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痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
価値という深淵

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第二十七章

 「本当に私の能力に影響されてない?」


 オネイリは意識の接続の中で詰め寄る。彼女が思いつく唯一の説明だった。


「されていない」


 ヘマリスの返答は、たった今押し出された活字のように、明瞭で安定していた。


「いつも以上にはっきりと、自分が何をしているかわかっている」


「でもあなた、ずっと勝ち続けてる……それで、負けなきゃ主人に会えないって」


 オネイリの声が意識の中で響く。思考というより、むしろ定例確認といった感じだ。


「じゃあ自分自身に『忘却』を使えないの? どうやって勝つか忘れちゃえばいいじゃん」


 ヘマリスは静かになった。


 賭博場の喧騒は背景で潮のようにうねっているが、彼女は防音ガラスの向こうに立っているかのようだ。


「私の能力は、記憶と感情を『見て』『触れる』こと」


 彼女はついに口を開いた。声には、長く深淵を見つめてきた後の静かな疲労がにじんでいる。


「それは目と同じで、自分自身を見ることはできない。指と同じで、自分の輪郭に触れることはできない。もし本当に『どうやって勝つか』を自分から『忘却』させられるなら、私はまず『自分が誰か』を忘れる――この能力は、私の存在と共に、崩れ去るだろう」


「ああ」


 オネイリは曖昧に応えた。この答えには驚きもなければ、深く追求する気もないようだ。


「じゃあお手上げだね。考えるの面倒だから、モーリガンにどうするか聞いちゃおう」


 ***


 外界、狭い一角で。


 モーリガンは初めて、ある低いうなり声をこれほどはっきりと聞いた――睡眠のいびきではなく、むしろある種のエネルギーが低負荷で稼働する時に発する、ほとんど呼吸のような振動だ。


 首筋の柔毛は温かく湿っていて、オネイリはぴったりと寄り添い、時折無意識に彼女の肩甲骨を軽く擦る。接続が安定しているか確認しているかのようだ。


 ――本当に慣れない。


 だが彼女は動かずに耐えた。


 彼女には、ある種の細くしなやかな「線」がオネイリを通じて、自分の体内にあるヘマリスに繋がる苦痛の糸と共振しているのを感じ取れた。


 それは空間を超えた会話であり、意識の溯行さっこうだった。


 オネイリの唸り声が止んだ。


「ヘマリスはどうなった?」


「彼女、ずっと『負けたくない』って言ってる。勝ち続けて止まらないのに、それじゃいつまでも中の主人には会えないんだって」


 オネイリの声は、高強度の心霊伝導を終えたばかりの、軽い弛緩しかんを帯びている。


「あの主人についてね、私が知ってるのは、通貨の生産と最終裁定を担当しているってことだけ。名前? 知らないわ。賭け事なんて……ほんとに退屈な頭脳ゲームよね」


 モーリガンはしばらく黙った。


 賭博場……再生炉はまさかの賭博場だった。


 では「再生炉に戻す」とは何を指す?


 人をチップのように賭け事に投入し、全てを失った後、新たな硬貨に溶解鋳造することか?


「負けなければ……」


 彼女は小声で言い、思考が疾走する。


「でも本当に負けるわけじゃない。『規則』に負けたと判定させるの」


「どういうこと?」


「ヘマリスは周囲の情報を『読める』。それが彼女が勝つ理由よ。でももし彼女が『読む』情報が……源から少し歪んでいたら?」


 オネイリは一瞬、呆然とした。


「つまり、私が直接あの賭博客たちの頭の中に偽りの考えをねじ込めって?」


「いいえ、それじゃ気づかれるわ」


 モーリガンの声は静かだ。


「考えを変えるんじゃなくて、彼女が考えを『受け取る』過程を変えるの。まるで目にごく薄い霧をかけるように――彼女自身は見えていると思い込むが、実際には映像が微かに歪んでいる」


 彼女は一息つき、指先でケーリスをそっとなでた。


「あなたの悪夢の能力で、彼女の知覚にそんな『霧』をかけることはできない? 厚くなくていいの、判断をほんの少しだけずらせれば。彼女が肝心な時に……間違った選択をさせるくらいの」


 オネイリは黙った。これは単に人を眠らせるようなことではない。精緻で、持続的な干渉だ。


「やってみることはできる……」


 彼女はようやく言った。声にはもはや慵懶ようらんはなく、集中が増している。


「でも彼女の意識はとても安定している。私には長く付着できる『いかり』が必要よ」


「私の糸を使いなさい」


 モーリガンはためらわなかった。


「それは私と彼女を繋いでいる。あなたの『霧』が糸に沿って流れれば、より目立たないし、長続きする」


「でもあなたも負担を分け合うことになるわ」


 オネイリの声は沈んだ。


「糸はあなたの延長なんだから。この持続的な『歪み』感覚を、あなたもずっと感じることになる」


「構わない」モーリガンは言った。


 彼女はヘマリスが核心を彼女に託した時の眼差しを思い出した。


「始めましょう」


 ***


 賭博場内、ヘマリスはちょうど賭けようとしていた。


 彼女は習慣的に知覚を広げる――周囲の賭博客たちの緊張、貪欲、僥倖ぎょうこう、絶望が、様々な色の薄絹のように立ち昇る。


 彼女は微細な波動を捉えた:左側の男の指が「黒の8」の上に三度留まった、右側の女の呼吸が「赤の15」という思い浮かべた瞬間に一瞬止まった……


 しかし今回は、何かが違う。


 それらの感情の色彩が……ごく薄く灰色がかったように見える。


 焦燥感はそれほど鋭くなく、貪欲さは少し浮ついている。


 数字の確率が彼女の心に浮かぶ時、もはや絶対的な確信を伴わず、かすかに、不安を覚えさせる「可能性」に包まれている。


 彼女は躊躇ちゅうちょした。賭け金を差し出す手が空中で止まった。


 ルーレットが回り始める。


 小球が跳ね、カチカチと音を立てる。


 ヘマリスは精神を集中させるが、あの元々鮮明だった「事前読み取り」の映像が少しぼやけてきたように感じる。すりガラス越しに揺れる光と影を見ているかのようだ。


 彼女は依然「見る」ことはできるが、細部が失われ、直感が矛盾した信号を発している。


 ――赤に賭ける? いや、どうやら黒の方が強いかも……待って、あの男の微動作はもしかして……


 彼女は賭けの最適なタイミングを逃した。


 指が緩み、チップは彼女自身も予想していなかった場所――赤と黒の境界、ほとんど勝てそうにないマスに落ちた。


 小球が溝に落ちる。


 黒の22。


 彼女は負けた。チップは無表情な給仕に取り上げられた。


 ヘマリスは茫然と、がらんとした卓面を見つめた。


 奇妙な、見慣れない虚無感が胸に広がる――後悔ではなく、ある種の……ようやく循環を断ち切った安堵だ。


 彼女は思わず手を上げ、指先が首元の霧灰色の指輪に触れた。


 指輪の表面は冷たいが、ごく微かに、モーリガンに属する安定した鼓動が伝わってくる。まるで遠く離れた場所で、この「歪み」の重みを共に耐えているかのようだ。


 彼女は賭けを続けた。


 その微妙な知覚の偏りの下で、彼女の「事前読み取り」優位性は目に見えず弱められた。


 彼女は依然勝つことはできたが、負け始めた。


 多くは負けなかった。ちょうどチップの山がゆっくりと減り、彼女の表情の平静にひびが入る程度に。


 周囲の賭博客たちが気づいた。


 彼らはこの前まで無敵に見えた新参者がミスをし始めるのを見て、目に再び貪欲さと嘲笑の光を灯した。


「ほらね、運も尽きたって!」


「だから言っただろ、ずっと勝ち続けられるやつなんていないって!」


 ヘマリスは耳を貸さなかった。


 彼女の全注意力は、内心のあの奇妙な「不均衡感」に対処するために注がれている。


 この感覚は苦痛というより、微かに傾いた甲板の上を歩いているようで、絶えず重心を調整しなければならない。


 首元の指輪はその微かな共鳴を持続的に伝え、揺らぐ世界における彼女の唯一の錨となった。


 また一巡。


 彼女は賭け金を置き、心臓は胸の中で見慣れないリズムを刻む。


 小球が回り、彼女の知覚は「真実」と「光彩を帯びた真実」の間で揺れる。


 負けた。


 また負けた。


 チップは底をついた。


 彼女が最後の一枚の苦痛の硬貨を押し出し、それがはき出されるのを見つめる時、賭博場全体の音が突然遠ざかったかのように感じられた。


 彼女はそこに立ち、両手は空っぽだが、かつてないほどの安らぎを感じた。


 首元の指輪、あの温かみのある霧灰色の光沢も、微かに一瞬、輝いたように思えた。


 ***


「まさかね……」


 あの聞き覚えのある、疲労を抑えた女性の声が、賭博場の最も奥深い影から響き渡り、すべての喧騒を瞬時に沈黙させた。


 声は空気の振動を通じてではなく、むしろ直接ヘマリスの意識の表層を撫でるように伝わってくる。人ならざる、滑らかな質感を帯びている。


「あなたがここまで負けるとは」


 ヘマリスは顔を上げ、声の源を見た。


 あそこの影は他の場所よりさらに濃く、静止している。光の欠如ではなく、ある種の存在の「臨在」そのものが景色を呑み込んでいるかのようだ。


 彼女には具体的な姿形は何も見えない。ただ一道の「視線」の重さが、静かに自らに降り注いでいるのを感じ取れるだけだ。


「しかし私は知っている。あなたは彼らとは違う」


 その声が続けた。口調には感情がなく、ただ見透かしすぎた淡泊さと、ごく微かな、金属が長時間低く鳴った後の余韻のようなものがある。


「腕に乗りなさい。私は……直接あなたと話す必要がある」


 天井が裂け、かつて全てを失った者を「抹消」したあの機械の腕がゆっくりと降下し、ヘマリスの前に停まった。


 だがそれは巨大な掌を開かず、むしろひっくり返して、平らな、鈍い金属光沢を放つ掌面てのひらを露わにした――招待の盆のように。


 賭博場は水を打ったように静かだ。


 すべての賭博客、給仕、胴元が凍りつくようにこの光景を見つめ、目には驚愕、恐怖、信じ難さが混じり合っている。


 ヘマリスは躊躇わなかった。


 彼女は機械の掌に踏み出し、指が再びそっと首元の指輪を撫でた。


 腕は安定して上昇し、彼女を乗せて、すべてを呑み込む濃密な影の奥深くへと向かった。


 誰も気づかなかった――あるいは、誰も声を上げる勇気がなかった――この「特別扱い」を。


 再生炉においては、主人の意志が唯一の規則なのだ。


 ***


 そして遥か遠くの一角で、モーリガンは目を閉じ、額に細かい冷や汗を浮かべている。


 彼女はあの苦痛の糸を通じて、「知覚の光彩」を維持する全ての負担を分け合っていた。


 世界は彼女の知覚の中で微かに回転し、色彩は歪み、音は遠く近くに聞こえる。


 ヘマリスが機械の腕に乗った瞬間、糸の向こう側の重みが突然軽くなり、あの持続的な「歪み」の圧力が潮のように引いていった。


 オネイリの柔毛は微かに緩み、消耗したが成功の信号を伝えた。


「彼女……迎えに来られたわ」


 オネイリは小声で言った。声は消耗しすぎた虚ろさを帯びている。


「接続はまだあるけど、賭博場の奥の障壁は強い……これからは、彼女自身にかかっている」


 モーリガンはゆっくりと目を開き、長く息を吐いた。


 彼女は「再生炉」のあの沈黙する巨大な扉を見つめた。


 これからは、ヘマリス自身の力にかかっている。

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