幼馴染み(♂)は吸血鬼で女の子!?
ここは日本の首都、東京。本来なら若者やサラリーマンがたくさん過ごしていた。しかしそれも昔の話。今は十数年前に突如として現れた妖怪『吸血鬼』に占拠されてしまっていた。
政府は吸血鬼対策庁を設置し反撃を試みたが、吸血鬼たちは圧倒的な能力で進軍してゆき、今では日本人口の三割がさらわれたり殺されてしまっていた。
俺の幼馴染みだった親友の『セナ』も4年前にやつらにさらわれて帰ってこなかった。それからと言うもの俺は吸血鬼たちに復讐をするために日々鍛練を重ね力をつけていった。
しかしセナがさらわれたその年を境になぜか吸血鬼たちの襲撃はみるみる減っていき、次の年にはなんと両者の間に不可侵条約さえ結ばれてしまった。
けれど。
(奪われたものはもう帰ってこない……)
そんなこんなで俺は、平和になった世の中を親友を奪われた悲しみと怒りを押さえたまま生きてきた。
しかしそんな一年前。やつらが再び進行してきた。これに激怒した吸血鬼外交庁(条約前の対策庁)は吸血鬼の討伐隊を設立。そして復讐のために力をつけていた俺はわずか15歳ながらにして討伐軍の隊長に任命された。
(これでやつらに……セナを奪われた悲しみを……ッ!!!)
そう復讐を胸に誓い旅に出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「れーくーーん!」
夕暮れ時の小学校の校舎で自分のあだ名を呼ばれた俺は後ろを振り向くと、短く切り揃えられた銀髪の中性的な顔立ちをした年が1つ下の親友と目が合った。
「だぁぁ……その名前で呼ぶなって言ったろー? 『セナ』」
俺はあきれた調子でセナを見つめる。もう五年生だと言うのに声も高く中性感が全く抜けておらず、しかもこれで男の子という方が不思議なくらい可愛い外見をしていた。
「え~……れーくんはいつまでもボクの中ではせーくんなんだもんっ。そういうれーくんはもうせーちゃんって呼んでくれないの……?」
「だっ、誰が呼ぶかよッ!!」
俺が大声を出して顔をそらすとセナは不機嫌そうにほっぺを膨らませて。
「えー……いいじゃん一回くらい……れーくんのケチ……」
「はァ!? じゃあいいよ! 明日お前が恥ずかしがって顔真っ赤になるまで言ってやるかんな!!」
むきになってそう言い返すとセナは数秒経ってから『ふぇ!?』と顔を真っ赤にしながらうつむいてしまった。
「え、えっと……や、約束だよぅ……?」
「ああ、明日な! 約束だっ!」
しかし次の日も、その次の日もセナは学校に来ることはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん……気を失ってた……? それにしても何であんな昔の夢なんか……」
俺は夢の内容を忘れるかのように頭を振り、目の前のことに集中する。
「ついに……ここまで来たのか……」
俺は隊長に任命されてから一年という長い旅を続け、ついにやつらの指導者がいる王の間の重厚な扉の前にいた。
「セナ……お前の恨みを俺が晴らしてやる……!」
腰につけた銀の太刀を力強く握りしめ思い扉をギ、ギギギギと開く。
中は意外と広く、赤い絨毯が敷いてあり、高い天井にはきらびやかなシャンデリアがいくつも吊るされている。そして奥には金と赤の豪華な玉座が置いてあり、その後ろに誰かが立っていた。
「……お前か」
俺は小さく呟き、腰の太刀を静かに抜く。
「ふふっ……やっと来たね……待ってたよ」
声の音程は意外と高く声の主は女性……というより少女のような声だった。その声にどこか懐かしさを覚えたのがそのまま声の主に向かって剣を構える。
が、玉座の後ろから出てきた少女の姿を見て俺は目を見開いて剣を落としてしまった。
「…………セナ……?」
「うん。四年ぶりだねっれーくん!」
そう昔の呼び名を呼んで無邪気に笑う目の前のセナは、短かった銀髪は腰まで届きそうなほど長くなっていて。背中からはコウモリのような小さな翼が生えていた。
「えへへーこの羽どうかな……? 自分じゃ結構気に入ってるんだけど……みんなからは小さいとか言われるけど……れーくんはどう思う?」
「え……あ、ああ……可愛いんじゃないか……?」
あまりのことに頭が追い付かず曖昧な返事を返してしまう。当の本人は『えっへへ~……れーくんがほめてくれたぁ……!』とものすごく喜んでいるみたいだが俺にはそんなの気にしている余裕はない。
セナはもういない。これはセナの振りをしている敵だ。
頭ではそう否定しようとしても記憶が本物だと囁いてくる。
「い、いやっもしお前がセナだとしたら何で不可侵条約を破ってまで攻めてきたんだ! 本物のあいつはこんなことするやつじゃなかった!!」
俺が強気にそう言い放つと、ガーン!! と悲しそうな顔をして地面にしゃがみこんでしまった。
「た、確かにに破ったけど、別に誰かを傷つけたかったとかそういうのじゃないもん……ただれーくん探すのにあると邪魔かなーって思ったもんで無視しただけだし……。それに捜索班には絶対人を傷つけるなって強く言ってあるし……」
「え……俺を探すため……?」
「うん。だってボクにとってれーくんは……『だっ騙されないぞッ!!』!?」
会話を切って頭を抱えながら大声で叫ぶとセナは一瞬ビクッと震えた。
「お前はッ、お前らはッ!! 俺から大切な親友を奪った!! 俺はそれを抱えながらどんなに苦しんできたか!! 四年間ずっと復讐のことだけを考えて生きてきた。その苦しさと虚しさをッお前らにわかるはずが……ッ!?」
その時、セナにぎゅぅぅっと抱きしめられた。すぐに引き剥がそうとするが、その瞬間わかってしまった。確信してしまった。
あぁ、この優しさと暖かさのかたまりは本物のセナだな……と。
「ごめんね……一人にして、寂しい思いにしてごめんね……」
そう謝りながら少し強く抱きしめてくる。こうやって抱きしめられていると、昔から俺がケンカとかで我を忘れているとセナが小さい体でこうして抱きしめてくれたのを思い出した。
「……懐かしいなセナ」
「……! 信じてくれるの……?」
「あぁ……久しぶり、セナ」
「うん……久しぶり、れーくん……!」
俺は笑いながら泣いているセナの華奢な体を思いきり抱きしめる。するとセナのふくよかな胸が当たる……って。
「ちょっと待てェェェええええええ!?」
「ど、どどどどどどうしたのれーくん!? 敵襲!?」
「違ェよ! 胸!! お前それ……ちょ、うぇぇ!?」
「あっ! 説明するの忘れてた!!『最優先事項じゃねぇのかそれ!?』れ、れーくんだって気づかなかったくせにっ!」
「お前が元々可愛かったから気づかなかったんだよ!!」
「ふにゃぁ!?」
可愛いと言われて恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。恥ずかしくなったときの癖は変わってないらしい。背中の羽がパタパタとしているのも追加されてるらしいが。
「で、何でお前マジで女の子なんかになってんの!?」
「えーっと……なんかに吸血鬼になった時に魔力的なものが変な方向に作用されちゃったみたいで……」
『えへへー……!』と照れくさそうに笑うセナにとりあえず男女平等チョップを決めて話を続ける。
「それで何でお前は指導者にいるんだ?」
「な、何でボク今チョップされたの!?『いいから答えろやァ……』うー、わかったよぅ……」
それからとセナは仲間に入って魔力が異常に高かったことがわかったことや、すぐに一番高い地位まで取れちゃったこととか、その地位に就いてすぐに不可侵条約を結んだこととか、色々話してくれた。
それから色々世間話をしていたらいつの間にか夜になってしまっていた。
「あー……もう夜だなぁ……これからどうするか……」
「ね、ねーれーくん……?」
「こ、今度はなに……っ!?」
呼ばれてセナのほうに顔を向けたらおもいっきりキスされた。
「~~~~~~っ!!?」
「はむ……んんっ……れーくぅん……っ」
セナは舌を上手に使って口の中を蹂躙していく。俺は突然の驚愕と気持ちよさが混じって動けなくなっていた。
「ん……っ! はぁ……はぁ……せ、セナ……?」
なんとか我に帰りセナを離すと今度は肩にもたれ掛かってきた。
「ごめんれーくん……ボク、れーくんのこと……好き……」
「……は……?」
「男の頃はれーくんは普通のカッコいい大好きな親友だった。けど……女の子になるとどうしてももっと大好きになっちゃった。れーくんを抱きしめたい。れーくんに抱きしめられたい。れーくんにキスしてみたい。れーくんと一緒に過ごしたい。そんなことを考えてるといても経ってもいられなくなって……」
「自分で立てた条約破ってまで……」
「ごめんね……嫌だよね……今は女の子だけど元々男だったやつでしかも吸血鬼なんかに告白されるなんて……ごめんね……」
と言いながらうつむいてスカートの裾をぎゅぅっと掴んで泣き出してしまった。この四年間、俺も寂しかったがセナも寂しかったのか。
「セナ……」
そう思うとなんだか愛おしくなっていつの間にか抱きしめていた。
「りぇーくん……?」
「ほら、ハンカチなんかは持ってないけどとりあえず服でもいいから涙拭けバカ」
「ひぐ……気持ち悪くない……? 軽蔑したり……ひっく……しないの……?」
「するわけないだろ! もうちょっと俺を信用しろっての。…………それに、俺もお前のこと好きだしな。か、勘違いすんな? 親友として。幼馴染みとしてだからなっ」
そう言いながら軽く頭にチョップする。すると『そう……だね……』と指で涙を拭いながら笑った。その顔がなんだか可愛くて、抱き寄せて頭を撫でると背中の翼が嬉しそうにパタパタと揺れた。
「でも……れーくんだって最初信じてくれなかったじゃんっ」
「いいじゃん、別にもうわかったんだしさ」
「ふっふっふーどうだかねー実はボクは偽物かもよ~?『じゃあ別に本物のセナが三年の時の女装した話しても構わ……』わーー!! わーー!! ごめんなさい調子乗りました!!」
セナの恥ずかしい秘密をばらそうとしたら、別に誰かが聞いてるわけでもないのに物凄いスピードで慌てて俺の口を塞いできた(もちろん手で)。
「ふーんだ。初キス奪ったバツだと思え」
「うぅ……って、え……? ふぁ、ふぁーすときすだったの……?」
「う、うっせぇばか!!『ふ、不束者ですが……』ちょっと待て!! それは色々と飛ばしすぎだっ! ひゃぁ!? へ、変なとこ触るなっ! そこはだめっ……んっ……! やめろってのぉ……ふぁぁぁっ!」
吹っ切れて行動的になったセナに、色んなところを弄られたり撫でられたりしてだんだんと変な気分になってってしまう。
「 んっ……れーくんだいしゅきぃぃ……」
「ふぁぁぁっ! もうらめぇぇぇええええええええ!!!」
こうして俺たちは朝まで過ごしたあと、本部に行き両種族の説得で平和条約を結び直し二人で仲良く暮らした。
~END~