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10.共闘にて


 殺気立ったリスの目。真っ黒な瞳は、私達を標的として捉えた。

 短い手足を全力で動かし、斜面の勢いも付けて駆け降りてくる巨体。数は、十二程だろうか。その迫力は、一匹を相手にした時の比ではない。


「今度は二人で行くか。俺もいいとこ見せないとな」

「頑張ってねロル、ツバキ! 私は遠くで応援してるからね!」


 そういうフランは、既に小粒ほどにしか見えない距離まで避難している。金色の点だ。遠くから、陽気な応援の言葉が聞こえてくる。

 私は先程しまったばかりの紅炎刀に手をかける。散々文句を言われながら戦うのかと思うと、抜きたくはないが、そんな事を言っている場合ではない。

 ロルも、諸刃の剣を構えた。剣の魔力が放たれ始めると、涼やかな冷気が漂う。紅炎刀とは真逆の性質の剣なのだろう。


「俺の剣には氷魔法が付与されてる。見せてやるよ」

「楽しみです」


 リス達は、徐々に加速し近付いてくる。土煙を巻き上げ、一つの生物の様にその姿が大きく見えた。

 ロルは私の少し前に立ち、剣の魔力を一気に解放した。


氷結剣(フリージングソード)


 紅炎刀の余熱が残っていた空気は、一瞬で凍り付いたかのように冷え込んだ。吹雪の様な冷気が渦巻き、刃に白い霜が降りる。

 青い輝きを放つ剣は、大きな一振りで相手を真っ向から横に薙ぎ払った。青い残像の向こうで、リス達の身体は跳ね飛ばされ、衝撃で当りの木々を押し倒していく。

 クルミリス達の手足は凍り、動きがかなり制限された。回復するのにも時間がかかるだろう。大砲の様なあの体当たりも、威力は半減する。


「俺の氷結剣は、相手の動きを鈍くするのが得意なんだ。後は、さっきよりも簡単だろ?」

「ええ。紅炎刀がいますから」


 最初の一匹よりも、私は大分自信がつき、気丈でいられた。

 怒っていない事を願いつつ、強気な彼女を鞘から引き抜く。銘の通り、闘志を燃やす紅の炎が吹き出す。熱い戦いを求めている様子だ。


『全く、あなた見かけに寄らず、人使いがっていうか、刀使いが荒いのね。でも、私の持ち主になった以上、敗北は許さないわ。私の持ち主になった奴に、戦いに敗れた奴はいない』

「私はあなたが頼りです。さぁ、行きましょうか」


 良かった、紅炎刀は険のある口調なだけで、そこまで機嫌を損ねてはいなかった。一安心である。

 それに、予想以上に気に入られている様だが。まだ紅炎刀は借りているだけだが、持ち主として助けてくれるという事か。嫌われない様に気をつけて戦うとしよう。


 ロルも凍る剣で斬りかかっていった。

 遅れないよう私も地面を強く蹴りだし、起き上がろうとする一匹に斬り込む。分厚い毛皮を細い刀身で深く裂き、幾度も別方向から斬り込む。そして燃え上がる炎は、対象を残さず飲み込んでいく。魔法剣の威力は絶大だ。

 一匹、二匹と同じ様にして始末していく。

 獲物に目深に刀が突き刺さっている時、突如、視界に影が落ちた。後ろからの陽光が塞がれたのだと気付いた時、後ろから興奮した獣の呼吸音が聞こえた。

 起き上った一匹が、私を狙っている。燃える刀を抜いて反撃する事も出来ない。

 だが、それと同時に刺す様な冷気も感じていた。


「火傷と凍傷、痛ぇだろうな」


 背後の陰は横に倒れ込む。氷漬けになったそれは、間近で大きな音を立てて地面に転がる。

 救われた。


『ほら、ボサッとしてない!』

「はい」


 横から突進してくる奴にも、正面から刃を突き立てる。

 有利な状況で、決着がつくのはすぐだった。灰の塊と氷の塊。辺りに散乱するどれも、もうピクリとも動きだす気配はない。

 紅炎刀を、鞘にしまう。


「お疲れ様でした、紅炎刀」

『ふん、これ位で疲れたりなんかしないわ』


 誇らしげな言葉が頼もしい。

 すると、拍手をする音が近づいてきた。嬉しそうな駆け足で。


「頑張ったね二人とも! もうこの周辺にクルミリスはいないよ。仕事は完遂、やったね!」

「フランは遠くで見てただけだろ。お前の報酬の取り分減らすか」

「駄目だよそんなの! 私の出番が無いのが一番なんだよ!」


 柔らかな金髪が揺れる。ロルも楽しそうに笑う。

 辺りの地面は削り取られてえぐれていたり、折れた枝が散乱していたりと随分と荒れてしまったが、仕方がない。焼け焦げも氷もあるが、それを直す事は出来ない。

 ともあれ、これでギルドへ帰り報告すればクエストは完了となる訳だ。


「ツバキ、帰ろう。今日は一泊、スモルトに宿をとってあるから」

「そうですか。では早く山を下りましょう」


 宿がある、と聞いた時にどっと疲れが出てきた。足取りがおぼつかなくなり、肩がとてもだるくなる。刀も落としてしまいそうだ。

 まずい、これから山を下っていかなければならないのに。上ってきた道がとても長い様に見えてきた。坂は上るより下る方が負担がかかると聞くが、本当だろうか。

 だがロルは多少疲れてはいるのだろうが、歩く調子は変わらない。体力の差がこういう所に出るのだろう。

 フランが、心配そうに私を見上げてきた。


「疲れてるよね、このまま歩くの大変でしょ? 体力回復の魔法をかけてあげる。ほら、座って」

「え、フランその魔法は信じて大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ! 得意中の得意なんだから」


 言われたとおりに、近くの小さな石に腰かける。

 フランが私の胸の前で手をかざし、小さな言葉を呟いた。

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