A4サイズのおみくじは強力です
朝。
G∞《ジーインフィニティ》社長室。
我王 仁は、重大な異常に直面していた。
「この会議資料……“凶”って書いてあるんだが」
「え?……会議資料ですけど……?」
部下が差し出した紙には、どう見ても棒グラフと円チャート。
だが我王の視界にはこう見えていた。
【凶】対人運:敵多し
【激凶】金運:爆死
【獄凶】健康運:そろそろ限界
【対策】神に祈れ。さもなくば、祟られる。
「……誰の仕業だ」
⸻
オフィスに戻った我王は、唯一まともに読めた文字を検索した。
『千景神社』
聞いたことないが、犯人はコイツで間違いなさそうだな
検索結果には。
•「辺境のボロ神社」
•「SNSの毒舌巫女、正直ちょっと刺さったw」
•「おみくじがA4用紙。家庭用プリンターの限界ww
•「アクセス最悪。ナビでも迷う」
「なんだこの神社は、でも行くしかないか」
「俺の今日の予定は?」
秘書「本日のご予定は
10時、書道部との合同瞑想会」
「11時、観葉植物の表彰式」
「13時、社員による“尊敬する社長選手権”の表彰スピーチとなっております
我王
「……すべてキャンセルだ、私は少し出てくる」
秘書「かしこまりました、尊敬されるのは明日に延期いたします」
夕方
山道を抜け、荒れた鳥居をくぐる。
朽ちた賽銭箱、雑草に埋もれた石段。
まさに“限界神社”といった風情だった。
「──失礼する」
境内を掃く小柄な巫女がこちらを振り返る。
瑞稀「……誰?、、あっ!クソ社長ーー!」
我王「なっ、貴様初対面の者にクソ社長だと」
瑞稀「あんたが、テレビで“神に祈る時間は無駄”とか言ってから、うちの神社の参拝客ゼロなんですけど!?」
我王「……この廃れっぷりなら、もともと来てなかっただろ。
こんな“辺境”に構えてるのが間違いだ。マーケティングの基礎もないのか」
瑞稀「は!? ウチはこの地に五百年〜百年くらい続く由緒ある神社なんですけど!神社はそうゆうモンですけど!」
我王「五百年〜百年くらいって、なんだその曖昧な数字は」
瑞稀「うるさいわねー、どーでもいいでしょ!」
我王「なんだ、コイツは、らちがあかん」
瑞稀「…かわいい」
我王「なんだ、どうした?」
瑞稀「アンタのその、肩のヤツ何?まんまるしてて可愛いじゃん」
我王「フッ、やっぱりここで間違いないな」
瑞稀「何?」
我王「これまで何人もの人に会ったがコイツを見える人はいなかった。貴様以外は」
我王「わかっている、霊感とかが関係しているとか言いたいんだろ、もちろん霊感のありそうなほかの神社の神主や住職、シャーマン達にも、会ったが見えてなかったよ」
我王「なのに何故、貴様に見えるのか、、それはお前が元凶だからだーー、さぁ言え、俺に何をした!」
瑞稀「……っ」
(少し間を置いて、目を逸らす瑞稀)
1日前・深夜 千景神社
ガラン、と鈴が揺れる。
境内に人気はなく、灯りはほぼローソクの明かりだけ。
瑞稀(神棚の前で正座しながら)
「マジ無理……神に祈る時間が無駄とか……うちの存在、完全否定じゃん……」
「ただでさえ過疎ってんのに、あの発言でゼロだよ?ゼロ参拝者!」
(神棚の横にある、年季の入った収納をガタガタ開ける)
瑞稀「どれかご利益ありそうなやつ、ないかな……」
「じぃちゃんがフリマで集めた“神具”セット……これも中古、これも説明書ついてない……」
(ふと、巻物のような紙を見つける)
瑞稀「……呪いの巻物? なにこれ手書き? 古っ!」
「……ん、裏に“返品不可”って書いてある……まぁ、どうせ効かないっしょ」
(プリンターで印刷したA4サイズのおみくじを引っ張り出し、
そこに「我王 仁」と太く名前を書き込む)
瑞稀「神様ぁ……お願い、あのクソ社長に、ちょっとだけ……天罰をッッッ!信仰心をッッッ!」
(巻物を開いて、雰囲気で唱える)
瑞稀「えーっと……オロチに捧げし……永劫悠久の、あ、ちが……タタリ神さまーこいこい…たったらたりたりら…ちぇすとー!」
(おみくじを火鉢で燃やすと、
部屋の隅の空気がもやり、何かが“フッ”と現れた)
影がモヤモヤと動き、ものすごい勢いで飛んで行く
瑞稀「……ん? なんか今、空気、変じゃない……?
気のせいか。よし寝よ寝よ」
現在 千景神社
瑞稀「……ガチ?」
「っていうか、そんなんで呪われるとは思わなかったのよ……」
「言っとくけど、祟れ!とかマジでノリだったし!」
我王「ノリで俺を呪うな」
瑞稀「てか、何? ホントに祟られたの? あんた、神に祈る時間ないんじゃなかったの?」
我王「……ここに祈りに来たんじゃない」
瑞稀「……神様に助けてもらいに来たんでしょ」
我王「……ちがう。“原因を突き止めた”だけだ。これはビジネスだ」
瑞稀「ビジネスで祟り神連れてくる人、初めて見たよ……」
我王の肩の上で、祟り神が小さくフシュゥと煙を吐いた