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「えっと……お前らのマネージャーさんが言ってた『魔法使い殺し』って何? 危険な奴らなの?」
ええっと……これって理科室で話すような事なのか? 理科室で魔法の話なんて……。
「あの人、マジで、そんな事口走ったの? 一般人の前で?」
「言った……」
「私も、噂しか聞いた事ない。でも、その噂だと2種類居るって……」
「2種類?」
「1つは……対『魔法使い』専門の暗殺者」
「居るの、そんなの……えっと……まるで……」
「都市伝説?」
「そう、都市伝説」
「もう1つは……もっと無茶苦茶」
「何?」
「そもそも、魔法使い系も、妖怪系や変身能力者や……生まれ付きの超能力者も、みんな、いっしょくたに『異能力者』『特異能力者』って呼ばれてるけど……『異能力』『特異能力』って何?」
「そりゃ……普通の人間にない能力なんかの……」
「そいつらは普通の人間も持ってる能力が無いか無茶苦茶低い。けど、その副作用で魔法使い系にとっては、無茶苦茶厄介な連中になってる。そんな連中が居たら、そいつらは『異能力者』? それとも単なる普通の人間?」
え……あ……?
まさか……。
「ちょ……ちょっと、えっと、あんたらのマネージャーさんて、獣化能力以外にも……」
「見えたの? あの人が『気』を使うのが」
「あ……ああ……」
「あの人が使うのは……俗に『気功武術』『降魔武術』とか言われてるモノ。『魔法』の親類みたいなモノ。気とか魔力とか霊力とか呼ばれてる力を操る技術を組み込んだ武術。でも……2つ目のタイプの『魔法使い』殺しには……あんたには見えた『気』を認識出来ない」
「え……なに……どう云う事?」
「あそこに防犯カメラが有っても、あの人が使った『気』は写ってなかった筈。そいつらは、物理的な感覚しか持ってない。一般人でも可能なレベルの『気配を感じる』能力とか霊感なんかが無い」
「はぁ?」
「そいつら、一般人でも『何かヤバい』と思うレベルの心霊スポットに入っても、何も変だとは思わない。そして、その心霊スポットに居る悪霊とかは、そいつらの存在を認識出来ず、普通の人間なら憑り殺されるような状況でも、そいつらは平気で生きてる」
「な……ちょ……ちょっと……待……」
何か……でも……何かに……似てる気が……。
「そいつらには『気配を感じる』能力が無いか、とっても低い。でも、『魔法使い』にとっても、そいつらの気配を捕捉える事は困難。そして……大概の対単体用の攻撃魔法は……目とかじゃなくて気配で狙いを付けている。だから、『魔法使い』にとっては……そうだね、喩えるなら、そいつらに『照準を合わせる』のは、ほぼ不可能」
な……なにか……たしかに……今の時代は……普通だけど……まだ、俺達がガキの頃にはそうじゃなかった何かに……似てる気が……。
「魔法使いが『使い魔』で、そいつらを呪殺しようとしたとする。そいつらは『使い魔』の存在を認識出来ない代りに、『使い魔』も、そいつらを見付ける事は、ほぼ不可能」
「ちょ……ちょっと待ってよ……それって……まるで……ロボット?」
「そう、まさにそれ。そいつらが、本当に居たとしても、どうやって生まれたのかは全く判らない。科学的な方法では、そいつらは普通の人間と区別する方法は無い……。けど……私達『魔法使い』系にとっては……人間と同じ化学物質で構成されてて、体の仕組みも人間と同じで、人間のように話したり考えたりして、でも魔法的な方法では逆に機械と区別出来ない……そんな訳の判んない存在が……『魔法使い』系の間で都市伝説になってる『魔法使い』殺し、って訳」
な……何だよ、それ……『魔法使い』限定のホラーか何かかよ?
でも……。
ああ……だから……。
そんなのが本当に居たなら……そいつらが「ただの人間」かどうかは……「魔法使いにとっては」か「魔法使い以外の一般人にとっては」かで違う。
「だから、もし魔法なんて存在しない世界が有ったなら、そいつらは単なる普通の人間。でも、魔法が実在してるこの世界では……そいつらは魔法使いにとっては……訳が判んない……敵に回すと厄介な……チョ〜不気味な……何で、そんな連中が存在してるかさえ良く判ってない……人間と言えるかどうかさえビミョ〜な連中なの」
「そ……そう……じゃあ、俺達みたいな普通の人間には安全……」
「だけど、ウチの『魔法少女』事務所じゃ、ちょっとしたパニックになってる」
「へっ?」
「昨日の事は、私も聞いてる……。そして、あの恐竜コスプレの集団の中には、少なくとも、もう1人か2人は居たらしいんだよね」
「何が?」
「あんたや、ウチのマネージャーさんが遭遇した以外の『魔法使い』殺しらしい奴が」