第2話 青い惑星
二ヶ月の航行は、思ったより快適だった。
船内は広く、個室が与えられていた。食事も十分にある。訓練施設もあり、体力を維持できる。
私は航行中、資料を読み返していた。
「地球」に関する伝承。第一世代移民船の記録。古代の詩や歌。
すべてが、あの青い惑星を指している。
「先生、地球には本当に人が住んでいたんですか?」
ミラが尋ねた。食堂で、二人で食事をしている時だった。
「伝承ではそうだ。だが、確かな証拠はない」
「じゃあ、今は誰もいないんですかね」
「わからない。一万二千年も経っている。環境が変わっている可能性もある」
エリザが口を挟んだ。
「生態系が崩壊している可能性もありますね。大気組成が変化していたり、放射能汚染があったり」
「最悪のケースも想定して、防護服は持ってきた」
オリヴァーが言った。
「何があっても対応できるようにな」
私はうなずいた。
そしてついに——二ヶ月が過ぎた。
「前方に恒星系を確認。目的地です」
ジェイクが報告した。
私たちはブリッジに集まった。
スクリーンに、恒星系が映し出される。
中心に黄色い恒星。
その周囲を回る複数の惑星。
そして——三番目の軌道に、青い惑星が見えた。
「……あれが」
ミラが息を飲んだ。
「地球です」
私は静かに言った。
青い海。白い雲。緑と茶色の大地。
伝承に記された通りの姿だった。
私の目に、涙が滲んだ。
「美しい」
ナディアが呟いた。
無骨な彼女が、そんな言葉を口にするのは珍しかった。
それほど、その惑星は美しかった。
「接近して、詳細観測を開始する」
ジェイクが操縦桿を握った。
ホリゾン号が、青い惑星に向かって降下していく。
接近するにつれ、惑星の詳細が見えてきた。
「大気組成、窒素七十八パーセント、酸素二十一パーセント。呼吸可能です」
エリザが報告した。
「気温は平均十五度。水が存在し、植生も確認できます」
「生命反応は?」
「多数あります。動物らしきものも……待ってください」
エリザの顔色が変わった。
「大規模な構造物を検出しました。人工的な……都市のようなものです」
全員が息を飲んだ。
「……生きている」
私は呟いた。
「地球の文明は、生きている」
着陸地点を探した。
都市から離れた場所——広い平原で、近くに川がある。
ホリゾン号がゆっくりと降下していく。
雲を抜け、青い空が広がった。
眼下には、緑の草原が広がっている。
「……信じられない」
ミラが窓に張り付いている。
「本当に、ここが地球なんですね」
着陸は無事に完了した。
私たちは防護服を着て、船外に出た。
私は足を踏み出した。
柔らかい草が、ブーツの下で潰れる。
「一万二千年ぶりに、人類が故郷の土を踏んだ」
私は呟いた。
風が吹いた。
草原が波打つように揺れる。
遠くに森が見える。鳥のような生物が飛んでいる。
私たちは散開し、調査を開始した。
ミラと私は、周辺の探索に向かった。
「先生、見てください」
ミラが何かを指差した。
草原の中に、石が並んでいた。
自然にできたものではない。明らかに人工的な配置だ。
「……遺跡か?」
近づいて観察する。
石には、何か文字のようなものが刻まれている。
「これは……読めませんね」
ミラが首を傾げた。
「私たちの言語とは違います」
「当然だ。一万二千年前の言語だからな」
私は石碑を記録した。
「後で解読を試みよう」
さらに探索を続けた。
すると——。
「先生! あれ!」
ミラが叫んだ。
草原の向こうに、何かが見えた。
動いている。
生物だ。
だが——。
「……人間?」
私は目を疑った。
二本足で歩いている。
服を着ている。
こちらを見ている。
「嘘でしょ」
ミラが呆然としている。
その「人間」は、私たちに向かって歩いてきた。
【作者からのお願い】
もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!
また、☆で評価していただければ大変うれしいです。
皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!




