『子どものしたこと』と火災未遂を揉み消そうとした元夫一家の末路 〜怪物(モンスター)に育った息子と、すべてを失った愚かな親たち〜
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本作は、前作『魔女と呼ばれた妻の帰還』の後日談となっております。
エリスに領地を追い出された元夫一家の「その後」を描いた短編です。
前作をお読みいただいていない方でも、このお話単体でお楽しみいただけます!
8年間領地を守り抜いたエリスを「魔女」と嘲笑し一度は追い出したが、
屋敷と土地を買い戻され、身一つで追放された元子爵ライナルトとカトリーナ、そして息子のレオ。
領地を叩き出されたライナルトたちが最初にすがろうとしたのは、
カトリーナの実家——街一番の富を誇る豪商の屋敷だった。
「お父様! ライナルト様が……あの女に屋敷も領地も奪われてしまったの! 私たちを助けてちょうだい!」
豪華な屋敷の門前で叫ぶカトリーナに応じたのは、実家の重厚な扉が開く音ではなく、
門番たちの冷ややかな視線と、父親からの書状を携えた大番頭の冷酷な言葉だった。
「お嬢様……いえ、カトリーナ様。旦那様からの伝言でございます。
『貴族の肩書も領地も失い、膨大な借金だけを抱えた男など我が家に不要である』と」
「な……なんですって!? 私はあなたの娘よ!?」
「さらに言えば、カトリーナ様が不義理を働いたエリス様は、今や国の食糧流通を一身に握る大元締め。エリス様を敵に回したあなた方を引き入れれば、我が商会まで潰れてしまいます。
本日限りでカトリーナ様との親子の縁を正式に切り、当家への立ち入りを一切禁じます」
「そんな……お父様! お父様ーっ! 嘘でしょ!?」
すがりつくカトリーナの手を門番が無情にはじき返し、重い鉄門が固く閉ざされた。
「くそっ、平民のくせにこの私を愚弄するか!」
悔しさに震えるライナルトだったが、かつて自分自身が「金のない伯爵令嬢より、裕福な平民」を選んだ報いを、今度は妻の実家から突きつけられたのだ。
結局、彼らが行き着いたのは、街の片隅にある湿っぽくて貧相なボロ借家だった。
しかし、惨めな暮らしになっても二人はレオを一度も叱らなかった。
かつて屋内で打ち上げ花火を暴発させて高級家具を焦がした時も、
他人に危険な爆竹を投げつけた時も、
カトリーナは「子どもの好奇心よ!」「貴族の血を引く跡継ぎのやること」と笑って踏み倒してきたのだ。
痛みの重さも、危険の恐ろしさも教えられずに育ったレオは、
やがて親の手にも負えない「性根の腐ったモンスター」と化していた。
◇
乾燥した風が吹く夏の日。
賑わう広場の市場で、事件は起きた。
レオが親の目を盗み、禁止されている強力な海外製花火に火をつけて遊んだのだ。
火花は一瞬で乾物屋の商品に燃え移り、市場全体を巻き込む大ボヤ騒ぎとなった。
「火事だー! 水を持ってこい!」
悲鳴と怒号が飛び交う中、商人たちが決死の消火活動を行い、
奇跡的に鎮火したものの、広場の店舗や商品は見る影もなく焼き払われた。
怒り狂った被害者たちがライナルトたちを取り囲む。
だが、カトリーナは青ざめながらも、いつものようにキーキーと叫んだ。
「ちょっと花火で遊んだだけでしょ! 現に火は消えたんだからいいじゃない! まだ幼い『子どものしたこと』に、大人が群がって恥ずかしくないの!?」
ライナルトも胸を張り、惨めな声を張り上げる。
「怪我人が出なかっただけ感謝しろ! 庶民が元子爵の私に何を言っている!」
いつもの開き直り。
しかし、ここはもう彼らの威光が届く場所ではなかった。
人ごみを割って現れたのは、新領主エリスが新たに組織した自警団と法官だった。
「放火未遂および重過失による巨額の財産損壊罪です。『子どものしたこと』という弁明は、一切通用しません」
法廷から下されたのは、過去の器物破損の重加算も含めた巨額の賠償金と、過酷な強制労働刑だった。
「お前の甘やかしのせいだ!」「あなたが頼りないからでしょ!」
判決が下った瞬間、金もプライドも失った二人は泥沼の罵り合いを始めた。
さらに、連行される親に向かって、反省の色すらないレオが叫ぶ。
「パパとママのバカ! 僕の邪魔をするな! 花火もっとやりたい!」
暴れるレオは、庇い続けてくれたカトリーナの顔面を容赦なく殴りつけた。
自分たちが作り上げた「モンスター」に痛めつけられ、二人は初めて絶望に顔を歪めた。
◇
護送車へ連れて行かれる途中、豪華な馬車が通りかかる。
車窓から顔を見せたのは、最高級のシルクを纏ったエリスだった。
ライナルトは泥にまみれて馬車にすがりつこうと声を張り上げた。
「エリス! 頼む、助けてくれ! あれはまだ幼い『子どものしたこと』なんだ! 子どもがやった火遊びじゃないか!」
馬車を止めさせたエリスは、泥に塗れた元夫夫婦を冷ややかな目で見下ろした。
「火がどれほど多くの命や財産を奪い、一瞬で人の営みを焼き尽くす恐ろしいものか……それを教えることすら怠り、『子どものしたこと』と庇い続けてモンスターに育て上げたのはあなた方です。
火の危険すらわからない愚かな子に仕立て上げ、人として育てる義務を捨てたツケを、今こそご自分で払いなさい」
「あ、エリス……っ!」
「炎の恐怖も、他人の痛みの重さも知らないあの子を作ったのは、他の誰でもない。あなた方親の罪ですよ」
言い捨てるエリスの言葉に、二人はぐうの音も出ず、その場に崩れ落ちた。
二度と届かない高みへ去っていくエリスの馬車を見送りながら、
自業自得の報いを受けた二人は、惨めな悲鳴を上げながら引きずられていった。
遠ざかる汚らわしい叫び声を背に、エリスは静かに息を吐き、御者に向かって短く告げた。
「行きましょう。待っている人たちがいますから」
馬車が向かう先は、新しく建設が進む市場と、笑顔を取り戻した領民たちが待つ街の中心地だ。
過去の傷や泥にまみれた日々は、もう遠い昔のこと。
己の手で掴み取った誇りと、かけがえのない仲間たちと共に、エリスは前だけを見つめて歩んでいく。
初夏の爽やかな風が、彼女の美しい髪を優しく揺らしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「子どものしたこと」と庇い続けた親たちの自業自得な末路、少しでもスカッとしていただけたら幸いです。
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