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105話 違和感

ご覧頂ありがとうございます。

 結局試合は両者共に動けなくなってグダグダで終わり、力の抜けた俺は地面に大の字になると、慌てて箱根崎を救出にでた菅原親子に一応溺死する前に池からは引き上げられそうだが、なぜか一緒に瀬里沢が率先して手伝いだしたのを見て不思議に思いながら首を傾げる。

 痩せてはいるが、濡れた成人男性一人を池から引き上げるのは人数が必要だから、他の皆も手伝い引き上げるかと思えば、残りの静雄に秋山、黒川に星ノ宮と宇隆さんは、俺の無事を確認しに走り寄って口々に無事を確認しに来た。


「すまん明人、単純に力を示し合うものだと思っていたが、あのような常識外の争いの応酬になるとは……動けそうか?」


「……悪ぃ、ちょっと今、無理」


 流石に喋るのが辛い。

 もう少し休めば違うかもしれないが、俺は静雄みたいにタフな体のつくりをしていないので、最後に食らったあの腹パンがまだ効いていて動けん。

 口を開くのも厳しいが、心配そうに見つめる他の面々に苦笑を浮かべ「お前ら、らしく、ねえぞ」と言ってやり覗き込んで来るのを、手を振って散らせる。

 どうやら向こうでは、箱根崎の引き上げも完了したようだ。


 ほぼずぶ濡れで地面に寝かされ、額意外には目立つ怪我がないと分かったようで、「無事」「ただの気絶」などの単語が耳に届き安堵の溜息が聞こえたのだけど、それまで心配そうに俺の傍らにしゃがんでペタペタ触ってきていた黒川が、表情を消し突然立ち上がると同時に向こうへ走り出した。

 慌てて一緒に横に居た秋山も追って行ったが、まだ意識の戻って無い箱根崎に近寄ると、黒川が行き成り蹴りを入れ出したので、近くに居て呼吸の確認や簡単な手当てをしていたらしい兼成さんと恭也さん、それと瀬里沢が行き成りの狂乱振りにギョッとして固まる中、秋山に必死になって抱き付かれ止められていた。

 ……黒川、お前いったいどうしたんだ?


 黒川の暴れっぷりに冷汗を流す俺と静雄だったが、それを宇隆さんと一緒に見ていた星ノ宮がクスリと笑うのを見て、こいつ何があの黒川を変貌させたか原因を知っているなと確信したけど、あえて追求するのは止める。

 理由は俺の第六感……妙に鼻がむず痒く感じ、今は関わるなと告げている気がしたからだ。





 ――黒川の騒ぎが一端収まり、俺は内出血で色の変わった酷い痣の残る打撲傷をこさえ、伊周は未だあの符に封じられたままで見事にしてやられたもんだ。

 ズタボロで立ち上がる事も出来なかったので、静雄に屈辱的な格好で(お姫様抱っこだ)抱えられ屋敷内に敷かれた布団へ寝かされた後、他に異常がないか須美さんから手当てを受けていた。


「少しそのまま寝ていて下さいね。一応どこの骨とかにも異常は無さそうですけど、吐き気とかはあります? もしあるなら内臓のどこかに損傷している可能性もあるので、様子を見て直ぐに病院へ送りますからね」


「……スンマセン。少し、疲れた」


 気力が切れたと言うか、どうもあの箱根崎の使う『黒い炎』は伊周の言うには、奴の感情を増幅させたイメージからくる技とかぬかしていたが、怠さを感じる原因として、どうも俺の体力を動いた分よりも余計に消耗させる効果も合わせて持っていたみたいで、途中で「左手が萎えて動かせなくなる」と言われたように、本当に左手の感覚がおかしい。

 全然左手に力が入らず、冷たく痺れるような妙な感じで指先に進むにつれ麻痺でもしている様な有様であり、似た様な感覚で言うならば献血のし過ぎで血が足りない時に感じる貧血そっくりにも思える。

 正直あのまま奴が調子に乗って大技を繰り出してこなければ、俺の考えていた通り、一方的な拳での殴打で俺が負けだった筈。

 勝敗なんて気にして無かったが、こうして意識が途切れそうになる中で最後に思い付いたのは、そんな感想だった。





 池から引き摺り上げた箱根崎君は気を失ったままだが、体の方は無事のようで恭也の言うには、最後に繰り出した業をどうやったのかは分からないが自身に返され、そのせいで業を使った後に残った活力まで失ったせいで、言わば物凄い疲労で気絶したのと似た様な状態らしい。

 命に別状はないが、そんな業を仮に命が掛かった場で使おうものなら諸刃の剣として、許すことは無かっただろう。

 そう言う意味では彼は随分とハッチャけたと言うか、やり過ぎた訳だが……一応審判として試合までやらせ、このまま“ごめん”では済まないだろうし、見物していた皆も納得はしないだろうな。


 出来るなら、試合続行不能と見て両者引き分けが無難なんだけどなぁ。

 一番の問題は、途中で試合を止めようと思えば停止できたのに、動きは素人でも二人の並外れた稀有な力を見せられ、その時機を逃した事だ。

 箱根崎君が納得しても、しなくても石田君の力は是非にも味方にしたいが、さてどうしたものやら……。


「父様、少し様子を窺ってきました。あの石田と言う少年ですが、怪我などは特に無いそうですけど疲れの為か、今は眠ったそうです」


「そうか……、二人とも目が覚めるまでは時間がありそうだね。僕としては言っちゃ悪いけど、真逆まるで漫画の様な業をあの場で繰り出すなんて思いもしなかったよ。箱根崎君の修得している業は全てあんな感じなのかい? ……暫く会わない間に恭也は趣味が変わった?」


 僕が冗談めかしてそう聞くと、娘の恭也は気遣わしげで心配そうな顔とは打って変わって、メガネの奥の目尻をヒクヒクと痙攣させながら一言「違います」とやたら目力を込めて答える。

 まあ、今はまだ早いが(いず)れ婿を取るなり、菅原の名を継いでもらう相手が必要になる訳だが、外見は母親に似て器量良しだし相手探しに関してだけは問題ないだろう。

 ただ、相変わらず頭の固い娘だから……父親として少しだけ将来が心配だよ。


 そうだ、今更だが石田君の事を婿養子って言うのはどうだろうか? 流石にただの養子として引き取りたいって事は無理と悟ったけど、若い男女二人が恋愛の末に結婚を望んだのなら、件の師匠と言う人も無理にそれを止める事は出来ないだろう。

 それとも既にその辺は取り込みでも掛けているのだろうか? と言うよりも実はあの秋山と言う子や、舞ちゃんはその候補とか? ……これは少し石田君以外とも話してみる必要があるかもしれないな。


「父様? 急に黙って腕組みなどしたりして、また何か好からぬことを考えてたりはしませんよね? 箱根崎君の使った技は僕が教えた訳では無いですけど、その力の使い方を引き出す手助けと、基礎の修練の仕方は見ています……後は試合中に話した通りですね」


「ん? うん。となるとあのダークブレイズとやらは彼のオリジナルか……。師匠として使う心構えやらを教えているのは良いとして、先程の試合の最後の時に恭也は気が付いて止めたけど、彼は言う事を聞かずに石田君を襲ったのは少々問題じゃないかな?」


「あ、あれは! 確かに僕も咄嗟に言葉に出たけど、当たった所で命に危険性は……」


「絶対に無かったと、恭也には断言できるのかい? あの業は彼のオリジナルだろ? 改善や改悪、言い方はどうあれ彼はあれを好きなように弄れる筈だよ? 結果論で言うのは卑怯だと分かっているけど、手綱を確りと握ってないといつか足を掬われるかもしれないのは分かるね? ただ、見学していたあの子達の中に箱根崎君に対して確執を生む切っ掛けを作ったのは僕の落度だ、申し訳ない事をしたよ」


 そう、舞ちゃんは箱根崎君に対して“恨み”の念がこもった眼差しで、突然狂ったように蹴り出した時は冷汗が出た。

 舞ちゃんの中でいったいどんな思いがあって、あんな風に暴れたのかは考える事はできるかも知れないが、本当の所は分からない。

 あの秋山って子が直ぐに止めなければ、呆気にとられた僕たちが止めるまでに箱根崎君に大怪我をさせていた可能性は否定できないし、初めて会った時から感じる歪なアンバランスさは、危うかった。

 だからこそあの時呼び止めてしまったともいえるだろうし、気になると言えばあの感情の起伏、何が彼女をあんな風にしてしまったのだろうか?

 ただのお節介などでは無く、何か妙に霊感に引っ掛かる……。


「父様、それなら今からでも一緒に説明も含め少し話すべきだと思う。僕も事務所の従業員である箱根崎君の雇主で責任があります」


「そうだね、少しあの子たちに時間を貰って珠麗さんにはこの際少々場借り、席を設けて頂こうとしようか」


 そうと決まれば、どうも試合の時に箱根崎君の使った技に甚く感銘を受けたと言と話しかけて来た、あの瀬里沢君にもひと肌脱いで貰うとしよう。

 彼に素質があるかどうかは微妙な所だが、札を使う事で疑似的な物を作れるかもしれないし、そこは色々とやってみなければ分からない。

 若い子には情熱と言うか憧れってものが、どの時代だろうと変わらずあるようだよ……昔の“たかちん”のようにね。


つづく

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