脳内旅人ユウタと時空猫
秋の文芸展2026、参加作品です。
テーマは『旅』
よろしくお願いします!
僕は田中ユウタ。今年で十四歳だ。なんだ、君も僕の頭の中を覗けるのか。実は僕もクラスメートや親の頭の中を覗けるんだ。
昔は嫌な思いもした。でも、いいことももちろんあるんだ。例えば、無口なシオリちゃんは実は動物が大好きだ。
大型連休には家族と、上野動物園、果ては北海道の旭川動物園まで飛行機でひとっ飛び!
パンダとペンギンが好きなんだって。
白と黒のコントラストが好きなんだね。
……シャチは?
お土産にはいつも、シュガーバターの木とか北菓楼のバウムクーヘンを買うんだってさ。甘いのが好きなんだろうな。
お菓子を食べながら、大好きな動物の写真を観て家族と話すのが、シオリちゃんの旅行ルーティンだ。
肝心の僕はというと、
「ひまだー!」
連休の予定がない。
ずっとゲームをしていた。面白いけど、やっぱり学校で人間観察してるほうが楽しいや。人の脳内を見て、旅ができるから。
「僕もどっかいきたいよー!」
シオリちゃんも、どこかの動物に会いに行っているに違いない。羨ましい。僕もなんか、羨ましがられるような旅がしたい。
「にゃあ」
窓ガラスに何かがぶつかった。黒い影ができている。カラスにしては妙な鳴き声だな。そうだこれは、
「……猫?」
そうとしか言えない形をした黒い塊が、金色の目でこちらを覗き込んでいる。その瞬間、
(わぁ!)
僕の前に浮世絵とかいう版画で描かれる、日本の風景が広がった。
「ねぇ黒猫! これ、君の記憶なの?」
僕の問いに猫は「にゃぁ」とだけ返し、お尻をこちらに向けて歩き出した。脳内旅行とは言え、刀を持っている人もいたから僕はドキドキしながら辺りを見回した。
(……江戸時代、なのかな)
揚げ物なんて、あったのか?
でも、それらしきものを口に含んで、舌鼓を打っている男女がいる。しかもかなりラフな格好(際どい)で。
風が心地良いな。風鈴が鳴ってる。夏なのかも。内輪のようなもので胸元を仰ぐ女性がいた。目が合ったけど少しも恥ずかしそうじゃなかった。
入れ墨のムキムキ足の人達が何か運んでる。めちゃくちゃ速い。車みたいだ。
「にゃぁ」
猫が僕の足元に頭突きをした。止まった先に見えたのは小さくて今にも潰れそうな【付番八助】という店だった。
「つけばん、はちすけ?」
「助八番付じゃよ」
店主のおじいさんが白ひげをさすりながら言った。水戸黄門を庶民にしたみたいな風貌だ。
「……こんにちは」
「お前さん、ここいらで見ねぇ顔だな。その服装もイカス丸だ」
「い、イカスま?」
どうやら言葉は通じてるらしい。そこら辺は猫の記憶。きっと、この店主の飼い猫なんだろう。
「こら、また来たのか! クロスケ! テメェにやるまんまはねぇぞ! けぇれ!」
「にゃあ」
違った。
「あの……番付ってなんですか?」
おじいさんの目がカッと開いた。「知らねぇ〜のか!?」と、まるで僕を異常者扱い。僕はこの頃の日本を知らないのに。やんなるなぁ。
「助八番付ってぇのは、遠い遠い未来のヱイリアンのどれが強ぇかって順位を付けたモンのことだ。え、わかるか! ヱイリアン! ええ!」
「いや……え? エイリアン……なんで江戸の人が宇宙人の事を知って……?」
僕が混乱していると、おじいさんから瞳の輝きが失せた。
「けっ、テメェもつまんねぇ奴だ。ヱイリアン、信じねぇんだな」
「いや、その……」
宇宙人なんて、いるわけない。
(……と、言い切れるかなぁ)
考えたら気になった。僕は猫の記憶からこの世界に旅することができた。もしかしたら、目の前のおじいさんの脳内も覗けるかもしれない。
「じゃあ、今確かめます」
「ほぁ?」
おじいさんの脳内を覗く。
「!?」
エレベーターが開き、気がつけば僕は医務室のような部屋に案内された。
「侵略1、これから、この者を使って思考実験をする……それは、人の脳内を覗くことが出来るようにする人間を増やし、世界の近郊を崩すためだ。協力しろ」
部屋が暗くなり、僕は目を閉じた。
おじいさんが間抜けな顔をして立っている。もしかして、おじいさんも、僕の頭の中を覗けるんだろうか。
「ああ、覗けるわい。江戸は未来に東京ってとこになるんだな。未来を読める奴が増えた亜米利加に負けるたぁ悔しいねぇ。それにあんなやり方……金のごとく石油ってぇのがあればなぁ」
国や戦争のことはよくわからない。けど、目の前のおじいさんが悔しがってくれてることが、少しだけ、なんかちょっと嬉しかった。
「暇だから上がってけ。揚げナスウメェからよ」
「え、いいんですか?」
「断わるなんて野暮なこたぁしねぇよな?」
おじいさんの脳内が、少しだけ穏やかなものになった。その瞬間、僕はこのおじいさんの正体が分かってしまった。
「にゃあん!」
猫が鳴く。
それを合図に、おじいさんの後ろ姿は消えてゆく。
僕は家の窓ガラスの猫を見ていた。
その猫は、黒猫じゃなくて、茶トラだった。
(記憶違い?)
不思議なこともあるもんだな。
僕は2階の畳の部屋に入って先祖の写真が入った額縁を見る。何個か並んだ先祖の写真に、脳内旅行で出会ったおじいさんとそっくりなお爺さんが写っていた。
「……絶対、先祖じゃん」
あれ。
てことは、今の時代じゃ、僕以外にも、ヒトの記憶を辿って脳内旅行ができる人が大勢居るんじゃあ……もしかして君も──!?
おしまい?
最後までお読みくださりありがとうございます!
ฅ^•ﻌ•^ฅねこだー!




