表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

勇者システム

作者: 紺野 浩貴

書きたい気分だったので、たまにはこんな話。

お粗末ですが、楽しんでいただければ幸いです。

「やった……か?」

 目の前には血を流しながら仰向けに倒れている魔王。しかし、

まだ油断はできない。

 自分を主と認めた聖剣を構える。剣から魔王の血が滴り落ち

るが、そんなのは気にしてられない。

「レイ! 魔力反応はどうだ!?」

 俺は仲間の魔法使いに問いかけた。魔王との死闘により、ロ

ーブはボロボロになっている。自分も他の仲間も同じようなも

のだが。

「……反応無し。魔力は感じられない」

 抑揚のない声で返してくる。感情が込もってないように聞こ

えるが、長い間一緒に旅をしてようやく微妙な変化を感じるこ

とができた。

 今は喜びと驚きが混じっているようだ。

「てことは、倒したってことなの?」

 後ろにいる弓矢を持ったアンリが、声を震わしている。叫び

だしたいのを堪えているのだろう。

「ああ、そのようだ。呼吸は既に止まっている」

 俺の横で同じように双剣を構えているキースも、少し震えて

いる。普段のクールさからは、想像がつかない。

 かくいう俺も、かなり心拍数が上がっている。

「やった……やったあぁぁっ!!」

 アンリの喜びの雄叫びを聞いて、ようやく実感できた。それ

と同時に腰が抜けてしまった。

 ――魔王退治。

 長い、長い旅が終わりを迎えた瞬間であった。


 自分はただの村人に過ぎなかった。それが何の因果か、聖剣

を見つけて主と認められたのが始まりだった。

 魔族により脅かされてた世界を救うために旅に出ることにな

り、これまで様々な出会い、別れがあった。

 どんな困難にも旅路で出会った仲間がいたから乗り越えてこ

れた。応援してくれる人がいたから頑張れた。

 そして、魔王との対峙。

 自分たちの持てる力を最大限に発揮し、やっと倒すことがで

きた。


「やっと、やっと、ここまで来れたな」

 自分の胸の中は達成感でいっぱいだ。自分が勇者としての役

割を、果たすことができた。

 周りの仲間たちを見ると、相変わらず無表情だが嬉しそうに

微笑むレイ、死闘の後なのに元気よく跳び跳ねるアンリ、気障

ったらしく髪を上げるキースを確認できた。

 いつも通りの仲間たちを見ていると、さらに実感が深まった。

ここまで仲間たちと来れてよかった。魔王を倒せてよかった。

誰も死ななくてよかった。

 ありとあらゆる喜びの感情が、自分の胸から込み上げてくる

のが分かった。それは、口から息と共に出るだけではなく、目

にも出てきた。

 やばい、泣きそうだ。

「あれ~? シンク泣いてるの?」

 アンリが急に顔を覗き込んできた。顔が近いことと、涙目を

見られたことが恥ずかしく、慌てて顔を逸らす。

「な、泣いてねえよ!」

 自分で無駄な抵抗だと分かっている。だって鼻声だし。アン

リはニヤニヤしてるし。というか、いきなり覗き込むなよ!

「ふふ、シンクは頑張ったもんね」

 アンリは、茶化すのを止めて、優しく声をかけてくる。その

変化はズルいと思うんだが。

「べ、別にお前らがいたからここまで頑張れたわけで……」

 未だに恥ずかしさが抜けない。俺の顔は赤くなっているだろ

うな。あー、もう!

「少しは胸を張ったらどうだ?」

「……照れ隠し」

 キースとレイも、ニヤニヤしながら追い討ちをかけてくる。

 最後の敵は味方なのかよ!

「ほら、早く帰るぞ!」

 立ち上がり、剣を鞘に入れる。この雰囲気を一刻も早く断ち

切りたかった。

「ごまかしたね」

「ごまかしたな」

「……ごまかし」

「うるさい、うるさい!」

 全くこの仲間たちは……。でも、一緒に旅をするのもあと少

しなんだよな。そう思うと、悲しい。ずっとこいつらと旅をし

たいけどな。

「どうした?」

 自分の様子の変化にキースが気づいた。それを悟られたくな

いので、本心とは違うことを言うことにした。

「いや、魔王ってどんな姿なのかなって思ってさ」

 これは本当に思っていたことだ。他の魔族と違って漆黒の甲

冑に身を包んでいるため、全く姿が分からない。かなり不気味

だ。

「……さあな。だが、あの魔力量からして魔王に間違いないは

ずだ」

 キースも同じことを考えていたのか、そう返してきた。

 上手く話題を換えたことに安堵しつつ、このことをさらに追

求することにした。魔王がどんなのか確認してみたいからな。

「よし! ちょっと兜を外してみよう」

「あ、ちょっと!」

 魔王に近づく俺をアンリは呼び止めようとしたが、それを無

視していく。大方、心配でもしているのだろうが、魔力反応の

無い今では大丈夫だろう。

「よいしょっと」

 兜の金具と紐を外して頭から取る。重厚な作りをしているた

め、手にズシリと重みが伝わった。

「どんな奴だったのかな……えっ?」

 頭が追いつかなかった。

 兜から見えた顔は、そこにあるはずの部位がなかった。ただ

顔の形があり、呪文が刻まれていただけだった。

 これに似たものは見たことがある。ゴーレムだ。だけど、自

分が相手にしてきたゴーレムは、こんなに生物らしくなかった。

そもそも、喋りなどしない。魔王とは確かに会話をしたはず。

 じゃあ、これは……?

「どういうことだ?」

 何かとてつもなく嫌な予感がした。死にかけたとか、そんな

ものじゃなくて。もっと恐ろしいこと。

 とにかく、仲間にもこれを見てもらわないと。


「あーあ、見つかっちゃった」

 静かに響くアンリの聞いたこともない冷めた声。それに反応

するように、俺は振り向いた。

「どういうっ!?」

 熱っ!

 下腹部に感じる鋭い痛みと熱さ。それに込み上げてくる何か。

たまらず、それを吐き出した。

「がふっ! げほっ!」

 口の中に広がる鉄の味。

 下を見ると自分の腹に刺さった剣。前を見ると剣をつきたて

るキース。ここでやっと刺されたことが理解できた。

「な、な」

 えっ? なんで?

 軽いパニック状態になり、何がなんだか分からない。

「余計な真似をしなければ、もう少し夢を見ていられたのにな」

 ゆっくりとキースは剣を抜く。それと同時に俺の体に力が入

らなくなり、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

 寒い。血が抜けて寒い。

「これも世界のためだ。ここで大人しく死んでくれ」

 周りには仲間たちが、見たこともない眼をして立っていた。

 感情が……ない?

「な、なんで?」

 気を失いそうになるのを堪えて、何とか絞りだした。視界も

霞んできている。

 分からない、分からない。

 疑問ばかりがわき出てくる。

「これが現状なの。所詮、魔王も勇者もおとぎ話」

「……魔王には悪意。勇者には希望」

「お前はシナリオ通り動いてくれた。最後が少し変わったがな」

 分からない、分からない。

 仲間が何を言っているのか。このまま、帰るだけじゃないの

か? どうして?

 血が抜けて、正常な判断ができない。考えようとしても、頭

の中の靄が邪魔をする。

「レイ、――を――しろ」

「――った」

 聴覚も機能しなくなっているので、会話の内容が途切れてで

しか聞こえてこない。

 な、んだ?

 数秒してから地響きが起こった。城が崩れ始めている。体に

石や砂が当たるのを感じた。

 周りの仲間たちは、自分を置いて出口に向かっている。

 置いて……いかないでくれ。

 手を伸ばそうとするが、動かない。何も動かない。動けない。

「じゃあな、勇者様」

 最後にその言葉だけが、はっきりと聞こえた。

 そこで視界は闇に染まっていった。






 ――後日。


「ああ、死んでしまうなんて……」

「勇者様ー! ありがとう!」

 伝承通りに勇者が魔王と相討ちになったことは、瞬く間に全

世界に知らされた。

 人々は勇者の死に悲しみ、魔王の死に喜びに包まれた。




 その民衆の様子を眺めていた二人組みがいた。真っ黒なロー

ブに身を包んでおり、フードを深く被っているため顔が見えな

い。

「これでしばらくは“平和”でしょう」

「ふふ、ご苦労だったな」

 二人はその場を去っていった。



 また世界に平和が訪れる。

 真実を知らないままで……。



今やっている連載が終われば、続きを書くかも……。

でも、連載終わるのずっと先です(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ