表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/213

101話 暗黒の炎

ご覧頂ありがとうございます。

 何やら向こうは楽しそうに騒いでいるが、チラッと様子を窺うと兼成さんが引率の先生の様に縁側の前に立ち、何かしていた。

 横っ腹が痛いし、息も苦しい。

 瀬里沢の奴が変な事を言うもんだから、あの炎を避けそこない掠っちまって脇腹が少し燃えた上に痛むお蔭で、益々イライラが募る。


「こっちは急に体が重怠くなって、必死だってのに向こうはピクニック気分か~!? なあ箱根崎さんよ、もう止めね? 俺もう避けるの疲れた」


「へっ、勝ち目が薄くなったからってもう諦めっすか? そんな投げやりに中途半端に勝たせて貰う俺の気持ちなんて、所詮勝ち組なガキには分からないって奴っすか?」


 いや、もうただ単に面倒臭くなっただけなんだけど、頭が絶賛煮立ってるらしいこの人には、何を言っても通じないようだ。

 イラッとはしたけど別に恨みなんて無いし、そもそもここで争う理由(メリット)が俺にはあまり無い。

 全く兼成さんも娘まで使って煽ってくれちゃって、こっちはえらい迷惑だ。

 どうにも上手く行かない歯痒さに、思わず溜息が出る。


「何でやり返してこないんすか? 俺が相手じゃ本気にも成らないって事っすか? そうやって俺を馬鹿にしているのも今の内っす! こうなったら完膚なきまで叩き潰してやるっすよ!!」


 そう叫んだ後“怒り”と言うよりは何か底知れない暗い目で、俺を睨むでもなく見つめてきた箱根崎さんは、剥き出しだった表情を消すとその右手の黒い炎を手からその腕にまで範囲を広げた。

 拡大した炎はまるで諺の火に油を注ぐを表すかの様な勢いで、その大きさが増幅され一変したのを見て、俺は説得を不味った事を自覚したが既に遅かったようだ。


「この大きさは避けれないっすよ、観念して食らうっす! 暗黒の(ダークブレイズ)!!」


「マジでやべっ!? トレード開始、『伊周』出ろ!」


《主よ急に儂を呼び出して何の……ぐほあぁっ!?》


 俺は避けきれないと瞬時に感知したが、あれを食らうのは怖かったので守護刀……もとい、伊周を契約の元に『窓』から呼び出し、盾の代わりにした。

 咄嗟の事だったが上手く行ったようで、箱根崎さんの腕まで覆う黒い炎から発せられた火炎の噴射は、伊周の背中で何とか防ぎ俺は難を逃れる。

 ……やっぱり、伊周で“防げる”って事は体の重怠さの原因もこの異能な力が原因で間違いねーな。


「ナイス! 伊周、上手く背中で受けてくれたお蔭で、俺は無事だったぞ。流石は約束通り俺の守護刀様だぜ!」


《ええい! 何をほざくかっ! 貴様が儂を呼び出し、勝手に肉の壁としおっただけであろうがっ!?》


「な、なんすか! 使役霊を持ってるだなんて聞いてないっす! それはズルいっす卑怯っす反則っす! スリーアウトっすよ!」


 箱根崎さんにも、伊周の事は視えている様で(当然だが)驚いて距離をとった。

 何か反則とか卑怯とか喚いているけど、そもそもあの炎も十分反則だ! 伊周の奴も頭に来たらしく燃えながら迫って文句を言うけど、これ俺にも飛び火して燃え移ったりしないよな?

 伊周については、緊急回避的要素で出しただけだって言っても、たぶん聞かないだろうなこの人……。





「……むぅ、これが“視える”と言う事か。確かにあの炎は『暗黒の力』と言っても納得しそうだが、動きが鈍ったのはあの炎に触れたせいか。問題は、明人の前に急に現れた奴……間違いないな?」


「安永よ、私は手から炎を出すと言う人間を初めて見て、その技にかなり驚いていたと言うのに、貴様は随分と冷静だな。だが、私の目にもあれは昨日見たそれだと思うぞ、奴は石田が消滅させたのでは無かったのか?」


「伊周さん……そう、無事だったの。けど、燃えちゃって直ぐに昇天しそうね」


「大奥様、これはいったい何が……突然現れた人が黒い炎で燃えているのですけど、あのこの場合は消防車? それとも救急車? どちらを呼びましょうか?」


「おおお!! 凄いよ! まさに暗黒の力ダークフレイムだっ!! 菅原さん、あれって僕も修行したりすれば、使えるんですよね!?」


「暗黒って、真っ暗って意味よね? それなのに何故炎なのか理解できないわ……。それとあそこに視えている燃えている人って、昨日石田君が消滅させた筈じゃ? 菅原の小父様、アレはどうして無事な姿なのかしら?」


「うーん、服は燃えて無いから火傷の心配は無さそうだけど、あいつのお腹少し黒く焦げ……燃えてる? 妙な表現だけど舞ちゃん、石田は大丈夫だよね?」


「“ただの殴り合い”以外の意味は分かったけど、あの炎はやり過ぎ……」


「父様! あのモノ、件の刀の付喪神では? 伺った話では祓ったのではないでしたか? 何故彼に使役されているのか、今すぐご説明を!」


「いや、これは僕も驚いたと言うか騙されたね。まさか彼があの時、最後に祓い彼岸へ送ったと思っていたけど、実は契約して使役までしているだなんて完全に予想外だよ。僕は益々彼を菅原の養子に欲しくなった!」





「伊周、一応聞くけどその体は大丈夫か? 俺は少し掠っただけなのに結構怠いんだわ」


《この感触からして“妬み”か。随分と溜めこんでる様だが、この程度の妬みなど“怨み”からすれば大した物では無い》


「その割には、さっき叫んでなかったか? うぎゃー! ってさ」


 箱根崎さんが警戒したまま近寄って来ないので、伊周に尋ねてみたがこの黒い炎は“妬み”が生み出した物らしく、俺の感じた負の念ってバリバリ正解だったけど、全然嬉しくない。

 さっき炎が大きくなったのも、俺に対しての“妬み”が大きかったから?

 ただ、いたって普通の高校生な筈の、俺の何処にこの人に妬まれる要素が在るんだ? 逆恨みに妬みも入るのかね……。

 なんて考えていたら、あれ程燃えていた伊周が背中の炎が徐々に小さくなった。


《これで消えはしたが、ジリジリとひり付くような感覚は少しばかり不愉快よな。主よ、こやつは我等の敵だ。やってしまっても構わないのだろう? 先程の無礼もこやつの魂で手を打とうではないか》


「あ~まてまて、それをやっちゃうと俺が犯罪者になって捕まるし、何より人死には困る。お前の価値観と、今の時代のそれとは随分と変わってるって事を学んでくれ。んなことしたら、今度こそ問答無用で送っちまうぞ?」


 伊周は美形なだけに、とても分かり易い酷くイヤラシイ笑みを浮かべながら、品定めをするかのように、箱根崎さんを上から下まで舐る様に見た後、ニヤニヤと箱根崎さんに聞かせそう宣たまう。

 そんな伊周に対して、俺は拳骨を一つ作りポカリと頭を叩く。


《何をするか! これも主の為を考えた儂なりの解決法ぞ!》


「そうやって簡単許可をだして、知らん間に誰かのタマ取って来られちゃ困るからな。これは持ち主として正当な命令だ。脅しじゃ無いから忘れるなよ?」


 偉そうに俺の為とぬかして怒るが、お前は魂を俺の許可を得て取り込みたいだけだろうに……。

 言う事を聞かない奴は先ず殴り、即何がダメだったか教え込む! これも母さんの指導方法から、実体験で学んだ俺の教育方法だ。

 と言っても、普段は面倒で赤の他人にはやらんけどね。


「くっ、俺の炎をこうも容易く消すなんて、並の使役霊じゃないっすね! 先ずはそれを封じさせて貰うっす。一応止めてくれた礼は言うけど、漫才しながらのその余裕をこれから後悔させてやるっすよ!」


「ちょっと待て! それの何処が礼なんだよ! ありがたく思うならもっと別の形で表してくれよ!」


《ほう? 貴様が儂を如何にかできると? これは随分と安く見られたものだな。主よ、奴が何をするのか試させてはどうだ? 無論約束通り儂も手は出さぬと誓おうではないか》


 箱根崎さんは礼を言うと話す割には、全力で俺を倒そうとする辺りが、周りの戦闘狂な誰かに似ていて、凄く気持ちが萎える。

 更に言えば嗤笑をその口元に浮かべた伊周が、俺の守護刀と言う割に勝手に正面から箱根崎さんを挑発して、既に二人は一触即発状態。

 これ以上話をややこしくして欲しくないのに、どうしてこう喧嘩っ早い奴が俺の周りには多いんだ? 少し献血でもして血の気を抜いたほうが良いんじゃないだろうか。

 案の定、箱根崎さんは伊周の宣言を聞き、俺からの挑戦と受け取ったらしく、腕の炎を小さくし消し去ると、懐に手を入れ何か符らしき物を取り出した。

 あれって、結界符か? それとも迷宮符? もう少し近寄らないと『窓』の範囲外で調べられんが、警戒するに越したことは無い。


「ほら見ろ、箱根崎さんすっかりやる気に成っちまったぞ? 伊周、お前こそ人間様をあまり舐めるなよ? お前は誰に倒されたか、もう忘れた訳じゃ無いだろ?」


《これは笑止。真逆主は自分の事こそ軽んじているのではないのか? 儂をただの書生如きが倒せるとでも本気で思うておるのなら、井の中の蛙大海を知らずとは真に主の事よな》


 フンっと鼻で笑うと、俺を無視して箱根崎さんの方へ体を向きやり、これから起こるであろう何かに対し、腕を組んだまま歯を剥き出し猛攻な笑みで応えようとしている。

 そんな不遜な態度を前にしても、今度は箱根崎さんも挑発に釣られる事なく、意に返したりせずに視線を伊周に固定して、手に持った符へと力を注いでいるようだった。

 これって、完全に俺を無視した『二人だけ』の対戦だよね?

 俺、もうこの二人を放って置いて縁側に移っちゃダメかな。


つづく


1/19 少々言い回しや、呼び方がおかしい部分を加筆修正致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ