表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
長夜将明

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/91

第七十九章

「飾りかもしれないけど、私のじゃない」


 モーリガンはその影を見上げた。それはただ静かに空に留まり、微動だにしない。


 村人たちはそれを怖がっていないようだった――きっと、いたずら好きの誰かが作った祭りの飾りだと思っているのだろう。モーリガンもあまり気に留めなかった。


 鬼驚祭の儀式が始まった。


 先導者は、口元が血で濡れ、微笑む神の仮面を被っている。


 その仮面の表情は奇妙だった――明らかに笑っているのに、その笑顔の背後には果てしない虚無があるように感じられた。


 彼の手には、背骨のように長い骨の杖があり、先端には心臓が刺さっている。


 その後ろには、うつむいた村人たちの一団が続く。


 彼らは彫刻され彩色された動物の仮面を被り、木の棒で巨大な鬼の模型を串刺しにし、その心臓を追いかけるように前に進む。


 心臓が動けば、鬼も動く。


「道を塞がないで」パシュースが慌てて言った。「塞ぐと一年間不運が続くのよ」


「この音楽……」タナトスが考え込むように言った。「すごく聞き覚えがあるな」


 パシュースは横を向いて彼を一瞥した。


「聞き覚えがあるはずよ」彼女は言った。「先導者が被ってるあの仮面、死神なんだから」


 タナトスは一瞬呆けた。


「死神?」


「病を連れ去り、不運を連れ去り、この世にあるべきでないものを全て連れ去る」


 パシュースの声はとても軽い。


「ずっとずっと昔、人々は死は終わりじゃなく、もう一つの始まりだと信じていた。だから死神の仮面は……あんな姿なの」


 タナトスはそれ以上何も言わなかった。


 ただ仮面を被ったその影を見つめ、あの骨の杖を見つめ、あの燃える心臓を見つめた。


 なるほど。


 これが「聞き覚え」の正体だったのか。


「どうして鬼驚祭の儀式はあんなふうなの?」アマラートが尋ねた。


「後で分かるわ」パシュースが答えた。「あんなに完成度の高い鬼驚祭の儀式は、もう滅多に見られないのよ」


「へえ、随分詳しいんだな」タナトスがまた近づく。


 パシュースは彼を一瞥し、何も言わなかった。


 アマラートはモーリガンの方を見た。


「御身、やっぱりその格好、お直しになった方が――」


「いいえ」


 モーリガンはうつむいて自分のあの派手な装いを見た。


「カリオペがずいぶん時間をかけてくれたものだもの。大丈夫よ」


 彼女たちは道を譲り、人混みについて歩き、鬼驚祭の儀式が最後に何をするのか見てみようとした。


 行列は村の中心に着いた。そこには薪と藁を積み上げた小山があった。


 先導者は小山の前で骨の杖を振り、何かの印を描いているようだった。聞き取れない呪文を唱え、そして――骨の杖の先端の心臓が突然、自ら燃え上がった。


 火が点いた瞬間、骨の杖は小山の中に投げ込まれた。


 炎が立ち上る。


 うつむいていた村人たちも、巨大な鬼の模型を中に投げ入れた。


 その時になって、彼らは顔を上げた。


 炎の光が動物の仮面に映り、明滅する。彼らは輪になり、陽気な音楽に合わせて踊り始めた。


「鬼驚祭の儀式は終わり?」モーリガンが尋ねた。


「ええ」


 パシュースがうなずく。


「新生を象徴する動物たちが、鬼の影響を追い払ったの。鬼は神に追い払われた。これで儀式は終わりよ」


「動物は確かに可愛いし、新生を象徴してるよな」


 タナトスが珍しく真剣に同意した。


「俺のカラスみたいにさ」


「いいですね」アマラートが静かに言った。「これで分かりました。この世界にまだ神様が必要とされる理由が」


 彼女はモーリガンを見た。


「だから御身、頑張ってくださいね」


「うん」


 モーリガンは応じたが、心の中では別の考えが浮かんでいた。


 確かに、神様にはそういう役目がある。


 しかし旧神の中に、なぜ病気がいたのか?死がいたのか?戦争が?……苦痛が?


 それに、彼らの信者は決して少なくはなかった。


 まさかこれらは神様同士が演じる芝居なのか?先に呪いを撒き散らし、後からそれを消すという?


「え?もう儀式は終わっちゃったの?」


 カリオペの声が遠くから聞こえる。悔しそうだ。


「しまった!全然間に合わなかったじゃないか!」


 彼女とヘマリスはいつの間にかこちらに来ていた――二人とも装いを変えていて、そのセンスもまた一言で言い表せないものだった。


「ははははは、お前たちのその格好、本当に……」タナトスが笑い出す。


「どう?」


 カリオペは得意げに一回転した。


「お似合いのペアみたいだろ?」


「もうやめてよ、カリー」


 ヘマリスの耳の先が赤くなった。


「恥ずかしすぎる……」


「何が恥ずかしいんだって?」


 カリオペは彼女の肩を抱き寄せる。


「モーリガンを見ろよ、あれはいいと思うから、全然脱ごうとしないんだぜ」


「そうね」


 パシュースは無表情で突っ込んだ。


「とてもユニークで、通行人が思わず二度見するわね」


 モーリガン:「……」


 ◇◇◇


 鬼驚祭も終わりに近づく。


 人混みは次第に散り、焚き火はまだ燃え、音楽は遠くにぼんやりと響いている。


 タナトスは顔を上げて空を見た。


 あの影はまだそこにいる。


 最初から最後まで、微動だにしなかった。


 近づくこともなく、去ることもなく、誰の邪魔もすることもなく。


 ただ静かに高みを旋回し、微動だにしない。


 パシュースは彼のそばに歩み寄り、彼の視線を追った。


「昼間からずっといるわ」と彼女は言った。


「知ってる」


「ずっと見ている」


「それも知ってる」


 パシュースは一瞬間沈黙した。


「待っているのよ」


 タナトスは振り返って彼女を見た。


「何を?」


 パシュースは直接答えなかった。ただ墓地の方に顎をしゃくった。


「行ってみなさい」


 タナトスは考え、頭をかいた。


「まあいい、ちょっと行ってみるか」


 彼はモーリガンに一声かけ、一人で墓地へ向かった。


 彼が振り返ったその瞬間、空の影が動いた。


 とても遅く、とても静かに、しかし確かに――同じ方向へ。


 ◇◇◇


 モーリガンが視線を戻そうとした時、視界の端に別の影が飛び込んできた。


 黒い翼。


 完璧な顔。


 そして、無造作な短い髪。


 モーリガンの呼吸が一瞬止まった。


 あれは……スタシス?


 どうして彼女がここに?


 でも彼女の髪……どうしてこんなに乱れている?


 彼女の知るスタシスは、永遠に完璧で、永遠に精緻で、一本の髪すら容易に乱れさせることはない。


 なのに目の前のこの人は、まるでとても遠い道を急いで来たかのように髪が乱れている。


 何があった?


「アマラート」


 彼女の声が急に張りつめた。


「飛んでくれ。早く」


「え――」


 アマラートは彼女の視線を追い、何も問わず、瞬時に翼を広げた。


「分かりました!」


 彼女たちは空へ舞い上がり、その影の行く手を遮った。


 それはエルフの女性だった。


 黒い翼、完璧な五体、無造作な短い髪。


 彼女は空中に留まり、胸は激しく上下している。何かを必死に追いかけてきたようだ。


「どいて」


 彼女が口を開いた。声は嗄れ、息を切らしている。


 モーリガンは呆けた。


 その声はスタシスのものだ。その顔もスタシスのものだ。


 しかしこの言葉……この口調……違う。


 これはスタシスが言う言葉ではない。


 それに彼女の髪……


「あなたは誰?」モーリガンが尋ねた。


 そのエルフの女性は答えない。


 ただ墓地の方を見つめ、翼を微かに震わせている。何かをこらえているようだ。


「どいて」


 彼女はもう一度言った。口調はさらにきつい。


 モーリガンは動かなかった。


 彼女は相手を見つめる。


 あの荒い息遣い、あの遠くをじっと見つめる眼差し。


 彼女はスタシスを知っているのか?


 それとも――彼女こそがスタシスなのか、ただ何かが起こっただけなのか?


「あのものを追いかけているのか?」モーリガンが尋ねた。


 そのエルフの女性はようやく振り返り、彼女を一瞥した。


 その眼差しには感謝も好奇心もなく、ただ行く手を阻まれた苛立ちだけがあった。


「あなたには関係ない」


 彼女はモーリガンを追い越し、墓地へと飛んでいった。


 モーリガンとアマラートは顔を見合わせた。


「追う」


 ◇◇◇


 墓地は静かだった。


 月明かりが傾いた墓石に当たり、長短様々な影を落としている。


 遠くの祭りの喧騒はぼんやりと聞こえ、まるで別世界の音のようだ。


 タナトスは一本の墓石に寄りかかり、空中に停まるあの影を見上げている。


 赤い鱗、白い模様。蛇のように見えるが、空中を泳ぐことができる。


 それはそこに停まっている。近づかず、離れず。ただ彼を見つめている。


「俺を待っていたのか?」タナトスが口を開く。


 蛇の目が微かに動く。


「汝、感ずる」


 その声が直接タナトスの頭の中に響いた。遠くから聞こえるように低く。


「何を感じる?」


「吾主の息」


 タナトスは一瞬呆けた。


「お前の主人?」


 彼は自分を指さした。


「俺のことか?」


 蛇は答えない。ゆっくりと降りて、タナトスの前の墓石に止まった。


 近づいて、タナトスは初めてその姿をはっきりと見た。


 赤い鱗には細かな紋様があり、古い図騰のようなものが刻まれている。


 その目は濁っていて、あまりに多くの年月を内包しているようだ。


「吾、汝を久しく待ちたり」


「どれくらい待った?」


 蛇は答えない。ただ彼を見つめている。


 タナトスはふと、パシュースの言葉を思い出した。


「聞き覚えがあるはずよ。先導者が被ってるあの仮面、死神なんだから」


 彼はうつむいて自分の手を見た。


 つまり、あの儀式は俺のために行われたのか?


 でも何も覚えていない。


「俺はお前を覚えていない」


 彼は言った。その口調に謝罪も悲しみもない。ただ事実を述べるだけだ。


「俺は何も覚えていない」


「知る」


「それでも来たのか?」


「汝、在れば、吾、来たる」


 タナトスは沈黙した。


 彼はその蛇を見つめる。その濁った目に映る自分を見つめる。


 なるほど、俺にも過去があったのか。


 なるほど、俺も何もないところから現れたわけじゃなかったのか。


 なるほど、この世にはまだ俺を待っているものもあったのか。


「名前は?」彼は尋ねた。


「吾が名は、虹蛇コウダ


 蛇の声は平静だ。この名前がずっとずっと自分に付き従ってきたかのように。


 タナトスは一瞬呆けた。


「虹蛇?」


 彼は繰り返し、目を輝かせた。


「そんな生き物がいるって聞いたことある。どんな姿か気になってたんだ」


 彼はうつむいて腕に巻きついたその赤と白の蛇を見、また自分を見た。


「まさか俺のものだったとはな」


 蛇は目を上げた。濁った瞳の中で、何かが微かに瞬いている。


 その時――


 一つの影が天から舞い降りた。


 翼を広げる音が墓地の静寂を裂く。


 その黒い翼のエルフの女性がタナトスの前に飛び降り、彼の腕に巻きついた蛇をじっと見つめた。


「虹蛇」


 彼女の声は震えている。


「スタシスを返せ!」


 その声が突然高くなり、目尻が赤くなる。次の瞬間には飛びかかってきそうだ。


 言葉が口を衝いて出た瞬間、そのエルフの女性自身が呆けた。


 何を言っている?


 どうしてこの言葉を?


 これは私が言いたかった言葉じゃない。


 これは……彼女の想い?


 でももう言ってしまった。取り消せない。


 タナトスはこの突然の叫びに驚き、思わず半歩後退し、蛇の巻きついた腕を掲げた。


「ちょ、ちょっと待て――お前、誰だ?」


 そのエルフの女性は彼を無視した。


 彼女はただ蛇を見つめ、胸を激しく上下させている。


 何かが彼女の目尻から滑り落ちた。


 彼女はうつむいて濡れた自分の指を見つめ、その目には茫然自失だけがある。


 涙。


 これは涙だ。


 でもこれは私の涙じゃない。


 虹蛇がゆっくりと顔を上げ、濁った目を彼女の視線に合わせた。


「彼女、代償なり」


 その声は低く響く。


「二つを以て二つに替え、不可逆なり」


 そのエルフの女性は何も言わない。


 彼女はただそこに立ち、涙が音もなく流れる。


 モーリガンとアマラートが続いて降り立った。


 モーリガンは数歩離れたところに立ち、この光景を見つめている。


 彼女の視線はそのエルフの女性の無造作な短い髪に留まる。


 やはり乱れている。


 もしスタシスなら、自分をこんな風にはさせない。


 彼女の視線はその黒い翼に移る。


 しかしあの羽根は本物だ。


 スタシスはそれで手紙を届けた。


 この翼も……本物だ。


 そして彼女はさっきの言葉を思い出す――


「スタシスを返せ」


 モーリガンの瞳孔が微かに収縮した。


 彼女はスタシスを探している。


 彼女はスタシスを気にかけている。


 そして彼女は「返せ」と言った――


 スタシスは彼女の中にはいない。


 スタシスは……何かあったのだ。


 彼女は涙を流すその女を見つめる。


 その顔、その声、その翼、どれもスタシスのものだ。


 しかしその目に渦巻く感情は、スタシスのものではない。


 彼女はスタシスではない。


 しかし彼女はスタシスの顔を使い、スタシスの声を使い、スタシスの翼を使う。


 彼女はスタシスの代わりに涙を流す。


 彼女はスタシスの代わりにここまで追いかける。


 モーリガンは一歩前に出た。


「あなたは誰?」彼女は尋ねる。


 そのエルフの女性は振り返り、彼女を見た。


 その目はスタシスと全く同じだ。


 しかしそこにあるのは、ただ茫然自失だけだ。


「……分からない」


 彼女の声は嗄れている。


 モーリガンは沈黙した。


 分からない?


「じゃあ、どうしてスタシスを知っている?」彼女はまた尋ねた。


 そのエルフの女性は長く沈黙した。


 長く、タナトスが思わず頭をかくほどに。長く、アマラートが無意識にモーリガンのそばに寄るほどに。


「……彼女が言ったの」


 その声はとても軽い。


「私に虹蛇を追いかけろって」


 モーリガンの呼吸が止まった。


 スタシスが彼女に行かせた?


 それではスタシス自身は?


 彼女は口に出さなかった。


 なぜなら、そのエルフの女性がうつむいて濡れた自分の指を見つめ、自分に属さない涙を見つめ、その目に茫然自失だけがあるのを見たからだ。


 彼女は自分が何を泣いているのか分からない。


 自分がなぜここに立っているのか分からない。


 それでも彼女は来た。


 スタシスの代わりに。


 モーリガンはそれ以上問わなかった。


 彼女はただ月明かりの下に立ち、このスタシスの顔を使う女を見つめ、茫然と涙する彼女を見つめ、どうしていいか分からず指を握りしめる彼女を見つめた。


 髪は乱れている。


 涙は本物だ。


 あの言葉も本物だ。


 あなたはスタシスじゃない。


 でもあなたは彼女の代わりに私を探しに来た。


 彼女の代わりにここまで追いかけた。


 彼女の代わりに涙した。


 夜風が墓地を吹き抜け、祭りの残り火の匂いを運ぶ。


 遠くで、焚き火はまだ燃えている。


 そしてここで、誰も予想しなかった対峙が、今まさに始まろうとしている。


 誰も答えを知らない。


 しかし少なくとも、彼女たちは皆、同じ一人を探している。

この儀式、実は色んな作品を参考にしているんです。関連する映画やドラマをご覧になった読者の方なら、たくさんの作品を思い浮かべられるんじゃないでしょうか。儀式を具体的に描く映画って、どれもどこか心理ホラー的な要素があって、私、そういう不気味な雰囲気がすごく好きなんです。でも、私が書く儀式は、なんだかもう少し楽しげな感じになっちゃいますよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ