第四十五章
塔の頂上に戻ると、スタシスの言った通り、その内部は不気味なほど静まり返っていた。
まるで、あの豪奢な宴など最初から存在しなかったかのようだ。
女神の失踪を本気で気にする者もいない——あるいは、この街はとっくに「彼女」が現れたり消えたりする存在に慣れてしまい、探すことさえ無駄なことと思っているのかもしれない。
宴の後の痕跡は、一絲乱れず清掃されていた。磨き上げられた大理石の床が燭台の火を映し出し、空間はがらんどうで、天蓋の下に自分の呼吸が反響するのが聞こえるほどだ。
「ご覧なさい」
スタシスの声が腕の中から聞こえる。冷徹な諦観を帯びて。
「誰も『女神』の去就など気にしていない。宴から何人消えた?そんなこと、誰が気にするものか。紅色の雨がまだ降っている限り、幻の夢は続く」
「まずは彼女の部屋を探す」
モーリガンはまっすぐ回廊の奥へと歩を進めた。
「あの明かりのついている部屋じゃないですか?」
アマラートがすぐに、半開きの扉の隙間から暖かな灯りの漏れる部屋を指さした。
「随分と目立つな」
「なんか音が変だぞ……モーリガン、あの扉は開けない方がいい」
オネイリの気怠げな声が髪の間から聞こえる。その口調には、しかし明確な警告が込められていた。
「小羊の言う通りだ」
アマラートの耳が敏感にぴくつき、直後に顔色を微かに変え、素早く手を上げてモーリガンの両耳を塞いだ。
「ある種の……音は、お聞きにならない方がいい。近づかれもしない方が」
スタシスが適切に補足する。その口調は、まるで展示を解説するかのように平穏だ。
「宴の後、塔の頂上は一部の賓客に部屋を提供するそうです。私たちが探すべきは、あの明かりのついていない方の部屋です」
彼女は一瞬間を置き、静かに評を加える。
「しかし……ある連中の技量ときたら、嘆息するほど拙劣だ」
「スタシスさん」
アマラートがモーリガンの左腕の紋様を一瞥し、微妙な口調で言う。
「それは御前でおっしゃるべきことでは」
アマラート自身も、今の姿ではもはや人間の年齢を基準に語れなくなった後、どうやらモーリガンだけが、こうした話題に触れるべきでない存在として暗黙のうちに認められているらしい。
無論、彼女たちが何を言っているのか、モーリガンにもわかっている——あの明かりのついた部屋から微かに漏れ聞こえる、粘りつくような甘ったるい音のことだ。
だが今、彼女の思考を占めているのは、それではない。
カリオペの部屋が一体どこにあるのか、ということだ。
さらに深い問いが、彼女の心の中で渦巻いている。なぜカリオペはそこまでヘマリスに執着するのか?
本当にただの「運命」や「烙印の導き」というだけなのか?しかし彼女は「愛」の具現——いや、この街が信仰する「大いなる愛」の神だ。
モーリガンは父の書斎で、その手の存在に関する多くの文献を読んだことがある。そういった存在は、往々にして一個の個体に愛を注ぐことができない。それはその神性の本質に反するからだ。
その感覚は、退屈というよりは、病的な飢渴に近い——万の蟻に身を噛まれるが如く、絶えず愛し、愛され、愛を目の当たりにしなければ、自らが枯れ、愛する者さえも凋みゆくという。
ましてや、カリオペはかつて「鼓動」を持っていた。
もしその「鼓動」が恋愛感情を意味するなら……彼女の前に、この鼓動を震わせた者は、誰なのか?
「あの部屋だ」
モーリガンが足を止める。視線の先は、濃色の木製の扉だった。
この階は全てカリオペの領域に属するはずだ。そして目の前のこの扉が、最も気配が沈静で、私的なものに思える。
扉は内側から鍵がかけられていた。モーリガンがうつむくと、ケーリスが意を悟り、彼女の肩から滑り落ち、細い影となって扉の隙間に溶け込む。数秒後、内側から鍵が外れる軽い音がした。
「失礼する」
モーリガンが扉を押し開ける。
部屋は予想以上に……豊かだった。
四方の壁の陳列棚には、数多の品々が並べられている——それは、長年にわたる「供物」であるらしい。世間で囁かれるように厳しい選別を受けたのではなく、全てがここに保管されていた。
稚拙な土偶と精緻な金器が肩を並べ、歪んだ刺繍と流光溢れる織毯が同じ部屋に共存している。どの品の隣にもカードが添えられ、そこには日付と献上者の名前が丁寧に記され、そして……
一行の短い手書きの備考が添えられていた。
「3月14日、老靴職人ジョンより革の腕当て。『あなたの手首を守らんことを、あなたがこの街を守るが如く』と。(日常的に着用済み)」
「9月22日、孤児院の子供たちが共同で描いた蝋絵。色は枠からはみ出しているが、雲の描き方が柔らかい。(ベッドサイドに貼付)」
「5月20日、ソフィーヤより飴玉。可愛すぎて食べられない。(ガラスの壺に保存)」
ソフィーヤ。あの墓室で出会った、小さな竜の裔の少女の名前だ。
モーリガンはその小さな文字を見つめ、指先で冷たいガラスの壺にそっと触れた。中には、質素な果実の飴が一つ、歳月の経過で微かに融けて形を変えている。
「皆、女神は目が高いと言うけれど」スタシスの声に、本物の驚きが滲む。「彼女は……全部、取っておいたのか」
「おそらく、これが『大いなる愛』というものなのだろう」モーリガンは静かに応じた。
他の高位の竜の裔が持つ厳格な階級意識や傲慢さとは一線を画す——純血の竜の裔は、血の薄い後継ぎを常に軽蔑し、ましてやその取るに足らない贈り物など受け入れはしない。
カリオペは、幼い竜の一粒の飴玉を、今も大切に保存している。
「彼女の血統と地位からすれば、本来ならこんな『取るに足らぬ』物など、受け取るべきではないでしょう」
スタシスは平静に事実を述べる。
「そうとも限らないわよ」オネイリの声が軽やかに割り込む。夢の生き物特有の、真実をずばり指摘する物言いで。「彼女が気にかけてた人がさ……この『趣味』のことを話したことがあるんじゃない?」
一針見血、とはこのことだ。
モーリガンの視線はさらに室内を巡り、ついに部屋の奥に置かれた、等身大の木彫りの像に止まった。
それは他の陳列品とは隔絶して、ぽつんと置かれている。ラベルもなく、日付もなく、ただ台座に一文字だけ刻まれている。
「あなた」
彫刻の技量は、まさに精緻の極みと言えた——衣の裾の流動感、髪の一筋一筋の微かな曲線、身体のプロポーションの巧妙な把握。あらゆる箇所に、彫り手が注いだ心血と時間の重みが感じられる。ただ、顔の部分だけが……
「顔の部分は、無数の修正を経ている」スタシスが、その専門的で厳しい美意識で指摘する。「この、繰り返し削られたことで窪んだ輪郭を見なさい……彼女は、その顔を見たことがないのだ」
モーリガンは静かに、空白の顔を見つめる。
ヘマリスも言っていた。夢の中の人の顔は、決してはっきりとは見えなかった、と。
様々な手がかりが、彼女の意識の中で音もなく繋がっていく——
ソフィーヤの飴玉が大切にされていること(高位の竜の裔が、なぜ幼い者の好みを気にするのか?)、
この顔のない「あなた」の像(心を注いで彫りながら、ただ顔だけは彫れなかったこと)、
ヘマリスの夢に出てくる、顔のない呼びかけ手、
そして二人が邂逅した時、カリオペの顔の上であの「心の川」の烙印が激しく脈動した姿……
すべての空白、すべての探求、すべての待機が、一つの答えを指し示しているかのようだった。
「もし彼女の鼓動を震わせたのが他の誰かなら」オネイリが静かに言う。その声には、夢の生き物としての「物語の完結性」に対する本能的洞察が宿っていた。「どうして、その顔さえも覚えていないっていうの?」
沈黙が部屋の中に漂う。
燭台の火が、木彫りの空白の顔に優しい影を落とす。その影の裡には、語られなかった無数の夜と問いかけが潜んでいるかのようだ。
「どうやら……」モーリガンの声はとても軽い。まるで自分自身に確認するように。「もう疑う必要はなさそうだ」
「まあまあ」オネイリが髪の間で小さく嘆息し、産毛がモーリガンの耳を掠める。「羨ましいなあ、両思いだなんて」
モーリガンは手を上げ、指先を木彫りの空白の顔の前に翳す。しかし、ついに触れることはなかった。
「もしヘマリスが最終的に彼女のそばに残ることを選んだとしても」
彼女は振り返り、窓の外に広がる次第に暮れゆく空と、再び降り始めた紅色の雨の糸に向き直る。その声は平静で、明確だ。
「私は、彼女を無理に連れ戻したりしない」
雨音が次第に密になり、優しく高塔を包み込む。
そんな静寂の中で、モーリガンの左腕の「山川青空」の紋様の奥深くから、突然、極めて微かな緊張感が走る。
感情の動揺ではない。どちらかと言えば、遠くからの、音なき共鳴のようだ。
まるで紋様の中の、何らかの「故郷」を象徴する脈絡が、見えざる糸に突然引っ張られたかのように。
それは、同族同士が生死の瀬戸際に立たされた時のみに発せられる、ほとんど本能に近い牽引だった。
遠く離れたアイセロンのエルフたちは、彼女の名を呼んではいない。しかし彼らの存在そのものが、同じ血脈だけが微かに感じ取ることのできる、断絶寸前の震えを発している。
スタシスは腕の中で沈黙を保ち、まるで気づいていないかのようだ。
しかし、その緊張感は数秒間続き、やがてゆっくりと紋様の奥深くに消えていった。
そして、見えざる遠くのどこかで、霧と雨が、新たな帰路を織り成しているのかもしれない。




