第四十三章
雨水はすでに無数の氷の刃と化していた。モーリガンはアマラートに頼んで、自分を地面に降ろしてもらわねばならなかった。
爆発音が引き起こした連鎖反応は、まるで街の中心核そのものに触れたかのようだ。四方八方から建物の震動、ガラスの破砕、配管の破裂する轟音が押し寄せ、すべての雑音が混ざり合い、本当の戦場がどこにあるのかも判別できない。
通りは完全に空っぽだった。
住民たちは扉や窓を固く閉ざし、部屋の奥に縮こまって声を立てない。カーテンの隙間から、時折、恐怖に凍りついた目が覗くだけだ。
街全体が、暴雨と雹の中に震え上がっている。まるで檻に閉じ込められた巨大な獣のように。
ケーリスはいつの間にかモーリガンの頭の上に登っていた。
今や彼女の体躯は、しっかりと主人の肩に収まるほどになっている。
細長い影の肢で、あの雲の絮が凝った角を抱え込み、舌でそっとその表面を舐めている——髪の間に隠れるオネイリを慰めているのだ。
同じく本能に従って生きる生物として、ケーリスには、銀羊が今、幻境に裏切られた失落感に苛まれているのが理解できる。
「ありがとう、ケーリス」
オネイリの声が、くぐもって髪の間から聞こえる。
「もう少し、マシになった」
「孤独は……甘いの……」
ケーリスから伝わる思念は、優しく、ゆっくりとしている。
「だから……悲しまないで……」
オネイリは自分の角で、影の生き物の微かに冷たい頭頂を軽く擦った。
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「女神様が『大いなる愛』を完全に引っ込めるなんて、初めてだわ」
スタシスの声がモーリガンの左腕から聞こえる。その口調は、まるで芸術品を評するかのように平静だ。
「こんな無差別の天災で街全体を巻き込むなんて……何が彼女をあそこまで怒らせたのか、想像もつかない」
モーリガンはアマラートの翼の陰から顔を上げる。
「スタシス、君はこの『女神』について、どれだけ知っている?」
「ほとんど何も。あの塔の上の宴席には足しげく通っていたけれど、あなたと出会ったあの日が、初めて彼女を見た時だった——それが雨水で捏造された贋物だとしても、ね」
「なぜ、彼女は突然姿を見せなくなった?」
「噂話の好きな連中が言うには……『鼓動を失くした』から、らしいわ」
スタシスが一瞬間を置く。
「だから、しばらく祈願に応えられない、と。でも、あの紅色の雨が降り続く限り、人々の心にまだ執念がある限り、雨の中で会いたい人に会える」
「鼓動を失う? どんな種族にとっても、それは死を意味する」
「生理的な意味での死じゃないかもしれない」
スタシスの声に、珍しい躊躇いが混じる。
「愛というものについて、私にも軽率には言えない。でも、彼女にとって、鼓動のない日々は……格別に耐え難いものかもしれない」
「しかし彼女は全ての人を愛しているはずだ」
「彼女は大衆を家族のように、親友のように見ているのかもしれない。ただ、『恋人』という立場だけが……」スタシスの声が低くなる。「彼女は私と同じように、ある種の困惑に閉じ込められているのかも」
「主人」アマラートが口を挟む。翼が氷刃の衝撃に耐え続けて微かに震えている。「今回の目的を、お忘れではありませんか?」
「ただ、彼女をもっと知りたいだけだ」
モーリガンは道端に張り出した石の庇を指す。
「女神がなぜ怒るのかが分かれば、彼女の触れてはならない部分を避けられる——まずはあそこに避難しよう。お前の翼は長く持たない」
「ご心配ありがとうございます。この程度の痛み、何でもありません」
だが、これは普通の痛みではない。
千メートルの高空から落下する氷刃は、金石をも貫く。アマラートの翼には既に細かなひび割れと、氷の結晶がめり込んだ痕が無数に広がっている。
彼女は終始、モーリガンを翼の下に庇い、自らの身体でこの無差別な天災を遮り続けていた。
庇は雹の激しい打撃に、耐えかねるような悲鳴を上げる。モーリガンはふと、ヘマリスのことを思い出した。
霧の指輪はまだ戻っていない。
女神と対峙する前に、まずはヘマリスを見つけるべきかもしれない——カリーなら、この街に最も詳しい者として、女神が怒った理由を知っている可能性がある。
モーリガンは目を閉じ、意識を深く沈めた。
周囲に無数に浮かぶ恐怖の糸——震え、縮こまり、今にも千切れそうなものまで。
彼女はこの精神の嵐の中を、注意深く探った。
いない。
あの独特な、霧のような灰色の糸が……消えている。
モーリガンの胸が締め付けられる。まさか、ヘマリスが既に災いに遭ったのか?
その時——
「バリン——!!!」
背後の建物のガラスが轟音と共に炸裂した!破片が刃のように四方に飛び散る。
視界の端で、一筋の灼熱の火の光が砕けた窓から迸り出る!
「御身!」アマラートが猛然とモーリガンを地面に押し倒し、翼を盾のように閉じ合わせた。
ケーリスはさらに反応が速かった——影が潮のように湧き上がり、瞬間に二人を包み込み、流動する闇となって街角へと滑り込む。
彼女たちがその場を離れた刹那、あの無人の商店が、一団の「優しい」炎に音もなく呑み込まれた。
燃える過程もなく、立ち上る煙もない。建物全体が、消しゴムで消された鉛筆画のように、その場に黒く焦げた平坦な空地だけを残した。
ケーリスは数メートル先で再び影を凝集し、モーリガンとアマラートをそっと「吐き出した」。
モーリガンが顔を上げると、空中に浮かぶ焔の少女が見えた。
彼女の縫い合わされた唇は今、不自然に歪み、剥き出しになり、その下の焦げた歯茎を露わにしている——それは極度の苛立ちの印だった。
次の瞬間、数十本の氷刃が商店の廃墟の背後から激しく射出され、まっすぐ焔の少女に襲いかかった!
少女は手を上げる。純白の炎で凝縮された盾が瞬時に形作られる。
氷刃が炎の盾にぶつかり、大粒の蒸気が炸裂する。
しかしモーリガンは鋭く気づいた——少女の胸のあの金色の炎の輝きが、防御のたびに明らかに衰えていることを。
「どうした?」
ゆったりとした嘲りを帯びた女の声が、蒸気の向こうから聞こえる。
「もうおしまいか? 俺にはまだまだ使ってない手があるんだが、もう逃げる気か?」
白煙が晴れると、そこから現れた姿に、モーリガンの瞳孔が急激に収縮した。
——それは一人の竜の裔だった。
長く伸びた頭部、ごつごつとした尖った角、高く優雅な躯。
しかし最も驚くべきは、彼女の左半身の顔の上で、心臓の鼓動のように脈動し流れる、幽かな藍色と金色が織り交ざった……
「心の川」の烙印だった。
5406 という数字が、予告もなくモーリガンの左目の中で狂ったように明滅し始める。
そしてさらに彼女の呼吸を止めさせたのは——その竜の裔の指にはめられた指輪が、まさに彼女が苦しみながら探し求めていた霧の指輪だったことだ。
「彼女が……カリー?」モーリガンの声には、信じられないという思いが満ちている。
「主人、カリーとは誰です?」アマラートは警戒して空中で対峙する二人を見つめる。「向こうのあれは……竜ですか?」
「でも私が会ったカリーは明らかに普通の人間だった……どうして彼女が竜の裔なんだ? どうして顔に心の川の烙印があるんだ?」
「彼女こそが女神よ」
スタシスの声が腕の中から聞こえる。確信に満ちた肯定を帯びて。
「天候を操る能力も、あの思わず引き寄せられてしまう『場』も……すべてが符合するわ。女神は誰かの攻撃に激怒している。でも面白いのは、あの炎の少女が攻撃したかったのは……本来、彼女じゃなかったってことね」
その時、空中の炎の少女が突然顔を向けた。
彼女の視線はカリーを越え、まっすぐにモーリガンに注がれる。あの虚ろな瞳の奥に、一瞬、読み取れない微かな光が走る——
そして彼女は手を上げ、一振りした。
数十頭の炎で凝った凶狼が虚空から奔流のように湧き出る。だがそれはカリーに向かうのではなく、まっすぐモーリガンに襲いかかってきた!
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あの人たちだ!
霧の指輪の中のヘマリスは、モーリガンの姿を認めた。
瞬間、戒律よりも強い衝動が束縛を打ち破る——彼女は代償を顧みずに形体を凝集し、浅い灰色の霧となって指輪から溢れ出し、カリーの上げた腕に絡みついた。
彼女は攻撃しようとしたのではない。逃れようとしたのでもない。
ただ、カリーに、この「誤解」に目を曇らされ続けて欲しくない。無関係な者が戦火に巻き込まれるのを、ただ見ているだけになって欲しくないのだ。
カリーの全注意は、炎の少女に注がれている。
「誤解」の霧は依然として醗酵し続け、彼女には相手が標的をすり替えようとしていることに気を配る余裕などない。
しかしヘマリスは、彼女の手を上げさせた。
——触れた、その刹那。
カリーの心臓は、二拍、止まった。
そして、耳をつんざくような鼓動の音が、奔流のように彼女の意識を呑み込んだ。
その音はあまりに重く、あまりに大きく、降り注ぐ雹の衝突音を、炎の嘶きを、この街の全ての雑音を、押し流して余りある。
彼女の意識は完全に撹乱された。
元来炎の少女に向けられていた氷刃の軌道が急にそれ、モーリガンに迫る炎の狼の群れへと向きを変える。
氷と炎が半空で激突し、一面の立ち上る霧の障壁が炸裂する。
「彼女たちを助けてあげて、カリー」
ヘマリスの声が、彼女の意識に直接触れて響く。優しく、しかし確かに。
「『誤解』の憎しみに……あなたの目に映るべきものを、もう覆い隠させないで」
無論、彼女はモーリガンに助けが必要ないと知っている——彼女の周りには既にあまりに多くの強力な仲間がいる。どの一人を取っても、あの炎の狼など容易く防げるだろう。
ただ彼女は、これによってカリーの目の前の霧を引き裂き、この「誤解」から生まれた、無意味な災厄を彼女に見せたかっただけだ。
攻撃は阻まれ、炎の少女はその隙に一筋の流れ火となって遠くの空へ遁走し、姿を消した。
カリーはその場に呆然と立ち尽くす。
雹の落下が、徐々に止む。
降りしきっていた暴雨さえも、少しずつ勢いを収めていく。
彼女はゆっくりと首を向け、未だ自らの腕に絡みつく浅い灰色の霧を見る——その霧の中に、自分を見つめる、複雑な感情を宿した瞳を見る。
雨が、完全に止んだ。
雲の切れ間から一条の光が射し、蒼白い陽光が水蒸気を裂き、彼女の顔の上で、未だ微かに脈動する心の川の烙印を照らし出す。
彼女は口を開いた。その声はとても軽いが、突然の静寂に包まれた通りにはっきりと響く。
「じゃあ……」
その異なる色の瞳が、一心にヘマリスを見つめる。その奥には、脆さすら感じさせる熱意が渦巻いている。
「俺の『帰る場所』になってくれるのか、ヘマリス?」




