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痛みを喰らうことで、彼女は本当に定められた神になれるのか?  作者: 野間羊
価値という深淵

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第二十三章

 ──近すぎる。


 モーリガンは、この境界感覚のない接近に違和感を覚えた──相手が人間であれ羊であれ、あるいは他の何者であれ。


 しかしその次の瞬間、オネイリと名乗る存在はただ前脚を上げ、彼女の手首の枷を軽く叩いた。


「カチン」


 枷は音を立てて外れ、光の塵と化して散っていった。


「まさかねぇ~」


 オネイリは首をかしげ、柔毛の下からの「視線」がじっくりと観察しているようだった。


「夢の中で見たより、ずっと大人びて見えるわ。さっき彼に鎖された時……ほんの一瞬、彼のあの丁寧な口調を本当に信じちゃったんじゃない?」


「態度が突然変わったのは気づいていた」モーリガンは手首をもみながら言った。「でも、理由はわからなかった」


「あの枷はね、『双方が接続が有効だと信じている』時にしかかからないの」


 オネイリの声にはほのかな含みがあった。


「でも私ね……あなた、わざと鎖させたんでしょ?」


 モーリガンは答えず、尋ねた。


「なぜ私の『一番の友達』だなんて言うの? あなたのこと、全然知らないのに」


「でも私はあなたを知ってるもの」


 オネイリの口調は軽やかで、その親しみの中には、もっと深く、不安を覚えさせる何かが潜んでいた。


「あなたの夢に、何度か行ったことあるのよ」


「なぜ私の夢ばかり?」


「だってあなたの夢は特別だから」オネイリの耳の後の光輪が柔らかに回転した。「私にとっては……唯一、溺れさせない『覚醒』なの。味は、深くて冷たいミントみたい」


 彼女は一息つき、声に染みついたいつもの慵懶ようらんが沈殿するように落ち着いた。


「私の長い時間の中で、唯一『恋しく思う』味なの」


 モーリガンは黙った。自分の夢が他人の「恋慕」の対象だというこの感覚は、彼女に本能的な警戒心を抱かせた。


「でも今はもう、いつも『間食』に行こうって思わなくていいの」オネイリは体を揺らした。「もう聖山にはいないから」


「待って」モーリガンは核心を捉えた。「悪夢? あなたは夢境の守護者なら、良い夢と共にあるべきじゃないの?」


「それゆえに、もっと苦しいのよ」


 オネイリの声は相変わらず柔らかだが、極めて淡く、まるで歳月の果てから来るような倦怠が透けていた。


「私は夢境の守護者なのに、悪夢しか生み出せない……これは私が望んだことじゃない」


 彼女の周りを漂う糸が、白金色の微光の下ではっきりと一瞬、血の色を帯びた──鮮やかで、刺すように、苦痛と恐怖の匂いをまとっていた。


 ──彼女は「悪夢の痛み」に持続的に侵食されながら、ただその呪いを受け入れるしかない。守護者としての本能が、まだ彼女の認識を引き裂いている。


 モーリガンはこの無言の葛藤を理解した。


「私が誰かを知っているなら」


 彼女はオネイリをまっすぐ見つめた。


「私を訪ねてきたのは、結局何が欲しいから?」


「あなたの友達が私を頼んできたのよ~」


 オネイリは存在しない目をぱちぱちさせた。


「彼女が払った頭金は『忘れられた眠り』だけど、それだけじゃあなたたちを連れ出すには全然足りないし、ましてや……あなたたち、『再生炉』からもう一人連れ出したいんでしょ?」


「再生炉?」モーリガンは警戒した。


「ヴィエンティス城の心臓よ。かつては守護神の住処だったけど、今はね……ただの、効率的に回る硬貨製造機」


「ヘマリスが入ったの?」


「ええ、彼女はためらわず踏み込んでいったわ」


「彼女を迎えに行く」


「焦らないで~」


 オネイリは彼女の前にふわりと浮かび、ちょうど彼女が「来た道」を見る視線を遮った。


「私たちの取引、まだ話してないじゃない」


「戻る道は確かにここに……」


 モーリガンが振り返り、言葉が途切れた。


 背後にはもう、廊下も価値区域もない。ただ果てしなく広がる真っ白な砂漠、砂粒が金属のような冷たい光を放っている。


 空気は凍りついたようで、時間の流れさえも希薄になった。


「いつ砂漠に連れてこられたの?」


「あの審査官が悪夢に沈んだ瞬間よ」


 オネイリの声は平静で波立たないが、先ほどの軽快さはなく、蜜の殻を一枚剥がしたようだ。


「『価値区』はここにはないの。それはただの……負債者への投影よ」


 モーリガンは心の動揺を抑えた。「ヘマリスがあなたに条件を話しに来させた。あなたは何が欲しいの?」


「あなたの夢の中の、あの『ミント畑』が欲しい」オネイリの声は夜風のように低く柔らかだが、疑いようのない明瞭さを帯びていた。「あの、私が果てしない悪夢の中で『覚醒』を保てる錨が」


 モーリガンは一陣の寒気を感じた。この願いの背後にある露わな所有欲は、彼女のこれまでの慵懶で友好的な見せかけと鋭く対照的だった。


「あなたと仲間を安全に脱出させ、『再生炉』へと導く」


 オネイリは続けた。光輪の光芒がゆっくりと収束し、極めて集中してモーリガンを包み込むようになった。


「交換条件として──その『接続』の独占権を頂く。あなたの夢の中の、あの唯一特別な周波数が、今後は私とだけ共鳴するように」


 砂漠は死のようだ。


 オネイリは軽く首を傾げ、光輪を回転させながら、答えを待っている。


 モーリガンは黙っていた。


 目の前の存在は、優しく危険な要求を突きつけている──彼女が完全には理解できない何かを、仲間の安否と交換せよと。


 この取引は重すぎるし、曖昧すぎる。


 同意の結果がわからないが、拒否のリスクはわかっている。


 ヘマリスはまだ待っている。アマラートの状況も不明だ。彼女にはためらっている余裕はあまりないが、いくつかの疑問は明らかにしなければならない。


「もし私が同意しなかったら?」


「ん?」


 オネイリは本当に考えているようで、柔毛がかすかに震えた。


「それじゃ仕方ないわね。私は一人で寝に帰る。あなたは自分の力でここを出るの──でもこの砂漠は私の夢領域だから、導きがなければ百年歩いても境界は見つからないかもよ」


 彼女の口調は相変わらず柔らかく、「今日は天気がいいわね」というようなありふれた事実を述べているようだが、一つ一つの言葉にモーリガンは別の意味を聞き取った。これは脅しではなく、優しい注意なのだ。


 ──これは……欲擒故縦よくきんこちゅうというやつか?


 モーリガンは内心で考えた。相手の態度があまりに自然で気ままなので、かえって警戒心が強まった。


 しかしモーリガンがもっと気にかけているのは、オネイリそのものだ。彼女は苦痛の造物であり、統御されるべき存在だ。


 もしこのまま放置したら、父はどうするだろう? 強制的に抹消する? それとももっと過激な手段で収容する?


 モーリガンがずっと苦痛との平和的共存の方法を探してきたのは、まさにその答えを恐れてだ──収容できない苦痛は、最終的にどんな形に歪むのだろう?


「待って」


 彼女は、本当に去りそうなオネイリを呼び止めた。


「もっと詳細が知りたい。あなたの言う『共鳴』は具体的に何を意味するの? 私はそれによって何を失う?」


「失う? そんなことないわよ」


 オネイリは振り返り、声には忍耐強さが宿っていた。


「あなたの庭の小さな一角を区切って、私が時々そこに座らせてもらうようなもの──ミント畑はまだあなたのものだし、花を咲かせ実を結ぶのも今まで通り。ただ、常連が一人増えるだけよ」


「父が望む統御は、あなたの説明とは違う」


「あら?」オネイリの光輪の回転速度が遅くなった。「彼はどんなものを望んでいるの?」


「完全なる服従。あなたたちの能力、意志、さらには存在そのものまでが、私の掌握のもとに収束される」


 モーリガンの声は平らで、石碑に刻まれた律法を復唱しているようだ。


「最終的には、あなたたちはすべての自我意識を失う」


 オネイリはしばらく黙った。


「それって……永遠の安眠みたいなもの?」


 彼女はふっと笑った。


 その笑い声はとても軽い。


「悪くないわね。でもあなたが今そうしないのは、できないから? それとも、したくないから?」


 この問いは核心を突いていた。


 モーリガンは一瞬間をおき、慎重な答えを選んだ。「統御の方法は一つじゃない。私はまだ……お互いにとってより良い道を探しているところ」


「じゃあ、あなたは簡単に私たちを抹消したりしないのね?」


「……可能性がある限り、しない」


「だったら私の願いはますます理にかなっているじゃない」


 オネイリの声は明るくなった。


「あのミント畑を私に下さい。私をあなたについて行かせて──そうすればあなたが目覚めた後も私を忘れない。私にとって、これこそが『より良い道』なの」


「なぜそんなに私に覚えられたいの?」


 オネイリは問い詰められたようだった。柔毛が少し膨らんでは縮み、光輪が明滅を数回繰り返した。


「わからないわ」


 彼女は最終的にそう言い、声には初めて困惑に似た感情が現れた。


「悪夢を作り続ける日々が長すぎて、唯一私を覚醒させてくれるものに執着を抱いてしまったのかしら? それとも……」


 彼女は言葉を切り、突然話題を変えた。「そういえば、あなたには伴侶はいるの?」


 この展開があまりに唐突で、モーリガンは呆然とした。


「なぜそんなことを聞くの?」


「だって考えてるんだもの」


 オネイリはもう少し近づき、柔毛が微光に照らされて柔らかな銀色を放っていた。


「この百年も生きてきた子羊は、百年も孤独だった。夢の中で私と対話できる唯一の存在はあなただし、私に……『存在している』ではなく『生きている』と感じさせてくれる唯一の人もあなた。もしこの気持ちに名前があるとしたら、何て呼ぶべきかしら?」


 言葉が落ちた瞬間、砂漠全体が息をのんだかのようだった。


 彼女の口調があまりに率直なので、かえってモーリガンはどう返せばいいかわからなかった。


「それは伴侶じゃない」モーリガンは最終的に言った。「ミント畑はあげる。でもそれ以外のことは……だめ」


「私が人ならざる種族だから?」


「あなたのことを知らないから」


 モーリガンは彼女を見つめた。


「あなたも私のことを本当に理解しているとは限らない。私たちはただ、お互いの夢の縁で偶然に出会っただけ──そんな接続を、軽々しく定義すべきじゃない」


 オネイリはまた黙った。今回はさらに長く、砂漠の風さえも止まったかのようだった。


「その通りね」


 彼女はついに口を開き、声はあの柔らかな慵懶を取り戻した。


「でも私は夢の中のあなたを、ずっと前から知ってる。あなたがまだ夢の中で泣く子供だった頃から、今に至るまで……あなたは成長したのに、私はまだ同じ場所に閉じ込められたまま」


 光輪が軽く回転した。


「だから、せめてあのミント畑にいさせてください。これが私が掴める唯一の『現実』なの」


 モーリガンは目の前のふわふわとした光の塊を見つめた。


 彼女はそこに、百年の孤独の背後に、自分と同根の、「存在」そのものへの詰問を見た。


 彼女はアマラートを思い出し、ケーリスを思い出し、苦痛の中でもがくすべての存在を思い出した。


 父が期待しているのは絶対的な統御かもしれないが、彼女が望んでいるのは、もっと複雑で、もっと困難な何かだ。


「私を再生炉へ連れて行って」


 彼女は最終的に言った。


「ミント畑はあなたのものよ──でも、客としてね。占有じゃなく」


「いいわよ~」


 オネイリは楽しげに返事をし、体を縮め、回転させ、再び温かい微光の球体へと変化した。


 球体の表面にさざ波が立ち、柔らかな吸引力がモーリガンをゆっくりと包み込む。


 銀灰色の柔毛が柔らかく寄り添い、日差しにさらされた牧草地の乾いた香りがした。


 無重量感が優しく体を支え、視界は穏やかな微光に飲み込まれた。


 あのふわふわとした闇の中で、モーリガンはオネイリの穏やかな呼吸と、あの光輪コロナが回転する時に発する、ほとんど聞こえない微かな響きを感じることができた。


 まるで夢を見ない安眠に沈んでいくようだった。

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