(8)
十年前……まだ、俺がガキもガキの頃に起きた富士山の歴史的大噴火による旧首都圏の壊滅。
その際に、福岡県に引っ越してきた「関東難民」どもが驚いた事が2つ有るそうだ。
「おい……いつまでやるんだ?」
「あの2人が帰って来るまでだ」
「だから、いつだよ?」
「まだ、ここに来てから3時間弱だぞ」
「寒いよ。帰ろう」
「わかった。わかった。そこの自販機で、何か買って来る」
中島のせいで、府川さんと土屋が住んでるアパートの近くで、すっかり暗くなってからも、ずっと待ち続ける。
福岡県に引っ越して来た関東難民どもが、驚いた事その1。
福岡と関東では、体感で1時間弱は、日の出・日の入りの時刻が違う。
そして……今……関東より1時間は日の入りが遅いらしいこの辺りでも……すっかり暗くなってる。
福岡県に引っ越して来た関東難民どもが、驚いた事その2。
福岡は関東より雪が降るらしい。
最悪な事に……今降ってるのは湿り雪。
どんどん、服が濡れていく。
助けて。
濡れ濡れは、エロゲだけでいい。
「傘ぐらいさしていいだろ?」
「目立つ」
「じゃあ、雨合羽とか……」
「目立つ」
「どうしろって言うんだ? このままじゃ……俺達、風邪を引いちまうぞ」
「俺は平気だ」
俺が制服の上から着てるのは、普通のコート。やや薄手。
中島は……水を弾きそうな感じの生地の……フード付の……アウトドア用っぽい……。
「なあ……いつから、この計画立ててたんだ?」
「去年の一一月頃からだが、どうした?」
2ヶ月ぐらいかけて立てた計画が、何で、こんなに杜撰なんだよッ?
「おい、見ろ……帰って来たぞ?」
中島が指差す先には……。
府川さんと土屋……そして、もう1人。
「誰、あの女?」
「マネージャーか何かじゃ……?」
2人と何かを話しながら歩いているのは、顔は、すげ〜ブスって程じゃないけど、平均よりは明らかに下、妙にデブな体型の女だ……ん?
「お……おい……計画変更する?」
「いや、行くぞ」
そして、俺と中島は3人に気付かれないように(本当に気付かれてないか自信なし)、アパートの敷地内に入り……。
「あ……あれ……」
「えっ?」
府川さん達は階段を登っている。
俺達は……上を見上げている。
ただし、府川さん達を見てる訳じゃない。
アパートの入口には街灯らしきモノ。
でも……気付くべきだった。
街灯のような外見なのに……この時間になっても灯りが点いてない事に……。
その街灯に見せ掛けたモノの……ライトが有るべき場所には……。
「ぼ……防犯……カメラ……?」
次の瞬間、アパートの1階の部屋の玄関(ちなみに複数)が開いて……。
「誰?」
「誰だ?」
「何ね、あんたら?」
全員が、やたらとゴツい男だった。