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「そんな……そんなに都合良く、『魔法使い』がゴロゴロ居る訳が……」
俺は、当然のツッコミをやる……。
いや……でも、「はい、論破」って感じじゃなくて、自分でも震え声だと判る声だけど……。
だって、土屋の様子からすると……本物みたいで、しかも、RPGなんかであれば「あ、絶対に勝てない」クラスのレベル差が有りそうな感じだ。
「三七一人」
「へ?」
謎の男女は、携帯電話を見ながら、謎の人数を口にする。
「大手SNSの『北九州市門司区の魔法使い』コミュニティの登録者数だ。人口十万弱の門司区だけでも、少なくとも、そんだけの『魔法使い』が居る」
「何で、そんなSNSコミュニティが有るんですかッ?」
「フツ〜の人間が知らないだけで、結構、ヤバい事が、しょっちゅう、色々と起きてんだよ。『浄化』するのに、並程度の腕前の『魔法使い』が十人か二十人は要るよ〜な心霊スポットが町中に出現しかけるとか。その手の場合に『魔法使い』を集める為だ」
「それ……本当なの……?」
一応、土屋に確認。
「う……うん……。町を歩いてても『あ、何かヤバそう』みたいな所が結構有ったり……そんな場所が、いつの間にかフツ〜の場所に戻ってたり……」
え?
何?
まさか、現実の世界って、マジで、ラノベみたいに、一般人が知らない所で光と闇の戦いみたいな事が起きてるよ〜な世界だったの?
「で……本題だ。おい、そこの『魔法使い』モドキ。お前もヘボみて〜だけど、あたしの同業者の端クレなら知らねえ訳ねえだろ……『他の魔法使いの力量を探る』魔法が……え〜っと……何て言うんだっけ……理系用語だと……その……」
「アクティブ・センシング?」
「そう、それ。レーダー波だか何だかを飛ばして相手を調べるよ〜なモノだから、相手に気付かれちまうって事をさ……って?」
声の主は……俺達が居る雑居ビルの入口あたりに居た。
これまた、バカデカい登山用らしいリュックを背負い……まぁ、早い話が、こいつも登山帰りみたいな格好。上着もズボンも靴も。
男女よりは「可愛い」系の顔だけど、何と言うか……男女の方が「女なのに俺達よりちょい上ぐらいの齢の男」に見える顔だけど、こいつは「中学生ぐらいの可愛い系の男の子」に見えない事もない顔だ……あと、妙に彫りが深い。日本人なのか、東南アジア系の外人なのか、見分けるのが難しい。
「何やってんの? 行くよ」
「いや……でも……そこそこ程度には才能が有りそうな奴が、どう考えてもヘボな師匠に付いてるなんて、どんだけ危険か、お前も知らね〜とは言わせね〜ぞ」
パシャ、パシャ、パシャ……。
次の瞬間、カメラのフラッシュの光が何度も……。
2人目の謎の女が、携帯電話で俺達を撮影。ご丁寧に、自動連続撮影モードのようだ。
「そりゃ、ボクも、マズいってのは判ってるけど、ここの『魔法使い』コミュニティに任せた方がいい。悪いけど、この辺りに住んでる『魔法使い』系の知り合いに君の事を連絡する。あ、知り合いってのは、複数名ね」
こいつのしゃべり方……ビミョ〜に「外人訛り」が有るよ〜な気が……。
「ちょ……ちょっと待……」
「吽……」
土屋が2人目から、携帯電話を奪おうとした時……。
ガクン……。
男女の方が……呪文なのか、単なる気合や掛け声なのか判らない超短かいワードを唱えたと同時に、体が何倍にも重くなったような……そして、膝から力が抜け……。
しかも、土屋も同じらしく……。
「すまんな……2〜3分で術は解ける」
「あと、生徒手帳も撮影させてもらうよ。冗談抜きで……最悪の場合、君が死ぬだけじゃ済まないから……」
「な……なにが……おきるって……」
「おい、マジで、そんな事も知らねえのか?」
「だから……な……なに……」
「『魔法使い』系が修行の途中で、魔物や悪霊に魅入られて死んだり人間たぁ呼びたくねぇモノに変ったりすのは珍しくねえんだよ。特に下手に才能が有るヤツがドイヒ〜な師匠に付いた場合はな」




