表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*無機物恋愛シリーズ*

防犯カメラ

作者: 美谷咲夢

 また、あの子がいる。


 仕事へ向かう人々、家族と共に遊びに出掛ける人々、友達のもとへ向かう人々……多くの人間たちが行き交う駅の改札に、僕はいた。


 胸元の開いた薄手のワンピースを身にまとった彼女。太ももまで露になったそのワンピースからは遠慮がちに脚がのぞいている。

 つい二週間前に金色に染めた細い髪の毛。それまでは美しい黒髪だったのに、今君にその面影はない。



 背伸び、してるね。




 彼女が待つ四角い柱の裏には金髪の男。ドクロ柄の派手なTシャツをきたあいつは、君と同じような胸元の開いた薄手のワンピースを着た女と、口づけを交わして抱き合っている。

 その女性と手を振り別れると、男は違う方向へと歩いていった。


 二度と、戻ってくるな。お前は彼女を傷つける。

 目を赤く光らせて睨みつけるけれど、そんなものに効果はなくて、あいつは戻ってきてしまう。

 それも、赤いバラの花束なんかをもって。

 そのバラは少し萎れていた。たぶん、駅のロッカーに突っ込んでいたのだろう。

 こんな花束でも、君は喜んでしまうんだろうね。


 この男が君を傷つけるのはわかっているんだ。こいつほど、ひどい男はいない。

 この駅で僕はいろんな女の子を傷つくのを見てきた。なぜかあいつは女の子を傷つけるとき、この駅を選ぶ。

 駅は待ち合わせの場所だけど、別れの場所でもあるんだ。


 君には傷ついてほしくない。君だけには。


 柱の後ろから現れた男に、君は笑顔になる。萎れてしまったバラなんかに負けるわけのない美しい笑顔。


 そんなきれいな顔、しないでよ。

 君から目を離せば、僕は辛くなくなる。

 決して僕に向けられることのない微笑み、傷ついた顔。全て見なくてすむから。


 それなのに、君はそれを許してくれない。

 そんなきれいな顔をしたら、目を離せるわけ、ないだろう?


 見たくないけど、見たい。

 見たいけど、見たくない。

 見たくないのに、見なければならない。


 僕は防犯カメラ。ただひっそりと天井からみんなを見守る。


 でもね、見てるだけじゃ意味がないんだ。見てるだけじゃ、君を守れない。

 僕の存在が君を犯罪から遠ざけることはできても、君はそうやって傷つこうとしている。


 傷ついてからじゃ、遅いんだ。


 神様、どうか、どうか僕を人間に。

 そしたら、あの子を守れるのに。

 そしたら、あの子のそばにいられるのに。


 あの子が行ってしまう。

 彼女はあの男と腕を絡めて、歩いていく。


 あぁ、君は僕の目が届かないところに行ってしまった。

 どうか、僕が見ない間に涙で頬を濡らすことがありませんように。

 また君がここへ来たとき、その笑顔が見られますように……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 短編小説を読んでいるとは思えない程濃厚な読書体験でした。 動作が想像しやすい。一つ一つの描写が丁寧に書かれている。これらの要素が作品の魅力を短編ながらも際立たせている所以でしょうか。 僕自身…
2014/10/05 20:05 退会済み
管理
[一言] さらさらと読めました! 主人公がモノでなければ見られない世界があって、 「この小説の世界にしかない切なさ」というのでしょうか、 それがとっても綺麗に表現されてると思いました。 抽象的な感想…
[一言] 素敵な短編ですね。 詩のような綴り方が、無機質な防犯カメラの心をとてもリアルに映し出していて、読んでいて胸が苦しくなります。 この時だけは、せめて命を分けてあげたい、そんな気持ちにさせてくれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ