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痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
長夜将明

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第七十七章

「見ろ、ちゃんと助け出したぞ?小羊」


 タナトスは洞口を出るなり、自慢げに言った。その口調には誇らしげな意味が込められている。


「あ、あんた……いつ中に入ったんだ?」


 オネリは彼を見て、明らかに呆けた。


「えーと……」


 タナトスは首をかしげて考えた。


「時間の感覚があまりないんだ。ほんの数分前?」


「じゃあ、そちらの方はどなたです?」


 ヘマリスの視線はパシュースに注がれ、警戒した口調で尋ねた。


「彼女が迷宮の奥にいた方だ」


 タナトスは横に避けて道を開けた。


「パシュースだ」


 パシュースはその場に立ち、タナトスも、質問したヘマリスも見なかった。


 彼女は誰かを探していた。


 視線はその場にいる全員をなぞり——最後に、気を失った少女を抱く人物で止まった。


 病気にならないあの者。


 洞窟の中で自らの目で確かめた事実だ。


 パシュースはすぐに近づかなかった。


 ただ見つめていた。あの者が抱く少女をしっかりと守り、背筋を張り詰め、いつでも飛びかかろうとする獣のような姿勢を。


 面白い。


 彼女は視線を外し、他の者に向けた。


「記憶の神の欠片、愛の神の欠片、悪夢の神の欠片、孤独の神の欠片……」


 彼女は一人ひとり見分けていく。その口調は数を数えるように淡々としている。


 そして彼女は手を差し出した。


「この力を収めさせてもらおう」


 掌を傍らに縮こまるケーリスに向ける。


 次の瞬間、ケーリスの身に現れていたあの異常な赤みが、目に見える速さで退いていく。


 影の生き物の体が激しく震え、そしてぐったりと地面に崩れた。胸の星の渦が再び微かな光を灯す。


 彼女はさらにカリオペに向き直る。


 あの腫れ物、膿瘍、爛れた皮膚もまた、同じように癒えていく。


 まるで何かがそれらの傷口から吸い出され、パシュースの体内に戻っていくかのようだ。


 カリオペがはっと目を開けた。


「うっ!」


 彼女は大きく息をし、すぐに傍らのヘマリスを抱きしめた。


「太って君に追い出される夢を見た!あれは病気だって——本当に怖かった!」


 ヘマリスは硬直した。


 オネリは首をすくめ、小声で言った。


「ごめんね、私の悪夢が影響しちゃって……」


「いいや、むしろ感謝してるよ」


 カリオペはヘマリスの肩に顔を埋めた。


「これで、自分がどれだけヘマリスから離れられないかよく分かった」


「うん……」


 ヘマリスの耳の先が赤くなった。


「べ、別にそんなこと、今言わなくてもいいだろ、カリー」


 パシュースはこの光景を見て、口元が微かに動いた。


「愛は、記憶だけを好きになるのか?」


 彼女は小さく呟く。


「まあいい、これが欠片の限界というものか」


「ということは……」


 いつの間にか近づいていたタナトスが声を潜め、詮索好きな興味を込めて言う。


「彼女は昔、みんなのことが好きだったってことか?」


 パシュースは彼を一瞥した。


「昔の彼女は、全ての神に告白していた」


 彼女の声はとても軽い。


「誰とでも、良い時間を共に過ごしたことがある。私も含めてな」


 タナトスは瞬きをした。


「つまり、俺も彼女を愛したことがあるのか?それは悪くないな。彼女、結構魅力的だし」


「それは彼女のパッシブスキルだ、小僧」


 パシュースの口調は淡々としている。


「ただ、病気や死を象徴する我々を愛することは、彼女にとって苦痛だった。だから私と彼女の関係は、手を繋いだ程度で終わった」


「じゃあ、俺はどうなんだ?」


「お前?」


 パシュースは彼を上下に眺めた。


「昔のお前は、彼女に告白されただけで、その後は一度も相手にされなかった」


「え?」


 タナトスの表情が曇った。


「なぜだ?そんなに俺に魅力がなかったのか?」


 パシュースは数秒間彼を見つめ、答えなかった。


 彼女はただもう一度、あの気を失った少女を抱く者を見た。


 そして視線を戻し、ヘマリスに向き直った。


「ヘマリスは、今もヘマリスと名乗っているのか」


 彼女は言った。


「どうやら、まだ自分の名前を覚えているのはお前だけのようだな。だが、お前が愛とあんなに親しくしているとは、想像しがたい」


 ヘマリスは一瞬呆けた。


「彼女たちにも、何か大変なことがあったのか?」


 タナトスがまた近づいてくる。


 パシュースは彼を一瞥した。


「お前は本当に詮索好きだな」


「気になるんだよ」


 パシュースは一瞬間沈黙した。


「たぶん、記憶が思い出した時に、自然と見えるだろう」


 彼女の声が低くなる。


「私自身、いくつかの記憶の印象は、昔ほど鮮明ではない」


「では、なぜ俺のことだけはそんなにはっきり覚えているんだ?」


 タナトスは首をかしげた。


 パシュースはすぐには答えなかった。


 彼女はタナトスを見つめる。その濁った目に、微かな光が一瞬走った。


「お前は、我々のような凡人の好まない力を司る神の中で、最も口数の多い者だったからだ」


 彼女はようやく言った。


「お前を見ると、嫌な記憶が次々と蘇る。まさかお前がただの記憶を持たない欠片だとは、信じがたい」


 タナトスはそれを聞き、口元がゆっくりと緩んだ。


「それはいいな」彼は言った。


「何がいい?」


「少なくとも誰かが俺のことを覚えている」


 タナトスの口調は依然として軽いが、その目つきは少し違っていた。


「俺自身も覚えていないことを、お前は覚えている。面白いじゃないか」


 パシュースは一瞬呆け、それから視線を逸らした。


「馬鹿らしい」


 彼女はそう言って、また無意識にアマラートの方に目を向けた。


 あの女はまだモーリガンを抱き、微動だにしない。


 パシュースはその方角を見つめ、それ以上何も言わなかった。


 ◇◇◇


 モーリガンが目を覚ますと、最初に目に入ったのはアマラートの顔だった。


「御身」


 アマラートの声は少し掠れている。


「お目覚めですか」


 モーリガンは瞬きをし、視界が徐々にはっきりする。


 彼女はタナトスを見、ヘマリスとカリオペを見、まだ木の幹のそばに縮こまるオネリを見、傍らにうずくまるケーリスを見た——そしてもう一人。


 見知らぬ少女が、数歩離れたところに立ち、静かに彼女を見つめている。


 その目つきは奇妙だった。彼女を見ているのではなく、彼女とアマラートの間を見ているようだった。


「あなたは……」


 モーリガンが口を開く。声は嗄れている。


 少女が一歩近づく。


「パシュース」


 彼女は言った。


 そしてアマラートを一瞥し、再びモーリガンを見た。


「あなたの従者か?」


 モーリガンは一瞬呆け、うなずいた。


 パシュースはそれ以上尋ねなかった。


 彼女はただもう一度アマラートを見て、数歩後退し、場所を空けた。


「起きたなら、それでいい」


 彼女は背を向け、傍らへ歩いていき、岩に腰かけた。


 もう何も言わない。


 モーリガンは彼女の背中を見つめ、少し困惑した。


 タナトスが近づき、声を潜める。


「気にするな。彼女はああいう奴だ。さっき洞窟の中では殺し合いまでやってたのに、出てきたらどうしてもついてきた。小娘の気持ちってやつは、読めないものさ」


 オネリが傍らから毛むくじゃらの頭を覗かせる。


「小娘だって?彼女、私よりずっと大人に見えるけどな」


「それは見た目だけだ」


 タナトスは気軽に答えた。


 モーリガンは答えない。


 彼女はただ岩に腰かけるその影を見つめている。あの濁った、古びた、まるで無数の時代を内包したかのような目を。


 その目は、アマラートを見つめている。


 ◇◇◇


 ケーリスは力を取り戻し、影で一行を村へと運んだ。


 村の様子はすっかり変わっていた。先まで息も絶え絶えだった病人たちは、今では起き上がれるようになり、歩き出す者さえいる。


 医者の顔の疲れは、信じられないという驚きに取って代わられた。


 彼はモーリガンを見るなり、二言もなく彼女を受け取り、素早く注射を打った。


 誰も、パシュースがやったことだとは言わなかった。


 タナトスは傍らに立ち、忙しなく動く人々を見つめている。


 パシュースが彼のそばに歩み寄る。


「あの人」


 彼女は遠くでモーリガンの傍らにいるアマラートを見つめる。


「ずっとああなのか?」


「どういう意味だ?」


「片時も離れずに」


 タナトスは彼女の視線を追い、頭をかく。


「確か……彼女を知った時からそうだ。忠実だな」


 パシュースはそれ以上何も言わなかった。


 彼女はただそこに立ち、病気にならないあの人を、あの人が守る人を見つめていた。


 長い時間が経って、彼女は自分だけに聞こえる声で静かに言った。


「なるほど」


 夜風が吹き抜け、久しぶりの涼しさを運ぶ。


 パシュースは顔を上げ、遠くの空を一瞥した。


 そこには何もない。あるいは、何かが近づいているのかもしれない。


 しかし彼女は誰にも言わなかった。


 ただ視線を戻し、村へと向かって歩き出した。


 背後から吹く夜風の中、何かが微かに動いている。


 とてもゆっくりと、とても静かに——長く待ち続け、ついに待つのをやめると決めたかのように。

旧き神の記憶を宿す欠片は、世界観を補う上で重要な鍵になりますよね。それに彼女と死神の関係、なかなかCP感があると思いませんか?(もちろん、わざとですよ。だって、病気が重すぎれば、死はすぐそこまで来ているでしょう?)

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