意味なんてないんだよ
長い
ぐちゃり
私の剣が魔物の肉を割く。足元には大量の死体、死体、死体。踏んでいるものは魔物の亡骸で、もう体も血まみれだ。
日に日に、魔物を殺す回数が増えている。肉を割く感触はもうずっと手から離れない。その感覚に喜んでいる私も、きっとおかしいのだろう。
(私が別のナニカに変わっていく)
このまま自我が無くなってしまうのではないか、私ってもともとこんな性格だったかなぁ、まだ瑠璃といたいよ、怖い、もっと生きたい、なんでこの感触は消えてくれないの、もうケガしたくないよ、やだよ、もう戦いたくないよ、怖いよ、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い
「ぅあ、あぁぁぁぁ……嫌だよ…怖いよ……」
ぐちゃり
ぐちゃり
「止まって、止まってよ……嫌、嫌だぁ」
剣を振る手が止まらない。返り血は生暖かくて嫌なのに、それに興奮する自分も、もっともっと切りたいと思う自分が怖くてたまらない。
「嫌、嫌だよ、もう殺したくないよ……」
「あ、あぁぁぁぁ……嫌、いやだぁ……」
小さい悲鳴も、肉を割く音と、死体を踏む音でよく分からないものになっていた。
魔物を殺し続けて、辺りに何も無くなった後はまた殺戮衝動に誘われそうになる。こんなの人として間違ってると思うのに、ただの虐殺者と変わりないのに、
(終わってよ……こんな感情いらない……!!)
「うっうぁぁ…もういやぁ…こんなの私じゃないよ……」
「もう殺したくない、戦いたくないよ、怖い、怖いよ……」
涙が止まらない。ボロボロと零れた涙はアスファルトに滲むけど、それでも止まらない欲求は淡々と、そして着実に私の精神を蝕んでいくような気がした。現実はこんなにも残酷で、変わりようの無いものであったのかの突きつけられる。
「ーーおや、大号泣中かい?」
「……フォルス」
なんのつもりで来たのか。人間から離れていく私を嘲笑いにでも来たのだろうか。お前だって人間じゃないくせに。
(……お前の方があいつらより怪物だろう)
「うーん、なんで睨まれなきゃいけないのかねぇ」
「なんのつもり」
「いや、少し君に提案をしようかなって大丈夫、きっと気に入るよ」
「は、」
フォルスは笑顔だった。
その顔が、今はとても怖い。幼子のいたずらを考えた時の顔はまだ可愛いのに、こんなにも違うものなのか。
「……いいよ、聞いてあげる」
それでどうなっても、もう私には時間が無いから。きっと早くて一週間、私は自我を失うだろうから。その先はきっと、殺人鬼かなぁ。
「そもそもね、君の親友?だっけその子を殺したのは君ら魔法少女だよ」
「ーーは?」
「あー、驚くのも無理ないよね!そもそも、君が殺してた弱っちぃあいつらも魔法少女の出した手下まがいにすぎない」
「今、殺戮衝動に駆られてるでしょ。力を使いすぎるとそうなるんだよねぇ。君、このままだと他の子達みたいにただの怪物になっちゃうよ」
「……あの瑠璃の形をした怪物は、魔法少女だったの?」
あれは他の子達とは違った。あれがもし、魔法少女なら私はきっとアレになるんだ。
「うーん、それがどの子か分からないけど、最近信号が無くなった子がいたから、多分そうかなぁ?いやぁ、可哀想だよねぇ。魔法少女なんかになっちゃうからあんな怪物になるんだよ。まぁ、それを作った僕が言えることじゃないけど!」
「ーーえ?」
今、こいつはなんと言った。怪物を作ったのは、フォルスだったのか。
「フォルスが、魔法少女を怪物に変えたの……?」
「うーん、半分正解かな!怪物になりたくてなったのはあの子たちだよ?僕がしたんじゃない。まぁ操りは出来るけどね。あぁ、そうそう。君の親友を殺すように命令したのは、僕だよ」
「……は、なんで、そんなこと……」
「えー、なんでって……退屈だったから?僕神様みたいな感じでさ。天界って案外なにも楽しいことがないんだよね!欲しいものは全て揃ってるし、飽きちゃって!それで僕思ったんだよ!そうだ、君たちで遊べばいいかなって!」
「……は、あはは、そんな理由?そんな理由で瑠璃を殺したの?お前の命令で、私が、瑠璃が人生狂わされたっていうのに!!!」
「いや、申し訳ないとは思ってるよ?でもまぁいつか君たちは死ぬんだし、それが早まった位で大袈裟だなぁ」
「……してやる。殺してやる!!うぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわぁっ!もうこれだから人間は行動が読めないなぁ」
「ッ、ゴプ……く、そ、やろう……」
こいつの手が私の腹を貫く。きっとヒールがあっても生きることは出来ないだろう。塞がっても、次々に穴だらけになるだけだ。
(なんでこいつは、ヘラヘラ笑っていられるのよ……!!)
「うわ、お腹くり抜かれても喋るとか、君正気?あーあ、手が汚れちゃった」
「うぁっ、ふー、ふッぅ、」
手が私の腹から離れる。もう立っていられない。
(私の人生、これで終わりなのかなぁ……涙、止まんない)
「痛いだろうに……あ、そうそう。それで提案なんだけどさ君に二つ道をあげよう。どっちを選ぶかは君の勝手だよ!」
何がそうそう、だ。こいつの目には、私たちの命なんて取るに足らないおもちゃに過ぎないのだろう。
「んじゃ一つ目ね!君も、怪物にならない?その殺戮衝動、今も消えないでしょ?どうせ今僕の誘いを断ったって数週間後には良くて殺人未遂、悪くて怪物か殺人鬼になって大量殺人かな」
「は、」
どうせ、人類の敵になるのではないか。
「あ、二つ目はね、僕が君を食べることさ!あ、肉ではないよ?別に人間が主食ではないしね、君のその感情が食べたいんだ!人の複雑な感情って神様としてはご馳走でさぁ。ね、君はどっちがいい?」
(ーーどっちを選んでも結局救いは無いんだね。そっか、そっかぁ……)
「ほらほら、早く決めないと死んぢゃうよぉ?」
「はは、どっちも、嫌だね……」
全ての魔力を集めて。もう私がどうなってもいいから。こいつの思いどうりの道をたどるぐらいなら私はーー
「……君、全部の魔力を僕にぶつけるつもり?別にしても何も変わらないし、そんなことしたら君の魂この世から完全に消滅しちゃうよ?」
「ゴプッ…望むところだね……!!」
辺りには金色の光が舞っている。これで、私の人生も、魂も全部終わり。
『Trottel』
手の甲に付けた唇から魔力が抜けるように感じた。あと何十年、瑠璃が生きるか分からないけどきっと長生きするだろう。もう意識を保つのも難しい。
瑠璃の恋人とか、これからの人生とか、一緒に遊んだりとか……やりたいこと、まだいっぱいあったのになぁ……
「大好きだよ。瑠璃。どうか、幸せに……」
あーあ、なんで魔法少女になったんだろう。私が守りたかったものって、、
もし奇跡が起こって戻れたとして、どこからやり直せばいいんだろう
(あー、走馬灯見えそう。ーーつまんないなぁ)
ーー完
「攻撃じゃなく延命かぁ……人間って本当に分からないなぁ」
これは、長い長い走馬灯の話。つまらなかったでしょう?




