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第3話 接触、そして真実

 私たちは動けなかった。

 相手も立ち止まった。

 お互いに、じっと見つめ合っている。


 相手は若い男だった。

 茶色い髪、青い目。肌の色は私たちと同じだ。

 藍色の服を着ている。背中にはリュックのようなものを背負っている。

 おそらく二十代前半。私の息子がいたら、同じくらいの年齢だろう。


「……こ、こんにちは?」


 男が口を開いた。

 耳に装着した翻訳デバイスが微かに鳴り、即座に言語を解析して意味を伝えてくる。


 ——通じる。

 機械越しだが、意思疎通ができる。


「君は……誰だ?」


 私は慎重に尋ねた。


「僕はタケル。大学生です。考古学を専攻してて、フィールドワークに来たんですけど……あなたたちは? その服、すごいですね。どこの国のものですか?」


「私はカイル・ノヴァク。惑星連合考古学局の研究員だ」


「惑星連合……?」


 タケルは困惑した顔をした。


「どこの国ですか? 聞いたことない」


「私たちは宇宙から来た」


 ミラが言った。


「惑星アルテアから、この惑星を探しにきたんです」


 タケルの顔が凍りついた。


「……え?」


「私たちは宇宙移民の子孫です。一万二千年前、地球から旅立ったと伝えられています。そして今日、ついに故郷を見つけました」


 タケルはしばらく黙っていた。

 そして——。


「いやいやいや」


 彼は両手を振った。


「何言ってるんですか。一万二千年前って……今、西暦二〇二五年ですよ?」


 西暦二〇二五年。

 その言葉が、私の頭の中で渦を巻いた。


「……二〇二五?」


「はい。今年は二〇二五年。令和七年です」


「令和?」


「日本の年号です。あの……本当にどこから来たんですか? ドッキリとかじゃないですよね?」


 私は動揺を抑えられなかった。


 二〇二五年。

 私たちの暦では、今は連合歴八百七十三年だ。

 人類が宇宙に進出してから、約一万二千年が経過している——はずだった。


「待ってくれ」


 私はタケルに言った。


「この惑星の人類は、宇宙に進出していないのか?」


「宇宙ステーションはありますけど……他の星には行ったことないです。月には昔行きましたけど、最近はあまり」


 私は頭を抱えた。


 タケルをホリゾン号に連れて行き、他のメンバーと合流した。

 全員が驚愕した。


「地球人が生きている? しかも、私たちより過去?」


 エリザが絶句した。


「どういうことだ? タイムトラベルでもしたのか?」


 オリヴァーが首を振る。


「タケル君、質問していいかな」


 私は彼に向き直った。


「この惑星の歴史を教えてくれ。人類はいつから存在している?」


「えーと……ホモ・サピエンスが現れたのが約三十万年前と言われてます。文明が始まったのは約一万年前。エジプトとかメソポタミアとか」


 約一万年前。

 そして今が二〇二五年。


「つまり、現在の文明は約一万年の歴史しかないのか」


「はい。人類が宇宙に行けるようになったのも、ここ数十年ですし」


 私は考え込んだ。


 私たちの歴史では、人類は約一万二千年前に地球を出発した。

 だが、この地球では、約一万年前に文明が始まったばかり。


 時間軸が——合わない。


「先生」


 ミラが静かに言った。


「もしかして……私たちの歴史が間違っているんじゃないでしょうか」


「どういうことだ」


「私たちは『地球から旅立った』と信じてきました。でも——本当は逆なんじゃないですか」


 私は息を飲んだ。


「私たちは地球から旅立ったのではなく——これから地球を見つけるんです」


 その言葉が、頭の中で響いた。


「つまり……」


 私は震える声で言った。


「私たちの祖先は、地球出身ではない?」


「そうです。私たちは別の惑星で生まれ、宇宙を旅し、一万二千年かけて——ここ、地球を発見したんです」


 沈黙が落ちた。


 二十年間探し続けた「故郷」。

 それは、最初からどこにも存在しなかった。

 私たちは「帰る」のではなく、「見つける」のだ。


 タケルが困惑した顔で尋ねた。


「えーと……よくわからないんですけど、つまり、あなたたちは宇宙人ってことですか?」


 宇宙人。

 私たちが——宇宙人。


「いや、違う」


 私は首を振った。


「私たちは人類だ。君たちと同じ人類だ。遺伝子を調べれば、きっと同じだとわかる」


「でも、地球で生まれたわけじゃないんですよね?」


「……そういうことになる」


 私は窓の外を見た。

 青い空が広がっている。


 私たちは「故郷に帰る」つもりで旅をしてきた。

 だが、ここは故郷ではなかった。

 私たちが「故郷」と呼んでいたのは——これから発見する「新天地」だったのだ。

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