表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/213

103話 曝け出した本性

ご覧頂ありがとうございます。

 箱根崎さんと伊周の意地の張り合いから一転して、うっかり怒らせてしまった俺が再び狙われる事となった。

 そもそもこんな試合自体始めての経験なのに、行き成り異能を用いて戦えと言われても、俺の出来る事なんてたかが知れている。


 今確実に出来る風の要素を使った唯一の技は、威力の調整がまだ不安定で人に対して使うには加減が出来ないので、はっきり言えば使いたくない。

 少しはイメージに近い物を出せるとは言え、やるなら伊周に撃ちだした技でなく、昨日の昼間に試した様に、指先から伸ばした風を纏めて作った釣竿で叩く技で行くしかない。


 この技は始点から伸ばした先端が、だいたい三メートル前後の範囲で先に行くほど切れ味があるから、この位置で振れば攻撃方法が『切り』ではなく『打撃』になり、相当威力は減ると思う。

 この視えずらい風を纏わせた技で、箱根崎さんの不意を突き集中を散らすか、次に襲ってくる何かを避けられないと今度こそヤバそうだ。


「伊周、こうなりゃ俺が先に仕掛けてみるから、援護頼むわ。だけどお前の本体を出して攻撃とかは止めてくれよ? 出来ればなるべく無傷で無力化したい」


《これは中々に無茶な願いよの。噛みついてくる野良犬に慈悲か? だがしかし、その甘さが何処まで通じるか……見物もよかろう》


 口は悪いが、一応は言う事を聞いてくれるみたいだ。

母さん式の教育方法は、こいつにも有効だったらしい。

 渋々でなく、どこか楽しげな所が気になるが、今は集中で動きの無い箱根崎さんへ先手を打ち込む事に専念しよう。


「行くぜ! 《アフ=カ・アーフ》!」


 狙いを定めず、器の中で風の要素を回転させ指先を指揮棒の様に降り、風で出来たその塊を右から左へと素早く一閃させ、確実に当てた……つもりだった。

 だが、箱根崎さんが深い集中に入っていたと思っていたのに、俺の叫びと同時にニヤリと笑うのが見え、迂闊に此方から仕掛けたミスを悟る。


《主よ、どうやら読まれていたようだな。精々上手く避けるがよい。来るぞ》


「仕掛けて来るのを待っていたっすよ! 喰らえ“闇の(ダークウォール)”!」


 箱根崎さんが視線を合わせて来なかった理由は、集中の為も在ったようだが、どうやら前に静雄から聞いた事のある、全体を見る事で相手の動きに反応する教えに近い。

 焦れた俺が攻撃するのを待ち構え、避けた後の隙を突いた反撃を狙っていた為、俺の攻撃よりも出が遅いのに、綺麗にカウンターを貰う。

 伊周の呆れ声も聞こえたが、あんな視界いっぱいに広がる黒い布の様な洪水、そう簡単に避けられるかよっ!


 俺はあっさり視界を閉ざされ、右手に纏わせた風の要素で辺りを覆う闇を払ったが全く手応えは無く、逆に一寸先も見通せない闇に包まれ本能的な恐怖を感じた。

 そうだ! こんな時こそ伊周……も、やっぱり視えないのか。


「どうっすか俺の“闇の(ダークウォール)”の力は? 威力こそ無いっすが、どこから攻撃が来るか分かるっすか? 分からないっすよね? けど、俺にはお前の位置は丸わかりっす。覚悟するんすね!」


「不味いっ! 伊周、この闇を如何にか出来ないか?」


《試しても良いが、どうなっても知らぬぞ? 儂は力で解決する方が得意でな》


 この闇は気配の認識まで阻害するらしく、皮膚感覚までおかしくなり触れられてもいないのに、体全体を撫ぜられてるようなゾワゾワとした気色悪い感じがする。

 縁側から静雄達の驚く声は聞こえるので、辛うじて方向だけは分かるが、問題なのは箱根崎さんの言葉通りだと、俺の位置を完全に気取られている事だ。

 伊周に頼みはしたが「力で解決」の言葉を聞いて、即座に「止め」と断る。

 この闇の中で刀を振られでもしたら、それこそ俺の方が真っ二つだ。


「もう終わりっすか? いくら力があっても使い方がなっちゃいないっすね。今度は本当に避けないと、痛いじゃ済まないっすよ!」


 悔しいが声のする方角が分かっても、正確な箱根崎さんの位置が掴めないので、下手に動く事も出来ず、取りあえずボクサーの様に両手でガードし、頭を庇いながらこの闇から出るべく後退った。

 今度こそ先手を取って有利に立つつもりが、単純に視界を閉ざされただけであっさり行動の幅を狭められ、簡単に自由を奪われてしまい、これが異能の戦いに慣れた人との違いかと、改めて思う。


「くそっ、下がったくらいじゃ全然視界が戻らねえ。こうなりゃ多少強引だが風で吹き飛ばす! 伊周、危ないかもしれないから少し離れていろ!」


《クカカカ、主よ焦っているのか? もう少し己を顧みた方が良いぞ?》


 言っている意味が良く分からなかったが、返事が少し離れた所から聞こえたので、取りあえずぶっ放す。

 指の先に纏めていた風の要素を器に戻し、再度練り上げ周囲に向けて広がる様に二度目の呪を唱える。


「吹き荒れろ《アフ=カ・マアーフ!》」


 唱えたと同時に風の要素が、周りの空気を掻き雑ぜ轟! と唸る。

 だが一向に闇は揺らぐことなく、辺りを暗く遮っていた。

 鬱陶しい事に闇はかなり広範囲に広がってるらしく、この風で吹き飛ばすくらいでは視界は戻らないようだ。


「危ない! 避けて!」


 ヒュッ カカッ カッ


 体の傍を何かが通り過ぎ、近くの地面に落ちたようだ。

 宣言されてたとは言え、闇の中からの突然の攻撃に一切体は反応できず、音が聞こえてから慌ててしゃがみ込む。

 俺は恐怖でドッドッと心音が煩いくらい音を立て、緊張で喉が張り付き唾を呑み込むが、今対戦中だと言う事を忘れていた自分に、更に冷汗を流す。

 何の攻撃が来たか俺には全然見えないのに、教えてくれた黒川の声はハッキリ聞こえた。


「警告が聞こえて良かったっすね? もう少しで当たる所だったのに……残念っすよ。次もお仲間の声が聞こえて避けられると良いっすね」


 箱根崎さんのその声には、俺に対する嘲りが過分に含まれていた。

 最初の攻撃で無傷で無力化だなんて考えず、威力を極力抑え風の要素を撃ち放っていたらこうは成らなかっただろうか?

 そんな心算は本当に無かったにせよ、俺は心の何処かで箱根崎さんを下に見ていたのかもしれない。

 今こうして窮地に立たされているのに、頭が真っ白で何も良い考えが思い付かず、膝が震えていた。

 体が勝手に怯え思考も混乱する。どうする? 俺はどう行動すれば良い?


《儂も偉そうな事を言ったが、こうも視界が閉ざされては面白くないのう。主よ一度本体を晒しても良いか? この現身を壊せば儂だけは視界を戻せるやもしれぬ、無論対価は頂くがな》


「た、対価って? 魂とかなら無理。だけど、俺から吸うくらいなら構わねえ。やってくれ!」


《主よ、契約は絶対だぞ。なあに多少熱が出て弱った体になる》


「熱が出るのか……命名の石を使った時もそんな感じだったし、仕方ない急いでくれ!」


《更にそこに馬が走り抜けて通り過ぎ、轢かれるくらいの感覚だろう。主ならたぶん死にはせん……筈だ》


「おいーっ! 普通馬に轢かれりゃ大怪我だぞ!? 体重差を考えろよ!」


《クカカカ、何を言っておるのか儂にはとんと聞こえん。では主よ、覚悟は良いな》


 直ぐに伊周の唸り声と、ミチミチと何かが内側から捻り出される様な妙な音が聞こえ出したが、そこに「かかったっす!」と箱根崎さんの声が続き、最後に伊周の苦しそうな叫びが聞こえた。


 その途端徐々に俺の周りに在った闇が薄れ視界が戻ると、本体である刀身を表した伊周が地面に刺さり、更に周りにはダーツで地面に縫い付けられた符が三枚、物の見事に伊周を封じているのが目に入る。

 そこに得意満面で、もう一枚符を持ち俺を見つめる箱根崎さんがいた。


「こうも簡単に事が運ぶとは……そいつの本体を表す隙を狙ってたっす。刀の付喪神なら身動きが取れなくなれば、力技で来ると思って罠を張った甲斐が在ったってもんすよ」


「その符、一体どこから? それより伊周を狙ってたって?」


「そりゃ当然っす。あんな風に暴れた奴が傍にいたんじゃ、俺が勝てる訳無いっすよ。でも、この恭也さん特性緊急束縛符があれば話は違うっす。その符の味はどうっすか? 一応それなりの悪霊(オニ)でも丸一日は動けない筈っすよ。もっとも今は喋られないだろうっすけどね」


 余程罠が上手く行って嬉しかったのか、俺に言い聞かせるように説明までし、口元を抑えてはいるが、その顔や声からも喜の感情が滲み出ていて全然隠せてない。

 つまり箱根崎さんは俺よりも、伊周の方を危険と感じ封じる隙を待ってたって訳か? それじゃあの怒りもブラフ?


「さて、邪魔は封じたっす。俺の作った符じゃこうは行かないっすが、これで安心してお前みたいな生意気なガキをぶちのめせるって訳っすよ。俺を馬鹿にした奴は皆こうやって御仕置タイムって奴っす、悔しいっすか? 驚いたっすか? でも、泣いても止めないっすけどね」


 さっきの伊周の浮かべた笑みよりも余程邪な笑みを浮かべ、右腕にはまた黒い炎を生み出しながら、箱根崎さんは俺に向かい嗤うのだった。


つづく


1/22 修正致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ