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Love letters  作者: 虹色
<@> どんぐりへ
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第五話 気になること

4月20日(水)



どんぐりへ



授業が始まったら忙しくなってきた。

中学のときに比べて、授業のスピードが速いんだ。


英語は予習を多めにしていったつもりでも、すぐに授業が追い付いてしまう。

数学は説明を一度すると、「じゃあ、解いてみて」となる。


さすがにレベルが高い学校だけあって、クラスメイトたちは平気な顔をしている。

俺は少し高望みし過ぎたかと不安になるけれど、「合格したってことはついて行けるはずだ」と、自分に言い聞かせて頑張るしかない。



勉強以外はかなり順調だ。

楽しいと言ってもいいくらいに。


クラスの友だちもできた。

一番よく話すのは後ろの席の横谷正樹。テニス部所属。

さわやか系のイケメンで、話しかけに来る女子の瞳の温度が違う。

本人はそういうことはあまり気にしないらしい。

どちらかっていうと硬派な体育会系だけど、人懐っこいところもあって、誰とでもしゃべるし、よく笑う。


横谷は、最初は俺のことをチャラいヤツだと思ったそうだ。

入学したてのころは、ちょっとかっこつけてワックスで髪をいじったり、俺と知り合いだったサッカー部員がたまたまチャラいヤツだったりしたから。


でも、俺は目立つようなことはしないし、髪も面倒になってすぐにやめてしまった。

それで評価が変わったって言われた。

横谷は外見に気をつかいすぎる男はポイントが低いんだ。


俺が運動神経がそこそこいいのも気に入ってくれた理由の一つらしい。

昼休みはたいてい外に出て、クラスの男10人くらいでサッカーをしている。

どんなことがきっかけで人間関係ができるか、わからないものだよな。




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4月22日(金)



どんぐりへ



今週も無事に終わった。


部活にも馴染んできた。

歌はなかなか上達しないけど。


久野樹は相変わらず口をきいてくれない。


合唱部の1年は7人。

女子5人に男子2人。

全体では仲良くしている。

でも、久野樹と俺は、直接言葉を交わしたことがない。


帰り道が同じだから、部活のあとは先輩たちも一緒に4人で帰っている。

もともとおしゃべりな唐渡先輩と、その相方みたいな女子の棚上先輩、そして久野樹と俺。


電車の中では先輩たちがしゃべり続けていて、久野樹と俺は笑ったり相槌を打ったりしている。

その合い間に俺と目が合うと、久野樹はいつも驚いたような、困ったような、怒ったような、何とも言えない顔をする。

もちろん、先輩たちに見とがめられるほどはっきりとではない。

でも、ずっと、俺の視線を避けている。

そして、同じ駅で一緒に降りると、小さく頭を下げて先に行ってしまう。



俺は普通に話したいと思ってる。

だけど、向こうは俺を避けている。


毎日、小学校のときのことをちゃんと謝った方がいいのかなって思ってる。

これからずっとこのままっていうのは嫌だから。



小学校のとき、久野樹のこと、いじめてたんだよな……。


あいつの名前、「ことり」だろ?

それをさんざんからかったんだ。毎日毎日。

わざわざ本人の前に行って、「やーい、ピヨピヨ小鳥〜」みたいなことを言って。


そうすると、怒った久野樹が追いかけて来るんだよ。


教室とか廊下とか、休み時間にしょっちゅうやってた。

校舎内で追いかけっこだから、先生に見つかると二人一緒に怒られて。

久野樹が理由を言うと、俺が余計に怒られて。


6年生の終わりごろかな、帰りに昇降口でまたからかったんだ。

久野樹は靴を履きかえてる途中だったから、俺は逃げ切れると思って走り出したんだ。

そうしたら、後ろから上履きが飛んできたんだよ。

左右両方だぜ!


一つ目が頭の横を通り過ぎたと思ったら、二つ目が頭に当たったんだ。

すごいコントロールだろ?


それほど痛くはなかったんだけど、びっくりして走ったまま振り向いたから、足がもつれて転んでしまった。

ひざと手首をすりむいて、そっちの方が痛かったよ。


痛かったのと、転んだことが恥ずかしかったことで、俺はかなり反省した。

それで、久野樹をからかうのはやめることにしたんだ。

でも、謝ってはいないんだよな。


中学に入っていろんなことで忙しくて、あいつのことは忘れていたけど、中2で同じクラスになったときに、ふと思ったんだ。

上履きを投げつけたくなるほど嫌だったんだなあ、って。


名前をからかわれるのって嫌だよなあ?

だって、変えようがないんだから。

親がいろいろ考えて付けてくれたに違いないし。



子どものときのこととはいえ、悪いことしたよなあ。

今からでも謝ったら許してくれると思うか?

それとも、謝っても俺のことは嫌いなままかなあ?



山根貴斗




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4月24日(日) From どんぐり



小学校のころのことなんか、もう忘れてるんじゃないか?

それに、上履きを投げるなんて、そっちの方が暴力的でひどくないか?

しかも、頭に当たったんだろ?


話さないのは単に人見知りとか、そんなところだと思うけど。

気にするなよ。




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(まただ……。)


どんぐりの言葉が、いつもよりも少しキツい気がする。とは言っても。


(そうなのかなあ……。)


そう言われると、そんな気がする。


確かに久野樹は、わりとおとなしい性格……に今はなっている。だから当然、人見知りはありそうだ。それに、「暴力的」と言われれば、怪我をした――まあ、自分で転んだんだけど――のは俺の方だ。だけど、上履きを投げられる原因は俺にある。


(俺が気にし過ぎなのかなあ。)


部活の中では誰も、久野樹と俺が仲が良くないとは思っていない。……ということは、俺たちが話をしないことは、他人から見たら<普通>の範囲内なのかも知れない。


(でもなあ……。)


「それでいいや」って思えない。あのなんとも言えない表情をされると、胸の中が落ち着かなくなる。


もしかしたら、中学のときに仲間に無視された経験で、少し敏感になっているのかも知れない。


それに、彼女がほかの部員と和やかに話しているところを見ると、俺も普通に話せたらいいのに、と思う。会話は無理だとしても、せめて普通に俺を見てくれればいいんだけど。


(やっぱり、謝りたいなあ。)


そうだよな。


向こうは忘れてるかも知れないけど、俺の方は気になっているんだから、謝ったって悪くはないはずだ。上手く行けば、それをきっかけに話せるようになるかも知れないし。話せないままでも、困った顔をされなくなるかも知れないし。


(うん。そうだな。)


なるべく早く、チャンスを見付けて謝ろう。







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