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痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
長夜将明

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第八十六章

 痛い。刺すような痛み、ずきずきとした痛み、泣いても癒えない痛み。


 頭のてっぺんから足の先まで、すべてが心をえぐるように痛い。


 モーリガンがアマラートの首を掴む手は、もう力を込めることができず、指先が震えている。


「あはははは……」


 自分が笑っているのが聞こえる。口元をほんの少し上げるようなものではない。声を出して笑い、肩まで震わせている。


「この感覚、すごく好き……どうして? 苦痛の拡がり、恐怖の悲鳴、無力な叫び声――どうして私はこれを止めたくないんだろう?」


 モーリガンはこれまで何度か笑ったことがある。そして今回は、自分が笑っていると初めて自覚した瞬間だった。


 いや、むしろ大げさに笑っている。心の裡は言葉にできないほどの愉悦に満ちている。


 左目の数字がついに虹彩の束縛を突破した。そのコードが直接外に露わになり、幽かな青色の光が薄暗い車内で明滅する――


 5406――私は、あなたのもの。


 それはもはや眼珠の奥に隠れてはいない。瞳孔の表面に浮かび、焼き印のように刻まれている。


 アマラートの体内では、黒い液体が血管を、骨を、臓器をすでに占拠していた。


 ルドスの木質の心臓でさえ、この瞬間、狂笑を止めた――抑圧されたのではない。服従したのだ。


 モーリガンの爪は、アマラートの首をすでに傷つけ、血を流させている。


 その血はもはやアマラート本来の紫色ではなく、黒と紫が半分ずつ混ざり、濃く濁って外へと溢れ出ていた。


 アマラートの胸の蝶と花が、ついに変わり始めた。


 蝶は翼をたたみ、蛹となり、花の上で花芯のように付着する。


 その花は黒い泡の浸透によって花色を変えた――黒い花びらは枯れるような姿を呈し、鮮やかな白い蝶の蛹と対照をなす。


「これは夢なんかじゃない、アマラート」


 モーリガンの声が歯の間から絞り出される。


 彼女の身体はすでに腐敗し始めていた――皮膚が剥がれ落ち、筋肉が溶けていく。パシュースが初めて姿を現した時のように、白い骨格が車内で揺らめいている。


 アマラートはモーリガンの力の衰えに気づいた。彼女はもがかず、ただ胸の蝶の印を撫で、声は興奮に震えている。


「御身! ついに半神状態に入られるのですね! 他の欠片たちと同じように――御身の能力はもはや感知や暴走だけに留まりません!」


「このマント、一体何なんだ?」モーリガンが尋ねる。


「貴重な贈り物です」アマラートの声が低くなる。「……ある方のお残しになったものです」


 彼女は何かを言いかけたが、続けなかった。モーリガンは気づいたが、問い詰める力はなかった。


「では、今の私はも――」


 言い終わらぬうちに、骨と皮だけに痩せ細ったモーリガンが倒れ込んだ。


 彼女の身体がまさに車の床に打ち付けられようとしたその瞬間、マントがそっと端を翻した。


 彼女の体内で猛威を振るっていた病、彼女の体から溢れ出ていた黒い泡、すべての人を苦痛の深淵へと引きずり込んでいた力――すべてが止まった。


 まるで見えざる手が、一時停止ボタンを押したかのようだ。


「いや」


 アマラートの声が突然変わる。興奮ではなく、懇願に近い切迫したものだ。


「私の分は取り戻さないでください。私の身体にこのまま留めておいてください」


 彼女は手で首の傷を覆い、黒い液体が自分の中に逆流するに任せた。


「御身に知っていただきたいのです――完全に容赦なく力を統べるとはどういうことかを」


 マントは再び動かなかった。


 それらの黒い液体はアマラートの体内に留まり、彼女の血液、骨、そしてあの木質の心臓と一つになった。


 そしてモーリガンは、意識を失った。


 ◇◇◇


 闇の中で、声が話している。


 彼女が死にかけた時に聞いたあの混沌とした低い声ではない。はっきりと、音色の見分けられる声だ。


「……やはり、彼女に我々のことを少し覚えさせておいて正解だった」


 最初の声が言う。


「今、お前はようやく他の神の欠片と同じになったな」二つ目の声が続ける。


 そして一瞬間を置く。


 三つ目の声が響く。最初の二つよりも遠く、まるで別次元から聞こえるかのようだ。


「彼女たちの能力を借りて、凡夫の身を脱ぎ去れ。この糸と泡は、想像以上の深遠さを持つ」


 モーリガンには聞き分けられた――最初の二つの言葉と最後の一言は、間違いなく異なる存在から発せられている。


 彼らは誰なのか問いたかったが、意識はすでに浮上し始めていた。


 ◇◇◇


 モーリガンは目を開けた。


 最初に目に入ったのは、アマラートの膝枕だった。


 彼女の頭はその上に乗り、アマラートの手はそっと彼女の肩に置かれ、指の腹が無意識にマントの縁を撫でている。


 馬車は進んでいる。車輪が小石を碾く音が単調に繰り返される。


 彼女は身を起こし、まだ鈍く痛む額を押さえた。


「モーリガン」


 最初に口を開いたのはヘマリスだった。その声には一抹の躊躇いが混じっている。


「あなたは……今、どう? 体のどこか調子が悪いところは?」


「頭が少し痛い」


 モーリガンはこめかみを押さえる。


「何があった?」


「もう説明したわ」


 パシュースの声がイヤリングから聞こえる。簡潔明瞭に。


「そうです」


 アマラートが言葉を引き継ぐ。


「彼女の方が私よりずっと上手く説明できました」


「おやおや」


 カリオペの声がネックレスから伝わる。いつもの軽快さを帯びているが、その下の感情は普段より少し沈んでいる。


「なるほど、お前が今まで能力を使ってこなかった理由が分かったよ。今、解放された苦痛がどれほど大切か分かっただろ? 大丈夫、事前に一声かけてくれれば、我々はちゃんと耐えるさ」


 彼女は一瞬間を置く。


「俺は構わないけど、ヘマリスは消えかけたぞ」


 その口調はとても軽いが、誰にでもその下に押し込めたものが感じ取れた。


 ヘマリスは答えない。


 しかしモーリガンには感じ取れた。ネックレスの中で、あの霧を纏う雨滴が、そっと隣の暗金色の竜晶に寄り添っているのを。


「本当に申し訳ない」


 モーリガンの声はまだ少し掠れている。


「君たちを巻き込むべきではなかった」


「だから俺の能力を使った時には――」


 タナトスの声が右のイヤリングから聞こえる。少し真剣な口調で。


「俺は死ぬのか?」


 車内が一瞬間、静まり返った。


「冗談だ」


 彼は付け加えた。口調はあのいつもの気軽さを取り戻している。


「どうせ死にはしないからな。ただ、事前に一言言っておこうと思って。心の準備があるからな」


 パシュースは何も言わない。


 しかしモーリガンには感じ取れる――あのイヤリングが微かに熱を帯びている。何かが真剣に見つめられているかのように。


「でも、なぜ俺の能力が使えるんだ?」


 タナトスがまた問い詰める。


「小パのまで?」


 モーリガンは一瞬間呆けた。


 彼女はうつむいて自分の手を見た。無傷だ。皮膚は滑らかで、指の関節ははっきりしており、腐った痕などどこにもない。


 さっきまであんなに病で骨まで露出していたのに。


「マントのせいか?」


 パシュースの声が響く。一針に血を通す。


「そうです、でもそれだけではありません」


 アマラートの声が突然変わる。もはや「はい、御身」とだけ言う従者ではなく、もっと沈んだ、もっと確固としたものに。


「御身があなた方の力を使えるのは、そもそも神となるための一部です。このマントはただの補助です」


 彼女は一瞬間を置く。


「それに――あなた方、今の御身をもう一度よく見てください」


 車内が一瞬間、静まった。


 そして、全員が気づいた。


 アマラートの胸の蝶は、もう変化を終えていた。


 それは永遠にあの枯れた黒い花の上に止まり、翼をそっと羽ばたかせている。呼吸のように。


 二つの黒はそれぞれ異なる。


 蝶の黒は時折、彩色的な感じを帯びることがある。まるでパレットの上で全ての色を混ぜ合わせてできた黒のように。


 花は純黒で、少し深い紫色を帯び、時折どこか愉悦のようなものを感じさせる――何しろそれはまだあの蔓と繋がっているのだから。


 これらの変化は、全てモーリガンのためだ。


 彼女はもはや人間の小娘ではない。


 ほんの一瞬、心の中でずっと抑圧されてきた感情を満たしただけで、彼女の外見は五、六歳ほど成長した姿に変わった。


 顔立ちから最後の一片の稚気が消え、頬骨の線がよりくっきりと浮かび上がり、眉間にはこの年齢に似つかわしくない何かが沈殿している。


 彼女の全身に、びっしりと黒い紋様が浮かび上がっている。


 かつては目を閉じ、集中しなければ感知できなかった苦痛の糸が、今は彼女自身の皮膚に刻まれている。


 指先から手首へと絡み、手首から前腕へと広がり、腕のところで一つの主脈に集まり、さらに肩甲骨を越え、鎖骨を這い、ついに心臓の辺りへと消えていく。


 彼女はもはや目を閉じて「見る」必要はない。


 モーリガンは拳を握ってみる。紋様がそれに合わせて縮まる。離すと、紋様もそれに合わせて広がる。


「これは……」彼女が小声で尋ねる。


「御身の能力です」


 アマラートの声が隣から聞こえる。


「それらが御身に適応しているのです。まるで新しく生えた骨のように、最初は使いにくいものです」


 モーリガンは自分の手を見つめる。皮膚に刻まれた黒い紋様を、指先でいつでも苦痛の糸を動かせる黒い点を。


 彼女は指を動かしてみた。


 アマラートの手が突然上がり、爪が車内の壁に数本の裂け目を刻んだ。


「これはまた……」


「これは私が感じ取れるものです」


 アマラートは言う。その口調は事実を述べるかのように平静だ。


「御身の泡が私の全身に満ちた時、私は分かりました――御身が望めば、私の行動はもはや私のものではなくなると」


 モーリガンは自分の指を見つめ、またアマラートの首のまだ血が滲む傷口を見る。


 彼女はその力を引っ込めてみた。


 アマラートの手が膝の上に落ちる。


「それに」


 アマラートは続ける。


「御身が望めば、他人の頭の中にも黒い泡を満たすことができます。そうすれば、その人はもう自分の考えを持たなくなります。もっと酷くすれば――頭の中の泡を、かつて御身がルドスを助けた時のように少しだけ腐食性を帯びさせる。そうすれば、その人はただの殻を壊すだけではなく、完全に死に至ります」


 彼女は一瞬間を置き、口元の弧を少し深くする。


「そして死んだ人から――御身はその全ての能力を手に入れられます」


 モーリガンの指が縮こまった。


「人に自分の考えを持たせないということは……」


 彼女の声はとても低い。


「死んだのと何が違う?」


「だから御身はお使いにならないでしょう」


 アマラートはすぐに言った。


「そうでしょう?」


 モーリガンは答えない。


 彼女はただ自分の手を見つめている。いつでも苦痛の糸を動かせるあの黒い点を。


「お前はようやく、お前になり始めた」


 パシュースの声が耳元から聞こえる。とても軽い。


 パシュースの言う通りだ。彼女はようやく自分になり始めた。


 しかし、どんな自分になりたいのかは、まだ考えがまとまっていない。


 モーリガンは顔を上げ、車窓の外を見る。


 鉛色の雲の隙間が裂け、一筋の蒼白い光が漏れる。


 馬車はまだ前に進んでいる。


 そして彼女は、自分がどこへ向かうべきかを知るまでに、もう少し時間がかかりそうだ。

自分の泡があふれ出さないように、ほんの一時的にでも――モーリガンはもっと直接的な方法を試みた。その結果、彼女は大きく変わり、より“自分らしさ”を増した。でも、これが本当に彼女の望んでいたものなのだろうか?

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