防犯カメラ
また、あの子がいる。
仕事へ向かう人々、家族と共に遊びに出掛ける人々、友達のもとへ向かう人々……多くの人間たちが行き交う駅の改札に、僕はいた。
胸元の開いた薄手のワンピースを身にまとった彼女。太ももまで露になったそのワンピースからは遠慮がちに脚がのぞいている。
つい二週間前に金色に染めた細い髪の毛。それまでは美しい黒髪だったのに、今君にその面影はない。
背伸び、してるね。
彼女が待つ四角い柱の裏には金髪の男。ドクロ柄の派手なTシャツをきたあいつは、君と同じような胸元の開いた薄手のワンピースを着た女と、口づけを交わして抱き合っている。
その女性と手を振り別れると、男は違う方向へと歩いていった。
二度と、戻ってくるな。お前は彼女を傷つける。
目を赤く光らせて睨みつけるけれど、そんなものに効果はなくて、あいつは戻ってきてしまう。
それも、赤いバラの花束なんかをもって。
そのバラは少し萎れていた。たぶん、駅のロッカーに突っ込んでいたのだろう。
こんな花束でも、君は喜んでしまうんだろうね。
この男が君を傷つけるのはわかっているんだ。こいつほど、ひどい男はいない。
この駅で僕はいろんな女の子を傷つくのを見てきた。なぜかあいつは女の子を傷つけるとき、この駅を選ぶ。
駅は待ち合わせの場所だけど、別れの場所でもあるんだ。
君には傷ついてほしくない。君だけには。
柱の後ろから現れた男に、君は笑顔になる。萎れてしまったバラなんかに負けるわけのない美しい笑顔。
そんなきれいな顔、しないでよ。
君から目を離せば、僕は辛くなくなる。
決して僕に向けられることのない微笑み、傷ついた顔。全て見なくてすむから。
それなのに、君はそれを許してくれない。
そんなきれいな顔をしたら、目を離せるわけ、ないだろう?
見たくないけど、見たい。
見たいけど、見たくない。
見たくないのに、見なければならない。
僕は防犯カメラ。ただひっそりと天井からみんなを見守る。
でもね、見てるだけじゃ意味がないんだ。見てるだけじゃ、君を守れない。
僕の存在が君を犯罪から遠ざけることはできても、君はそうやって傷つこうとしている。
傷ついてからじゃ、遅いんだ。
神様、どうか、どうか僕を人間に。
そしたら、あの子を守れるのに。
そしたら、あの子のそばにいられるのに。
あの子が行ってしまう。
彼女はあの男と腕を絡めて、歩いていく。
あぁ、君は僕の目が届かないところに行ってしまった。
どうか、僕が見ない間に涙で頬を濡らすことがありませんように。
また君がここへ来たとき、その笑顔が見られますように……