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10話 主従と盗まれた宝

ご覧頂ありがとうございます。

 星ノ宮の横に居た先頭の女が腕時計から視線を外すと、今まで俺と話していた星ノ宮をチラっと見る。

 そうすると星ノ宮は溜息を吐き、先程まで怒りを湛えていた顔が素に戻ると、暫し宙を見つめ何を考えたか頷き返し、たいして大きな声でもないのに「任せる」と言ったのが俺にも聞こえた。


 ついにこの女が動くか。

 おっと、よく見ると横にずれた星ノ宮の奴上にジャージ羽織っているけど、まだ水着着た儘か。

 視線を下にずらすと生足見えてらって、当然か下着無い……ん?

 もしかして星ノ宮は下着を履かず、水着着たままで登校してたのか? 何かそう考えて想像すると微妙にエロイなって、今はそんな事考えてる場合じゃねー。

 ぶるっと一つ頭を振って浮かんだ妄想を追い出し、これからの戦いに集中する。


「一分経った。黒川、お前は隣の男に騙されているのかもしれないぞ。折角同じクラスメイトなのに残念でならん。だがお前が私達よりその男を選ぶなら、お前が行った罪を今ここで話す。こちらに来るのなら今の内だ、これが最後通告だと思え」


「おいおい、その袋の中身。あんた本当に何か分かっているのか? それは俺のもんだぜ? あんたの言う黒川の罪って奴だが、皆の前で話して違った場合後悔するのはお前と、それに横の偉そうな女に後ろのグループの奴らになるぞ。本当に良いんだな?」


 俺の考えだが、どうやら下着が無くなり(当然だが)、盗んだのは現場に居なかった黒川だと犯人としてほぼ断定済み。

 引っかかるのは、今の段階じゃ疑わしいが精々で『かも知れない』程度の筈、他に俺も居なかったわけだし、何でこの女はこんなに自信たっぷりなんだ? 何か見落としがあるのか?

 これが単に男子の下着が無くなった場合なら、笑い話で終わるのに……女性って色々大変だわ。

 

 俺とこの女の話で、よく分からないで周りにいたC組とD組の、残りの連中が騒ぎだす。

 なるべくなら、大事にしたくなかったんだが黒川、それと巻き込まれた関係ない人、申し訳ないと心の中で謝っておく。

 ここで事情を知ってて星ノ宮達に付いてるらしい奴らと、数人のC組の俺の味方? で別れ、それ以外の連中は教室へ戻ったが、星ノ宮達は圧倒的に女子が多く男子は八名くらいしかいなかった。

 まあ、これは俺や星ノ宮達グループの身内が残った感じだ。

 ……あ~あ、予鈴鳴っちまった、四限の古文も出席は無理だな。


「いい加減我慢にも限界がある。貴様は星ノ宮様の事を、あんただの、女だの無礼千万。それに私も貴様にその様な呼び方をされる筋合いは無い。私の名前は『宇隆真琴(うりゅうまこと)』何様でもないわ!」


「別にお前の名前なんて聞いちゃいねーし、わかんねー奴だな。いいか? お前らに分かりやすく、もう一度だけ教えてやるから耳の穴かっぽじってよく聞きけ。この袋の中身は俺の物だ、他の奴にはそれこそ関係ねー筈だ。それを罪とか言って、お前らこそクラスメイトを信じねー残念なゴミクズ様だろ」


 ちょっとばかしイラッとした俺は、後ろに居たグループを含め最後に星ノ宮を狙って睨んで言ってやったんだが、星ノ宮の奴一瞬驚いた顔をしたと思ったら、直ぐに楽しそうに笑い返してきやがった。

 俺の知っていた星ノ宮(と言っても外見くらいだが)の奴と、今の態度を見ると全く違う印象を受ける。

 何か背中がゾクッとして笑顔なのに、得体の知れなさを感じたからだ。


 宇隆さん(真面目な人っぽいのでさん付け)は自分では無く、星ノ宮も含めて『ゴミクズ』呼ばわりした俺に激昂したのか、額にぶっとい血管が浮き出てきているのが見えるし、拳がプルプルしている。

 お前さん、将来怒りすぎと高血圧のダブルリーチでプッツンしないといいな。


「きっさぁまぁ、良いだろう。お前がそこまで言うようにその袋の中身が、私達の考えている物と違ったなら潔く謝罪しよう。だがもしも私達の考える物だった場合、それこそこの場に居る全員の前で土下座し、辱めた個人の為に自主退学をして貰おう。今更嫌等とは言わせないぞ」


 何か向こうで「ちょっとー! バカ石田ー! そんな不利な条件飲むんじゃないわよ!」とか「明人、俺はお前を信じる」とか聞こえるが、実は不利どころかこっちはズルしてるから絶対負けは無い。

 無い筈だが、気になるのは俺と話している宇隆さんより、先ほどから視線を感じる星ノ宮の奴だ。

 アイツ自分の下着の事でこんな騒ぎになっているのに、どこかこの状況を楽しんでないか?


 まあ、気にしたら負けか? 本当に酷いことを言ってるのは俺の方なんだし、若干良心の呵責が……何かもう引っ込みがつかんので、このまま悪役で押し切る。……済まんな宇隆さん。

 そこで急に制服の袖を掴まれたので、横を見ると黒川が暗い表情で首を振る。


「ダメ、あなたが退学になる。今すぐ断って」


 俺は心配ないと伝えるために、黒川にデコピンした後ニカッと笑ってやる。


「ふん、俺は構わねー。だがお前らの言う袋の中身が何なのか聞いてねーし、分からないままだと、何が出て来ようと『私達の考える物』にされちゃ、堪ったもんじゃねぇ。そっちが正しいと主張するなら、先ずはそれを答えてからにしろ。俺は先に言ったんだからな」


「くっ、仕方があるまい。奏様申し訳ありませんがクラスの為、あなた様の私物が盗まれたと言う事を話さなくてはいけませぬ。この宇隆お役目が果たせず申し訳ありません」


 ……あれ? なにこのやり取り? どこのお侍さん? そういうプレイなの? 俺は時代劇にでてくる下っ端の悪役か? ますますこの宇隆さんと、星ノ宮の奴との関係がサッパリ分からん。

 それに星ノ宮、お前当事者側なのに何部外者みたいな顔しやがって、このやり取りを見てるだけで済ますつもりなのか?

 見方を変えれば黙って耐えてる被害者だが、俺には楽しんでるようにしかもう見えないぞ。


「……何か聞く前に答えが分かった。つまり黒川の持っている袋に無くなった筈の、星ノ宮の私物が入っていたらお前らの言う通りで、俺が土下座で自主退学なのは納得した。で? 違ったらお前の謝罪だけ? フザケンナよ? お前ら黒川を疑う全員だろうがよ! そんだけの覚悟もって集まって難癖つけてきたんだろ? 違うならさっさと消えろ」


「勿論皆も分かっている。その中身をもって事の真実と、お前の土下座を見せてもらおうとしようか。女の敵め!」

 

 宇隆さんしか返事来ないけど、この人案外熱血タイプ? 例えるなら気力消費で攻撃力UPする切り札ユニットって奴だね。

 おうおう、みーんな俺を睨みやがって……それにあいつ等誰一人下がりゃしない。

 こりゃ、黒川の奴誰かに現場を見られてたか? それともクラスで何か恨みでも買ったか?

 どっちにしても、黒川には……辛い事になりそうだな。

 だが、俺ももう後には引けなくなったし、こうなれば仕方が無い。


「誰も下がんね~って事は、覚悟完了ってか? おっし静雄全員の顔覚えて置け。誰か一人でも後で逃げだすようなら、俺が許す。そいつ等一人残らず沈めてとっ捕まえろ。俺は自主退学まで賭けてんだからな!」


「任せろ。誰一人逃がさん」


 後ろに居た静雄の低い平坦な声が、その言葉に有言実行と言う名の確信が込められていた。

 うむうむ、こう言う時の静雄はめっちゃ頼りになるな~。

 まあここまで言えば後でジタバタ逃げようとする奴は居ないだろ。

 怖いし……マジで。


「卑怯よ! あんな暴力の塊みたいな奴に応援頼むなんて、こんなのズルいわ!」


 今まで星ノ宮達と後ろに居たグループの中の一人が、突然そう叫ぶ。

 ひょろっとした印象が強い、背が高めのキンキン声の女だ。

 俺は視線で今まで代表(?)で話していた宇隆さんを見るが、この人も少し呆れた様な顔をしている。

 思いっきり話に水を差された感じで、宇隆さんの怒りが抜けてる代わりに、何故か星ノ宮から圧倒的戦闘力の上昇を感知する……。

 ようは星ノ宮の目がスゥーっと細くなり、俺から視線がバカ女に移ったので、そう感じただけなんだがな。


「なあ、宇隆コイツ人の話全っ然聞いて無いみたいだが、どうにかならんのか? バカすぎて相手にする気も起きないんだが?」


「あ、ああ。館川(たてがわ)お前も聞いていた筈だ、この……そう言えば貴様の名前を知らんが、まあ良い。こやつは覚悟を見せて堂々と挑戦を受けたぞ。ならばお前も私達に告げた真実に自信を持て、お前は間違ってない筈だ」


「私は別に……黒川さんが一人で更衣室に入っていって、それを後ろから……」


 モソモソとハッキリ話さず、何とも煮え切らない喋り方で宇隆さんに答えながら、黒川を物凄い顔で睨む館川と言う女子生徒。

 そんな館川の様子に溜息をついた宇隆さんは、俺に向き直すと詳しく話し始める。


「そうだ、この際もう言ってしまうが、館川は黒川が更衣室のロッカーから、星ノ宮様の私物を盗む瞬間を見ていたそうだ。あまり騒ぎになっては不味いと星ノ宮様と私達だけに告げ、穏便に――」


「ちょっと待て、なあその話変じゃねーか? どこが騒ぎになってないんだ? あからさまに騒ぎにしてんじゃねーか。館川っていったな? お前本当に穏便に済ます気なら、当事者を含めて三人で話せば終わる事だろ? 何で態々話広めてんだよ。どう考えても態とだし、悪質じゃねーか」


「……」


「何よ、あんたこそC組で合同授業にも出ていない不良の癖に! これはD組の問題よ! 関係ないC組の部外者が偉そうな事言わないで!」


「お前、館川だっけ? 本当に脳みそ詰まってんのか? 無いなら仕方ないが、ここに残った時点で俺もお前らも既に皆関係者なんだよ。それに問題の黒川の持っている袋の中身は、俺の物だってさっきから言ってるだろ? なのにどこが部外者で関係ないと言えるんだ? 皆に分かるように説明してみろよ。館川が無理なら他の奴でも構わないぜ」


「……」


「ほら、誰も俺を部外者だと言わないぞ」


「煩い! 皆も私の言う事を真実だって認めてるのよ! 星ノ宮さんの下着を盗んだ黒川も、それを庇うあんたもどうせ退学になるんだから、黙って袋の中身を見せればいいのよ!」


 そう叫んだ館川は宇隆さんの前を横切り、俺を睨みつけると黒川の持っていた袋を素早く強引に取り上げ、皆の前で袋を広げ中身をぶちまけた。

 あまりの行動に、宇隆さんも動けなかったようで右手だけ前に出ている。


「あ~あ、それをお前がやっちゃうんだ? お前中身が星ノ宮の下着だって言ったのに、男子が混ざっているこの中でよくぶちまけるな。流石に俺も……と言うか皆ドン引きしてるぞ」


「嘘よ……こんなの在り得ないわ。私は信じない! どうして? 私ちゃんと黒川さんの跡を付けて、更衣室でロッカーから下着を盗んでいる瞬間まで見たのに!」


 袋から零れ落ちた中身は星ノ宮の下着では無く、俺の名前が入ったジャージだった。

 そう、相手から物を“貰う場合”俺の“所有物”であれば距離も価値も関係なく『トレード窓』で交換に応じられるのだ。


 目の前に在るものが信じられないらしく、館川は半狂乱で袋を振り回し、ある筈のない下着を探す。

 その館川のあまりの常軌を脱した行動に、皆が凍り付き動けなかった。


「お前最低だな。人の後ろまで着けてクラスメイトの物が盗られているのに、それを止めなかったんだ? まあ、どっちにしろ夢でも見てたんだろ?」


「きぃぃぃ、煩いぃいいぃぃ。夢じゃないわ。まだよ! まだ証拠がある。そうよアハハまだ私には証拠があるじゃないぃぃぃ!」


 そう奇声を上げながら、袋を放り投げると館川は廊下を走り出す。

 流石の俺も、今の館川には怖気が走り追いかける気には全くならなく、両手で自分を抱きしめる。

 だが、何を思ったのか黒川が同じように走り出すと、宇隆さんと星ノ宮もそれを追い越すかの様に、館川の向かった方へ驚きの速さで追いかける。

 流石水泳部、ランニングもお手の物……じゃなくて。


「えっと? いったい何がどうなってるんだ?」


 俺は残っている面々に話しかけたが、誰もそれに答えられる奴は居らず。

 キツネにほっぺたを抓まれた様な、そんな奇妙な雰囲気を俺達は感じていた。


「大山鳴動して鼠さんが一匹?」


 その中で秋山だけがぼそりと呟く。


「アレは鼠と言うほど、生易しい感じでは無かったな」


 隣に居てその呟きの聞こえた静雄は、秋山にそう答えるのだった。


つ~づく~ぅ


11/4 加筆修正致しました。


2/22 加筆&修正致しました。

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