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3.依頼板前にて


 中には、私の予想より多くの人がいた。

 鎧を着た人や、ローブを羽織った魔導師の人。大人の男性が大多数を占めていて、女性はかなり少数しかいない。回復魔法を使うサポート役と思われる人が多く、女剣士は五本の指で数えられる程度。

 更に言うなら、私と年の近い子供など他に一人もいない。袴を着た私の姿はとても目立ち、好奇の目線に晒されるのは当然の事だった。


「ツバキ、気にすんなよ。子供がいる事自体珍しいのは分かるだろ? それに、俺とフランだけでもこんな感じの反応だから」

「ほら、私ってこの耳目立つでしょ? エルフが人間の町に居るって事もあんまりないんだ。皆注目してきちゃうのはしょうがないの」

「あぁ、確かに」


 ギルド内を見回しても、フランの様な長い耳が髪から突き出している人はいない。華奢なエルフの少女は、ギルドの風景から思いっきり浮いている。もしかしたら私以上かも知れない。

 私は背丈があるから年上に見られる事もあるが、フランの見た目は少女そのものだからだ。


「ロルさんは、エルフと異世界人をチームに入れてもいいんですか?」

「何だ、俺が周りの目を気にしてるように見えたか? 仲間を種族で選んだりしないさ」

「……そうですか」


 そんな台詞が返ってくるとは正直思ってなかったが、まぁ良いか。

 周りの人達も長いこと私達を見つめ続けている筈もなく、クエストが張り出された依頼板を見たり、自分のチームで打ち合わせをしたりと自分達の時間へ戻っていった。

 私の黒髪もあまり気にされていない。多少珍しい色とは思われたかもしれないが、それまでだ。


「ツバキ、武器は暫くギルドから借りればいいよ。自分に合うのを選んで、気に入ったら買う。初心者へのサービスは使った方が良いに決まってるよ」

「武器庫を開けてもらうよう言ってくるから、そこら辺見て待っててくれ」

「分かった」


 ロルは、受付カウンターへと向かう。

 後でチーム再編成の手続きもある。今日はどこかで休みたいし、この世界の常識が分からないと後に困らないとは限らない。今まで義務教育で習って来た事が役に立たないのだから。言語が酷く難解だったりしたらどうしよう。

 言語。あれ?


「何故私はこの世界で普通に会話が出来るんですか? 魔法の力か何かですか」

「ううん? 私は別にそんな魔法をかけてないよ。ロルは全然、魔法使えないし」


 私は今でも日本語を喋っているし、フラン達の言葉は日本語に聞こえる。言葉が翻訳される魔法とかがあるのかと思ったが、違うのか。確かにそんな魔法をかけられた覚えもないけれど。

 ではこの世界の言葉も日本語と同じなのか。いや、そんな事がある筈がない。


「でも、私にこの世界の言葉が話せる筈がないですよ」

「うーん……じゃあ、それはあれじゃないかな。私が精霊扱いでツバキを召喚しちゃったからかも」

「はぁ。どういうことです?」


 私が精霊として召喚。嘘だろう、私がそんな高尚な生物な筈がない。私はただ単に、間違いで来てしまった人間だと言っていたのはフランの方だ。

 私は何の変哲もない人間だったし、今も変わりなく人間だ、と思う。確かめようがないので断言できないが、魔力を持っているという感覚も一切ないし。


「呼び出した精霊が人語が分からないと、敵を倒せって言っても言う事聞いてくれないでしょ? だから、精霊と意思疎通が出来るようにする呪文が、精霊召喚の呪文には組み込まれてるんだ。そのせいで、とても難しいんだけど。だからツバキにも、その呪文の効果が出てるんだと思う。ツバキが人間だってことは、私も分かってるけどね」

「へぇ……?」


 フランが、また性格に似合わない知的な事を言っているのだが、あまり理解できたとは言えない。

 その呪文が人間にも効果をもたらすものなのか。そもそも詠唱を間違ったから私が召喚されたのに、その部分の詠唱が良ければいいのか。


「あ、依頼板見ようよ! 簡単な仕事に目星付けておかなきゃ」

「そうですね」


 フランの興味は既に次の対象へと移動してしまっている。依頼板の前に立つ大柄な男達の隙間を縫い、依頼板の前に張り付く様にしてクエストを探す。泣いていたら迷子の様だが、朗らかに笑っている。

 私はそんなに小柄ではないので、依頼板の正面に行く事は難しい。第一ここに立つ三人が、巨人かと思う程大柄な上、鎧を通り越して戦車の装甲を巻き付けた様な防具をつけているのだ。うっかり指を挟まれたら折れてしまう。


「あ、ツバキこれ行こう!」

「はい? どれですか?」


 私はまだ張り出されたクエストを一枚も見れていない。代わりにフランが、一枚のクエストを持って巨人の足元から抜け出てきた。

 渡された紙の文字を読む。


「これがクエストですか。リスの討伐……収穫物を食い荒らすクルミリスを討伐しろ。スモルトの村、6000G。リスを倒すだけにしては、この報酬は高くないですか?」

「ちょっと奮発してる感じだけど、一匹じゃなくて群れになってるだろうから、数は予想できないからね。でも、クルミリスは凶暴な魔物じゃないから、ツバキとロルなら大丈夫だって」


 ね、とフランが笑う。

 何故か私が強いと過信している様な節があるが、どうしてそう思うのだろう。根拠がないと言いたいのだが、ふざけて適当に言っているという感じはしないのだ。

 よく分からない。

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