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心の叫び


 バサバサ、キシャーッ!


 恐ろしい雄叫びとともに、凄まじい風が辺り一面に、襲いかかる。


 生贄の祭壇の上で、ドラゴンを待っていた彼女の身にもその風は襲いかかった。


「………ッ、…」


 あまりの風圧に吹き飛ばされ、祭壇から転げ落ちた彼女の耳に、聞き覚えのある声が届いた。

 

 それはここに居てはおかしい者の声。しかし、再び聞けるとは思っていなかった同族の声。


 キレイに整えられていた髪は解れ、衣服も乱れていたが、気にすることはなく起き上がり、辺りを見回す。


 ……居た。


 複数の影が、ドラゴンの向うにあった。

 そして、ドラゴンに襲われていた。


 凄まじい風はドラゴンが起こしたもので、あの雄叫びもそれのもの。


 そんな恐ろしい相手に、挑みかかり、返り討ちにあい、血塗れになっている。

 同族が、愛しい相手が、そこに居た。


 傷を負い、血塗れになったその姿に、心が痛む。

 それ以上に、心が喜ぶ。


 助けに来てくれたと。


 しかし、自分の為に彼らが、そして彼が傷つくのは見たくなかった。だから叫んだ。


 逃げて、と。










 悲鳴が聞こえた。


 大切な彼女の声だと分かった。


 高く澄んだ声に、気持ちが高揚し、ドラゴンに立ち向かう勇気を得た。


 彼女は美しい声で我々の名を呼んでくれる。


 ……逃げてくれだと?


 助けに来た相手を置いて、我々が逃げるはずもないのに。大切な、大切な愛しい彼女。

 力を振り絞り、仲間と協力し、ドラゴンに立ち向かう。

 ドラゴンがその腕を振り上げるたびに、我々が傷を負うたびに、彼女は声を上げて叫ぶ。


 もういいの。助けに来てくれてありがとう。

 でも、お願いだから……逃げて。







 出来るはずがない。

 あんなに恐怖に震える彼女を置いていくなんて。蒼褪め、冷や汗を流しながら震える彼女を見捨てていくなんて。俺には出来ない。


 傷を負い、血を流しながらも剣を振るう仲間たち。彼らもきっと、同じ気持ちなのだろう。誰一人として、逃げることはない。




 


 ドラゴンは少しずつ弱っているように見える。


 彼女の声に心を震わせた我々が挑むたびに、彼女の涙に憤りを感じた我々が剣を振るうたびに、少しずつ、ドラゴンは弱っている。


 満身創痍の中、彼女の声を聞きながら、剣を振るう。







 愛しい彼女を守るために。

 

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