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痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
長夜将明

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第七十二章

 二人の間に、数秒の沈黙が流れた。


「ずっと黙ってるってことは、こっちから話を振ってほしいのか?」


 その女が声を変えた。今度は、幼い子供のような声音だ。


 スタシスはようやく口を開いた。


「お前は誰だ?」


「誰にでもなれる」


 女は若い男の声で答えた。


「でも明日は、お前の夫を演じるつもりだ」


「私がお前と結婚しないことくらい、分かってるだろう」


「分からないな」


 彼女は首をかしげた——その動作は誰かから借りてきたもののようだが、すぐに肩が動き、また別の誰かの癖が現れる。


「だからここへ来て、それを伝えに来たのか?」


 スタシスは彼女をじっと見つめた。


「そんな話し方、互いにとって何の得にもならないぞ、お嬢さん。お前が俺の名前を知っているなら、俺もお前の名前を知るべきだ」


 女は一瞬、沈黙した。


 あの絶え間ない小さな動作が、ほんの少しだけ止まった。


「そこまで固くなるなら……」


 今度は、老婦人のゆったりとした声だった。


「エコーと呼んでくれ。少なくともこの名前は、まだ独り占めできているからな」


 スタシスは彼女を見つめた。


「じゃあ、エコー」


 彼女は尋ねた。


「なぜ小さな王子に化けている?目的は何だ?」


 その言葉と同時に、彼女はあることに気づいた。


 エコーの小さな動作が止まっている。


 固まっているのではない——抑えているのだ。彼女の手は固く握りしめられ、何かを必死に制御しているかのようだ。


 絶えず変化していた瞳孔も、一時的に一つの形に固定されている。


 スタシスはその時気づいた。拳を握りしめていたのは、自分自身の方だった。


 エコーは、完全に不完全な存在だ。


 混乱して秩序なく、常に変化する。


 永遠に調和しない身体つき、永遠に安定しない容貌、永遠に固定されない声。


 その全ての細部が「不完全さ」を叫んでいる。


 そして自分は、目の前のこの存在を美化したい衝動を、必死に抑えているのだ。


「じゃあ、お前こそ何の目的で俺に会いに来たんだ?スタシス」


 エコーの声が変わり始める。


 少しずつ、少しずつ、スタシス自身の声になっていく。


 その容貌も変わっていく。


 言葉が終わる頃には、エコーはもう一人のスタシスになっていた。


 月光の下に立つ、二人のまったく同じ女。


 スタシスの心臓が激しく跳ねた。


 あの感覚がまたやってきた——自分の顔に対する、本来あるべきではない愛おしさ。


 やはり、あのピンクの雨のせいだけではなかったのだ。


 彼女はカリオペを思い出し、あの雨に増幅される渇望を思い出した。


 しかし今、雨は降っていない。


 ただ、自分自身だけがいる。


 やはり、家族になれたのにも理由はあるのだ。


 母の母が自分の息子と交わり、母は自分を妻にしようとしている。


 そして自分は……自分自身を愛している。


 まったく、際限のないエルフの一族だ。


 理性が頭の中で必死にツッコむ。


 しかし鼓動は偽れない。


「自分への愛は、そういう方向だったのか?」


 エコーが彼女の声で言った。


 その声、その姿、目の前に立つ存在——あまりにも似すぎている。


 自分が向かいに立っているのか、他人が立っているのか、ほとんど見分けがつかないほどに。


「な、なぜそれを……」


 彼女の声が震える。


 必死に抑えているのに。


「俺がお前を模倣したからだ」


 エコーが一歩近づく。


 スタシスになったその目の中で、瞳孔がまた変わり始める——円形から逆三角形へ、錯覚のように速く。


「だからこの不規則な鼓動が聞こえる。お前がどんな状態なら、俺も同じ状態になる」


 彼女は一瞬間を置く。


「生きた人間の模倣ってのは、こういうところが自由にならないんだ」


「戻れ」


 スタシスの声が冷たくなる。


「俺がお前の姿になるのを許した覚えはない」


「おおお」


 エコーは戻らない。


 彼女はむしろ首をかしげた——その動作はスタシスの癖で、エコーが完璧に真似ている。


「拳を握りしめてたのは、俺が最も最も最も不完全なものの具現化だと思ったからか?」


 その声に、からかうような響きが混じる。


「なら、なぜ俺がお前の言うことを聞かなきゃいけない?」


 スタシスは深く息を吸い込んだ。


「俺に協力してほしいんだ。それでいいか?」


「協力?」


「アイセロンは本当に空のエルフの増援を必要としている」


「なぜだ?」


「お前には俺の記憶が見えないのか?」


「そんな能力はない」


 エコーは肩をすくめた。


「俺ができるのは、お前とお前の状態を模倣することだけだ。お前の心や頭の中で何を考えているか、記憶が何かなんて、俺には関係ない」


 スタシスは密かに息を吐いた。


 やはり、ヘマリス以外の神の欠片にはこういう能力はない。


 さっきの問いは、ただ確認しただけだ。


「戦争が起きている」


 彼女は言った。


「前奏はもう鳴った。たとえ今止まっても、遅かれ早かれもっと大きなクライマックスを迎える」


「つまり、どこかで戦いが始まってるのか?」


「そうだ」


「でも、それが俺と何の関係がある?」


「それはお前に聞きたいんだ、エコー」


 スタシスは一歩前に出て、彼女の手を掴んだ。


 エコーが明らかに戸惑った。


 あの絶え間ない小さな動作が、また一瞬止まった。


「エイロスは病弱で、畸形で、地位も最低だ」


 スタシスはそのカラフルな目をじっと見つめる。


「もし彼に『王子』という身分がなければ、生まれた時に処分されていただろう。彼の唯一の価値は政略結婚だ」


 彼女は一瞬間を置く。


「そしてお前が唯一狙えるものは、これしかないだろう?」


 エコーは答えない。


 瞳孔がまた変わり始める——円、逆三角形、菱形、まるで音のない歌のように。


「ただ、ちょうど俺がここに来た時に彼が死んだだけだ、スタシス」


 彼女の声はあの幼い子供の声に変わっていた。


「今の俺の姿に惑わされるなよ。お前は俺と結婚しないって言ったんだからな」


 スタシスは手を離そうとした。


 しかしエコーが逆に彼女の手を握った。


 そのまま身をかがめ、スタシスの手の甲に口づけた。


 その動作はとても軽く、とても優しく、どこかの貴族の令嬢から学んだかのようだ。


 しかしその目は笑っている。


 スタシスは固まった。


「それに、スタシス——」


 エコーが顔を上げた。


「これが何か、教えてくれないか?」


「ティン——」


 一声の軽い音。


 スタシスは自分が動けなくなっているのに気づいた。


 彼女の瞳孔が激しく収縮した。


 ありえない。


 これは彼女の能力だ。


 美好な瞬間を静止させる彼女の能力。なぜ——


「動けなくなったか?すごいな」


 エコーは彼女の手を離し、彼女の周りを一周した。


 そのカラフルな目に満ちているのは、ただの好奇心だ。


「どうやらお前も神の欠片だったんだな。もし俺がこの能力を手に入れたら、こんなに辛抱強くここに隠れている必要もなくなるんじゃないか?」


 隠れる?


 エコーは誰から隠れている?


 スタシスの指が動き始める——これは彼女の能力だ。たとえ逆に使われても、彼女の方が早く回復する。


 彼女は苦労して手を上げ、自分の目を手のひらで覆った。


「ティン——」


 また一声の軽い音。


 今度はエコーが止められた。


 そのカラフルな目が大きく見開かれている。瞳孔はハート形で固定され、微動だにしない。


「お前が何から隠れていようと、エコー」


 スタシスは彼女の前に歩み寄り、動けないその目をまっすぐ見つめる。


 彼女は一瞬間を置く。


「教えてくれ。俺には解決する力がある」


 エコーの目だけが動く——目だけは動かせる。


 ハート形の瞳孔がゆっくりと円形に変わった。


 そしてまた、逆三角形に変わった。


 まるで考えているかのように。


「いい……いいだろう」


 彼女の声はとても軽く、歯の間から絞り出すように。


 スタシスは手を上げ、手のひらでエコーの目を覆った。


 エコーが自由を取り戻した。


 あの小さな動作がすぐにまた始まる——彼女の指が無意識に窓枠を叩き、肩が上がり、左足が外側に出る。


「俺は二つのものから逃げている」


 彼女は言った。


「空のエルフと、虹蛇コウダだ」


「虹蛇?」


「古い存在だ」


 エコーは窓辺に歩き、月明かりが彼女の絶えず変わる顔を照らす。


「そいつが長年、流雲城を悩ませている。空のエルフは死体を差し出すことで、奴と平和に共存している」


 スタシスの眉が寄る。


「本当の小さな王子はもう死んでいる」


 エコーは続ける。


「彼らが最後に差し出した死体が、彼だった。しかし虹蛇は知らない——死体がなくなったことだけを知っていて、空のエルフが騙したと思った」


「それでお前に怒りを向けたのか?」


「完全にそういうわけじゃない」


 エコーは振り返る。そのカラフルな目の中で、瞳孔がハート形になった。


「俺は別の村で、虹蛇に生贄として捧げられるはずだった一人の人間を救った」


「生贄?」


「あいつらは虹蛇を瑞兆だと思っている」


 エコーの声は老婦人のものになり、ゆっくりと語り始める。


「鮮やかな赤い肌に白い模様。どう見ても神獣だ。だから毎年、一人を奴に捧げている」


「その人を助けたのか?」


「そうだ」


 彼女の声はあの中性的な声に戻る。


「その人は……俺がこんな姿になってから、唯一『お前の声はきれいだ』と言ってくれた人だ」


 そのカラフルな目に、何かが一瞬走る。


「だから彼女を死なせなかった。連れ出して、虹蛇の見つからない場所に隠した」


「それで?」


「それでその年の生贄が途絶えた」


 エコーは言う。


「虹蛇は生贄を待ち続け、調べていくうちに見つけた——俺がやったってことを」


「奴はお前が契約を破ったと思ったのか?」


「そんなところだ。奴は俺が誰かも、なぜその人を助けたかも気にしない。ただ毎年一人捧げられていたのに、その年はなかった。そして俺が、その生贄を消したものだってことだけを知っている」


「だからお前を追い始めた」


「そうだ」


 スタシスは一瞬間沈黙した。


「じゃあ空のエルフは?なぜお前を捕まえようとする?」


「俺はここに長く隠れていた」


 エコーは言う。


「時々、誰かの姿になって外を歩いた。ただ見るだけだ。近づかず、話さず」


 彼女は一瞬間を置く。


「でもある日、街の東を歩いている時に、街の西の方で誰かが『見た』って叫んだ」


 スタシスは眉をひそめた。


「同時に?」


「そうだ」


 エコーの声に、初めて疲れが滲んだ。


「俺には分からない。明明、一か所にしか現れていないのに、別の場所でも俺を見たって言うんだ。まったく同じ顔で、まったく同じ服で」


「それで?」


「それでパニックが始まった」


 エコーは窓辺に歩き、月明かりが彼女の絶えず変わる顔を照らす。


「一人が言い、十人が言い、百人が言う。最後には流雲城中が知ってしまった——『同じ顔の人間』が別々の場所に同時に現れるって」


「お前に模倣された人たちは?」


「彼らは俺を見たことがない」


 エコーの声はあの幼い子供の声に変わった。


「でも彼らは怖がっている——自分と同じ顔の人間が、何か不吉なものなんじゃないかって」


 スタシスは一瞬間沈黙した。


「つまり空のエルフが捕まえようとしているのは、この『不吉なもの』ってわけか?」


「そうだ」


 エコーの答えは早い。


「彼らは誰も流雲城を出入りさせなくなった。俺を捕まえるために」


「じゃあなぜ説明しない?」


 エコーは首を動かした——その動作も、また誰かから借りてきたものだ。


「誰に説明するんだ?」


 彼女は尋ねた。


「自分の孫が死んだことさえ信じたくない外祖母に?それとも『同意します』としか言わない領主に?」


 スタシスは何も言わない。


「彼らに真実なんて必要ないんだ、スタシス」


 エコーの声はあの老婦人のものに変わった。


「彼らが必要なのは、全てのパニックを説明するための『不吉なもの』だけだ。その不吉なものが本物かどうかなんて……誰が気にする?」


 窓の外を雲がゆっくりと流れる。


 月明かりが二人の「スタシス」を照らしている。


「もし……」


 スタシスがようやく口を開いた。


「もし俺がこの二つを片付けてやったら——虹蛇と、空のエルフの追跡——俺を助けてくれるか?」


 エコーの瞳孔が変わった。


 逆三角形から、ハート形に変わった。


 また円形に変わった。


 まるで聞き間違いかどうか確かめているかのようだ。


「何て言った?」


「虹蛇は、俺がどうにかしてもうお前を追わなくさせる」


 スタシスは彼女をまっすぐ見つめる。


「空のエルフの方も、お前の疑いを晴らしてやれる」


 彼女は一瞬間を置く。


「どうだ?」


 エコーはすぐには答えなかった。


 あの小さな動作がまた一瞬止まった。


 彼女はスタシスを見つめている。そのカラフルな目の中で、瞳孔が変わる速度が遅くなった。


 ほとんど止まるほどに遅く。


「本気か?」


「冗談は言わない」


 エコーは彼女を見る。


 自分とまったく同じこの女を。


 明確な自我を持ち、完璧を追求し、自分自身を愛するこの女を。


 そして自分は、自分が誰なのかさえ忘れている。


「なぜ俺を助けるんだ?」


 彼女の声はとても軽い。もう誰の模倣でもない。


 彼女自身の声だ。


 スタシスは一瞬間沈黙した。


「なぜなら」


 彼女は言う。


「お前にも、自分だけの居場所が必要だからだ」


 エコーの瞳孔が止まった。


 一つの形に固定された。


 ——ハート形だ。


 彼女は手を上げ、自分の目を指した。


「これ」彼女の声は少し掠れている。「教わるのにどれくらいかかる?」


 スタシスは一瞬呆けた。


 そして、彼女の口元に極淡い弧が浮かんだ。


「自分を見つけた時に、な」


 エコーは答えない。


 あの小さな動作がまた動き始める——でも今回は、ずっと遅くなっている。


「取引成立だ」


 彼女は手を差し出した。


 スタシスはそれを握った。


 月明かりの下、二つのまったく同じ影が、彼女たちの間の約束を結んだ。

エコーの能力、かなりヤバいですよね?もうお気づきの方も多いかと。毎回キャラクターの能力を考えているとき、つくづく思うんです。「ああ、戦闘狂じゃなくて交渉タイプのキャラで本当に良かった…」って。だって、もし本当に戦ったら、誰が勝てるんだって話ですよ(笑)

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