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Love letters  作者: 虹色
<@> どんぐりへ
22/33

第六話 楽しい高校生活


4月27日(水)


どんぐりへ



今日、すっげえ嬉しいことがあった!

俺、やっと久野樹に謝れたんだ!


入学からもう3週間以上たってやっとだよ。

でも、本当にほっとした。



きのう、先輩たちに、俺の歌い方が「小学生が校歌を歌ってるみたいだ」って言われたんだよ。

それがショックで、風呂に入ってる時に発声練習をしてみようかって思ったんだ。


最初はそうっと声を出してたんだよ。

でも、風呂場だとよく響くだろう?

上手くなったような気がして、いつの間にか結構大きな声で歌ってたんだ。


当然、それは外にも丸聞こえでさ。

ちょうど帰って来た兄貴が「ものすごく楽しそうだったぞ!」って爆笑してるし、母親はニヤニヤしてるし、近所にも聞こえてたのかと思ったら、ものすごく恥ずかしかった。


……っていう話を、今日の部活でしたんだ。


そうしたら、聞いてないような顔をしてた久野樹が思いっきり吹き出したんだよ。

そのまま笑いが止まらないんだ。


みんなに笑い過ぎだって言われても、「だって、山根が」って言って、また笑って。

「お腹が痛い」って言いながら、涙を流すほどだよ。

どうも、その話が俺のイメージと違い過ぎたみたいで。


俺もそんな久野樹を見ながら笑っちゃったけど、本当は、久野樹が俺のことを「山根」って言ったことにほっとしてたんだ。


今の学校では、俺は女子から呼ばれるときは「くん」付けが普通だ。

でも、久野樹は小学校のときと同じように「山根」って言ってくれた。

その呼び方で、小学校のころの久野樹と俺が、今の俺たちと一気につながったような気がしたんだ。

話さなかった期間なんて、全然無かったみたいに。


帰りの電車でも、久野樹は俺の顔を見ると笑いをこらえてた。

かなりの笑い上戸なんだろうな。


そんなことで俺は気持ちが軽くなって、駅で降りたところで、あいつが行っちゃう前に呼び止めることができた。

それで、「小学校のとき、名前のこと、からかってごめん!」って謝れた。


久野樹はびっくりしてた。


もうずっと前のことだからっていうこともあったんだけど、久野樹は自分が悪いと思ってたって言うんだよ。

俺に上履きをぶつけたことを、ずっと謝りたかったって。

でも、俺があいつと話すのを嫌がってると思って、話しかけられなかったって。


お互いに謝りたいのに、似たような思い込みで謝れなかったなんて笑っちゃうよな?

でも、ちゃんと謝れて良かったよ。


そんな話をしながら、今日は一緒に駅の外まで歩いた。

別れるときも、普通にあいさつできた。


なんだか、すげーいい気分。

仲間に嫌われてないって分かると嬉しいよな?



山根貴斗




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4月30日(土)



どんぐりへ



ゴールデンウィークだな!


またしても、部活が無いことに驚きながら感動している。


だけど、自由時間がたくさんあるからといって、じゃあ、何をするかっていうと、何も思い付かない。

「マンガを思いっきり読もう!」とか、「一日中、ゲームやるぜ!」っておとといまでは張り切ってたんだけど、きのうの一日で飽きてしまった。


どんぐりは用事はあるのか?

部活?

何部に入ったのかも、訊くのはNG?


俺はとりあえず、夕方のランニングに行く。

この季節は気持ちよく走れるから好きだ。



来週は月曜と金曜は学校があるだろ?

うちの学校は、その二日間で球技大会をやることになっている。

休みの狭間に授業なんてかったるいから、球技大会みたいなイベントだと嬉しい。

もしかしたら、生徒のサボり防止のための日程だったりして?


俺はバレーボールに出る。


きのう、昼休みに少しだけ練習したけど、それくらいで上達したとは思えない。

でも、ボールを使うスポーツはやっぱり好きだ。サッカーじゃなくても。

うちのチームには元バレー部もいるし、器用なヤツもいるから、少しはいいセン行くんじゃないかな。



そう言えば、俺、横谷にほめられたぜ!

バレーじゃないよ。……まあ、それもほめられたけど、そっちはめずらしくないから。


見た目だよ、見た目!


この前の日曜に、髪を少し短めにしたんだ。

入学のときにはかっこつけて少し長めにしてたんだけど、めんどくさくなってたから。


そんな、めんどくさいからって決めた髪型が俺に似合ってるって。

横谷の言葉だと、俺は目が大きくて派手めに見える顔だから、髪型を控えめにしたほうが感じがいいってさ。

イケメンにほめられると、少し自信がつくよ。


でも、横谷はほめるだけでは済まない。

ほめるよりもからかう方が好きらしい。


俺の髪は真っ黒でまっすぐで、少しやわらかい。

短めにして何もしないでおくと、どうしてもてっぺんのあたりが立ってふわふわする。

そのふわふわのところに横谷は手をかざして、「ふわふわだ〜」とかやるんだ。

うっとうしいし、恥ずかしい。


だけど、そういうことをしてくるような友だちがいるって、やっぱり嬉しいよな?


じゃあ、楽しい連休を!



山根貴斗




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(返事、来ないな……。)


5月2日の月曜日に学校に行き、今日は3、4、5日の三連休の最後の夜。明日の金曜日はまた学校で、すぐに土日。ゴールデンウィークももうすぐ終わりだ。


俺がメールを送ったのは30日。もう六日目の夜だ。その前に久野樹と仲直りをしたメールも送ってる。なのに、何の反応も無い。今日はもう何十回もスマホを確認している。


どんぐりからのメールは、いつもすぐに返ってくるわけじゃない。でも、こんなに長く間が空くのは初めてだという気がする。


(旅行にでも行ってるのかな。)


ニュースでも新聞でも、空港や主要駅が旅行者でどれほど混んでいるか取り上げていた。ああいう中にどんぐりもいたのかも知れない。


(だったら仕方ないよな。)


家にいなければパソコンにはさわれないわけだし。


「うーん……。」


思わずうなってしまった。仕方ないと結論付けても、やっぱりどこか納得しきれていない。


(部活が忙しい可能性もあるし。)


高校で熱心な部だと、ゴールデンウィークなんて関係なさそうだ。


(そうだ。)


栗木の雰囲気からすると、鉄道研究部とか映画研究部とか、「好き」を極める部に入っている可能性もある。だとしたら、それはそれで、連休は貴重な活動日になっているかも知れない。


(デートっていう可能性だってあるし……。)


メールでは女子には興味が無さそうなことを書いてきてはいた。それに男子校だ。でも、出会いは案外、いろんなところにあると思う。通学の途中とか、友だちつながりとか……。


(とは言っても。)


デートで連休が全部つぶれてしまうなんてことは無いだろう。絶対とは言えないけれど。


(やっぱり旅行かなあ……。)


ゴールデンウィーク中は仕方がないのかな。







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