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108話 彼に乾杯!

ご覧頂ありがとうございます。

※今回食事前や食事中の方、それ以外でも不快な気分になる恐れがあります。

 なので読む場合はご注意下さい……読まない選択もありですよ。

 どれくらい眠っていたのか、目を開けると部屋の中は真っ暗で既に日は落ち空調が切られていたせいか、寝汗でシャツが張り付き少々不快だ。

 周りがよく見えないので耳を澄ますと、人の話し声と言うか何人もがお喋りをしている。例えるなら、教室で居眠りをしていて耳にざわめきが届いた感じだろうか? きっと瀬里沢や秋山何かが、別の部屋で騒いでいるに違いない。


 俺が寝ている間に、あいつらの中でどんな会話がされているのかは予想できないが、まだ体に残る怠さが態々体を起こしてまで皆を探そうとする気を妨げている。


 思ったよりも箱根崎から食らった“暗黒の炎”とやらは、自信満々で使ってきたことと言い、中々に厄介な効果だったようだ。

 単なる見せかけだけのアレな技だと思っていたのに、馬鹿に出来ない付加効果を持つ初見殺し的技に、ある意味実戦じゃ無く試合で済んで助かったと思う。

 こっちも已む無く応戦して当てはしたけど、どっちかと言うと俺は被害者だし、早々実戦なんて在るもんじゃないけど、そう言う意味では箱根崎との試合は有意義だった……とでも思わないとやってられん。


 眠気だけはスッキリしていたので確り眠ったつもり……とは体感でしか無く、あまり時間は経っていないのかもしてないと思い直し、時計を探すがこの暗さと他人の家と言う条件では勝手が違うので、時間が分からない。

 仕方が無く「やれやれ」と呟きながら、布団から身を起こそうと頭を持ち上げた所で、首の付け根から始まり背骨を通り抜けて足の指の先までをズキリと激しく鋭い痛みが走り抜けた。

 それこそ箱根崎から受けた腹の打撲傷など、全く目じゃない程の痛さに眩暈がし、呻き声を上げようとするけどその声も意味をなさないくらいだ。

 この痛みは何だ!? 俺の体は本当に“繋がっている”のか!? あまりの痛みで滲み出て来た涙と脂汗が、全身からじっとりと滲み出すのを覚え更に不快になる。


 まるで体がバラバラになった様な痛みと感覚で、試合中に箱根崎の作り出した闇に囚われ、それを打開する為に伊周(刀)の言っていた事を選択したのを思い出す。

 “この現身を壊せば儂だけは視界を戻せるやもしれぬ、無論対価は頂くがな”確かそう言って、その対価の要求を了承した後で説明されたあの無茶苦茶な後遺症(?)の内容がコレだったようだ。

 今全身に走るこの痛みは確かに尋常じゃない、もうこれ以上動け……あれ?





 ――さっきの痛みで全身に緊張が走り、強張っていたが徐々にその苦しさに対する警戒が解け、止めていた息をゆっくりと深く吐き出す頃にはそれは消えていた。

 たったの数瞬だったけど、凄まじい痛さに伊周の言っていた事は強ち間違いじゃないと考え、今度からもう少し奴の言う対価に対して用心しようと改めて考える。

 そう言えば、伊周はまだ封印されたままだろうか? 流石にもう解かれたかな? もしまだ封印されたままだったら訳を話して解除して欲しいけど、何て説明しよう……ペットじゃないし、上手く奴との関係を表す言葉が思い付かん。

 主人と下僕か? 一応給料(ソウルの器の余力)を払っているし、雇用主と従業員か? 寄生種と寄生主? ……表現って難しいな。


 熱が出てきているのか、少々ぼおっとする頭でポケットの中に入っていたスマホの事を今頃になって思い出し、時間の確認をすると夜の八時を二十分程過ぎた所だった。

 そのまま立ち上がり廊下に出て、月明かりが照らす庭を横目に耳を頼りに騒がしい一角へ足を向けるが、立ち上がってから妙に息苦しく感じ首を傾げる。

 これもさっきの後遺症のせいだろうか?


 気を取り直し声のする方へ進むと、どうやら方向としては一昨日食事に誘われた時に使った食堂の方で間違いなく、部屋の前に立ちドアを開け中に入ると騒がしかった音がしーんと静まり、テーブル一杯に広げられていた寿司やら須美さんが調理している肉、他にほどよく焼けた生地にチーズと豊富な具材満載のピザなどを口に運ぶ途中で静止した皆が、驚いたように此方を振り返る。


「石田さん、もう起きて大丈夫? 皆さん心配していたのよ。と言っても良い時間だから先に皆さん食事を始めて貰っていましたの。ごめんなさいね」


「ささ、石田様もお座りください。お寿司もお肉もありますから遠慮なくお楽しみくださいね」


 そう教えてくれたのは屋敷の主である珠麗さんと、テーブルの上に広げられていた食材の調理のお手伝いをしている須美さんで、部屋の中の熱気と様々な食べ物の匂いに腹を刺激されはしたが、同時に箱根崎から受けた打撲傷の痛みのせいか食欲は無く、寧ろ逆に胃液か何かがこみ上がって来て、今は物を食べられる状態じゃ無い事を自覚して残念に思う。


「ふむ、明人もやっと起きて来たな。食うか? 美味いぞ」


「おはよう石田君。テーブルの上に並べられている物はどれも好きに食べてOKさ。菅原さんがとんだ事に巻き込んだお詫びと、こうして皆が無事に事件を終結した事を祝って御馳走してくれたんだ! 沢山あるからどんどん食べてよ!」


 そう静雄と瀬里沢は俺に対して言うと、口へ運ぶ途中だった寿司を旺盛に咀嚼し、次々と残りに手をだし胃の中へ納めていた。

 ……ああっ! 瀬里沢、お前が今一口で食べたのは俺の好物の穴子! それに静雄、お前は二個いっぺんにだと!? 更にぷりぷりっとした烏賊や海老もどんどん消えて行くー!! 心の中では食べたい気持ちで一杯だけど、体はそれを受け付けず食欲の湧かないジレンマで、山葵が鼻に効いた訳でも無いのに頬を伝って涙が一滴落ちる。


「石田、泣くほど嬉しいとはお前も案外食い意地の張った奴なのだな。ほら早く座るが良い、安永が大食いなのは聞いているからまだまだ用意してあるぞ」


「ふふ、そうね。宇隆と黒川さんの間の席が開いているから座ると良いわ。二回くらい貴方が寝ている部屋へ様子を見に行ったけど、起きる様子が無かったから先に頂いていたのよ。……少し顔色が悪いけど食べられそう?」


 星ノ宮はもう食事が済んだのか箸を置き、俺に座る様に促すと氷の浮かぶグラスに入ったお茶らしき物を口に含む。

 それに頷きながら宇隆さんはひたひたの割り下で煮込まれたお肉を須美さんが器へとよそい、それに溶き卵を絡めるとご飯も一緒に頬張って、実に幸せそうな顔をしている。


 お二人はすき焼きですか、須美さんに丁度良い感じに焼き上げて貰ってそれを食べているが、煮込み(関東風)と砂糖と醤油の甘辛い焼き(関西風)の二種類のすき焼きの匂いで俺は胃と言うか胸がムカムカしてきていた。


「石田、ほら早く座んなさい。あんたって何が好きだっけ? あっ、そこのピザ私も食べたけど美味しいわよ~! 石窯で焼いた本格ピザだって評判よ。丁度近くだし舞ちゃん取ってあげたら?」


「そう、とても美味しい。……大丈夫?」


 秋山は長テーブルの横側端に居て、静雄と瀬里沢が一緒になって寿司を取り合っているのを横目に空いている席を示し、横の黒川が秋山の言うようにピザを上目使いで勧めて来るが、大丈夫とは俺の事を聞いているのか?

 確かにどれもこれも美味そうなのは間違いないが、今はその匂いだけで何かが解き放てそうで全然大丈夫とは言えないと言うか、その返事には答えられず何とか笑顔をキープしつつ、今口を開くとその封印が解けそうで必死になって歯を食いしばっていた。


「石田君、本当君には悪い事をしたよ……済まないね。まあ先ずは二人の健闘と先の事件解決を祝っての食事会を開く事になったんだ。それじゃあ石田君が席に着いたら改めて皆で乾杯と行こうじゃないか。皆飲み物とグラスは届いているかな?」


「父様が突拍子もない要求を出して、君には無理に試合をさせてしまって止めもせずにこんな事に……本当にごめんなさいね。ほら父様も誤魔化さずに、それと箱根崎君、黙ってないでキミも何か言ったらどう?」


「どうして俺が……チッ、えと悪かったっすね。態とじゃないっすけどお前の事が気に入らなくて、ちょっと頭に来たもんすから痛めつけてやろうなんて、これっぽっちも~痛っ! ちょっ痛いっすから、恭也さん脛は蹴っちゃダメっすてば! ……あと、その隣の子を何とかして欲しいっす。俯き加減で睨んできて、そこらの悪霊なんかよりも数段怖いっすよ!」


 指定された俺の席の向かいには兼成さんが居て、その左隣に順に恭也さんと箱根崎が座り菅原親子は謝っているが、箱根崎は不貞腐れた顔で俺にそう告げ、どう解釈しても喧嘩売っているようにしか聞こえないだろ? つか箱根崎に言われてチラッと横に座る黒川に視線を戻すと、怒りの波動を背中から放っていたので自業自得だと言ってやりたい所だけど、口を開けないので無視だ無視。


 ……と言うか、この状態で席に着いて更に飲み物を飲めだと? 拷問か!? 飲み物を口に含まなくても、我慢しているコレが座った勢いで兼成さん、あんたに向かってスプラッシュだって!! いかん、我慢しすぎて全身から汁が出てきそうだ。


 口の中に酸っぱい唾液が湧いてきて、そろそろ限界が近づいてきている。

 そんな俺の様子に気が付かず、乾杯の音頭を取ろうとしていた兼成さんが立ち上がり、何時までも立ったままで一向に席に着こうとしない俺に何を思ったのか、グラスを持ってぐるっとテーブルを回ると、俺の横に来て肩を抱きどんどん話を進めてしまう。もう誰でもいいから気付いて助けてくれー!!


「え~それでは皆さんグラスは大丈夫かな? ほら、石田君もこれを持って……こうして何とか皆大した怪我も無く、無事一つの怪異が収まり見事事件解決となりました。これからも若い皆と我等大人たちが協力し合い、より良き関係を築いて行ける事を深く願います。この新しい出会いと素晴らしい仲間たちを祝して、乾杯!」


「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」


 脂汗を流しならら、受け取ったコップを掲げるだけにして何名かを除き楽しそうに乾杯を叫び皆がコップを置いたと同時に、俺は出来うる限りの最速で部屋から飛び出すとダッシュで離れトイレへ急いだ。


つづく


あまりに激しい痛みと、それに加え発熱&腹に打撲傷の効果で

倍率ドンだった明人でした。


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