第1話 伝説の惑星
私の名前はカイル・ノヴァク。
惑星連合考古学局の主任研究員だ。四十五歳。妻と二人暮らし。子供はいない。
この世界では、人類は「宇宙移民の子孫」として知られている。
遥か昔、私たちの祖先は「地球」と呼ばれる惑星から旅立ち、数万年かけて銀河を渡り、今の惑星群に定着した——そう伝承されている。
「地球」。
それは私たちにとって、聖書に記された楽園のような存在だ。
青く輝く海。緑に覆われた大地。多様な生物が共存する生態系。
子供の頃、祖母がよく語ってくれた。
「私たちは、あの青い星から来たのよ」
その言葉が、私の人生を決めた。
しかし、地球の座標は失われ、誰もたどり着くことができなかった。
一万二千年の間、無数の探検隊が派遣されたが、すべて失敗に終わった。
私は二十年間、その座標を探し続けてきた。
古代遺跡を発掘し、古文書を解読し、伝承を収集してきた。
惑星ケプラーの砂漠で熱中症になりかけたこともある。惑星フロストの氷河で遭難しかけたこともある。
同僚からは「地球狂い」と呼ばれることもあった。妻のレナは「あなたの夢だから」と、いつも支えてくれた。
そして今日——私はその「地球」の座標を発見したかもしれない。
「カイル先生! 本当ですか!?」
助手のミラが興奮して叫んだ。
紫色の髪が揺れる。彼女は惑星アルテアの出身で、私より二十歳若い。三年前から私の助手を務めている。
優秀な研究者だが、時々感情的になりすぎるのが玉に瑕だ。
「まだ確定ではない。だが、古代遺跡から発掘したこのデータチップに、座標らしき数列が記録されていた」
私はホログラムに数列を投影した。
それは暗号化されていたが、三ヶ月かけて解読に成功した。眠れない夜が何度もあった。
「この座標が正しければ——」
「地球に行けるんですね!」
ミラの目が輝いている。
私も興奮を抑えられなかった。
考古学者として、これ以上の発見はない。
伝説の惑星「地球」。人類の故郷。失われた楽園。
もしそれを発見できれば——私の名前は歴史に刻まれる。
いや、名誉などどうでもいい。
私はただ、知りたいのだ。
自分たちがどこから来たのか。なぜ宇宙を旅しているのか。本当の「故郷」とは何なのか。
その答えが、あの青い惑星にあるはずだ。
「明日、惑星連合議会に報告する。探検隊の派遣を申請しよう」
「私も行っていいですか?」
「もちろんだ。お前がいなければ、このデータチップは見つからなかった」
ミラは嬉しそうに笑った。
翌日。
惑星連合議会で報告を行った。
議場は荘厳な造りだった。
半円形の席が階段状に並び、二百人の議員が私を見下ろしている。
中央の壇上で、私はホログラムを投影しながら説明した。
手が少し震えていた。二十年間の研究が、この瞬間に集約されている。
議員たちは半信半疑だった。
「地球」の座標を見つけたという主張は、これまで何度もあった。そのたびに、偽データや誤解だと判明してきた。
私自身も、過去に二度、「地球発見」の誤報に踊らされた経験がある。
「なぜ、今回は違うと言えるのですか?」
議長が問う。白髪の老人だ。私より三十歳年上だが、目は鋭い。
彼もまた、「地球」を探していた一人だと聞いたことがある。
「このデータチップは、第一世代移民船のものです」
私は答えた。
「一万二千年前に製造された、最古の記録媒体です。つまり——祖先が地球を出発した直後に作られたものです。偽造の可能性は極めて低い」
議員たちがざわめいた。
第一世代移民船のデータチップ。
それは聖遺物に等しい価値を持つ。博物館に保管されているものですら、数点しかない。
私はこれを、惑星ノヴァの古代遺跡で発見した。崩れかけた神殿の地下深くに、密封された容器の中に眠っていた。
「座標の検証に、どれくらいかかりますか?」
「すでに完了しています」
私はホログラムを切り替えた。
「この座標が示す方向には、確かに恒星系が存在します。そして——その中に、生命居住可能な惑星が一つ」
画像が表示された。
遠距離観測で捉えた、青い惑星の姿。
議場が静まり返った。
「……青い」
誰かが呟いた。
「海がある。伝承の通りだ」
「雲も見える。大気があるということか」
「これは……本物かもしれない」
議員たちの声が徐々に興奮を帯びていく。
私の心臓も高鳴っていた。
二十年間、この瞬間を夢見てきた。
議長が手を挙げた。議場が静まる。
「探検隊の派遣を承認します。カイル・ノヴァク主任研究員を隊長に任命し、惑星調査を許可します」
私は深く頭を下げた。
ついに、この時が来た。
人類の故郷へ——帰還する時が。
出発の日。
港には大勢の見送りが集まっていた。
報道陣も来ている。「地球発見か」という見出しが、すでにニュースを賑わせていた。
「気をつけてくださいね、カイル」
妻のレナが私の手を握った。
彼女は私より五歳若く、同じ考古学者だ。今回は惑星に残り、研究を続ける。
「必ず帰る」
「地球のお土産、楽しみにしてます」
レナが笑った。
私も笑い返した。
「何がいい?」
「そうね……青い石があったら、持って帰って。海の色の石」
「わかった。約束する」
探検隊は六名で構成された。
隊長の私。助手のミラ。操縦士のジェイク。医療担当のエリザ。技術担当のオリヴァー。警備担当のナディア。
全員、各分野のエキスパートだ。
探検船『ホリゾン号』に乗り込む。
最新鋭の超光速航行システムを搭載した船だ。全長百メートル。乗員は最大二十名。
今回は六名だが、サンプルを持ち帰るための空間は十分にある。
「目的地まで、どれくらいかかる?」
ジェイクに尋ねた。
「座標までの距離は約三万光年。超光速航行で、片道二ヶ月です」
二ヶ月。
長い旅になる。だが、二十年待ったのだ。二ヶ月など、何でもない。
【作者からのお願い】
もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!
また、☆で評価していただければ大変うれしいです。
皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!




