第八章
街区の奥は不気味な繁栄と静寂を呈していた。
果物屋の店先には鮮やかでふっくらした果物が積まれ、衣料品店のショーウィンドウには編み立てたばかりの新品のセーターが掛かり、花屋の花束は一束一束が丹念に手入れされていた――しかし通りには人影がなかった。
店主さえも姿を見せない。
先ほどまで聞こえていた途切れ途切れの子守唄も、今は完全に消えていた。
「アマラート、待って」
モーリガンは足を止め、前方を行く侍女を呼び止めた。
「どうなさいました?私の愛しき主君」アマラートは振り返り、完璧な困惑の表情を浮かべた。
「ケーリスが……もう食べられないみたい」
その言葉が終わらないうちに、モーリガンの首に掛かっていた影の生き物が激しく膨張し始めた。
元々液体のように流動していた形態が風船のように膨らみ、ぷっくりとした黒い球体へと変わる――あの「虚無」の孤独が、消化しきれないガスのようにその体内で滾っていた。
ケーリスは完全にモーリガンの肌から離れ、空中に浮かんだ。
その瞬間。
周囲をゆっくりと流れていた灰霧が、血の匂いを嗅ぎつけた鮫の群れのように、急加速し、集まり、守りを失ったモーリガンへと殺到した。
「どけ!」
アマラートの声が静寂を引き裂いた。
それは人間の出せる音調ではない――鋭く、耳障りで、何か人ならざる震動の周波数を帯びている。
彼女は背後にある薄いが巨大な影を投げる翼を広げ、モーリガンをまるごと翼の下に護った。
襲い来る灰霧は無形の障壁にぶつかり、じゅうじゅうという腐食音を立てた。
「彼女に私を忘れさせたりしない!」アマラートは唸り、声には本物の、ほとんど凶暴な恐怖が込められていた。
「アマラート、どきなさい」
「なに?! だめです!絶対にだめです、主君!」
アマラートが猛然と振り返り、ガラスのような瞳の奥にはほとんど凶暴な恐怖が渦巻いている。
それは従僕として主人を心配するそれではなく、むしろある存在が自らの存在意義が消し去られんとする本能的な戦慄だった。
「もしあなた様がご自身を忘れられたら、私の存在意義も霧散します……私はあなたの使命の遂行を阻んでいるのではありません。ただ……忘れ去られる亡霊になるのが怖いだけです」
彼女の翼は興奮で微かに震え、落とす影は死にゆく蝶のようにもがいている。
「あなた様の痛みへの知覚は誰よりも鋭敏です――それはあなた様の『忘却』の速度もまた誰よりも速いということ!お願いです……中に入らないで」
「だからこそよ」
モーリガンの声は異常に平静だった。
彼女は顔を上げ、緊張でこわばったアマラートの横顔を見つめた。
「私を信じて。どきなさい」
アマラートは硬直した。
モーリガンは彼女の一瞬の動揺に乗じ、翼の隙間からすり抜けた。
灰霧は即座に彼女を飲み込んだ。
***
目の前の世界が再び鮮明になった時、モーリガンは自分が同じ通りに立っていることに気づいた。
しかし全てが違っていた。
通りは賑わい、人々は祭りの晴れ着をまとい、空気には焼き菓子と蜂蜜酒の甘い香りが漂っている。
屋外は祭りの喧騒だが、モーリガンが手にした手がかり――あの蒼白色の「忘却」の糸は、まっすぐに通りの角の一軒の石造りの家を指し示していた。
石の家の中は薄暗い。
若いエリナがベッドの傍らに跪き、両手で血に染まったシーツをしっかりと握りしめている。
汗が彼女の栗色の髪をぬらし、蒼白い頬に貼りついている。
産婆が立ち去ったばかりで、部屋中に血の匂いと重苦しい静寂が残されている。
エリナは震える手で、小さな襁褓を抱き上げた。
赤ん坊は泣かない。
ただ、異常に澄んだ薄灰色の目で、静かに彼女を見つめている。
「あなたは……」エリナの声はかすれている。「本当に変わった子ね……」
その時、赤ん坊の唇が動いた。
二つの音節が、明確に発せられる:
「ヘマ……リス……」
エリナは呆然とした。
彼女は抱きかかえた子を見下ろし、あらゆるものを見透かすかのようなその目を見た。
そして、ある感情が彼女の目の中に渦巻く――驚愕、困惑、そして最後にはほとんど敬虔な優しさへと変わる。
「ヘマリス……」彼女は小声で繰り返した。「この名前で呼んでほしいの?」
赤ん坊は答えず、ただ静かに彼女を見つめ続ける。
エリナは子供をしっかりと胸に抱きしめ、ついに涙が零れ、子供の額に滴った。
「よし……ヘマリスって名前にしましょう」
彼女の声は次第に強固になる。
「だってあなたは天が私に授けてくれた贈り物なんだから。他の人が何と言おうと、どんな目であなたを見ようと……あなたは私の子供よ」
***
八年が過ぎた。
ヘマリスは異常に静かな少女に成長していた。
彼女はほとんど話さないが、その薄灰色の目はいつも人々の笑顔の背後にある真実を見抜くことができた。
彼女は自分が普通ではないことを知っていた。
町の子供たちは彼女の背後でこそこそ噂話をし、大人たちは彼女を見る目に哀れみと警戒を隠していた。
ただ一人、母エリナだけが、永遠にその優しくも強固な手で、彼女のひそめた眉をなでてくれた。
ある雨の夜まで。
八歳のヘマリスは自分の小さな部屋で、あのまだらな銅鏡の前に立っていた。
雨が窓枠を叩き、遠くで雷が轟く。
鏡面が突然波紋を立てた。
そして、光景が浮かび上がる――
彼女は若き日のエリナが、一人で灰湖の畔で洗濯をしているのを見た。
それはどんよりとした午後のことで、湖面は鉛灰色の光を放っていた。
エリナは突然気を失い、目覚めた時にはすでにお腹に命を宿していた。
彼女は町中の噂や悪口が毒蔓のように広がるのを見た。
「不吉な子」、「湖の妖魔の呪い」、「湖に戻してやるべきだ」……
彼女は父親――彼女が一度も会ったことのないその男――が妻の再妊娠を知った時の狂喜と、「出自不明」と聞いた後の激怒と失望を見た。
彼は扉を叩きつけて去り、二度と戻らなかった。
彼女はエリナが一人で全てに立ち向かうのを見た。
ますます大きくなるお腹を抱え、指さされるのに耐え、深夜に黙って涙を流し、夜明けには再び背筋を伸ばす姿を。
彼女は出産の日の血と痛みを見た。
エリナが生まれたばかりの彼女を抱き、誰の助けもない部屋で、歯を食いしばってへその緒を切るのを見た。
母親が赤ん坊にささやくのを見た:「あなたが誰であれ、どこから来たとしても……あなたは私の子供よ。」
ヘマリスは鏡の前に立ち、声もなく涙を流した。
彼女はようやく理解した。
なぜ母がいつも深夜に彼女の髪を撫でるのかを。
なぜ母が彼女の「特別な力」の由来を尋ねないのかを。
あの沈黙の、重厚な、全世界の悪意に立ち向かうに足る愛を。
***
時は流れ続ける。
ヘマリスの脳裏に押し寄せる記憶はますます増えていった。
彼女は町で最も思いやりのある聞き手となった――いつも最も適切な慰めの言葉をかけ、嘘の背後にある事情を見抜くことができた。
しかし、代償を知っているのは彼女だけだった。
脳裏には他人の秘密、他人の苦しみ、他人の人生があふれている。
では、彼女自身の記憶は?
記憶の潮汐の中に、いつも声が浮かび上がる。
心が引き裂かれるほど優しい女の声:
「ヘマリス……」
彼女は何度も深夜に飛び起きた。
「ヘマリス、たとえ私が忘れてしまっても、あなたはこの全てを覚えていてくれるよね?」
幻聴の中の声がそう尋ねる。
ヘマリスは空っぽの部屋に答える:「いいえ、私は何も覚えていません」
彼女はその声を無視しようとした。
しかし抵抗すればするほど、声はより鮮明になる。
焦燥が彼女の理性をむしばみ始めた。
彼女は触れられる全ての記憶をめくったが、この声に関する手がかりは何も見つからなかった。
まるでその声は……彼女自身の記憶の奥底にだけ存在するかのように。
しかし、彼女はどうしても思い出せない。
その「思い出せない」苦しみは、毒蔓のように心臓に絡みつく。
彼女は忘れることを恐れ始めた。
母エリナの犠牲を忘れることを恐れた。
あの深夜の抱擁を忘れることを恐れた。
すべての孤独を乗り越えさせてくれた、あの沈黙の愛を忘れることを恐れた。
***
あの午後、陽射しが良かった。
純白の鎧をまとった一隊の騎士がグレイスミア町へと足を踏み入れた。
鎧は陽光の下で冷たい光を反射し、胸当ての紋章がはっきりと見える――
ヴェランティス審判庁。
町民たちが通りの両側に集まり、ひそひそと噂話をする。ヘマリスは母のパン屋の入り口に立ち、エリナは緊張してエプロンを握りしめている。
先頭の騎士が兜を外した。
傷跡が走る顔に、瞳は鷹のように鋭い。彼の視線は群衆を一掃し、最後にヘマリスの上で止まる。
「ヘマリス・グレイスミア。それに、エリナ・グレイスミア」
彼の声は冷たく、抑揚がない。
「ヴェランティス審判庁第七裁定局発行の逮捕令状に基づき、お前たち二人は『異常能力規制条例』違反の疑いあり。即刻、我々と共に帰還し隔離審査を受けることを要す」
彼は一息置き、視線は鉄の枷のように一瞬で青ざめたエリナを捉える。
「全ての直系親族及び密接接触者は、強制審査の対象範囲内。これが標準手順だ」
エリナは無意識に一歩踏み出し、娘の前に立ちはだかり、声を震わせた。
「閣下、私の子供はただ……これまで誰一人傷つけたことは……」
「所有そのものが脅威だ」騎士は彼女を遮った。「しかも未届け、長期隠匿はさらに重罪。連行せよ」
二人の騎士がすぐさま前に進み出た。
ヘマリスの血液がその瞬間凍りついた。
彼女は震える母の背中、エリナの腕へと伸びる騎士の冷たい手を見た。
――母さんを連れて行こうとしている。
――私のせいで。
――全て私のせいで。
その時、騎士たちの身にまとう冷たく疑いようのない「執行者」としての意志が、彼女の受動的に拡散する知覚能力と激しく衝突した。
彼女は「見た」。
明確な記憶ではなく、この騎士の魂の奥深くに刻まれた、無数の任務執行の「パターン」と「結果」を。
彼女は、燃える村と、鎖でつながれて連行されていく泣き叫ぶ人々を見た。傷跡のある騎士が炎の前に立ち、同じ冷たい言葉を繰り返すのを見た:「……審判庁の律法に基づき……審査を受ける……これは必要な手順……」。そして、連れて行かれた人々が二度と戻ってこないのを見た。
恐怖。
冷たく、息苦しい、魂を押しつぶすほどの恐怖が、瞬間的に彼女の心臓を鷲掴みにした。
いや。
母さんを連れて行かないで。
私のせいで、母さんをあの二度と戻らない人々の一人にしないで。
「……やめて……」
彼女の声はとてもかすかだった。
騎士の手はすでにエリナの手首を掴んでいる。
「やめて!」
ヘマリスは顔を上げ、薄灰色の瞳の中で、何かが完全に断ち切れた。
「彼女に触らないで!」
最初の一筋の灰霧が、彼女の足元から狂ったように湧き出た。
もはやゆっくりとした拡散ではなく、噴火だ。濁った灰色が巻き起こり、瞬く間に最も近い騎士を飲み込んだ。
その騎士は手を離し、眼差しは茫然となる。自分が何をするつもりだったか忘れてしまった。
先頭の騎士の表情が一変し、猛然と剣を抜く:
「制圧しろ!」
しかし灰霧の拡散は速すぎた。
それは優しくも残酷に、一人一人の町民を、突進してくる騎士たちを撫でていく。
彼らの動きは鈍くなり、怒りや恐怖、決意……が少しずつ消え、虚ろな困惑だけが残った。
「母さん……逃げて……」
ヘマリスはエリナの方向へ手を伸ばし、涙が溢れ出る。
しかし灰霧は彼女と母親の間に優しい障壁を形成し、エリナをそっと押しのけ、隔てた。
エリナは無形の霧を叩き、娘の名を泣き叫ぶが、一歩も前に進めない。
ヘマリスは泣く母の顔を見て、心が引き裂かれるようだった。
ごめんなさい、母さん。
もしこれしか方法がないなら……あなたが連れて行かれないようにするためなら。
それなら私は……
全員に忘れてもらおう。
私自身も含めて。
さらに多くの灰霧が、彼女の決壊した恐怖と絶望のように、町全体を完全に飲み込んだ。
***
幻境が揺らぎ、砕け始めた。
モーリガンはあの空っぽの小さな部屋に立っている。ヘマリスは彼女に背を向け、薄灰色の長髪が霧の凝結のように見える。
「全部見たんでしょう」ヘマリスの声は乾いている。「私に……他に方法はなかったの」
「母親を守るためね」モーリガンが言った。
ヘマリスの肩が微かに震える。
「灰霧は彼女を避けた」モーリガンが続けた。「彼女はただ外に隔てられただけ。でも彼女は全てを覚えているし、ずっとあなたを待っていた」
ヘマリスはゆっくりと振り返り、長い孤独と深い疲れを浮かべた。
「待ってる? こんな……全てを忘れさせてしまう怪物を?」
彼女は泣くより醜い笑みを作る。
「彼女の顔さえ、私の記憶の中でどんどんぼやけて……あのいつも私を呼ぶ声も……私は何も守れない、ただ全てを消すだけ」
モーリガンが前へ歩み出て、手を差し伸べた。
黒い泡が彼女の掌に浮かび上がる。内部はもはや虚無ではなく、ゆっくりと回転する灰色の霧だ。
「その恐怖を私によこしなさい」
モーリガンは彼女の薄灰色の瞳を見つめた。
「母を失うことへの、自分が全てを消してしまうことへの、この恐怖を……私に預けて。霧は晴れる、あなたはもう一人ここに閉じこもらなくていい」
ヘマリスは呆然とその泡を見つめ、またモーリガンを見た。
「あなた……怖くないの? この力は……ただ忘却をもたらすだけよ」
「私は忘却より冷たいものを見たことがある」
モーリガンの声は平静だ。
「その力を私によこせば、あなたは本当に母を『見る』ことができる。霧越しに思い出すのではなく。本当に忘れてしまったもの――彼女の顔だけでなく、あの声も取り戻す機会が得られる」
ヘマリスは長い間沈黙した。
最終的に、彼女は手を上げた。
薄灰色の霧が彼女の身から流れ出る。もはや狂暴な噴出ではなく、優しい細流となり、モーリガンの手首に絡みつく。
最終的には潤いのある、霧がかった宝石のような結晶に凝縮し、モーリガンの掌に落ちる。
「核はここに」
ヘマリスの姿が薄れ始め、声も優しくなる。
「でもこれを安定させるには、『錨』が必要……灰湖へ行きなさい。私の力はあそこで始まった。あの湖の水だけが、これを受け止める指輪を造れる」
彼女は光の流れとなり、結晶に吸い込まれる。
窓の外、町を覆う灰霧がゆっくりと消え始める。
***
モーリガンが目を開ける。
彼女はまだ街区の奥に立ち、胸元のケーリスはすでに元の液体の形態に戻り、親しげに彼女の手首にすり寄っている。
アマラートは彼女の前に跪き、翼は緊張して半ば開き、顔には隠しようのない心配が浮かんでいる。
「主君! お戻りになりました! 私のことを覚えていらっしゃいますか? まだ――」
「覚えているわ」
モーリガンは彼女を遮り、声は平静だった。
彼女は手を上げ、あの霧灰色の結晶が静かに掌にある。潤いがあり、微かに冷たい。
全ての記憶、全ての感情、初めと同じく鮮明だ。
彼女は忘れなかった。
全てを覚えている。
アマラートは呆然とし、やがて全身の力が抜けて、本当に安堵の笑みを浮かべた。
モーリガンは結晶を握りしめ、町の外れ、鉛灰色の湖面が次第に晴れる霧の中に現れるのを見る。
「行きましょう」彼女は背を向けた。
「灰湖へ」
ここでヴェランティス審判廷が用いる炎は、普通の炎ではありません。これは小さな伏線のひとつです。
どうか覚えておいてくださいね。後々、試験の必出問題のように登場しますから~(冗談ですよ)。




