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Love letters  作者: 虹色
<C:> 恋は偶然と誤解と勘違いでできている?
6/33

04  もうちょっと休憩 ≪@≫送信されたメール(2)


20XX/06/16 07:58


Subject: いなかった…。




もう起きてる?

きのうはありがとう。


今朝ね、朝の電車で辻浦くんに謝りながら生徒手帳を返そうと思ったのに、いつもの電車にいなかった。

ほかの車両にいるかもって思いながらちょっとだけ探したんだけど、見当たらなくて…。


避けられてるのかな……。

それとも、ケガがひどくて入院しちゃったとか……。

ねえ、どうしよう?


それに生徒手帳……。

きのう拾ったのに、今日になって駅に届けるのも変な気がするし……。


ああもう!

お兄ちゃんが卒業してなければ簡単だったのに!

でなければ、せめてこっちにいれば!

なんで遠くの大学になんて行っちゃったのよ!

お兄ちゃんが悪いんだ!


瑞穂




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20XX/06/16 08:00


Subject: Re:いなかった…。




高校で2年も留年してたまるか!


ちょっと待ってろ。




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暢志(のぶゆき)がそのメールに気付いたのは、学校の最寄り駅の改札を出るときだった。


久しぶりに見る差出人の名前に警戒心が湧いて来る。

2年上の先輩たちとは一緒に過ごした時間は短く、特に目立たなかった自分は個人的に親しくなることもなかった。

なのに、卒業して一年以上経ったこの時期に、しかも朝一番のメール。

不審に感じるのも当然だ。


通路の端に寄ってメールを開くと。


「え?!」


その内容に思わず大きな声をあげてしまい、通りすぎて行く生徒たちを慌ててこっそりと見回した。

そして、自分に「落ち着け。」と言い聞かせながら、もう一度メールを読んだ。




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20XX/06/16 08:05


Subject:




久しぶり。バレー部OBの熊咲だけど。

急に連絡して驚いたよな。悪いな。


実は、うちの妹が辻浦の生徒手帳を拾ったらしいんだ。で、どうやって渡したらいいか迷ってる。うっかり持って帰って来ちゃったんで、今さら駅に届けるのも変だとか言って、一人でパニクってて。


悪いけど、今日の帰りにでも待ち合わせて受け取ってやってもらえないか? 横崎ででも。




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(生徒手帳……。)


落としたことに気付いていなかった。

慌ててバッグ側面のポケットを探ると、飴の包みが一つ出て来ただけ。


(ということは……。)


サーッと血の気が引く。


落としたとすれば、きのうの朝、転んだときの可能性が一番高い。

つまりそれは、あの少女が拾った可能性が高いということだ。


(そんな……。)


きのうの朝の出来事が鮮やかによみがえる。その瞬間の気持ちまで一緒に。

文庫本の少女の傘につまづいて、みっともない姿で転んでしまった自分 ――― 。


一瞬、目の前が真っ暗になった。


(せっかく早い電車で来たのに……。)


恥ずかしくて、もう二度と彼女と顔を合わせられないと思って、いつもより一本早い電車に乗った。

だって、この年齢になって四つん這いで転んでしまうなんて、信じられないほど格好悪い。

それに、自分が足を引っ掛けたせいで、彼女の傘が曲がってしまったかも知れない。

なのに謝りもせずに、その場から逃げだしてしまった。

そんな自分が情けなくて、落ち込んで、もう会うことはできないと諦めたのに。


(熊咲先輩の妹さん……?)


生徒手帳で素性を知られ、さらに知り合いの身内だったのかと思うと、ますます気持ちが重くなる。

今まで彼女に憧れていたことも、なんだかとんでもなく不敬なことをしていたように感じる。


(……ん? あれ?)


そこで熊咲先輩のことをもう一度思い出しながら気付いた。


(熊咲先輩の家はあっちじゃないはずだ…。)


確か、自分とは逆方向だったはず。

だとしたら、丸宮台で乗って来る彼女が妹さんのはずはない。


(そう…だよな……?)


間違いない。

同じ電車で帰る顔ぶれの中にはいなかった。


ということは、妹さんは通学の途中で……、たぶん乗り換えに横崎駅を利用していて、落ちていた生徒手帳を拾ったのかも知れない。

だから先輩は、待ち合わせに双方がすれ違う横崎駅を指定してきたのだ ――― 。


そう気付いたら、一気に落ち着いた。

先輩からのメールの内容をもう一度確認し、確信を得る。


(うん。俺が転んだことは知らないみたいだし。)


確かに生徒手帳のことしか書いてない。

自分をからかうような言葉も無い。


(そうか。別人か。)


ほっとして気持ちが軽くなった。

部活はもう引退しているので、放課後はあいている。


了解の返事を送ると、すぐに熊咲から時間と場所の指定が届いた。




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20XX/06/16 08:13


Subject:




Thank you! 助かるよ。


じゃあ、横崎の中央通路にあるみどりの窓口の前で4時半に。

うちの妹は辻浦のことはわかるらしい。


ちなみに妹は俺に似てるって言われてるから、見ればすぐにわかると思う。

名前は瑞穂だ。

念のため連絡先を教えておく。


090- …… 

mizu ……


辻浦のも教えておくから。




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(先輩に似てるのか…。)


メールを見た暢志は、思わずクスッと笑ってしまった。


熊咲は部員達から「熊というよりはゴリラだ」と言われていた。

似ているとしたら、女の子にはちょっと気の毒だ。

けれど、生徒手帳を拾って届けようと思ってくれるなんて、親切な心の持ち主であることは間違いない。

自分のことがわかるというのは、先輩と同じ制服とバッグを使っているからだろうと暢志は納得した。


(何かお礼をしないといけないかな。)


先輩の妹さんなのだから、ここはきちんとしておいた方が良いと心を決める。

どんなものを買えば良いのだろうと考えながら、暢志はそれが初対面の女の子と接触するプレッシャーを紛らわせるための思考であることにも気付いていた。




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20XX/06/16 08:15


Subject:




辻浦に連絡してやったぞ。

今日の四時半に横崎駅のみどりの窓口前に行け。


緊急用にお前の連絡先教えといたから。

辻浦の連絡先はこれ。あとは適当にやれ。


090- …… 

 ……




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20XX/06/16 08:21


Subject: Re:




!!!!!!!!!!??????????!!!!!!!!!!


お兄ちゃんなんて嫌い



瑞穂







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