。うん、そう言う事なら僕はあまり麓谷市へは長居出来ないから、その事に関しては恭也に任せようと思う。それとお金や報酬云々は置いといて、石田君の言った“勾玉の効果”に関してまでは、僕達は話した記憶が無い筈だけど、どうやって知ったんだい?」


「えっ?」


 兼成さんから俺に対する追求は、まだ終わらないようだ。


つづく

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