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Love letters  作者: 虹色
<@> どんぐりへ
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第二話 祝! 高校入学


4月5日


どんぐりへ



入学おめでとう。お互いに、だけど。


いよいよ高校生だね。

そっちの学校はどんな感じ? 男子校って、やっぱり気楽? それとも厳しいのかな?


俺の方は、なんだか真面目な雰囲気が漂ってた。さすが、伝統ある九重高校って感じ。

入学式で壇上に立った生徒会長が、ものすごく大人に見えた。


制服が新しすぎて、俺はどうにも落ち着かない気分だった。詰襟の学生服は初めてだし。

みんな同じはずなのに、どうして俺だけがそわそわしているのかと思ってしまった。

自分だけが子どものままみたいな気がして、少し焦っている。



女子も真面目そう。まだ初日だからかも知れないけど。

セーラー服は、紺と言っても濃い色で、黒い学生服の中に混じっていても目立たない。

集団になっているときには、白いスカーフがひらひらしていると、「ああ、女子がいるんだな」と思う程度。

甲高い声は、クラス分けの紙を見ているときに一度聞こえただけ。

中学とはえらい違いだ。



俺たちの中学からの入学者は俺を含めて5人。

三好辰己、小瀬郁也、安東勇太、久野樹ことり、そして俺。

8クラスあって、俺は誰とも同じクラスにはならなかった。新しい出発になりそうだよ。



山根貴斗




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4月6日


どんぐりへ



二日連続で連絡するのは初めてだよな?

でも、新しい環境でちょっとテンションが上がってるんだと思って許してくれ。

しばらくは、こんな調子が続くかも。



今朝は普通の時間での初登校だった。

初めての電車通学に緊張したせいか、朝のトイレに時間がかかってしまった。

走って行って駅の改札を通るときに、乗る予定の電車がホームに入ってきた。

階段を下りるあいだに電車は到着してドアが開き、俺はとにかく一番近くの列に並んだ。


ところが、開いたドアの中が満杯だったんだよ!


降りる人のために一番外側の2人が外に出てあげたけど、その人たちが戻ったら、もう隙間なんて見えないんだ。

なのに、列の先頭の人はどうやったのかその外側に乗り込んだし、次の人も電車の中に入って行った。

俺はほかのドアに移動しようかと思ったけど、両隣のドアも同じような状態で、さらに出発のベルも聞こえてきた。


焦っている間に、気付いたら俺の列は短くなっていて、残るは俺と前にいる一人。

二列並びの隣の列は、最後の一人が足元の隙間に靴の先から足を滑り込ませて、ドアの枠の上のところに手をかけて支えながら体を入れた。


そうやればいいのか! ……と理解したけど、前の人がためらっていた。

よく見たら、久野樹(くのぎ)だった。

水色に白いストライプのリュックをかかえて、俺と同じように焦っているのがよく分かった。


一瞬迷ったけど、次の電車も同じだろうと思って、「押すぞ」と声をかけて、返事を聞く前に背中を肩で押しながら、隣の人の真似をしてどうにか乗った。

乗るとすぐに目の前でドアが閉まって、ドアに体を預けられて少しは楽になった。

後ろの久野樹がどうなっているのかは、まったく分からなかった。


次の駅からは反対側のドアが開くのが続いて、新しい乗客が乗り込んでくるたびに、俺はドアに押し付けられることになった。

肋骨が折れてしまうんじゃないかと何度も思った。

そして、俺の背中に押し付けられているのは久野樹だった。


彼女は身動きができない状態で、駅に着くたびに周囲の動きにもみくちゃにされているみたいだった。

ときどき「う」とか「リュックが」なんて聞こえてきたけれど、何もしてあげることはできなかった。


もしかして、女子と密着して喜んでるんじゃないか、とか思ってる?


そんな場合じゃなかったよ。

本当に大変だった。

そりゃあ、まったく気にならないわけじゃなかったけど、どっちかっていうと、久野樹が痴漢にあったりしたら可哀想だと思ってた。

俺は動けないから助けてやれないし。



ありがたいことに、椿ケ丘では俺の側のドアが開いて、大急ぎで降りて深呼吸したよ。

久野樹も隣でため息をついていた。

それから困ったような顔で俺を見て、


「ありがとう。ごめんね。」


と言って、さっさと階段を上って行ってしまった。

気まずいのはお互いさまだ。



満員電車は想像以上に厳しかった。

でも、ちゃんと乗れたことで、間違いなく高校生になれた気がする。


高校生レベル1。

卒業までにどのくらいレベルアップするか楽しみだ。

でも、明日からは、もっとすいている車両に乗るつもりでいる。



山根貴斗




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4月6日 追加



久野樹のことは覚えてる?

あんまり目立たない女子だったけど。


俺は小学校も一緒だったから、ずいぶん長いあいだ一緒にいることになるな。


中学のときはいつも髪を後ろで結んでて、地味な印象だったけど、今日は違ってたよ。

おろした髪の毛がやわらかそうで、ちゃんと女子っぽかった。

おとなしくて真面目な雰囲気に、うちの地味なセーラー服がぴったりな気がした。


派手とか華やかになったわけじゃないけど、中学のときとは明らかに違う。

ああいうのが<高校デビュー>って言うのかな。

身近にいると、驚くものだな。


でも、別人になったわけじゃなくて、やっぱり久野樹なんだよな。

俺、一目でわかったし。


もしかして、どんぐりもデビューしてたりして?



山根貴斗




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4月6日 From どんぐり



高校デビューなんて、僕には縁がなさそうだ。


男子校は気楽だよ。


最初に驚いたことは、生徒がどこでも着替えてることだ。

放課後に、部活に出る先輩たちが、廊下や昇降口や校舎の横なんかで普通に着替えているのを見た。

更衣室も部室もあるけど、そこまで行くことが面倒なんだろう。


久野樹のことは、名前がめずらしかったことしか記憶にない。


満員電車では僕も苦労しそうだ。




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「お。」


どんぐりからの返信が当日中に来て、思わず笑顔になった。

しかも、学校の様子を知らせてくるなんて。

中学時代には考えられなかったことだ。


あいつも新しい環境にテンションが上がっているのかも知れない。

そんな共通点があると思うと嬉しい。


それとも、単に学校に知り合いがいないせいだろうか。


そうだとしても、俺がどんぐりの役に立てているわけだから、やっぱり嬉しい。

それに、この素っ気ないながらも馴染みのある文章に、とてもほっとした。







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