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痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
暗湧く白

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第五十七章

 ベッドに横たわるスタシスは、眠るつもりなどまったくなかった。


 ただ、最も完璧な寝相で、あり得べき視線を欺いているだけだ——呼吸は均一で、ほとんど機械的ですらあり、睫毛は微動だにせず、指先さえもほどよい弛みを保っている。


 しかし頭の中は荒れ狂っていた。夕食時に母が放ったあの言葉の数々が、まるで永遠に追い払えない羽虫の群れのように、意識の隅で渦を巻き、羽音を立てている。


 もし妹が捕まれば、母が決して捕虜の返還を求めに行くことはないだろう。


 その考えがスタシスの胃の奥に冷たい痙攣を広げた。


 そして彼女は、その結果として当然のように王座に座り、最も母の言いなりになる領主となるのだ。


 ——これこそが、彼女にとって最も恐れる結末だった。


 もう二度と、母の嘘に目を曇らされたくない。


 もう二度と、自由を失いたくない。


 ましてや、母の言う「相手が誰でも構わない」人間にはなりたくない。


 スタシスは音もなく目を開け、枕の下から紙とペンを取り出した。


 彼女はどうしても手紙を書かねばならなかった。モーリガンに宛てて。


 助けを求めるために。妹のために。自分のために。


 ペン先が闇の中で震えながら走る——


 ---


「トン、トン、トン。」


 ノックの音が響いた瞬間、スタシスの背筋が凍りついた。


 強すぎず、弱すぎず。早すぎず、遅すぎず。


 まるで彼女の心拍数を正確に測ったかのような間合いだ。


「Tinúviel.(小さな星)」


 母の声が扉越しに聞こえる。春風のように優しく、しかしある種の逃れがたい確信を帯びている。


「I·, eth·? I·, eth·.(この服、どうかしら?)」


 スタシスは手の中の便箋を握りしめた。


 なぜ私がまだ起きていると分かった?


 明明、彼女は呼吸のリズムさえも極限まで落とし、寝返り一つ打たず、心臓の鼓動さえも抑え込もうとしているのに。


 しかし母には分かっている。


 ——なぜなら彼女は、スタシスをあまりに理解しすぎているからだ。


 あんな言葉を聞いた後、彼女が決して安らかに眠れないことを知っている。


 妹を案じる時の、彼女の微かな反応のすべてを熟知している。


 彼女の骨の髄までの完璧主義の頑なさが、一通の手紙を書き終えるまで、すべての感情を心の奥に押し込め、夜明けを待って起きていることを知っている。


 母は誰よりもよく知っている。彼女の娘は、今この瞬間、必ず起きている、と。


 スタシスは視線を落とし、手の中の未完成の手紙を見つめた。


 最悪なことに、肝心なところまで書き終えていない。


 なぜなら彼女は、完璧を求めすぎたからだ——すべてをモーリガンに伝えたかった。あの政変を、あの白光を、母の目を、そしてあの「相手が誰でも構わない」という言葉を。


 彼女にこのすべての経緯を理解させてから、助けを求めようと思ったのだ。


 しかし今は、この手紙を隠すしかない。


 彼女は素早く便箋を枕の下に押し込み、寝巻きの襟元を整え、その扉へと向かった。


 扉が開かれた瞬間、蝋燭の光が流れ込んだ。


 アイランサーが光の中に立っている。その身にまとうのはスタシスが見たことのない寝巻き——絹の生地が仄かな光を放ち、襟元は深く開き、腰元は絞られ、母としての曲線をあらわにしている。


「I·, eth·, Tinúviel.(やっぱり私を待っていてくれたのね、小さな星)」


 アイランサーは手を上げ、そっとスタシスの肩に置き、身体を少し前に傾ける。


 温かな吐息がスタシスの耳元を撫でる。ほのかな香料の甘さを帯びて。


「I·, eth·? I·, eth·, eth·.(どう?この服、似合うかしら?)」


 スタシスの喉が、苦しげに動いた。


「Naneth.(母さん)」


 彼女は必死に声を落ち着けようとする。


「I·, eth·, eth·. I·, eth·, eth·. A i·, eth·, eth·.(その服は少し無礼です。もっと適切なものに替えてください。それにこの柄は合っていません)」


「I·, eth·?(そうかしら?)」


 アイランサーは軽く笑い、指先で自分の腰の線を撫でた。その動作はゆっくりと、ほとんどわざとらしいほどに。


「I·, eth·, eth·. I·, eth·, eth·, eth·. I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·.(だってこれが今の私が着られる一番色っぽい一枚なのよ。あなたの二人の父親が亡くなってから、こんなに身体の線が出る服は着ていなかったもの。柄が合わない?彼らが粗野すぎたせいよ)」


「Naneth!(母さん!)」


 スタシスの声に、ついに震えが混じる。


 彼女はもちろん、アイランサーがこんな格好で夜中に訪ねてきた意味を理解している。


 彼女はもう最も慎重な言葉遣いで、この母娘関係の体裁を保とうと必死だ。


 しかしアイランサーはなおも、一歩一歩迫る。


「I·, eth·, Tinúviel. I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(時間も遅いです。戻ってお休みください。私も寝ますから)」


「Manen i·, eth·?(どうしてそんなに私を追い出したがるの?)」


 アイランサーは後退するどころか、かえって一歩前に進み、裾がほとんどスタシスの足先に触れそうだ。


「I·, eth·, Tinúviel. I·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(ただ、あなたが小さかった頃、一人で寝るのが怖かった時みたいに、眠るまでそばにいてあげようと思っただけよ。寝たら、私は去るわ)」


「I·, eth·, naneth.Ú·, eth·…(私はもう子供じゃありません、母さん。そんな必要は……)」


「Latha.(いいから)」


 アイランサーの声は相変わらず水のように優しい。しかし、岩のように揺るぎない重みを帯びている。


「I·, eth·. A i·, eth·im.(ベッドに横になりなさい。そして、私を抱きしめるの)」


 スタシスの瞳孔がわずかに縮まった。


 また、この命令だ。


 また、この抗えない口調だ。


 これは一体、どういうことだ?


 自分は本当に、心から従っているのか?


 しかし彼女の身体は、考えるより先に動いていた。


 彼女はベッドに向かい、横たわり、そして腕を伸ばす——子供の頃に何度もそうしたように——母を胸に抱き寄せる。


 頬がその温かい胸に触れた時、彼女はほとんど自分の心臓の音が聞こえるようだった。肋骨を打ち砕かんばかりに重く、耳をつんざくほどに。


「I·, eth·, Stassë.(いい子ね)」


 アイランサーの指が、そっと彼女の髪を梳く。壊れやすい宝物を撫でるかのように優しく。


「A i·, eth·, eth·——manen i·, eth·i·, eth·?(さあ、教えてちょうだい。どうすれば私があなたの子供を宿せるの?)」


 スタシスの身体が完全に硬直した。


「Naneth.(母さん)」


 彼女の声は母の胸に埋もれ、掠れてほとんど聞き取れない。


「Manen i·, eth·?(なぜそこまでなさるのです?)」


 目尻が熱くなる。火が燃えているかのように。


 彼女は知っている。完璧を求める者には、あまりに激しい感情の揺れは許されない。これは母が幼い頃から教え込んだ掟だ。


 しかし今、あのかつての温もりが——


 幼い頃、この母の胸に抱かれる温もりは、彼女にとって最も大切な宝物だった。こうして抱きしめられるたびに、彼女は何日もこっそりと喜びに浸れたものだ。


 そして今……


 彼女はただ、吐き気がする。


 母に対してではない。


 自分自身に対して。


 自分がまだ、無意識に従ってしまうこと、とっくに変わってしまい、腐りきったその温もりに、本能的にすがりついてしまうことに。


「I·, eth·, Tinúviel.(あの小さな王子のことを覚えてる?)」


 アイランサーの声が頭上から聞こえる。相変わらず優しく。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·?(どうして彼の翼が生まれつき欠けていたか、聞いたことある?)」


 スタシスは答えない。


 母の指がなおも彼女の髪を梳くのを感じる。一度、また一度。梳くというより、測っているかのようだ。


 そしてその手が彼女の背中に滑り、軽く叩きながら撫でる。


 子供の頃、眠りを誘うのと同じリズムで。


「I·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(それはね、彼が私の母と私の弟の間に生まれた子だからよ)」


 スタシスの呼吸が止まった。


 瞳孔が針に刺されたように激しく縮まる。


「I·, eth·, Tinúviel.(だから、これらすべては、私の母が私に教えたことなの)」


 アイランサーの声は、背筋が凍るほど平静だ。


「Ir i·, eth·, i·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·, eth·.(あの座がまだ自分のものである限り、どんな手を使ってでも永遠に自分のものにしなさい)」


 彼女は一瞬間を置き、指先でそっとスタシスの顎を支え上げ、無理やり顔を上げさせる。


 その目が彼女を見下ろしている。瞳の奥で蝋燭の火が揺れる。まるで決して消えることのない二つの鬼火のように。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·.(私の弟は領主の座を継いだ後、誰をも愛さなくなった。彼自身、愛しているのは母だけだと言ったからよ)」


 スタシスの唇が、勝手に震え始める。


「I·, eth·, eth·, eth·.(残念だけど、あなたの父はあなたが生まれてから、もう子供はいらないと言い出した)」


 アイランサーの親指が彼女の頬を撫でる。まるで陶器の埃を拭うかのように優しく。


「A i·, eth·——i·, eth·, eth·.(そしてあなたは、女の子。私にそんな恋愛感情を持つはずもない)」


 彼女は軽く笑った。その笑い声は虚ろで、何の温もりもない。


「Mal i·, eth·, eth·. I·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(でも、それだけが私があなたの父を憎んだ本当の理由じゃない。一番決定的だったのは、彼が口癖のように唱えていたあの馬鹿げた理想よ)」


 スタシスはそれが何かを知っている。


「エルフ族を団結させ、一つの国家にする」


 彼女は自分の声がそう言うのを聞いた。砂利から絞り出したように乾いて。


「Nan, Tinúviel. I·, eth·.(そうよ、まだ彼の馬鹿げた考えを覚えていたのね)」


 アイランサーの指がスタシスの頬の横で止まり、少し力を込める。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·? I·, eth·, eth·, eth·——mal i·, eth·, eth·, eth·.(彼がそれを成すのにどれだけの危険を冒すことになるか、あなたに分かる?私は名目上すべてのエルフ族の共主になれるけれど、それはつまり、私の母が二度とこの権力に手を出せなくなることを意味するのよ)」


 彼女の声が低くなった。まるでようやく、深く埋められた、誰にも見せたくなかった傷口に触れたかのように。


「I·, eth·, eth·, Tinúviel? I·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(なぜ私が一度もあなたを空のエルフの流雲城に連れて行ったことがないか分かる?あなたは、私の母がどれほど恐ろしく、どれほど狂っているかをまったく知らないからよ)」


 彼女は一瞬間を置き、腕を少し締める。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·, eth·.(私が自ら翼を断ったことは、彼女には辛うじて許せても、彼女にとってそれは、私が彼女の命令に従わないと宣言したに過ぎなかったのよ)」


 スタシスは、母の腕がさらに強く締まるのを感じる。まるで徐々に閉まる枷のように。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·.(だから私は共主になるのが怖かった。たとえそれが私にとって一番欲しいものであっても)」


 彼女の声にようやく、一筋の波紋が生まれた——それはスタシスが一度も聞いたことのない、ほとんど脆さに近い震えだった。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(カルロスを誘惑したのは、あの言うことを聞かない勝手な奴を彼に始末させるためよ)」


 スタシスの心臓が激しく縮まった。


「Mal i·, eth·? I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·. A i·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(でもカルロスは?彼はあれが最良の友だ、彼の理想を支えたいと言いながら、ずっと私との距離を保っていた。明明、彼の目は私を欲しがっていた、燃え上がらんばかりに欲しがっていたのに)」


 彼女は軽く笑った。その笑い声にようやく、本当の疲れが滲み出る。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·.(でも、あの瞬間に現れた得体の知れない白色の電流には感謝すべきかしら)」


 スタシスの呼吸が再び止まった。


 あの白光。


 また、あの白光だ。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(それは私が望んだすべてを代わりにやってくれた。まるで神様がようやく私の祈りを聞き届けたかのように)」


「A i·, Tinúviel——(そしてあなた、私の小さな星——)」


 アイランサーは両手でスタシスの頬を包み、その顔を上げさせ、自分と向き合わせる。


 その目は今、ある種の奇妙な光で満ちている——それは熱狂であり、満足であり、ついにすべてを吐き出せるという解放感だ。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·, eth·. I·, eth·, eth·, eth·.(あれから格別に従順になったあなたは、なんと神に選ばれた者だった。私は狂喜したわ)」


 彼女は身をかがめ、額を娘の額に当てる。吐息が重なる。


「I·, eth·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·. I·, eth·, eth·, eth·.(たとえカルロスが私に息子を残さず、頑固で幼い娘だけを残しても、私は諦めた。あの白色の電流がもたらした狂気も、耐えた)」


 彼女の唇が、ほとんどスタシスの口元に触れんばかりに。


「Ir i·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·?(あなたが子供を残してくれさえすれば、私がその後彼と交わっても、同じように結構なこと)」


 スタシスの瞳孔が激しく震える。


 彼女は信じられなかった。これらの言葉が母の口から流れ出るなんて。


「Mal i·, eth·——i·, eth·, eth·.(でもあなたは、ずっと結婚しようとしなかった)」


 アイランサーの声に、ついに本当の怨みが滲み出る。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·. Mal i·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(最初は確かに、あなたが選り好みしすぎるのだと責めた。でもその後、他種族の者から一つの言葉を聞いたの——同性愛)」


 彼女の目が輝いた。まるで暗闇に突然灯された二つの灯りのように。


「I·, eth·, Tinúviel. I·, eth·——manen i·, eth·, eth·?(その瞬間、私ははっきりと分かった。そうだわ、なぜ私が異性でなければならないと固執していたのだろう?)」


 彼女の手がそっとスタシスの頬を撫で、指先が顎の線に沿ってゆっくりと滑る。


「Ir i·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·?(完璧を求めるあなたが、子孫を残す方法で、ただ一方の役割だけを務めるなんて、絶対に我慢できないでしょう?)」


 彼女は一瞬間を置き、その目がスタシスの目を捉えて離さない。


「I·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·?(あなたが旅立ったのは、女性が好きだから、あの婚約を断ったからじゃないの?)」


 スタシスは口を開きかけたが、声が出ない。


 喉が何かで塞がれたようだ。


「I·, eth·, Stassë——(だから、スタシス——)」


 アイランサーの指が強くなり、彼女の顔を固定し、その目から逃れられなくする。


「I·, eth·, eth·. I·, eth·, eth·. A i·, eth·, eth·——i·, eth·, eth·, eth·.(早く私を愛しなさい。私にそんな特別な気持ちを抱くのよ。そして私に神の子を宿させ、永遠にこの王座に座らせて)」


 彼女は口づけた。


 スタシスは避けなかった。


 避けたくないのではない。


 身体が完全に麻痺したのだ。すべての骨を抜かれたかのように、ただ形だけの抜け殻と化して。


 唇が触れ合った瞬間、一陣の刺すような冷たさが背筋を駆け上がった。まるで全身を氷の底に沈められたかのように。


 しかし彼女は抵抗しなかった。


 なぜ?


 なぜ自分はどうしても抵抗できないのか?


 あの手はまだ、枕の下の便箋をしっかりと握りしめている。


 紙の端はもう汗で濡れ、揉み潰された心のようにくしゃくしゃだ。


 彼女は目を閉じた。


 涙が目尻から滑り落ち、頬を伝って流れ、二人の触れ合う唇の間に流れ込む。


 塩辛い。熱い。絶望的だ。


 しかしアイランサーは止めない。


 彼女はただ、より深く口づけた。


 窓の外では、夜風が泣くように軒をかすめる。


 遠くの封鎖線の火の光が明滅する。まるでこの街の最後の息遣いのように。


 その長い口づけがようやく終わった時、アイランサーは顔を上げ、うつむいて身の下の娘を見つめた。


 スタシスの睫毛はすっかり濡れ、一筋一筋に張り付いている。彼女は目を開けず、ただ静かにそこに横たわっている。まるで糸の切れた操り人形のように。


「おやすみ、ティヌーヴィエル」


 アイランサーの声は、いつもの優しさを取り戻していた。まるで先ほどのすべてが何もなかったかのように。


 彼女は立ち上がり、寝巻きの皺を整え、扉へと歩いていく。


 蝋燭の光が彼女の去り際に揺らめき、その影を長く、長く引き伸ばす。


 扉が背後でそっと閉じられた。


 部屋には再び静寂が訪れた。


 スタシスはゆっくりと目を開けた。


 彼女は天井に揺れる光影を見つめ、長く、動かなかった。


 そして、彼女はゆっくりと右手を上げた。


 あの手紙はまだ枕の下にあり、彼女に握りしめられてぐしゃぐしゃだ。


 彼女は便箋を引き出し、胸の上に広げた。


 インクは少し滲んでいるが、まだ文字は読める。


 彼女はその書きかけの言葉を見つめ、唇をそっと動かした。


 音はない。


 ただ口の形だけが。


 モーリガン。


 左腕の断端が、微かな震えを伝える——応えのようにも、無言の問いかけのようにも。


 あなたも、起きているの?


 窓の外からまた鈍い音がする——封鎖線の方角、火の光が再び立ち上る。


 スタシスは横を向き、あの赤く染まった夜空を見つめる。


 彼女の手は、ついにあの手紙を離した。


 便箋が枕元に落ちる。疲れ果てた一枚の落ち葉のように。


 彼女はそれをもう拾わなかった。


 ただ目を開けたまま、静かに窓の外を見つめ続けた。


 東の空が最初の灰色がかった明るさを帯びるまで。

この章はちょっと長めになっていますが、それだけの描写が必要だったからです。ここはスタシスにとって、初めての大きな山場と言えるでしょう。彼女の世界観が崩れ去る中で、彼女が成長していく様子を描きたかったんです。最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

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