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9.会話中にて


「すげぇよツバキ!」

「うん、物凄いカッコよかった!」


 二人はそう言って駆け寄ってくる。褒め言葉を貰えたのは嬉しいのだが、私にはより大きな声が響いていてそれに応えるどころではない。先程から、頭の中で反響するのだ。

 突然現れたと思ったら、この人結構なお喋りだ。高飛車な言い方をする。


『良いわね、褒めそやされちゃって。でも忘れないで欲しいわ。私のお陰で勝てたのよ』

「え、何であなたのお陰って事になるんです?」

『何言っているのよ。非力なあんたを手伝って、華麗な炎で完膚なきまでに焼き尽くしたのは、他の誰でもないこの私なのよ』


 炎で焼き尽くす。

 そこでやっと気付き、握っている紅炎刀を見る。すると女性の笑い声と共に、ちろりと炎が舞った。私の考え通り、という事の証明だ。


『気付くのが遅いのよ、魔力なし人間。あんただけで戦った訳じゃないわ。私の、紅炎刀の助力あってこその勝利よ』

「紅炎刀……そうですか、確かにあなたがいなかったら私は戦う事すらできませんね」

『そういう事、やっと分かったのね』


 紅炎刀は嬉しそうに笑う。刀が喋っているという事が、あり得ないという事はない。少々不思議には思うが、まあそういう刀なんだろう。

 そういう事に対して突き詰めて考え過ぎても、結局私には理解できないのだから、それでいい。投げやりな考え方だが。


『終わったんならさっさと鞘に戻して欲しいわ。寒いじゃない』

「寒いんですか? 体感温度はあるんですね」

『冗談よ、真に受けないで』

「はぁ……」


 地面に落ちていた鞘を拾い、丁寧さを意識して刀を鞘へ仕舞う。言うべきだという気がしたので、ありがとうございました、とお礼を言いながら。

 すると、紅炎刀のお喋りは止まった。今度は一言も話さない。鞘に戻ると喋らないとか、そういう事なのか。うるさくなったら鞘にしまえばいいという事だな。

 これで、ようやくロルとフランと話す事が出来る。すると、ロルは明らかに訝しんでこちらを見ていた。


「……ツバキ、独り言か? 今、完全に誰かと喋ってたよな」

「紅炎刀です。私にもよく分からないんですけど、お喋りな人だったものですから」

「いや、それ絶対に人じゃねぇだろ」

「刀ですけどね」


 反省。ロルに変な奴と思われたこと間違い無しだ。剣が喋るという事は、この世界でもあまりないらしい。

 確かに傍から見れば、刀を持った女が一人で見えない何かに相槌を打っていたら、私だって多分逃げ出す。霊能力者とか、気が触れた人みたいに勘違いされてしまうだろう。

 これからは、迂闊に人前で堂々と紅炎刀と話してはいけない。それだけはまず、肝に銘じておく。


「紅炎刀が喋るって本当?」


 フランは、私をあり得ない物を見る様な目で見たりはしない。だが、興味津々で紅炎刀を食い入るように見ていた。触らせて欲しい、そんな期待の眼差しで。


「本当です。鞘から抜くと、多分喋ってくれると思いますよ」

「貸して! 紅炎刀の声聞いてみたい!」


 言われたとおりに鞘ごと渡すと、フランは嬉しそうに刀を抜いた。途端、一人だけでの大きな独り言が始まる。フランの頭の中でも、紅炎刀は何かを喋っている。

 だが、こちらに紅炎刀の話し声は聞こえない。


「さっきのツバキもあんなだったぞ」

「私にも、フランが何かおかしい人に見えます」


 一人で、見えない相手に文句を言っているフラン。怒りだしたり、泣きそうに目が潤んだり。

 恐ろしい。話し相手はいると思っていても、見た目は可哀相な少女だ。


「酷いよ、私と話したっていいのに……一緒に戦ってみたい!……分かったよもう!」

「わっ」


 怒った様にフランは刀を手放した。紅炎刀は刃先から地面に突き刺さる。

 あの性格なのに、そんな扱いをしてはいけない、と思う。鞘を拾って回収しようと近付くと、刃にはめらめらと怒りの炎が燃えていた。


「おいフラン、あの刀と何を話してたんだよ」

「酷いんだよ。あんたみたいな小娘に私が使える訳がないって。早くツバキの所に戻せって怒って」

「あぁ……大体の事は何となく想像がついた」


 私が柄を握って拾い上げると、紅炎刀の怒りが手先から伝わってきた。私は、随分とプライドが高い人、いや刀を手にしてしまった様だ。


『何いきなり亜人の小娘に手渡してくれてるのかしら。私はあんなちんちくりんに使われる気はないのよ。ちょっと貸すだけならいいとか思わないで欲しいわね』

「すみません。その続きは後で聞きますから」

『あっ、ちょっと待ちなさ』


 鞘に入れる。刃が見えなくなったところで、紅炎刀の言葉は途切れた。

 まだ怒っているのだろうが、とりあえずはこうしておこう。結局、すぐにその声を聞く事になるのだろうが。


「で、まだ一匹しか倒していないんですけど。群れになる位だから、もっと探さないといけないですか?」

「ん、それなら大丈夫だと思うよ。だってほら」


 フランは斜面の上の方を指差す。

 地鳴りの様な音がし、木々が大量に葉を落とし始める。ミシミシと木が悲鳴を上げる音がする方には、先程見たばかりのクルミ色の毛皮が走りまわる。

 ロルがため息をついた。


「こっちから探しに行く暇が省けたぜ」

「仲間がやられちゃったから、興奮して走り回ってるみたいだね」

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