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Love letters  作者: 虹色
<C:> 恋は偶然と誤解と勘違いでできている?
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09  想いは心の中に : 20XX / 06 / 17


その夜、自室の机にコテンとうつ伏せて、瑞穂はぼんやりと朝のできごとを思い出していた。


(あたしが隣に行っても、嫌な顔しなかった……。)


電車を待ちながら、ずっとドキドキしていた。

止まった電車の窓越しに参考書を開いている見慣れた制服が見えて、探す必要がないことにホッとした。

同時に、ここまできたらやるしかないと、覚悟も決まった。

乗りこんだ途端に暢志が自分に気付いてくれたこともラッキーだった。


(しかも、バッグをどかして隣を空けてくれるなんて……。)


そのことを思い出すたびに、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。

ただ単に、瑞穂の立つ場所を空けたというだけのことなのだけど…。


近付いてもいいと示されたみたいで。

自分を受け入れてもらえたみたいで。

でもやっぱり、あれは単なる車内のマナー的なものに違いない。だけど―――。


(なんであんなに優しい顔をするんだろう……。)


起き上がり、肘をついて組んだ両手にあごを乗せ、ため息をつく。そのまま机を見つめていると、いつの間にか想いは暢志へと向かっていた。




* * * * * * * * * * * * * * * * *





ねえ。

あの笑顔には意味があるの?

それとも、あれは誰にでも向けるもの?


…こんなこと訊くの、変だよね。

ちゃんと知り合ったのって、昨日だもんね。

ちょっとした知り合いでしかないのにね。


そうだよ。

ちょっとした知り合い。

なのに……。


どうしてこんなに考えちゃうんだろう。


話したのは少しだけだったのに。

あとは黙って隣に立っていただけだったのに。

今朝の時間のことがなんだか嬉しくて、忘れられなくて。


変かな?

昨日の方が会話が多かったけど…。

昨日は緊張していてあんまり記憶がないし、何て言うか、反省することばかりだったから…。


今日だって緊張していたけど、会話は全部覚えてる。

って言ったって、ほんのちょっとしか話していないけどね。

でも、辻浦くんの表情も声も、全部はっきりと思い出せるよ。


あたしのことは……思い出してくれたりしてないよね、きっと。

思い出してくれなくても、少しは良い印象を持ってくれてたらいいんだけど。

今朝、嫌な顔をしなかったってことは…、笑顔を見せてくれたってことは…、大丈夫なのかな?

普通?

それだけでも十分にほっとする。




今朝、辻浦くんが言ったのは、「おはよう。」と「大丈夫?」と「ああ、あれ。」と「うん。良かった。」だったよね。

「おはよう」はちょっと照れた顔をして。

「大丈夫?」は、自分の失態が恥ずかしくて顔を見ることができなかったけど、気遣ってくれていることがわかったよ。

それから「良かった。」って言ってくれたときは……、くれたときは……。


あのね……。


胸がキューンとして、なんだか泣きそうになっちゃった。


あれからずっと、どうしてあんな顔をあたしに向けたの? って考えてる。

ねえ、どうして?


直接は訊けない。

だって、図々しいもんね。

期待してるって、思うよね?

言ってほしい言葉があるんだな、って。


もしも訊けたとしても、辻浦くんは「あんな顔」の意味が分からないかも知れないね。

きっと普段と変わらないことだったんだよね? そうでしょう?

特別な意味なんてなかったんだよね?


でも、 “特別かも知れない” って……。

いたわってくれているような。

大事にされているような。

だから……。


あ〜〜〜〜! 何てことを!!

図々しいよね? ごめんね!

勝手に勘違いしてるだけだよね!


だけど…、だって…、お兄ちゃんのだってあんな顔見たことないんだもん!

うちは割と仲がいいらしいけど、お兄ちゃんはあんなに優しい顔なんてしなかったよ。

お兄ちゃんの友達も、声の大きな賑やかなひとばっかりで。

学校には男の子いないし。

友達に誘われてよその学校の男の子たちと遊びに行ったことはあるけど、みんな自分のことしゃべってばっかりだし、ちょっとノリが怖かったよ。


だけど、辻浦くんは違うの。

違うような気がするの。


自分じゃなくて、あたしのことを優先してくれてるように感じるの。

会話が少ないことも、あたしが緊張しているから、そっとしておいてくれているように。

そばで見守ってくれてるような安心感があるの。


でも…違うよね。

ただの思い込みだよね。

昨日知り合ったばっかりなのに、そんなことあるわけないよね。

まるで自分が特別みたいに考えるなんて、なんてことだろう。



特別……。



もしかして、辻浦くん、彼女いる?

いるかも知れないよね?

そうだよね?


だって、お兄ちゃんだっていたんだよ、あんな顔してるのに!

一葉の男の子はモテるもんね。

うちの学校でもときどき話題になるよ、勉強もスポーツもできるって。


そうだよね。

きっと、いるよね?

だって、見るからに優しそうだし。

男らしいところもあるし。

女の子のこと、大事にしてくれそうだし。


ああ……。


って言うか、お兄ちゃんに似てるあたしなんて、ダメだよね。

こんなつぶれたような鼻だし、眉毛濃いし、全然可愛くない。

しかも、うじうじしてて明るくないし。


…それだけが理由ってわけじゃないね。

そもそも、辻浦くんを転ばせたっていう前科があるのに。

今日は今日で、自分が転びそうになって寄り掛かっちゃったりして。

こんな失敗ばっかりしてるあたしなんて、あり得ないよね?


あ、いえ、べつに、期待なんてしてないよ!

あたし、何考えてるんだろ。

彼女がいるに決まってるのに。

なんか、重いよね?


それに、昨日初めて自己紹介したばっかりだしね。

あいさつできるだけでいいんだ。

今朝のことだって、こんなに嬉しいんだもん。


あのね、最後にね、ほら、改札口を出たところで。

辻浦くん、振り返ってくれたでしょう?

あれ、とっても嬉しかったの。


言葉は交わさなかったけど、なんて言うか、本当にお友達になれたみたいな気がして。

あの瞬間まで「一緒にいたんだよね」って確認できたような気がして。

辻浦くんは、どうだったのかな?

同じように思ってくれた?




……ねえ。


明日も会えるかな?

お隣が空いてたら、隣に行ってもいい?

今日みたいに「おはよう」って言ってくれる?

また笑顔を見せてくれる?


それで……、もうちょっとだけ、お話しできたらいいな……。







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