第三十章
「モーリガン、主があなたを中へお呼びです」
目を閉じて調息していたモーリガンの意識の奥に、ヘマリスの微かな伝言が響いた。
「無事なのか? 彼女は君を困らせていないか?」
「いいえ。でも正面からは入らないで。建物の右側へ。小さな地精が中へ案内する」
「わかった」
モーリガンは目を見開いた。
オネイリは彼女の周りを漂う黒い泡の周りをくるくると回りながら、何か新種の現象を研究しているようだった。そしてふわふわとした柔毛で、飛びかかろうとするケーリスを巧みにかわしている。
「オネイリ、ケーリスを邪魔しないで」
しかしケーリスが近づくたび、柔らかな銀色の塊に阻まれるだけで、不満げな唸り声を上げるしかなかった。
「この泡の中には私の悪夢の残滓と他の雑多な苦痛が混じっているから、食べない方がいいわ」
オネイリの声には、研究者のような慎重さが込められている。
「ケーリスにはこれが必要だ」
モーリガンは立ち上がった。動作が衣の襞を揺らす。
「それに、彼女は耐えられる。行こう」
「記録によれば、この古い影の生物の食性は、ここまで雑多であるはずがないのに……」
オネイリは困惑した口調だが、それでも道を開けた。
「ただ記録が不完全なのかもしれない」
モーリガンの視線が、彼女の皮膚から絶えず滲み出る、苦痛の溢出を担う黒い泡の一つ一つを撫でる。
「新たな観察記録とすればいい」
ケーリスは即座に一つの泡を呑み込んだ。
変化はすぐに起こった。
影で構成された体が伸び、膨らみ始め、液体のような輪郭が内側に凝縮していく。背骨は優雅に伸長した。
一本の尖った尾椎骨が末端から現れ、急速に形を成し、伸びる――最終的には流麗で力強く、縁が微光を放つ鮫の尾鰭へと定着し、空中で軽く揺れた。
「ケーリス……成長したのか?」
モーリガンの口調には極めて淡い驚きが含まれているが、表情は相変わらず平静だ。
彼女は手を伸ばし、指先で新生の尾に軽く触れた。感触は冷たくしなやかで、最高級の墨綢のようだ。
「鮫の尾? なかなか……風変わりな形態だ」
オネイリの柔毛が微光を回転させ、まるでデータを記録しているかのようだ。
変化はまだ続く。
ケーリスのあの翼状の副耳はより長く、よりはっきりとしたものになり、縁が真珠母のような微光を帯びた。
その体躯も一回り大きくなり、もはやモーリガンの肩で丸くなることはできないが、生きている影のマフラーのように、彼女の首にゆったりと巻きつくことができる。
胸のあの白い星の渦の搏ちは深く安定したものになり、この成長を経て、ついに内なる律動が調整されたかのようだ。
「……良かった」
ケーリスが応えた。思念の伝達は以前より明瞭で、連続的になった。まだ微細な震えは伴うが。
「ええ、良かったわ」
モーリガンはそっと、その冷たい背骨を撫でた。
「行こう」
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建物の右側では、一匹の小さな地精がとっくに影の中で待ち構え、短い腕をせわしなく振っていた。
「こっち! 早く、早く!」
それは地面の目立たない穴を指さした。
モーリガンはためらわず身をかがめ、華やかな衣装が埃を引きずろうとも意に介さず、その小柄な影について暗闇へと潜り込んだ。
オネイリの番になると、あのふわふわとした微光の球体は穴の入口で詰まってしまった。
「待って、モーリガン」
彼女はもう半身中に入った少女を呼び止めた。
「ヘマリスの首のあの指輪……あなたが渡した信物?」
「違う。あれは彼女の力を宿す媒体であり、彼女が自身を隠すよりどころでもある」
「あら? じゃあ私もそうできるわね?」
オネイリの声には、ひらめいたような軽やかさがこもる。
「もし私が入れないなら……あなたが私を中へ連れて行ける。私が十分に『密着』できさえすれば」
「ええ。あなたが『密着』できるなら」
「それなら簡単よ。どんな角が好き?」
「角?」
モーリガンが答える前に、オネイリは突然銀色の光の塵へと消散した。
続いて、鋭く深い脹痛がモーリガンの頭頂で炸裂する――
「少し痛いわよ、我慢して。一番適した『夢境インターフェース』を探してるの」
「何をするつもり?」
モーリガンは体が拘束され大幅に動けないが、声は相変わらず落ち着いている。ただ呼吸が少し荒い。
痛みは急速に増す。
まるで鈍斧がゆっくりと骨の継ぎ目を割り、また生命が思考の最も深奥から束縛を破って外へ成長していくかのようだ。
それは破壊ではなく、むしろある種の眠っていた構造の「覚醒」と「適応」に近い。
彼女が手を上げて触れると、硬さと温潤さが不思議に混ざり合った実体に触れた――それは一本の角だった。
雲絮が月光で凝結した山羊の角のような形だが、質感は最高級の羊脂玉のようで、表面には極めて淡い、まるで呼吸のような銀灰色の光沢が流れ、彼女の髪と渾然一体となっている。
「これが私の新しい『住居』よ。気に入った、モーリガン?」
オネイリの声が直接彼女の意識の中で響く。満足したため息を伴って。
「あなたの『夢境皮質』は、思ってたよりずっと……深くて快適だわ」
「なぜ私の頭に生やした?」
モーリガンは一瞬目を閉じ、頭蓋内に増えた、見知らぬがしかし元からあったかのような重みに慣れようとした。
「夢も悪夢も、皆思考の殿堂に棲む。私は紡ぎ手なのだから、『原料』と『織機』の最も近くに住むべきなのよ」
オネイリの返答は当然といった様子だ。
「ここの視点は最高だわ」
「なぜ一本だけ?」
「だって私の『本質』は一つだけだから。もし対称的な一対が欲しいなら……」
彼女の声は軽やかに上がり、からかいを含んでいる。
「もしかしたら、あなたがもう一人、あなたと『頭蓋腔を共有』してくれる存在を見つけたら?」
「その話はまた今度」
モーリガンはこの問題にこれ以上こだわらなかった。
「今は、私があなたを中へ連れて行く」
「よかった。これはあなたが口で承諾したのよ」
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地の穴から這い出た瞬間、視界がぱっと開けた。
山のように巨大なフィトゥーラが中央に座り、燧石色の体躯を無数の搏つパイプが貫き、固定している。
ヘマリスはその傍らに静かに立ち、霧灰色の姿が薄暗い光の中で頼りなく、しかし安定して見える。
彼女の首元の霧の指輪が微かに光り、眠りの中でゆっくりと回復しているようだ。
「私の任務……果たせたのかしら?」
ヘマリスはモーリガンを見つめ、声にはかすかに気づきにくい疲労がにじんでいる。
「ええ、お疲れ様。ゆっくり休んで」
ヘマリスは軽くうなずき、姿はさらに希薄な霧へと変わり、完全に指輪の中へ溶け込んだ。
「あらあら、長く眠らなかった人が、こんなに深く眠るのね?」
モーリガンの頭の上の角が軽く震え、オネイリの声には冗談めかした響きがある。
「彼女の『覚醒』は極北の凍てつく湖のようで、表面は決して波立たない静寂の層で覆われ、夢のさざ波さえも立てにくいわ」
「彼女の『睡眠』は取らなかったの? てっきり……」
「もちろん取らないわ」
オネイリは軽く笑った。
「他人の取引にはほとんど興味がないの。あの時そう言ったのは、ただ彼女があなたたちのためにどこまで払おうとするか見てみたかっただけよ。でも……彼女は確かに面白いわね。彼女をここへ導いたあの硬貨、割れた時に放たれた『匂い』が特別だった」
「硬貨?」
モーリガンは、かつて自分の掌の中で熱くなり、今はヘマリスに託したあの金属片を思い出した。
「うん、一種の……必死に『見られ』ようとする孤独感。まるで誰かがわざと闇の中で灯りを点けたのに、光が強すぎるのを恐れているみたいに」
オネイリの口調は気ままで、あたかも一皿の料理を批評しているかのようだ。
「モーリガン」
フィトゥーラの声が岩層が擦れるように、ゆっくりと重く、彼女とオネイリの意識の会話を遮った。
「どうやら、君はもう彼女と知り合いのようだな」
彼女の亜麻布で覆われた「視線」が、モーリガンの頭頂の新生の角に落ちた。
しかしモーリガンは顔を上げ、あの布の層をまっすぐ見つめた。
「なぜ……あなたはヴィラニアと同じ亜麻布を巻いているのですか?」
「私もまた『見る』必要があるからだ」
フィトゥーラは一息ついた。
「だがこの布は遮蔽ではなく、増幅なのだ。彼女は私に『効率』を極限まで高めることを求める。いかなる注意散漫も許さない」
「わかりました」
モーリガンは一歩前に出た。
「ヘマリスが、あなたが私を必要としていると。お聞きしますが、私はあなたのために何ができますか?」
「君は……私に尋ねているのか?」
フィトゥーラの声には、ごく淡い驚きがある。
「はい」
「私はてっきり、預言の子として、君は直接私の苦痛を『終わらせ』、それから私が消散する前に、答えを教えてくれるものと思っていた」
「私が出会った最初の苦痛はヘマリスでした」
モーリガンの声は明瞭で平穏だ。
「ご覧の通り、私は彼女を傷つけていません」
「なぜだ?」
「それが私の価値であり、私の選択だからです」
言葉が終わる時、モーリガンはすでに音もなく知覚を広げていた。
フィトゥーラに属する苦痛の糸が彼女の意識の中に浮かび上がる――巨大で、重く、強引に揉み皺にされ、溶接された金属の網のように絡み合っている。
それは単一の感情ではなく、道具化された屈辱、価値への迷い、地底の故郷への複雑な未練、そして自身の存在意義への長い疑念が、すべて溶かし合わされ、ヴィラニアの規則によって強引に「生産」を支える骨格へと鍛え上げられたものだ。
彼女は自分の意識の「指」がそっと触れ、あの人ならざる構造を理解しようとし、緩む可能性のある結び目を探ろうとするのを感じた……
「では、価値とは何か? 選択とは何か?」
フィトゥーラの声は低くなった。まるで本当に考え込んでいるようで、彼女の体の上のパイプからは、異常な、鈍い詰まりの音が響いてきた。
「物質の生産、規則への服従、これらはあなたを測る尺度ではありません」
モーリガンは言いながら、意識をもっと深くあの「金属網」の核心へと探りを入れていく。
「あなたはそれらによって定義されるべきでもない」
「それでは私にまだ何の価値があるというのか? これが私にできる唯一のことだ」
「あなたはあなた自身の自由意志を忘れています」
モーリガンの眼差しは静かでありながら確信に満ちている。
「地底を離れ、この街の最初の原型を築いた――あれこそがあなたの真の価値と選択です。あなたは『奴隷化された価値』に縛られるべきではありません」
彼女の意識が絡み合いの最も深い「結び目」――あの「自己価値認識の完全否定」を表す漆黒の糸の一筋に触れたまさにその時――
ブーン――
冷たく、絶対的で、疑いようのない「存在感」が突然降臨した。まるで空間そのものが、ある種の眠っていた規則を引き金にされたかのように。
天井のどこかの影が前触れなく溶け、審判廷の鎧を着た人影がそこから析出する。
鎧の継ぎ目には何の光もなく、動作は硬直して精確で、面頬の目のスリットの向こうは光を呑み込む漆黒だ。
それは誰も見ず、平板で直線的な機械音で宣告した。
「核心生産ユニットへの無許可認知干渉を検知。プロセス擾乱を確認。規則第七項を実行:『定義矯正』を実行せよ」
ヴィラニアが残した規則傀儡だ!
「『定義』レベルでの反撃よ!」
オネイリの意識内での存在感が突然弦を張り詰めたように引き締まった。
「モーリガン、あなたは彼女の『認知枷』に触れたの! 逃げて!」
傀儡の頭部は人ならざる角度でモーリガンへ向き、精確にロックオンした。
それは腕を上げ、掌の前方に高度に圧縮された青白い光点を凝縮させる――その光点は極小だが、周囲の空気を耐え難い唸り声で震わせる。
光点は拡大せず、その中から髪の毛のように細く、しかし絶対に真っ直ぐな青白い光線が延び、音もなくモーリガンの立つ位置を指し示した。
その光線は純粋な「否定」の気配を放っている――破壊ではなく、むしろ標的を「此処に存在する」という基本的事実から精確に抹消しようとするかのようだ。




